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第6話 VSモブサウルス

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『大甲虫の森林 拠点』を出た直後、リンカ(狩野花梨)はターゲットのモブサウルス5匹を発見した。
 
『コール(遠距離通信魔法)』によりリンカの視界の右上に表示されている受付嬢のジョセフィーヌから通話が入った。
「 ここは『大甲虫の森林』ではありますが、ご覧の通り、森林に入るのは 拠点から東に1kmほど行った先です。 モブサウルス達がたむろしているのは、拠点から500mほど先の平原なので、森の木々に隠れながらの奇襲などはできません。 正面からの戦いになります。 気を引き締めて挑みましょう! 」
 
「 でも、どうせ初めてのチュートリアルクエストだから、5匹とも雑魚中の雑魚なんだろ? 」
「 ま…まぁ、そうなんですけどね… 」(苦笑)
 
リンカはジョセフィーヌと会話しながら、モブサウルス達に向かって歩を進めていく…。
 
「 そう言えば、リンカさんの視界に映っているであろうゲージ等について説明していませんでしたので、ご説明しますね? 」
「 あ~…そういや、そうだな…。 どれが何かとか大体察しはついてはいるけど、一応、説明頼む。 」
「 はい。 まず、左上の3種類の横棒ゲージですが、緑色は体力、黄色はスタミナ、青色は魔力を表しています。 各ゲージの右横に表示されている数値は現在の数値です。 例えばですが、今は緑の体力ゲージが満タンで数値は200になっていますが、敵の攻撃で10ダメージを受けると、ゲージは10減り、数値は190になります。 スタミナゲージはダッシュしたり攻撃したり等の激しい動きをすると減少しますが、激しい動きを止めれば急速に自然回復します。 魔力ゲージについては…後ほど、魔法を使えるようになってから説明しようと思うのですが…」
「 うん、魔力ゲージについては後でいいや。 」
 
ジョセフィーヌは、とりあえず、3本のゲージについての説明を終え、レーダーの説明に移った。
「 では次に、左下の円形レーダーについてです。 レーダーの上方160度の扇形の角度に線が引いてありますが、これはリンカさんの前方の視野角です。 レーダーの下方の残り200度は、リンカさんの後方の死角になります。 戦闘中、視野角だけでなく、このレーダーにも注意していれば、後方の死角からの攻撃にも対処できます。 …と言っても、慣れるまでは大変ですし、プロハンでもなければ本当に100%使いこなすのは難しいとは思いますが…。 ちなみに、レーダーの中心がリンカさん、赤色のマーカーは敵、緑色のマーカーは中立もしくは(敵か味方か)不明、青色のマーカーは味方です。 」
 
「 なるほど…レーダーのマーカーの各色は、マップのマーカーの各色と、配色は一緒だな。 わかりやすくていいな♪ 」
「 あ…あと、敵からのファイヤーボールや矢などの遠距離攻撃は黄色で表示されます。 レーダー上に高速で向かってくる黄色の点が表示されたら、素早く回避するなりガードするなりしてください。 」
「 了解♪ 」
 
そんなこんなで、会話をしながら歩を進めている内に、モブサウルス達から30mくらいの位置にまで接近した。
モブサウルスは、茶色っぽい体表をした、尻尾まで含めた全長が2mほどある大きなトカゲ型モンスターだ。
現実世界の生物で例えるなら、サイズ的にも外見的にも『コモドオオトカゲ』が比較的近いだろう。
 

 
周囲は平原で背の低い草しか生えていないので、当然、互いの姿は丸見えである。
モブサウルス達は、ある者は警戒し、ある者は殺気立ちながら、リンカの方をうかがっている…
  
「 リンカさん! この武器(ルーキー・ソード&シールド)は軽量で素早い立ち回りができます。 スピードを活かして相手の攻撃を回避しながら、剣による斬撃や盾による打撃を当ててください。 ただ、敵は複数いますので、攻撃を回避しきれないと思ったら、素直に盾でガードする方がいいでしょう。 尚、大半の動物型モンスターは鼻先が弱点ですので、そこを重点的に狙えば早く倒せると思います。 」
「 なるほどね♪ OK♪ 」
 
リンカの方をうかがっていたモブサウルス達…その内の一匹がリンカに襲い掛かって来た!
リンカに向かってダッシュで走り寄りつつ、リンカまで距離5メートルほどの位置でその勢いのままジャンプし、雄たけびをあげながら襲い掛かった!
『 ザザザザザザッ…ダッ! 』
「 キシャーッ! 」
 
リンカは落ち着いてモブサウルスの攻撃を半身になりながら右に避けつつ、すれ違いざま右手の剣で鼻先に斬撃を入れた。
『 ザシュッ! 』
斬撃が命中した瞬間、モブサウルスの頭に満タンの緑色のゲージが現れ、緑ゲージが3分の1くらいまで減った。
 
