4 / 13
スライムと泣き虫
しおりを挟む
質屋からオセロットへの帰路の途中で、スライムを見つけた。
思わず、「うおっ」と大声をあげてしまった。それほどの衝撃だ。
街の路地裏で子供達に棒で突つかれている姿は、まさしく粘液生物といった様子だ。
「この世界では、スライムなんているのかい?」
「名前まで知ってるのに、なに言ってるんですか、先生。珍しくもないでしょう。」
あ、こっちでもスライムって言うんだ。と言うか、私は本当に何語を喋っているんだ?私をなにがこの世界に引き込み、どうしてこの世界の言葉を喋れているんだ?
「神」がいるのだろうか?本当に。
いや、ともかくスライムだ。子供達に棒で突つかれている。スライムは目に見えて、弱っている。
だが、この世界でどのような存在なのだろう?害獣のような存在ならば、子供達の行為に口出しするつもりはない。
「スライムですか、街の下水道に住んでいて、水だけ飲むみたいですよ。なにも食わないで生きて行けるのは不思議だけど、まぁ、誰も気に止めませんね。」
もしかすると、この世界のスライムは光合成を行う植物に近い、存在なのかもしれない。
人畜無害といったスライムに、私は興味を持った。そもそも、私はマリモなどに癒されるタイプなのだ。
しかし、浦島太郎のように優しく諭すつもりはない。日も暮れてきたし、手早く済ませてしまおう。
「おいおい、先生どうするつもりだい?」
「すぐ、終わるよ。」
私は路地裏に足を向ける。少年は3人、年は12、3だろうか体格も大分しっかりしてくる年頃だ。加えて、棒まで持っている。
だが、そんなことは関係ない。
「おい、君達!!」
私が少年達に声をかけると、睨むような視線が帰ってきた。私達の存在に少し前から気付いており、警戒していたのだろう。だが、問題ない。
「金をやるから、そのスライムを私に譲ってくれ」
・・・別に戦わなくても、目的は達成出来るのである。
1オジ銅貨を一人づつに渡す。ありがとう、などと素直に少年達が言うので、頭を撫でてやった。もう、悪戯なんてするなよ、みたいな感じで。
スライムを近くで改めて見る。青色の半透明、触るとプニプニと弾力がある。間違いなく、スライムだ。
近寄って来た私から、弱りながらもズルズルよ逃げようとするスライムに向かって、分かる訳ないのに形式上「大丈夫、うちに来るかい?」的な事を話し掛ける。
すると、スライムは立ち止まり、私の手に擦りよって来てくれた。
こいつぅ、ヌルヌルだな。一通りスキンシップを楽しむと、スイちゃんを胸に抱き、アーネストの元に戻る。
「へぇー、凄いなぁ。男らしいや、先生は。おまけにスライムにも好かれるんだぁー、ホントスゲ~ヤ」
僅か数分の間に、随分株が下がったようだ。別にいいじゃん。平和的な解決方法じゃないか。
「でも、イレーヌの姐さんはなんて言うかな、嫌がると思うなー」
まぁ、そうけど、名前もつけちゃったし、なんとかするよ、。
「元の場所に捨てらっしゃい。」
お、イレーヌ姐さん、開口一番にそれですか。猫みたいな感じなのかな?
ちゃんと、面倒見るから!!と駄々をこねたら、イレーヌはしぶしぶながら、認めてくれた。
他の3人には金を用意出来た事を褒めらて、スイちゃんを連れ来た事を、思いっきり罵倒された。
どうやらスライムは猫というより、カエルや鼠に近い認識らしい。リリーにいたって診察室よりだしたら殺すとまで言っている。(スイちゃんではなく、私の事を殺すらしい。)
夜になり、彼女達は仕事を始める。
私はベットにしている診察台に横たわり、今日あった事、この世界に来てからの1週間を思い返す。
スイちゃんは水のでない洗面台で休んでいる。スライムって寝るのかな?
不意に、自分が泣いている事に気付く。
私は帰れない。親にも会えない。友人にも、恋人は・・・ 元々いないが、ともかく、私は帰れない。
日本で築いてきた、私の生活には二度と戻れない。
泣き叫び、恨みをぶちまけたい。しかし、私はそれすら出来ない。
二階で「仕事」をしている彼女、彼女達の事を考える。
彼女達は私をこの世界に呼んだ仇だろうか、それともこの世界で私を受け入れてくれた恩人だろうか?
