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おさわりは脅迫と共に
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『明晰夢』
夢を夢だと認識して、自分の思うままに行動できる。それはまさに夢の世界。
どんな願いも叶うその世界に、俺はアクセスする方法を知った。
現実では決して関わり合いにならないであろう女の子に、現実では出来ない悪戯をした。
その女の子が――家に来た。
いつもと変わらない通学路の景色が、まるで違って見えるのは、隣に雅蝶良がいるからだろう。
だからと言って、輝いて見えるわけではない。
出口の見えない迷路を彷徨っているかのような不安が纏わりつく。
何で雅が家に来た? 何で家を知ってる?
そんな疑問を訊ねる余裕もない。
「えっと、夜見くん――」
「ひゃいっ!」
突然名前を呼ばれ、声が裏返った。
決して女子に免疫がないわけじゃない。
この緊張は、もっと別なモノ。
「あ、あのさ。その、ちゃんとお話するの、初めてだよね?」
「あ、ああ」
今回たまたま同じクラスになったが、それまで接点などなかったから当然だ。
それも、俺に限った話ではないだろう。
雅が男子と話している姿を殆ど見かけた事はない。
だからと言って、突然フラグが立ったんだと勘違いするほど妄想脳ではない。
フラグが立っていたとしても――。
「夜見くんって『夢』とか見る?」
「見ません! 全然見ません! むしろ寝ません!」
危ないワードを叩き潰すように全否定した。これはヤバイ。非常にヤバイ。
いや、ちょっと待て、あれは夢なはずだ。間違いなく俺の夢だ。
雅蝶良に対して色々と破廉恥な行為に及んだが、あれは俺の夢の中で、夢の中の雅蝶良だ。
「そ、そうなんだ。へ、変な事聞いてゴメンね」
「あ、ああ」
ホッと胸を撫で下ろす。考えすぎだ。
夢に出てきた、現実で交流のない女子が突然家に来ただけだ。在り得ない話ではない。
奇跡は存在する。だったら、俺に奇跡が起こっても不思議じゃないだろう?
そうだ、これは奇跡。降って沸いた幸運。
夢学《ゆめがく》のヒロインが同じクラスの男子に恋をした。
抑えきれない恋心が、彼女の足を運ばせた。俺と一緒に登校するために。
なんだそれ最高じゃないか。朝の日差しに、世界が輝いて見えるぞ。
「さっき思いっきり殴られてたけど、頭大丈夫だった?」
「ああ。一瞬死んだかと思ったけどな。いや、夢で良かった――よ……」
頭は……大丈夫? どうしてその事を知っている……?
「やっぱり……。アレ夜見くんだったんだね……」
足を止めた雅の顔からは微笑みが消えていた。
恥辱をたたえた、非難するような眼差しを俺に向ける。
「私の夢に――居たよね?」
今が夢の続きにしては、リアル過ぎた。
「な、何言ってんだ? お前の夢? い、意味わかんねーよ」
「嘘。絶対知ってるよ! 顔に書いてあるもん!」
「書いてるわけねーだろ! ってか、言ってることめちゃくちゃだって自分で分かってるだろ? 夢の話ってなんなんだよ」
「そっ、それは……」
雅が困惑した表情で言葉に詰る。
そうだ。冷静に常識的に考えろ。夢の話なんて馬鹿げてる。
どうしてこいつが覚えてるのか知らないが、それは後から考えればいい。
今は一秒でも早く、この話題から離れるのが先決。
とぼけて、シラを切って、有耶無耶にしてしまえば俺の勝ちだ!
「アンタはもうちょっとマトモな人だと思ってたんだけどな。じゃあ、俺は先に行くぜ」
このまま逃げ切る! 逃げ切れ――。
「ま、待ってください!」
――ない。
雅はその小さな手で、しっかりと俺の手首を握った。
か細い指と、僅かに湿り気を帯びた掌。
女子と触れたのは――いつ以来だ?
