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誘惑の砂浜
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海辺に出た僕は、その美しさに感動さえ覚えた。
誰の手も加えられていない真っ白な砂浜。
穏やかな海に降り注ぐ太陽の光は、世界中の宝石をばら撒いた様に輝いている。
「海は綺麗やし他に人は誰も居らん! ホンマ最っ高やな! 裸で泳いでもええくらいや! ほなお先っ!」
茜が我先にと、海に走り出した。
流石に裸で泳ぐのはどうかと思うが、茜の言うとおり、絶好のロケーション。
肌を刺すような日差しも、僕達のテンションを燃え上げる。
ふと横を見ると、小さな足で一生懸命にエアーポンプを踏む中谷さんがいた。
どうやら浮き輪を膨らませているらしい。
「手伝うよ」
「ホントですかっ? じゃあお言葉に甘えてっ――」
そう言うと、彼女は浮き輪ではなく、別なモノを僕に渡した。
「こっちをお願いしますっ」
渡されたソレは、折りたたまれていてもそのサイズが読み取れる、多分大人三人は余裕で寝転べるであろうエアーマット。
「りょ、了解しました……」
「ふんふ~ん♪ 楽しいですねっ」
小さい身体で、鼻歌交じりに足踏みをするその仕草はとても可愛い。
「あ、う、うん。そうだね」
屈託の無い笑顔は、一向に膨らむ気配の無いマットを踏む足にも力が入る。
「何だか、鬼の存在なんかすっかり忘れちゃう気がしますっ」
「確かに。僕も完全に忘れていたよ」
顔を見合わせ、僕らは笑いあった。
ここに在るのは綺麗な景色と、それに負けず劣らず、目移りするほどの水着姿だけ。
「中谷さんは――自分が十二支枝だって事を嫌だと思ったりしない?」
特に理由はないが、これといった話題が無かったからかもしれない。何となく聞いてみた。
「鬼は怖いですけど、嫌だって思った事はありませんねっ」
彼女は迷いの無い笑顔で言う。
「皆と仲良くなれたのもそのお陰だと思いますしっ、それに――」
「かっ、神崎君の役に立てるなら……幸せなんです」
呟く様に言った彼女に、一瞬時間が止まった錯覚を起こすほど。僕の何かを刺激した。
「わっ、私終わりましたからお先ですっ!」
俯きながら走り出したかと思うと、途中で振り返り。
「ビーチボールもお願いしますっ!」
そう言ってまた走り出し。
「きゃっ!?」
波に足をとられて転んでいた。
「やっと終わった……」
エアーマットとビーチボール。終わってみれば全身から汗が噴き出していた。
何と言う重労働。
水分を求める身体の赴くまま、海に向かう途中、パラソルで日光を遮断したベンチで佇む龍ヶ崎さんに目が留まった。
「龍ヶ崎さんは泳がないんですか?」
「余り日に焼けたくはありませんの。でも――そうですわね、日焼けオイルを塗ってもらえたら少しくらいは――」
足元に置かれたオイルに視線を移す。
「えっ? ぼ、僕がですか……?」
「お嫌ですか……?」
龍ヶ崎さんの青い瞳が、物悲しそうなに僕の罪悪感をくすぐった。
ここで断っては男が廃る。
だが、既に二割り増しで膨らんだ僕の股間、彼女の肌に触れながら維持できるか!?
これ以上の膨張は余りにも不自然。
「じゃ、じゃあ――」
「私が……塗りましょうか……?」
その声は蘭さん! これなら自然にパス出来る! 良かった助かっ――。
振り向いた瞬間、僕の良心とは裏腹に、本能は彼女の全身像を捉えていた。
「じゃ、じゃあお願いします!」
「あっ、修司さん!」
一目散にその場から走り出す。
何だよアレ! 何なんだよアレ! マイクロビキニってレベルじゃないぞ!
あれで良く隠せてるな! ってか良く着てられるな!
化学反応に熱膨張した自分を冷ますように、思い切り海に飛び込んだ。
皆が思い思いに泳ぎ、はしゃぎまわる。誰もが楽しそうに、太陽に負けない笑顔を輝かせて。
ポロリを期待させたビーチバレー対決も、虎口先輩が開幕サーブでボールを破裂させるという残念な結果に終わった。
皆に責められてしょげている先輩の姿を見れたからそれはそれで良かったのかもしれない。
「むう……。では、あの小島まで勝負だ!」
どうしても何かで決着をつけたいのか、先輩のそんな一言でレースは始まった。
海の向こうにぽつんと浮かぶ小さな島。
こうして見るとそこまで遠くはなさそうだが、泳いでいくには中々の距離。
アスリート並の体力が必要なのは一目瞭然だった。
運動が苦手という蘭さんを残し、五人が一列に並んだ。
僕は辿り着ける気もしなかったのでスターターの役目を買う事に。
大きな浮き輪を着けた、勝機のかけらもない中谷さんが、嬉々として構えをとる姿はとても心が和む。
その反面、勝ち目がないからとスタートラインにさえ立たない僕が、何だか情けなくも思えた。
「ヨーイドン!」
一斉にスタートを切る彼女達。頭一つ抜け出たのはもちろん――中谷さん……!?
