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    凰とうららが神殿から抜け出した頃。
王城では、勇者たちの謁見が執り行われようとしていた。

「もうじき陛下の居ります謁見の間に到着致します。出来うる範囲で構いませんので、失礼の無いようにお願い致します」
リエナの言葉に、4人の高校生は頷いた。
リエナと兵士たちと共に、赤い絨毯が敷かれた廊下を静かに歩く。周囲は人払いがされているのか、メイドの一人も見当たらない。
15分程歩き続けただろうか。華美な装飾が施された重厚な大扉の前に到着した。

「これはリエナ第1王女殿下」

大扉の側に立っている騎士が、リエナに向けて最敬礼をとる。

「勇者様方の召喚に成功いたしましたので、国王陛下へお知らせに参りました」
「おお!陛下はすでにお待ちです!お通りください!」






「────勇者たちよ。我が名はナキリセス王国国王、ギルグス・ロッテ・ナキリセスじゃ。突然このような世界に来て困惑していることじゃろう。召喚に関しては、本当に申し訳ない。我が国の、いや───この世界の事情を聞いてはくれぬか?」

国王が4人の高校生を見ると、1人の少女が手を挙げた。

「どうして事情を聞かないといけないんですか⁉私達を元の世界に帰らせてください!」
「まあまあ、緑里。話聞いてから考えようぜ」
緑里と呼ばれた少女の肩にポンポンと手を置く1人の少年。
「だって、さっきまでコンビニに居たんだよ?光太は良いかもしれないけど⁉『テンプレきたー!』って叫んでたもんね⁉」
肩にポンポンと手を置いた少年が光太と呼ばれる。
「そりゃそうだけどよ⁉この状況で何か打開策有るわけ⁉」
「ストーップ!言い合いしてる場合じゃないよー?ちゃんと王様の話聞こうよ!

もう1人の少女が止めに入ると、今まで口を開かなかった少年が、王様の方を見る。

「すみません。こんな世界初めてなので、礼儀がなっていませんが、お話をお願いします。自己紹介を忘れていました。自分は、南川宗みながわしゅうと言います。宜しくお願いします」
「アタシはー、花木美空はなきみくでーす!」
「俺は荒川光太あらかわこうたです」
「………………渡来緑里わたらいみどりよ」
各々頭を下げると、ナキリセスの国王は静かに頷いた。

「……うむ。此方こそ、手間をとらせて済まぬ。─────この世界の事情を聞いてほしいと言うのは、この世界の調査と魔獣の討伐と発生源となる場所の特定を頼みたいのだ。ここ20年のうちにマナが大幅に乱れ、魔獣の異常発生が各国で起きている。世界中の冒険者や貴族たちが調査・発見・殲滅や浄化を続けているにも関わらず、同じ速度で別の場所にマナの乱れと魔獣の群が発生する。この発生源となる場所の特定が、何故か我々では出来ない。
    今回は我が国と同盟を組んでいる他国と連絡を取り合い、会議で吟味した結果、勇者召喚する方向で話が纏まったのだ。我が国は、召喚を担当することになった。我々の身勝手なのは承知しておる。本当に申し訳無い。許してくれとは言わぬ。世界各地の情勢や戦闘訓練等の出来うる限りの援助をするつもりじゃ。請け負ってはくれないだろうか?この通りだ」

ギルグスが、4人の少年少女に向けて頭を下げる。
4人は驚いて顔を見合わせ、頷いた。

「国王陛下、頭を上げてください。自分達が何処まで出来るか分かりませんけど……やってみます」
代表して言葉を発したのは、南川宗。
「そうだねー。私も頑張ってみるよー」
「俺も!」
「私は一緒に行動するけど、優先的に帰還方法探すんだから!」
各々の意気込みを聞きながら、ギルグスが安堵の表情を一瞬見せる。

「すまぬ…………感謝する。これから準備に───」

バタン!と大きな音とともに謁見の間の扉が勢い良く開く。

「無礼を承知で申し上げます!」
1人の神官が叫びながら飛び込んで来た。かなり急いで来たのか、息を切らせている。

「…………何事じゃ」
話の腰を折られたギルグスは、神官に冷ややかな視線を送る。
「もっ、申し上げます!先程の召喚についてですが、後2人一緒に召喚された者が居ます!」
「何!?真か!?」
「は、はい!リエナ第1王女殿下は緊張のあまり気付かなかったため、そのお二人は神殿の1室へと案内して休んでもらっています。どうやら召喚に巻き込まれたようなのです」
膝を付き、頭を垂れた神官が発した言葉に、驚愕の表情でギルグスは聞いていた。

「リエナよ…………。緊張しすぎだ。例え緊張していたとしても、全体の把握を冷静に行うように言っておる筈だ。何故、気付かなかった?」
「も、申し訳ありません!その…………存在する気配を感じ取れませんでした」
リエナが慌てて答えると、ギルグスが眉間にシワを寄せて深い溜め息を吐いた。

「────こうなっては仕方がない。それで、2人には会えそうか?」
「それは大丈夫かと。食事をされたらと言っておりましたし、6階に案内致しましたから」
神官の言葉に、ギルグスは少々不安を感じたが、頷いた。

「何もなければ良いが。としても責は問わぬ。6階から抜けるのは無理だろう?」
「はい。窓から出ない限りは……。扉は見張りを付けてありますので」
「うむ。では、これより、勇者達を部屋に案内せよ。明日から訓練等の準備にかかってくれ」
「かしこまりました。神殿におります2人はどうなさいますか?」
「……フム。では、明日の朝にでも神殿へ向かおう」
「────かしこまりました」
神官が膝を付き頭を垂れた。




既に逃走していると気付くのは、翌朝。
──────神官の叫びと共に。





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