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5章 ダンジョン

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「これで報告すべきことは一通り終わったか。
 後は、神殿の出方次第だな。
 それと、オースラン王国王太子が一体どんな人物なのか……。
 なかなか他国の情報が入ってきづらい状態と言うのは厳しいな」

「それも、これから変わっていくのでしょう?」

「……、ああ、そうだな」

 もっと自由になるといい。今までは皇帝が、皇后が好きにやって疲弊してきた国だけれど、いろんな価値観が混ざって、情報が入ってきて。そうして、いつか他国に誇れるような国に変わっていくといい。

「固い話が終ったなら、どうですか?」

 そう言って、カンペテルシア殿は新しいグラスを取り出す。そこに、先ほどの瓶の中身を移す。この匂いは、お酒? そういえばこの国だと飲んでいいのか。ほとんど飲んだことがないからこの体がどれくらいお酒に強いのかよくわからないんだよな。

「ああ、ありがとう。
 いい酒をもらったんだ。
 きっとおいしい」

「いただきます」

 どれくらい飲めるかわからないが、他国の人の前で醜態をさらす前にここで飲んでみたほうがいいだろう。限界まで飲む気はないけれど。

 乾杯、という声に軽くグラスを持ち上げる。そして一口口に含む。……これ、結構度数強くないか? アルコールの苦みがすごい……。けど、飲めないわけではない。口に入れた瞬間はうっ、と思ったけれどそれに慣れてさえしまえばけっこうおいしい。後味もさっぱりとしているし。

「おいしいですね……」

「ええ……」

「これは、いいものをもらったようだ。
 後で礼を言っておこう」

 そのあとは軽食をつまみながら、酒を飲み、ぽつぽつと話していく。兄弟二人だけならいざ知らず、俺が混じったうえで和やかな会話にはなかなかならない。そもそもこんな風に話す時間を取れたのは初めてだし。

「スーベルハーニは、……ハールはどういう旅をしていたんだ?
 オースラン王国にいたのだろう?」

「旅、といっていいのかわかりませんが……」

 そうしてお酒の力もあり、俺はここを出てからのことをかいつまんで話していった。サーグリア商団に出会って国を渡っていったこと。オースラン王国では数年を孤児院で過ごしたこと。孤児院をでて冒険者養成校に入ったこと。
 意外なことに、その一つ一つをしっかりと聞いてくれた。基本的にこの国から、皇宮から出たことがない彼らにはどれも新鮮な話だったらしい。

「お前は強いな。
 昔も、そして今も変わらない。
 俺にとってずっと追いつきたいと願う存在、だった」

「カンペテルシア殿が俺に?
 あなたにとって、俺は足りないものばかりでしょう?」

「いいや、そんなことはない。
 幼い時、傲慢だった俺の鼻っ柱をおってくれたから、きっと今の俺がいるんだ。
 お前がこの皇宮にいて、俺たちと関わったのはとても短い時間だった。
 それでも、お前は確かにこの俺に影響を与えたんだ」

 鼻っ柱……。あんまりちゃんとは覚えていないけれど、あの勉強会のことか? それが何かしらの影響になっていたとは意外だ……。

「それはきっと、あいつも、ルックアランも同じなんだろうな」

 ルックアラン、その名がでるとあの時のことを思い出す。

「そんな顔をするな。
 あれは私たちが、そしてルックアランが選んだ結末だ」
 
 ぽん、と頭を撫でられる。まるで、本当の兄のように。

「……やめてください」

「ああ、すまない」
 
 いったいどうしてこういう空気になったのか。お酒って怖い。しかも、飲みやすい美味しいお酒はもっと怖いわ。

「ああ、こんな風に穏やかに酒が飲めるとは思わなかった。
 付き合ってくれてありがとう」

「いいえ、こちらこそ誘っていただいてありがとうございます」

「そうだ、忘れていた。
 ハール、今度妹たちに会わせよう。
 サラとララにはまだ会ったことがなかっただろう?
 そのうえで一度この宮にいる兄妹全員で顔を合わせるのがいいか」

「姉上たちも会いたがっていましたし、自分から会いに行く前に早めに時間を取ってしまった方がいいのではないでしょうか」

「はは、あの二人なら確かにやりそうだ」

 今、俺の中で二人がお転婆な皇女様に設定された。いや、もともとこの国で炊き出しとかしている時点で相当行動的な人たちだと思っていたけれど。でも少し興味はあるかも。

 俺がぼんやりと思考に浸っている間に何やら話が付いたらしい。いつの間にか、明日時間を取ることになっていた。え、早くない?

「こういうのは早い方がいいだろう。
 他の国のものを迎えるにあたって、兄弟仲くらいはいいほうがいい。
 特に、私たちは後継者争いをするような仲でもないしな」

「そうですけど……」

 いいのか、皇女がそんなに暇で。でも今はまだ国内がバタついている時期だからこそ、やれることがないのかもしれない。さて、お開きにしようか、というところで一つ確認ごとがあったことを思いだした。

「あの、イシューさんの件なのですが。
 要請に応じてここに来てくださったとして、国境は問題なく越えられますか?」

「ああ、そのことか。
 今は余計な火種を増やさないために、国境も警備を強化しているからな……。
 改めて早馬で通達しておこう」

「お願いします」

 お願いだから、イシューさんが到着する前に連絡が行ってくれ……。
 

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