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ないないづくし
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雅が持つ松明だけが照らす、ひんやりとした横穴を進む。
入る前とは違い、俺のテンションは上がっていた。
『魔王を倒す旅に出る』そんなシチュエーションで、心が躍らない男はいない。
「何か夜見くん、楽しそうだね」
「ああ。丁度今日はむしゃくしゃしてたからな。モンスター退治で憂さ晴らしさせてもらうぜ」
「そうなんだ。何があったの?」
「え? えっと――」
『お前のせいで上級生に絡まれました』何て言えるわけないだろ。
「秘密だ」
「えー。気になるよ。さぁ、教えるんだー」
火のついた松明をじりじりと俺に近づける。
「熱っ!? ちょ、やめ――っ!」
そんな雅の悪ふざけの最中、揺らめいた炎が照らした洞窟の先に、何かの気配を感じ足が止まる。 同じく雅もソレに気づき、一瞬緊張が走った。
だが、現れたのはいかにもひ弱そうな軟体生物――スライムだった。
まぁ、最初はこんなモンだろう。
初エンカウントのモンスターとしては王道だ。
「じゃあ、俺が倒させてもらうぜ」
まずは腕試し。当然剣なんて握った事もないが、何とかなるだろう。
そう思って、腰に刺さった柄を引き抜いた――が。
「は?」
スッと抜けたその剣。いや、コレを剣と呼べるのか?
『刀身』の無いコレは、一体何と呼べばいいんだ?
すぐさま隣の雅を見やる。非難の眼差しで。
「おい。一体コレは何の冗談だ?」
「えーっと……。な、何でだろうね?」
雅が苦笑いを浮かべる。どうやら、本人にも理由は分からないらしい。
そんなコントじみたやり取りも、目の前のモンスターには関係ない。
眼前に現れた侵入者を威嚇するように、ぷるぷると身体を震わせている。
「じゃあ、ここは私が倒しちゃおっかな」
と雅が片手を前に突き出した。こう見ると、中々魔法使いとして様になっているから面白い。
「ふぁいやー!」と言う貧弱な語彙は置いといて、だ。
「ってあれ?」
ファイヤーどころか、ライター程の小さな火が一瞬灯ってすぐ消えた。
そして、突然頭の中に機械的な声が響く。
――MPが足りません。
「 」
「 」
「も、もしかして松明に火を点けてたから切れちゃったのかな?」
「垂れ流しかよ!? ってか増えてる!?」
前方を見ると、いつのまにか大量のスライムが集まっていた。
もうこれはアレだ。合体しちゃったりしそうな雰囲気まで。
「とりあえず逃げるぞ!」
剣も魔法も使えない。ならば逃げるが勝ち。そう思った俺は、とっさに雅の手を掴んだ。
後ろを気にしている暇など無い。一心不乱に走り、来た道を戻る。
放り出されるように、洞窟から飛び出した。
入る前とは違い、俺のテンションは上がっていた。
『魔王を倒す旅に出る』そんなシチュエーションで、心が躍らない男はいない。
「何か夜見くん、楽しそうだね」
「ああ。丁度今日はむしゃくしゃしてたからな。モンスター退治で憂さ晴らしさせてもらうぜ」
「そうなんだ。何があったの?」
「え? えっと――」
『お前のせいで上級生に絡まれました』何て言えるわけないだろ。
「秘密だ」
「えー。気になるよ。さぁ、教えるんだー」
火のついた松明をじりじりと俺に近づける。
「熱っ!? ちょ、やめ――っ!」
そんな雅の悪ふざけの最中、揺らめいた炎が照らした洞窟の先に、何かの気配を感じ足が止まる。 同じく雅もソレに気づき、一瞬緊張が走った。
だが、現れたのはいかにもひ弱そうな軟体生物――スライムだった。
まぁ、最初はこんなモンだろう。
初エンカウントのモンスターとしては王道だ。
「じゃあ、俺が倒させてもらうぜ」
まずは腕試し。当然剣なんて握った事もないが、何とかなるだろう。
そう思って、腰に刺さった柄を引き抜いた――が。
「は?」
スッと抜けたその剣。いや、コレを剣と呼べるのか?
『刀身』の無いコレは、一体何と呼べばいいんだ?
すぐさま隣の雅を見やる。非難の眼差しで。
「おい。一体コレは何の冗談だ?」
「えーっと……。な、何でだろうね?」
雅が苦笑いを浮かべる。どうやら、本人にも理由は分からないらしい。
そんなコントじみたやり取りも、目の前のモンスターには関係ない。
眼前に現れた侵入者を威嚇するように、ぷるぷると身体を震わせている。
「じゃあ、ここは私が倒しちゃおっかな」
と雅が片手を前に突き出した。こう見ると、中々魔法使いとして様になっているから面白い。
「ふぁいやー!」と言う貧弱な語彙は置いといて、だ。
「ってあれ?」
ファイヤーどころか、ライター程の小さな火が一瞬灯ってすぐ消えた。
そして、突然頭の中に機械的な声が響く。
――MPが足りません。
「 」
「 」
「も、もしかして松明に火を点けてたから切れちゃったのかな?」
「垂れ流しかよ!? ってか増えてる!?」
前方を見ると、いつのまにか大量のスライムが集まっていた。
もうこれはアレだ。合体しちゃったりしそうな雰囲気まで。
「とりあえず逃げるぞ!」
剣も魔法も使えない。ならば逃げるが勝ち。そう思った俺は、とっさに雅の手を掴んだ。
後ろを気にしている暇など無い。一心不乱に走り、来た道を戻る。
放り出されるように、洞窟から飛び出した。
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