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1章 皇国での日々
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しおりを挟むスランクレトの視点です。
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「なあ、リヒト。
少し付き合ってくれないか?」
カチャ、と一緒に持ったグラスとボトルが音を鳴らす。久しぶりにお酒に誘うことにしたのだ。あまりにも急な誘いだったからか、怪訝そうな顔をしている。
でも、こいつは妙に察しがいいからな。こうしておかないと、きっと変に手を出される。
「いいだろう?
これからする話はお酒が入っていないときついんだよ。
きっと見間違いだって、馬鹿にされる」
「あなたの話を馬鹿にすることはありませんが……。
まあ、いいでしょう」
よし、ようやく席についてくれた。ボトルの中はとてもおいしいがとても強い酒。きっとリヒトは耐えられない。俺のは水にして、と。準備はできた。
「それで、どんな話を?」
「スーハルが生まれた時の話だよ。
俺が、俺と母上が、どうしてスーハルを救いと呼んだかの話」
「それは確かに興味があります」
よし、ちゃんと飲んでいるな。確認をしてから口を開く。これを誰かに伝えたかったのは事実だ。この話を、誰かに覚えていてもらいたい。いつかきっと、これがスーハルの力になるから。
「スーハルは、知っての通り陛下の末の子だ。
なんの気まぐれか、ふらりと母上の宮に立ち寄ってな」
「そういえば、そのころは暮らしていたのはまだあの離宮ではありませんでしたね」
「ああ。
それを知った皇后が大激怒したんだ。
きっと自分のところには皇子を生んだ後はろくに来なかったんだろう。
なのに、と。
それで激怒した皇后にあの離宮に飛ばされたんだ」
懐かしい。鬼のような形相の皇后がいきなり詰めかけてきて、お前にこの部屋は豪華すぎる、とか言い出したんだ。そして、当時全く手入れされていなかった離宮に飛ばされた。自分のせいなのに陛下は我関せず。あの時は殺してやろうかと思ったもんな。
「だが、今ではそれでよかったと思っている」
「あの日陰な場所がですか?
なぜ」
うんうん、いい感じに顔が赤くなってきた。
「それが先ほど話したいといった内容だよ。
追いやられて、それでも母上はきちんとスーハルを育てた。
俺もいろいろ奔走したしな。
出産の知識も頭に入れた」
「あなたが?」
「そう。
産婆すら信用できなかったからな。
陛下にとってはその子が生まれようと生まれまいとどうでもよかっただろうし」
「ふ、確かにあの方ならばそう考えてもおかしくありませんね」
「でも、これも結果としては良かったんだ。
結果として、スーハルが生まれたときそこにいたのは俺と母上。
後は、今はもういないが母上の侍女、その三人だけだった」
目を閉じると、今でもその光景が目に浮かぶ。いけないな、水しか飲んでいないのに酔ったみたいだ。この後のことを考えるとかなりまずい。っと、リヒトが視線で早く話せとせかしているな。
「スーハルが生まれたときにな、辺りが光に包まれたんだ。
柔らかな光に。
それは、まるで精霊がスーハルの誕生を喜んでいるように見えた」
「精霊?
今ではもういないのでは、とも言われている精霊ですか!?」
「ああ、そうだ。
な、信じられないだろう?」
それは、確かに……、そう口にしながら酒に手を伸ばす。俺だって実際に目にしなければきっと信じられなかった。
「それが、神様からの救いに見えたんだ。
呪われた皇族にとらわれた母上、そしてそのもとに生まれた俺にとっては」
「とらわれ……。
そういえば皇子の母君はどこの出身なのですか?
身分が低いとは聞いているのですが、詳しくは知らず」
「母上は……、実はこの国の民ではないんだ。
流浪の民、それを父上に見初められてしまった。
黒髪、赤目はその民の特徴でな。
本来は神に愛された民のはずなんだが。
だから、母はたまに陛下のことを悪魔、と呼んでいたよ」
それすら懐かしい。母上の出身は実はあまり詳しくない。母上が話してくださらなかったからだ。もう、自分はその民ではないから、と。
「だから、自分の堕ちた身を嘆いていた。
俺ではそんな母上を救えなかった。
だけど、スーハルが救ってくれた。
苦しんでいた俺も一緒に救ってくれたんだ」
「それで救いだったんですね。
神に愛された……、もしかして!
あの剣の、真の持ち主は」
「きっと考えていることであっているよ」
そう、あの剣はスーハルのもの。俺はただの運び屋に過ぎないんだ。
「それに、俺が魔法を使うときにわざわざ唱えるのもそれが理由だ。
皇族は呪われた一族。
だが、スーハルは違う。
ならば、この言葉も意味があるものだと思ってな」
「ああ、なるほど。
いろいろと納得が、いきました。
精霊は、にわかに、しんじがたい、ですが……」
お、うとうとしだした。こいつはお酒を飲むと眠くなりやすいからな。これなら大丈夫だろう。
「……、皇子、騙されて、差し上げます。
ですから、どうか」
「っ!
……はは、さすがにリヒトのことは騙せないか。
なあ、リヒト。
俺に何があっても、スーハルの力になってやってくれ。
あの子は本当に優しい子だから」
だから、どうか。力になってくれ。
そんなの知っています、と細い声が聞こえてきた。寝てしまったようだ。
さて、さっきからつけてきているあいつらが我慢しているうちに最後の仕事をしなくては。
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