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4章 皇国

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 ぎゅっと強く握られた手を離すといつの間にか何か紙に包まれたものを握らされていた。これ、どこかで見た気が……。ああ、掃除のときだ。まああれの中身が何か結局見ていないから同じものかはわからないけれど。

「あの、これは?」

「いいか、ここであったことは外で話すんじゃないぞ。
 これは皇后陛下から選ばれた俺たちへの特別な計らいだ」

「え、選ばれた……?」

 意味が分からない。でも、そう話す男性の目があまりにも怖くて深く聞くことができなかった。にやり、と笑った男性はそのまま特に説明することなく俺のもとを離れた。

「たっく、俺が説明してやるよ。
 えーと、ハールだっけか?」

 前の方へと行ってしまった男性を見送ると、別の人が話しかけてきた。ここまで近づいてきてようやくよく見える。この男性、顔色がどこか悪い。おそらくほかの人達も。あれ、これなんかまずいものに足突っ込んでいないか?

「皇后陛下は巷では冷酷で傲慢な人って言われているが、そんなことはない。
 こうして下働きにまで気を配ってくださっている」

「皇后陛下が気を……?」

「ああ。
 忙しくしていることを気にかけて、こうして元気になれる薬を分けてくださっているのだ。
 それも特に力を尽くしているものにな」

 い、いやいやそれ誰。あいつがそんなことをするわけがないだろう。思わず全力で否定しそうになっていたところを、がっと手をつかまれたことによって阻止された。そしてまた口を開きかけたときに、マーシェさんの声が聞こえてきた。

「よく集まってくれた。
 今日も皇后陛下よりお心遣いを頂いている。
 感謝していただこう」

 あれは誰だ、といいたくなる。マーシェさん、そんなキャラだったか……? 一体何に連れてこられたんだ俺は。

 戸惑いから抜け出せないままに、今度はなにかの飲み物が配られた。怖い、がこの空気の中飲まないわけにはいかないだろう。熱気が高まっているのが肌で感じられた。

「皇后陛下に感謝を」

 そんな一言が復唱される。一斉に叫ばれたその言葉にぞっとする。そしてそのまま全員が飲み物を口にした。俺はというと未だについていけずに何かわからないものを抱えたまま固まるしかなかった。だが、飲めよ、と隣にいた男性にそれを口に入れさせられた。

 しまった、そう思ったときにはすでに遅く、飲み物は喉を通り過ぎていく。少し苦い、か? その時ふわりとわずかに体が温かい? 結局おちょこ一杯と言った量のそれを飲み干すこととなってしまった。俺は一体何を飲まされた……?

 そのままその会は解散となった。事態が呑み込めずに呆然とする俺にマーシェさんが近づいてきた。

「どうだ、体が楽になっただろう? 
 次もまた呼んでやるよ」

 あ、元のマーシェさんだ……。狂気、そう言ってもおかしくない様子だったマーシェさんはいつもの笑みを浮かべている。そして俺が握ったままだった包みを見るとどこか羨ましそうにこちらを見ていた。

「これ、いる……?」

「いいのかっ!」

 どうしてそう聞いたのはわからない。でもなぜか聞いていた。それは少しでも早くこれを手放したかったからなのかもしれない。でもなと少し戸惑った後、結局マーシェさんは俺からそれを受け取ってありがとうと嬉しそうに、本当に嬉しそうに言った。

「き、気にしないで……」

 そう言うのが精いっぱいだった俺は、そのあとすぐに部屋へと戻ることにした。


「どうだった?」

 部屋に戻るといつもなら寝ている時間のはずのグルーさんが起きて待っていた。こちらを見ている様子からするときっと心配してくれたのだろう。

「どう、ですか……。
 なんかよくわからなかったです」

 結局そう言うのが精いっぱい。本当によくわからなかったのだ。あの謎の飲み物を飲んでも結局何も起こっていないし、まだ。不思議そうにしている俺にグルーさんは何もなかったならいいが、とすぐに布団に入ってしまった。

 俺ももう寝るか、とさっさと寝る支度をして布団に入った。なんだか無駄に緊張して疲れてしまった……。

『ハール』

「うわっ」

「ど、どうしたハール!」

「あ、何でもないです!」

 び、びっくりした! 気を抜いたところにいきなりシャリラントが現れるなんて。だが、一度寝たグルーさんを起こしてしまったのは申し訳ない……。一体何の用なのか、シャリラントの方をにらむと予想外にシャリラントは深刻な顔をしていた。

『シャリラント?』

『先ほど飲んだものですが……、麻薬、と呼ばれるものです。
 薄められているためすぐに何か影響があるものではないかと思いますが』

『ま、麻薬!?』

 麻薬って、あの麻薬だよね? え、そんなものを飲まされそうになっていたのか? あーーー、なるほど? マーシェさんたちの様子がおかしかったのってそういうことか。これどうしたらいいのか……。というか、俺それ飲まされたよな?

『ハールのは飲んだ瞬間に対処しました。
 安心してください』

 え、対処? そんなこともできたのか。やっぱりシャリラントって……、うん何も考えない。でもよかった。

 さて、これをリヒト伝えるべき、だよね。とはいえどう伝えればいいか。

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