浮き輪という大きなハンデを抱えているのをものともせず、物凄い勢いで進んでいく。その衝撃は、一番後ろで犬掻きをしていた狗飼さんが、そっとUターンをかます程。
「……なんなのあれ?」
「いや……なんだろうね……」
必死に泳ぐ三人をものともせず、浮き輪が水しぶきを上げて走っていくのを、僕達はただただ見つめていた。
誰の手も加えられていない真っ白な砂浜。
穏やかな海に降り注ぐ太陽の光は、世界中の宝石をばら撒いた様に輝いている。
「海は綺麗やし他に人は誰も居らん! ホンマ最っ高やな! 裸で泳いでもええくらいや! ほなお先っ!」
茜が我先にと、海に走り出した。
流石に裸で泳ぐのはどうかと思うが、茜の言うとおり、絶好のロケーション。
肌を刺すような日差しも、僕達のテンションを燃え上げる。
ふと横を見ると、小さな足で一生懸命にエアーポンプを踏む中谷さんがいた。
どうやら浮き輪を膨らませているらしい。
「手伝うよ」
「ホントですかっ? じゃあお言葉に甘えてっ――」
そう言うと、彼女は浮き輪ではなく、別なモノを僕に渡した。
「こっちをお願いしますっ」
渡されたソレは、折りたたまれていてもそのサイズが読み取れる、多分大人三人は余裕で寝転べるであろうエアーマット。
「りょ、了解しました……」
「ふんふ~ん♪ 楽しいですねっ」
小さい身体で、鼻歌交じりに足踏みをするその仕草はとても可愛い。
「あ、う、うん。そうだね」
屈託の無い笑顔は、一向に膨らむ気配の無いマットを踏む足にも力が入る。
「何だか、鬼の存在なんかすっかり忘れちゃう気がしますっ」
「確かに。僕も完全に忘れていたよ」
顔を見合わせ、僕らは笑いあった。
ここに在るのは綺麗な景色と、それに負けず劣らず、目移りするほどの水着姿だけ。
「中谷さんは――自分が十二支枝だって事を嫌だと思ったりしない?」
特に理由はないが、これといった話題が無かったからかもしれない。何となく聞いてみた。
「鬼は怖いですけど、嫌だって思った事はありませんねっ」
彼女は迷いの無い笑顔で言う。
「皆と仲良くなれたのもそのお陰だと思いますしっ、それに――」
「かっ、神崎君の役に立てるなら……幸せなんです」
呟く様に言った彼女に、一瞬時間が止まった錯覚を起こすほど。僕の何かを刺激した。
「わっ、私終わりましたからお先ですっ!」
俯きながら走り出したかと思うと、途中で振り返り。
「ビーチボールもお願いしますっ!」
そう言ってまた走り出し。
「きゃっ!?」
波に足をとられて転んでいた。
「やっと終わった……」
エアーマットとビーチボール。終わってみれば全身から汗が噴き出していた。
何と言う重労働。
水分を求める身体の赴くまま、海に向かう途中、パラソルで日光を遮断したベンチで佇む龍ヶ崎さんに目が留まった。
「龍ヶ崎さんは泳がないんですか?」
「余り日に焼けたくはありませんの。でも――そうですわね、日焼けオイルを塗ってもらえたら少しくらいは――」
足元に置かれたオイルに視線を移す。
「えっ? ぼ、僕がですか……?」
「お嫌ですか……?」
龍ヶ崎さんの青い瞳が、物悲しそうなに僕の罪悪感をくすぐった。
ここで断っては男が廃る。
だが、既に二割り増しで膨らんだ僕の股間、彼女の肌に触れながら維持できるか!?
これ以上の膨張は余りにも不自然。
「じゃ、じゃあ――」
「私が……塗りましょうか……?」
その声は蘭さん! これなら自然にパス出来る! 良かった助かっ――。
振り向いた瞬間、僕の良心とは裏腹に、本能は彼女の全身像を捉えていた。
「じゃ、じゃあお願いします!」
「あっ、修司さん!」
一目散にその場から走り出す。
何だよアレ! 何なんだよアレ! マイクロビキニってレベルじゃないぞ!
あれで良く隠せてるな! ってか良く着てられるな!
化学反応に熱膨張した自分を冷ますように、思い切り海に飛び込んだ。
皆が思い思いに泳ぎ、はしゃぎまわる。誰もが楽しそうに、太陽に負けない笑顔を輝かせて。
ポロリを期待させたビーチバレー対決も、虎口先輩が開幕サーブでボールを破裂させるという残念な結果に終わった。
皆に責められてしょげている先輩の姿を見れたからそれはそれで良かったのかもしれない。
「むう……。では、あの小島まで勝負だ!」
どうしても何かで決着をつけたいのか、先輩のそんな一言でレースは始まった。
海の向こうにぽつんと浮かぶ小さな島。
こうして見るとそこまで遠くはなさそうだが、泳いでいくには中々の距離。
アスリート並の体力が必要なのは一目瞭然だった。
運動が苦手という蘭さんを残し、五人が一列に並んだ。
僕は辿り着ける気もしなかったのでスターターの役目を買う事に。
大きな浮き輪を着けた、勝機のかけらもない中谷さんが、嬉々として構えをとる姿はとても心が和む。
その反面、勝ち目がないからとスタートラインにさえ立たない僕が、何だか情けなくも思えた。
「ヨーイドン!」
一斉にスタートを切る彼女達。頭一つ抜け出たのはもちろん――中谷さん……!?
浮き輪という大きなハンデを抱えているのをものともせず、物凄い勢いで進んでいく。その衝撃は、一番後ろで犬掻きをしていた狗飼さんが、そっとUターンをかます程。
「……なんなのあれ?」
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