そうではない、彼女達は私の患者だ。幸せの定義は分からないが、彼女達の健康を守るために私は在るのだと誓う。
その日、窮屈な診察台の上で、私はいつまでも泣いていた。
・・・涙くらいで決意が流れることはないけれど、いちまでも泣いていた。
思わず、「うおっ」と大声をあげてしまった。それほどの衝撃だ。
街の路地裏で子供達に棒で突つかれている姿は、まさしく粘液生物といった様子だ。
「この世界では、スライムなんているのかい?」
「名前まで知ってるのに、なに言ってるんですか、先生。珍しくもないでしょう。」
あ、こっちでもスライムって言うんだ。と言うか、私は本当に何語を喋っているんだ?私をなにがこの世界に引き込み、どうしてこの世界の言葉を喋れているんだ?
「神」がいるのだろうか?本当に。
いや、ともかくスライムだ。子供達に棒で突つかれている。スライムは目に見えて、弱っている。
だが、この世界でどのような存在なのだろう?害獣のような存在ならば、子供達の行為に口出しするつもりはない。
「スライムですか、街の下水道に住んでいて、水だけ飲むみたいですよ。なにも食わないで生きて行けるのは不思議だけど、まぁ、誰も気に止めませんね。」
もしかすると、この世界のスライムは光合成を行う植物に近い、存在なのかもしれない。
人畜無害といったスライムに、私は興味を持った。そもそも、私はマリモなどに癒されるタイプなのだ。
しかし、浦島太郎のように優しく諭すつもりはない。日も暮れてきたし、手早く済ませてしまおう。
「おいおい、先生どうするつもりだい?」
「すぐ、終わるよ。」
私は路地裏に足を向ける。少年は3人、年は12、3だろうか体格も大分しっかりしてくる年頃だ。加えて、棒まで持っている。
だが、そんなことは関係ない。
「おい、君達!!」
私が少年達に声をかけると、睨むような視線が帰ってきた。私達の存在に少し前から気付いており、警戒していたのだろう。だが、問題ない。
「金をやるから、そのスライムを私に譲ってくれ」
・・・別に戦わなくても、目的は達成出来るのである。
1オジ銅貨を一人づつに渡す。ありがとう、などと素直に少年達が言うので、頭を撫でてやった。もう、悪戯なんてするなよ、みたいな感じで。
スライムを近くで改めて見る。青色の半透明、触るとプニプニと弾力がある。間違いなく、スライムだ。
近寄って来た私から、弱りながらもズルズルよ逃げようとするスライムに向かって、分かる訳ないのに形式上「大丈夫、うちに来るかい?」的な事を話し掛ける。
すると、スライムは立ち止まり、私の手に擦りよって来てくれた。
こいつぅ、ヌルヌルだな。一通りスキンシップを楽しむと、スイちゃんを胸に抱き、アーネストの元に戻る。
「へぇー、凄いなぁ。男らしいや、先生は。おまけにスライムにも好かれるんだぁー、ホントスゲ~ヤ」
僅か数分の間に、随分株が下がったようだ。別にいいじゃん。平和的な解決方法じゃないか。
「でも、イレーヌの姐さんはなんて言うかな、嫌がると思うなー」
まぁ、そうけど、名前もつけちゃったし、なんとかするよ、。
「元の場所に捨てらっしゃい。」
お、イレーヌ姐さん、開口一番にそれですか。猫みたいな感じなのかな?
ちゃんと、面倒見るから!!と駄々をこねたら、イレーヌはしぶしぶながら、認めてくれた。
他の3人には金を用意出来た事を褒めらて、スイちゃんを連れ来た事を、思いっきり罵倒された。
どうやらスライムは猫というより、カエルや鼠に近い認識らしい。リリーにいたって診察室よりだしたら殺すとまで言っている。(スイちゃんではなく、私の事を殺すらしい。)
夜になり、彼女達は仕事を始める。
私はベットにしている診察台に横たわり、今日あった事、この世界に来てからの1週間を思い返す。
スイちゃんは水のでない洗面台で休んでいる。スライムって寝るのかな?
不意に、自分が泣いている事に気付く。
私は帰れない。親にも会えない。友人にも、恋人は・・・ 元々いないが、ともかく、私は帰れない。
日本で築いてきた、私の生活には二度と戻れない。
泣き叫び、恨みをぶちまけたい。しかし、私はそれすら出来ない。
二階で「仕事」をしている彼女、彼女達の事を考える。
彼女達は私をこの世界に呼んだ仇だろうか、それともこの世界で私を受け入れてくれた恩人だろうか?
そうではない、彼女達は私の患者だ。幸せの定義は分からないが、彼女達の健康を守るために私は在るのだと誓う。
その日、窮屈な診察台の上で、私はいつまでも泣いていた。
・・・涙くらいで決意が流れることはないけれど、いちまでも泣いていた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる