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6章 再会と神島

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「リゼッタは本当にやんちゃな子だったのよ。
 目を離すとすぐにどこかに行ってしまってね」

 ふふ、と楽しそうに笑いながら話すのはミラの民のおば様だ。母が幼いころに面倒を見ていたようで、こうして思い出話をしてくれている。

「もう私、何度怒ったことか。
 でもあの子、全然反省していないの。
 いつも新しいものに目を輝かせていたわ。
 一族一問題児だったかもしれないけれど、あの子の周りは笑顔が絶えなかった。
 リゼッタと話していると皆笑顔になったわ」

「そうなんですね。
 俺の知っている母とはちがいます。
 母はいつも静かで、俺と兄が何かをしていても優しく見守っていてくれました」

「えぇ⁉
 それは本当にリゼッタなの?」

「た、たぶん……?」

 なにせ幼少期の母を知らないものでして。

「本当、人って親になると変わるものねぇ。
 ねえ、スランクレトの話も聞かせて」

「はい」

 リーンスタさんにも話したような兄の話を再びする。今は成人の儀の前に休憩しながら昼食を食べているところだ。敷物を敷いた上に山盛りの料理が乗った皿がおかれていて、自分たちも地面に敷物を敷いての直座り。こういう感じ、なんだか懐かしい。

 食べなれないながらもおいしい食事。母上はこの味で育ったのか。そんなこともついつい考えてしまう。

 ミラの民がここまで集まるのは珍しいことらしい。普段は成人して精霊と契約している人たちは島の外にいることが多いからだそうだ。でも、今回は俺とリーンスタさんが皇国から神島に戻ってくるということで、こうして大勢の人が自主的に集まったようだ。

 それほど母上は慕われていたということ。それに気が付いたときに少しだけ泣きそうになったのはきっと誰にもばれていない。

 そうして昼食が終わるとようやく成人の儀の準備に移る。どうやら服も着替えるようだ。朝から着ていたこの服は先ほどのためのものだったらしい。あっちの方が色的に着やすかったが、今度は真っ白な布に銀と金の刺繍。それに金の帯がまかれる。めっちゃ目立つ。

 今度は大勢に見守られるものではないらしい。見届け人としてリーンスタさんとリョーシャ様、そして一族の女性一人が付き添ってくれる。場所も開けたところだった先ほどのところとは違う、洞窟の中。青白く光る柱がそこかしこにある幻想的な場所だった。

「ここは成人の儀を行うときのみ訪れるのだ。
 ミラの民にとっても重要な場所だ」

「とてもきれいですね」

「ああ。
 ここは守らないといけない場所だよ」

 やがて行き止まりにたどり着く。洞窟自体はあまり大きいものではないらしい。そこにはさきほどまであった柱と同じ素材でできた大きな岩があった。周りにはふよふよと光が浮いている。

「では、始めよう。
 先ほどと同じように視線で合図を送るから、そうしたら私の後に続いて同じ言葉を繰り返してくれ」

「わかりました」

 またあの不思議な言葉で言うのだとしたら言えるのだろうか。少し不安ではあるが、まあきっとどうにかなるよな!

 促され、岩に手を当てると予想に反してほんのり温かい。リョーシャ様も手を当ててまたあの不思議な言葉をつぶやいた。正直意味は分からないが、先ほどよりも言葉として頭に入ってくる。しばらくしてリョーシャ様がこちらを見てきた。

 リョーシャ様が紡いだ言葉に続いて同じ言葉を紡ぐ。やはりあの言葉だが、なぜか自然と俺の口からも出てくる。そしてそのたびに体に温かいものがたまっていく感じがする。今まで体験したことがないものだ。目の前の岩もどんどん明るくなっていくし。

 ふいに目の前にひときわ明るい光の粒があらわれる。それがあの母上の精霊だとふいに理解した。そして最後。

「クリエッタ」

 誰に教えられたわけでもない。でも自然とその名が口から出てきた。すると視界が白くなる。光が収まった後、俺の目の前には小さな何か、精霊がいた。

『初めまして、スーベルハーニ。 
 わたしの名を呼んでくれてありがとう。
 ようやくあなたの前に姿を現せて嬉しいです』

「君が……クリエッタ?
 母上の精霊?」

『そうだよ』

 にこりと笑う精霊。これは成人の儀は成功したのか?

 手のひらにクリエッタを乗せて周りを見る。すると3人とも優しい目でこちらを見ていた。どうやら成功したらしい。

「クリエッタ、今度はスーベルハーニのことを頼んだよ」

『うん。
 僕にできることはとても少ないけれど、それでもそばにいたい。
 今度こそ』

 どうやらクリエッタは気ままに過ごすようで、特に気にしないでいいらしい。それはありがたい。特に食べることもないらしい。それにクリエッタの名は精霊と契約しているミラの民以外には聞き取れない言葉になるとのこと。何が起きているかはわからないが、そういうものだと納得することにした。

 洞窟からクリエッタと共に戻ると、それに気が付いた一族の人がお祝いしてくれる。失敗することはないだろう、と思いつつも皇族の血が流れているがために万が一、と考えるととても不安だったが、そばにいてくれるクリエッタと我が事のように喜んでくれるミラの民を見ると、徐々に俺の中にも精霊と契約できたんだ、という感情が浮かび上がってくる。こういうのって周りを見てようやく実感できることあるよな。

こうして無事に目的を果たした俺は、またおいでという温かい声に見送られて本神殿へと戻ることにした。

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