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翌日、目を覚ますと見慣れた自分の部屋。どうやら本当に朝に運んでくれたらしい。隣にはまだよく眠っているリテマリアの姿。良かった。妹まで心を乱したら可哀そうだもの。じっと、リテマリアの寝姿を見る。うーん、かわいい。栄養不足でほっそりしていた頬は幼い子特有のぷっくりさを取り戻しつつあった。それはもちろん私もだけれど。
それとは別に、長いまつげとクリクリの目。私とは違ってふわふわとした髪も相まって、本当にフランス人形みたいなかわいさだ。元々が整いすぎている容姿に動かしづらい体、ほとんど変わらない表情。そりゃ人形みたいと言われますよね。
一人勝手に納得していると、ふとその閉じられた目が開けられる。うん、そもそも人形らしいのにこんな瞳してたらなおさらだよ。部屋に入り込んだ陽で、虹色の目はキラキラと輝いている。
「リステリア……?」
「うん」
ぼんやりとした目でこちらを見つめながら、そう口にする。返事をすると、途端、その瞳は潤みだした。
「もう、だいじょうぶ?」
「まだねつあるけど、たぶん?」
「だいじょうぶじゃないよ……」
「なかないで?」
薬が効いているのかいないのか。ひとまず熱は下がり切ってはいないっぽい。だけど頭痛はほとんどしなくなったし、昨日よりは明らかに楽になった。
「ねえ、リテマリア?」
そうだ、これだけは伝えないと。そんな思いで口を開く。
「なに?」
「とうさま、わたしたちのこと、きらいじゃないって。
すきだって。
よる、あいにきてくれてたの」
「とうさまが、あいに?」
うなずくと、リテマリアの目がまた潤んだ。そうだよね、嬉しいよね。私たちはベッドの中、互いに手を伸ばしてぎゅっと握り締めた。そうしていると、扉がノックされて侍女が入ってきた。
「あら、お目覚めでしたか。
遅れてしまい申し訳ございません。
リステリア様、体調はいかがですか?」
にこにこと笑みを浮かべて近づいてくる侍女たち。この家に来てからずっと世話をしてくれている人たちだから、ずいぶんと慣れた。ひょい、と抱き上げられると額に手を当てられる。
「うーん……。
あとでエミルーク様に診ていただきましょうね。
朝食は食べることができそうですか?」
「ちょっとなら」
「それは何よりです。
軽いものを用意しましたから、食べられるだけで大丈夫ですよ」
「ありがとう」
「いいえ。
さ、リテマリア様、こちらで朝食を」
いつもなら机で食べるけれど、今日は私はベッドの中でいいらしい。まだ熱出ているものね。リテマリアは寂しそうな顔でこちらを見ている。だが、ここは侍女が強い。ひょいとリテマリアを抱き上げるとさっさと机に座らせてしまった。
私の方は別の侍女がご飯を食べさせてくれる。最近はちゃんと自分でスプーンを持てるようになったけれど、今は少し力が入りずらい。たぶん自分で持ったら落とすだろうな、という予感がするから、ここは大人しく侍女に食べさせてもらった。
そうして食事を終えるころ、部屋にノックの音が響いた。きっとエミルークさんだ!
「おはようございます」
扉から顔をのぞかせたのは予想通りエミルークさん。でも一人だけではなかった。
「あ、にいさま」
「にいさまだ」
「おはよう、リステリア、リテマリア。
リステリア、体調はどう?」
「だいじょうぶ、です」
「にいさま、リステリアはだいじょうぶじゃないのよ」
どうやら珍しいことに学園に行く前に兄様も顔を出してくれたようだ。そうだよね、昨日あんなことになったから心配かけてしまったよね……。
「リステリア、無理をしてはだめだよ。
今日はちゃんと休むこと」
「わかっています」
「それならいいんだけれど。
でも、目を覚ましてくれてよかった」
ぎゅっと強く抱きしめてから、リテマリアのことも抱きしめる。そうして兄様は名残惜しそうに部屋から出ていった。それからはエミルークさんの診察を受けて、やっぱり今日はベッドで大人しくするように、と言われてしまった。リテマリアはいつも通り過ごすらしい。別々のことをして過ごすのはとっても珍しくて、なんだか落ち着かない。
それでも一応ベッドの中で目をつむっていろいろと考えてみた。特に今自分がいるこの世界について、とか。
考えてみるとなんとも言えない気分になる。普通こういう世界では学校なんてない。いや、乙女ゲームの世界だとあることも多いとは思うが、それでも15歳とかからじゃん? こう、一般的に恋愛しそうな年齢から、学園に入る気がする。それまではお茶会とかで交流を深めるものだと思うのです。
でも、この世界は違う。この辺り、ほとんど日本をまねているのだ。つまり、6歳から小学校があり、12歳からは中学校、15歳からは高校があるのだ。まあ、名称は多少変わっていて、初等教育学校、中等教育学校、高等教育学校、と銘打っている。うん、ほとんど変わらないね。平民は初等教育学校までは通学が義務付けられている。後は裕福なものか成績優秀者が上に上がっていく、と。ちなみに大学は確か研究所になっていたはずだ。
そして生活水準もほとんど日本に準じている気がする。お風呂とかちゃんあるし、お手洗いも清潔。この辺りは本当に安心した。まあ、無双できないともいえるけれど、私にはそんな知識ないので、もともと無双なんて無理。つまり助かった。
おもちゃもある程度は充実しているのでなかなか楽しい。うん、まあ楽できるならいいか。せっかくの世界観が台無しな気がしなくもないが。
先のことに正直不安は多い。だが、未来に何が起こるかわからないのが普通なのだ。そう思うとわかろうとするのがおかしな話なのかもしれない。失いたくないものはたくさんある。今はひとまずそれだけをわかっていればいいのかもしれない。
うんうん、と一人勝手に納得していると眠気が襲ってくる。そのまま眠気に任せて眠ってしまおう。
それとは別に、長いまつげとクリクリの目。私とは違ってふわふわとした髪も相まって、本当にフランス人形みたいなかわいさだ。元々が整いすぎている容姿に動かしづらい体、ほとんど変わらない表情。そりゃ人形みたいと言われますよね。
一人勝手に納得していると、ふとその閉じられた目が開けられる。うん、そもそも人形らしいのにこんな瞳してたらなおさらだよ。部屋に入り込んだ陽で、虹色の目はキラキラと輝いている。
「リステリア……?」
「うん」
ぼんやりとした目でこちらを見つめながら、そう口にする。返事をすると、途端、その瞳は潤みだした。
「もう、だいじょうぶ?」
「まだねつあるけど、たぶん?」
「だいじょうぶじゃないよ……」
「なかないで?」
薬が効いているのかいないのか。ひとまず熱は下がり切ってはいないっぽい。だけど頭痛はほとんどしなくなったし、昨日よりは明らかに楽になった。
「ねえ、リテマリア?」
そうだ、これだけは伝えないと。そんな思いで口を開く。
「なに?」
「とうさま、わたしたちのこと、きらいじゃないって。
すきだって。
よる、あいにきてくれてたの」
「とうさまが、あいに?」
うなずくと、リテマリアの目がまた潤んだ。そうだよね、嬉しいよね。私たちはベッドの中、互いに手を伸ばしてぎゅっと握り締めた。そうしていると、扉がノックされて侍女が入ってきた。
「あら、お目覚めでしたか。
遅れてしまい申し訳ございません。
リステリア様、体調はいかがですか?」
にこにこと笑みを浮かべて近づいてくる侍女たち。この家に来てからずっと世話をしてくれている人たちだから、ずいぶんと慣れた。ひょい、と抱き上げられると額に手を当てられる。
「うーん……。
あとでエミルーク様に診ていただきましょうね。
朝食は食べることができそうですか?」
「ちょっとなら」
「それは何よりです。
軽いものを用意しましたから、食べられるだけで大丈夫ですよ」
「ありがとう」
「いいえ。
さ、リテマリア様、こちらで朝食を」
いつもなら机で食べるけれど、今日は私はベッドの中でいいらしい。まだ熱出ているものね。リテマリアは寂しそうな顔でこちらを見ている。だが、ここは侍女が強い。ひょいとリテマリアを抱き上げるとさっさと机に座らせてしまった。
私の方は別の侍女がご飯を食べさせてくれる。最近はちゃんと自分でスプーンを持てるようになったけれど、今は少し力が入りずらい。たぶん自分で持ったら落とすだろうな、という予感がするから、ここは大人しく侍女に食べさせてもらった。
そうして食事を終えるころ、部屋にノックの音が響いた。きっとエミルークさんだ!
「おはようございます」
扉から顔をのぞかせたのは予想通りエミルークさん。でも一人だけではなかった。
「あ、にいさま」
「にいさまだ」
「おはよう、リステリア、リテマリア。
リステリア、体調はどう?」
「だいじょうぶ、です」
「にいさま、リステリアはだいじょうぶじゃないのよ」
どうやら珍しいことに学園に行く前に兄様も顔を出してくれたようだ。そうだよね、昨日あんなことになったから心配かけてしまったよね……。
「リステリア、無理をしてはだめだよ。
今日はちゃんと休むこと」
「わかっています」
「それならいいんだけれど。
でも、目を覚ましてくれてよかった」
ぎゅっと強く抱きしめてから、リテマリアのことも抱きしめる。そうして兄様は名残惜しそうに部屋から出ていった。それからはエミルークさんの診察を受けて、やっぱり今日はベッドで大人しくするように、と言われてしまった。リテマリアはいつも通り過ごすらしい。別々のことをして過ごすのはとっても珍しくて、なんだか落ち着かない。
それでも一応ベッドの中で目をつむっていろいろと考えてみた。特に今自分がいるこの世界について、とか。
考えてみるとなんとも言えない気分になる。普通こういう世界では学校なんてない。いや、乙女ゲームの世界だとあることも多いとは思うが、それでも15歳とかからじゃん? こう、一般的に恋愛しそうな年齢から、学園に入る気がする。それまではお茶会とかで交流を深めるものだと思うのです。
でも、この世界は違う。この辺り、ほとんど日本をまねているのだ。つまり、6歳から小学校があり、12歳からは中学校、15歳からは高校があるのだ。まあ、名称は多少変わっていて、初等教育学校、中等教育学校、高等教育学校、と銘打っている。うん、ほとんど変わらないね。平民は初等教育学校までは通学が義務付けられている。後は裕福なものか成績優秀者が上に上がっていく、と。ちなみに大学は確か研究所になっていたはずだ。
そして生活水準もほとんど日本に準じている気がする。お風呂とかちゃんあるし、お手洗いも清潔。この辺りは本当に安心した。まあ、無双できないともいえるけれど、私にはそんな知識ないので、もともと無双なんて無理。つまり助かった。
おもちゃもある程度は充実しているのでなかなか楽しい。うん、まあ楽できるならいいか。せっかくの世界観が台無しな気がしなくもないが。
先のことに正直不安は多い。だが、未来に何が起こるかわからないのが普通なのだ。そう思うとわかろうとするのがおかしな話なのかもしれない。失いたくないものはたくさんある。今はひとまずそれだけをわかっていればいいのかもしれない。
うんうん、と一人勝手に納得していると眠気が襲ってくる。そのまま眠気に任せて眠ってしまおう。
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