「 ギャアァァァスッ! 」
モブサウルスが悲鳴をあげて、ひるんだ。
 
「 なるほど…今のでコイツ(モブサウルス)の体力は3分の2くらい減ったってことか… 」
リンカはそう呟きながら、冷静に且つ素早く、モブサウルスの鼻先に2撃目を入れた。
今度は練習も兼ねて、左手の盾でモブサウルの鼻先を殴打してみた。
『 ガコォンッ! 』
 
「 ギャアアァァァァスッ!! 」
モブサウルスが悲鳴をあげ、同時にモブサウルスの残りの体力が0になり絶命した。
 
それと同時に、モブサウルスの身体は消え失せて、直径10cmくらいの白っぽく輝く玉が2個出現した。
「 それは『ドロップアイテム』です。 小型モンスターだと1~5個、中型モンスターだと5~15個、大型モンスターだと16個以上落とします。 拾うと、ランダムに『魔石』だったり『素材』だったりに変換されて入手できます。 でも、ドロップアイテムは1時間は消えませんので、今は先頭に集中して、拾うのは後にしましょう! 」
とジョセフィーヌからアドバイスが入った。
「 了解! 」
 
 
仲間(最初のモブサウルス)が倒されたのを見た残りの4匹のモブサウルス達は、怒号をあげながら一斉に襲い掛かって来た!
「「 ギャオオォォォッ!! 」」
 
「 なるべく囲まれないように立ち回りましょう! 視界左下のレーダーも注視し、もし背後に回られても対応できるようにしましょう! 」
 
「 オッケー! 」
リンカは短く返事をすると、4匹のモブサウルスの内、先陣を切った一匹に自ら突進して、その鼻先に剣の突きを食らわせた!
『 ダッ! ズシュッ!! 』 ( 「 おっ!? なんか手ごたえがいいな… 」とリンカは感じた。 )
そして、命中するやいなやバックステップで距離をとった。
4匹を同時に相手にするのだから、一匹相手に足を止めて打ち合うような戦い方は得策ではない…と判断したのだ。
 
「 ギャアアァァァァスッ!! 」
と、ここで、今しがた突きを食らわせたモブサウルスが断末魔をあげて絶命した!
 
「 あれっ!? 今度は一撃で倒せちゃった…?? 」
「 今のは『クリティカル』で、与えるダメージが2倍になります。 『ステータス』に『クリティカル率10%』と記載されていたように、今のリンカさんは10%の確率でクリティカルが出ます。 とは言っても、あくまで確率ですので、『10回に1回、必ずクリティカルが出る』というわけではありませんけど… 」
「 あ~…『手ごたえいい』って感じたのは、クリティカルだったからか…なるほどな~ 」
 
リンカはジョセフィーヌと会話(『コール』による通話)をしながらも、残り3匹のモブサウルスに適切に対処していく…
モブサウルスの数はあっという間に残り1匹になっていた。
その間、リンカは一度も被弾していない。
 
「 …チュートリアルクエストとはいえ、初めてのアクションゲーム、初めてのフルダイブゲームなのに、一撃も被弾しないというのは、なかなかやりますね… 」
ジョセフィーヌは感心している。
 
「 ん~…だいぶ余裕あるから、試しにわざと食らってみるよ。 」
リンカはジョセフィーヌに言った。
 
最後の一匹のモブサウルスによる鞭のような尻尾攻撃を、あえて腹に受けてみた。
『 ヒュンッ! ビシッ! 』
「 ぐっ!? 」
『 ズザザッ… 』
リンカは1メートル程ノックバックした。
 
「 うわっ…スゲーなフルダイブシステムって…。 軽くだけどお腹に衝撃感じたわ…。 なんつーか…振動(バイブ)付きコントローラーを振動状態でお腹に宛がったみたいな…? 」
リンカはお腹をさすりながら緑ゲージに目を向けた。
体力は5だけ減って、195になっている。
攻撃の種類にもよるのだろうが1撃5ダメージくらいしか受けないとすると、単純計算で200÷5=40なので39発までは被弾してもいいことになる。
( 「 こりゃあ、たしかに『チュートリアル』だな…簡単すぎる… 」 )とリンカは思った。
 
次にリンカは、モブサウルスの突進噛みつき攻撃を左手の盾(ラウンドシールド)で受け止めてみた。
「 キシャーッ! 」
『 ガギィンッ! 』
「 っと! 」
 
体力ゲージを見ると、更に1だけ減って、体力が(195→)194になっていた。
「 ガードした場合、ダメージは5分の1に軽減か…? いや、最初の攻撃と今の攻撃は違うから(最初のは尻尾攻撃で今のは噛みつき攻撃だから)、同じ攻撃で比較しなきゃ正確とは言えないか…? 」
リンカは独り言ちた(ひとりごちた)。
 
そのリンカの独り言に答えるように、ジョセフィーヌが返答した。
「 ガードするとダメージは原則20分の1されます。 但し、小数点以下は切り上げとなります。 つまり… 」
 
「 なるほどね…ダメージ5の20分の1はダメージ0.25…だから今のガード時の被ダメは小数点以下切り上げでダメージ1になった…ってわけか…サンキュー、ジョセフィーヌ♪ 」
リンカは最後の一匹のモブサウルスを軽くあしらいながらジョセフィーヌに礼を言った。
 
「 どういたしまして♪ 」(ニッコリ)
 
「 さて…色々試したいことも済んだし…これでクリアだっ! 」
リンカはモブサウルスの突進をかわしつつ、すれ違いざま、モブサウルスの心臓の位置に剣を突き立てた!
 
『 グサッ!! 』
「 ギャアアァァッ!! 」
 
モブサウルスを全滅させたと同時に、
『 クエストを達成しました! 』
という機械音声がどこからともなく聞こえた。
 
続いて、ジョセフィーヌから『コール』による遠距離通話が入る。
「 おめでとうございます! クエストクリアです! まずは、倒したモンスターが落とした『ドロップアイテム』を回収して、『魔石』や『素材』などを入手してください。 その後、ギルドの受付に来てください。 報酬が支払われます。 」
 
「 OK♪ 」
リンカは返事をしながら、手近に落ちているドロップアイテムを拾ってみた。
『 【ジャスト・パリィの魔石】を入手しました。 』
という表示が空中に現れ、同時に機械音声が流れた。
 
「 えっ!? 」
ジョセフィーヌが驚いている。
 
リンカはキョトンとしながらジョセフィーヌに問いかける。
「 『パリィ』って、『いなす』とか『受け流す』的な意味だよな…? 何? これって、レアなん? 」
 
「 え…えぇ…。 激レアとまではいかないですけど、レアアイテムです。 序盤ではほとんど出ることはないはずなんですけど…それがまさか最初のチュートリアルクエストで出るなんて… 」
 
「 へぇ~…幸先(さいさき)いいなぁ~♪ このゲームやるの初めてだから…ってか、アクションゲーム自体、これが初めてだからビギナーズラックってヤツかな♪ 」
とか言いながら、リンカは入手した【ジャスト・パリィの魔石】のテキスト(説明文)を見てみた。
下記のような内容だった。
 


―――――――――――――――――――――――――
  
【ジャスト・パリィの魔石】   必要魔法容量:20
スキル『ジャスト・パリィ』を使えるようになる。
敵の攻撃(突進、尻尾攻撃、火球、等)に合わせてタイミングよく受け流すように自身の武器を当てると、敵の攻撃を受け流し、無傷でしのぐことができる。
また、敵の体勢を5秒間崩すことができる。(但し、火球等の遠距離攻撃の場合は、無傷でしのぐことはできるが、敵の体勢を崩すことはできない。)
更に、発動時は、スキルLVに応じて5秒間だけ自身の攻撃力が数倍になる。
それに伴い、スキル発動時の攻撃力が、(『LV1』では攻撃力『1倍』だが、)『LV2』だと『2倍』、『LV3』だと『3倍』…と攻撃力が上がっていく。
但し、入力受付時間は極めてシビアで、(ジャストタイミングの0.1秒前~ジャストタイミングまでの)0.1秒間しかない。
  
―――――――――――――――――――――――――
  

  
「 えっ!? これ、マジですごくね!? 攻撃を無傷で受け流せて敵の体勢崩せて自分の攻撃力が数倍って…!? 」
リンカは興奮気味にジョセフィーヌにまくし立てた。
 
「 えぇ…まぁ…。 …でも、よく見てください? 入力受付時間がたったの『0.1秒間』なんですよ? 並ハン…並の腕前のハンターのことなんですけど、『並ハンじゃ十回に一回まぐれ当たりで発動できるかどうか』なんて言われてる代物ですからね… 」
ジョセフィーヌはリンカにスキル『ジャスト・パリィ』の難しさを説いた。
 
「 そっか~…アクションゲーム自体これが初めてなんで『受付時間0.1秒』ってのがピンときてなかったけど、言われてみりゃメッチャ難しそうだな…。 クソ~宝の持ち腐れかよ~… 」
リンカのハイテンションは束の間だった…
 
その後、全てのドロップアイテム計20個を回収したところ、『素材』13個と『魔石』8個を入手したのだが…
なんと、『魔石』8個の内の5個が『ジャスト・パリィの魔石』だった。 ( ちなみに、あとの3個の『魔石』の内、2個は『パリィの魔石』で、もう1個は『攻撃の魔石』だった。 )
当然ながら、ジョセフィーヌはメチャクチャ驚いており、バグでも発生したのではないかと(ゲームの)『運営』に連絡を取ったりしたのだった…。 ( 結局、バグなどはなく、全くの偶然…リンカのビギナーズラックだったらしいが…。 )

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