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   現在、絶賛降下中。このままだとマズイから、無詠唱で《スモールシールド》を展開。足場として利用。
勢いを抑えて、 ストン、と柔らかく着地。
無事、神殿から脱出。城からそんなに離れてない神殿だ。今のところは周囲に人の気配無し。
そのまま神殿を背にして、うららさんを抱えて走り出す。街や村にに行くことが出来たら、俺とうららさんはまず宿探しだな。

「うららさん、もう顔を上げて大丈夫。街や村に近くなったら少し休憩しよう」
俺はうららさんを抱えて走りながら、声を掛けるとうららさんは目を開けた。

「うわあ!」
目を輝かせて、辺りを見回すうららさん。綺麗な草原見るのは良いけど、このスピード怖くないのかい?
城がどんどん後方になって行くのを見ていたうららさんは、俺の方を上目遣いで見上げてくる。
うおう。可愛い!
「あ、あの……重くないですか?」
頬をほんのりピンクに染めて聞かないで。可愛くて悶絶しちゃうよ。
「うん。うららさん可愛い」
あっ!心の声が……うららさん真っ赤になっちゃった。

そんなやり取りしながら、俺はひたすら走る。どうやら上手くいったようで、先の方に森が見えてきた。
街道もある。コレはラッキーな方か?
「城からかなり離れられたみたいだ。そろそろ休憩しよう」
少しずつスピードを落として歩き、落ち着いた所でうららさんを降ろした。
歩きながら周囲を見て、休憩出来そうな場所を探してみる。

「辺りに何もないですね」
「うん。ちょっと待ってて」

ぐるりと見回して─────少し遠いけど、立札みたいなのがあるっぽいとこ発見。目の前の左右に延びた街道らしき道の左の先の方。側には大きな木。
「あっちに休めそうな場所があるから、少し歩こう」
指差した方向を、うららさんが見る。
不思議そうに首を傾げるけど、そっと手を握って歩き出す。
「こ、凰さん⁉」
慌てるうららさんを見てるのも良いんだけど、完全に日が落ちたらマズイ。
うららさんに歩きながら簡単に説明だな。

「うららさん。こういった場所はね、とても危険なんだ。出来るだけ早く街や村に入らないと、魔物や盗賊に襲われる。立札があるのが見えたから、きっと近くにあるよ。色々と教えるにしても安全な場所が良いに越したことはないからね」
「は、はい……」
戸惑いつつ返事を返してくれるうららさんをちらりと見て、立札を目指す。
今頃、神殿ではちょっとした騒ぎになってるだろうけど、外見変える予定だから、問題無いかな。
服装変わってる時点で大丈夫な気もするけど、念には念を、ってことで。
立札が見えてきた。歩いて20分というところか。

「どれ……この先クムク村、か。うららさん、ここで少し休憩してから向かおう」
「スゴいです……知らない文字なのに読めます」
立札をじっと見ているうららさん。言語理解のスキルは確実に付いてるな。後は書けるかどうかだけど、それは村に着いてからだね。

と、言うわけで、俺は側にある大木の根元にマジックバッグから出した敷物を敷く。

「うららさん、座って」
「あ、はい」

座ったのを確認した俺も、その隣に座る。ちょっと落ち着いたところで、お茶を出す。勿論、ティーセットね。
この世界の紅茶がまた美味いの。
それと一緒にお茶菓子ね。

「どう?落ち着いた?」
「はい。有難うございます」
「それは良かった。これから俺と旅をすることになるけど、大丈夫?嫌じゃない?」
「大丈夫です!これから宜しくお願いします」
ああ、良かった。さて、この髪切ってイメチェン。俺は顔にかかった髪全体を風魔法を操って切った。うん、さっぱり!
そのままうららさんを見ると、俺を見て固まってる?何で?
「うららさん?」
目の前で手を振ってみる。
「えええええぇぇ⁉」
なんでそんなに驚くの?俺の顔に何かついてる?自分の顔をペタペタ触ってみたけど、うん、大丈夫。
「こっ……凰さんイケメン……」
「うん?これ普通でしょ。モテたことないよ?」
「凰さん……。自覚無しの人たらしになってるかも」
「えー。ナイナイ」
「凰さん、顔を晒したのって初めて?」
「あー、ずっと1人で行動してたから初めてかも?切る前の髪型で探されたらマズイかなーって思って」
「…………そうですね。じゃあ、私も」

困り顔のうららさんは、二つ結びから横に少し髪を下ろしたポニーテールに変えた。あっ、そうだ!
俺はマジックバッグに手を突っ込んで1つの髪飾りを出した。
パッと見た感じは、蝶がとまっているようなクリップタイプの髪飾り。
「これ、旅仲間になった記念に」
そう言ってポニーテールの結び目に付けてあげた。うん、似合う。
「有難うございます!」
はにかむ笑顔が可愛いデス!
「うん。じゃあ、そろそろ向かおう。これ以上遅くなったら村に入れないかもしれないから」

俺が立ち上がって、うららさんが立ち上がる。手早くティーセットと敷物を片付けて、肩を並べて歩き出したのだった。


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