だが、そんな突然のボディタッチに戸惑っている暇はなかった。
雅が俺の手を掴んだまま、ゆっくりと自分に引き寄せる。その行動の真意がつかめない俺に、抵抗する隙も与えず。
自分の胸に、ソレを押し付けた。
「こ、こうやって、触り……ましたよね」
俺の手は、他人の胸に触れていた。
夢の中とは違い、制服の上から。その柔らかさを殺している下着の触感に違和感を覚えながらも、比例して現実味が増していく。
俺の手は、女子の胸に触れている。
これは紛れもない――現実だ。
「認めないと……。この事、皆に言います……」
半分涙目で、脅迫とも思える台詞を吐き出した雅蝶良に、俺は屈服せざるをえなかった。
夢を夢だと認識して、自分の思うままに行動できる。それはまさに夢の世界。
どんな願いも叶うその世界に、俺はアクセスする方法を知った。
現実では決して関わり合いにならないであろう女の子に、現実では出来ない悪戯をした。
その女の子が――家に来た。
いつもと変わらない通学路の景色が、まるで違って見えるのは、隣に雅蝶良がいるからだろう。
だからと言って、輝いて見えるわけではない。
出口の見えない迷路を彷徨っているかのような不安が纏わりつく。
何で雅が家に来た? 何で家を知ってる?
そんな疑問を訊ねる余裕もない。
「えっと、夜見くん――」
「ひゃいっ!」
突然名前を呼ばれ、声が裏返った。
決して女子に免疫がないわけじゃない。
この緊張は、もっと別なモノ。
「あ、あのさ。その、ちゃんとお話するの、初めてだよね?」
「あ、ああ」
今回たまたま同じクラスになったが、それまで接点などなかったから当然だ。
それも、俺に限った話ではないだろう。
雅が男子と話している姿を殆ど見かけた事はない。
だからと言って、突然フラグが立ったんだと勘違いするほど妄想脳ではない。
フラグが立っていたとしても――。
「夜見くんって『夢』とか見る?」
「見ません! 全然見ません! むしろ寝ません!」
危ないワードを叩き潰すように全否定した。これはヤバイ。非常にヤバイ。
いや、ちょっと待て、あれは夢なはずだ。間違いなく俺の夢だ。
雅蝶良に対して色々と破廉恥な行為に及んだが、あれは俺の夢の中で、夢の中の雅蝶良だ。
「そ、そうなんだ。へ、変な事聞いてゴメンね」
「あ、ああ」
ホッと胸を撫で下ろす。考えすぎだ。
夢に出てきた、現実で交流のない女子が突然家に来ただけだ。在り得ない話ではない。
奇跡は存在する。だったら、俺に奇跡が起こっても不思議じゃないだろう?
そうだ、これは奇跡。降って沸いた幸運。
夢学《ゆめがく》のヒロインが同じクラスの男子に恋をした。
抑えきれない恋心が、彼女の足を運ばせた。俺と一緒に登校するために。
なんだそれ最高じゃないか。朝の日差しに、世界が輝いて見えるぞ。
「さっき思いっきり殴られてたけど、頭大丈夫だった?」
「ああ。一瞬死んだかと思ったけどな。いや、夢で良かった――よ……」
頭は……大丈夫? どうしてその事を知っている……?
「やっぱり……。アレ夜見くんだったんだね……」
足を止めた雅の顔からは微笑みが消えていた。
恥辱をたたえた、非難するような眼差しを俺に向ける。
「私の夢に――居たよね?」
今が夢の続きにしては、リアル過ぎた。
「な、何言ってんだ? お前の夢? い、意味わかんねーよ」
「嘘。絶対知ってるよ! 顔に書いてあるもん!」
「書いてるわけねーだろ! ってか、言ってることめちゃくちゃだって自分で分かってるだろ? 夢の話ってなんなんだよ」
「そっ、それは……」
雅が困惑した表情で言葉に詰る。
そうだ。冷静に常識的に考えろ。夢の話なんて馬鹿げてる。
どうしてこいつが覚えてるのか知らないが、それは後から考えればいい。
今は一秒でも早く、この話題から離れるのが先決。
とぼけて、シラを切って、有耶無耶にしてしまえば俺の勝ちだ!
「アンタはもうちょっとマトモな人だと思ってたんだけどな。じゃあ、俺は先に行くぜ」
このまま逃げ切る! 逃げ切れ――。
「ま、待ってください!」
――ない。
雅はその小さな手で、しっかりと俺の手首を握った。
か細い指と、僅かに湿り気を帯びた掌。
女子と触れたのは――いつ以来だ?
だが、そんな突然のボディタッチに戸惑っている暇はなかった。
雅が俺の手を掴んだまま、ゆっくりと自分に引き寄せる。その行動の真意がつかめない俺に、抵抗する隙も与えず。
自分の胸に、ソレを押し付けた。
「こ、こうやって、触り……ましたよね」
俺の手は、他人の胸に触れていた。
夢の中とは違い、制服の上から。その柔らかさを殺している下着の触感に違和感を覚えながらも、比例して現実味が増していく。
俺の手は、女子の胸に触れている。
これは紛れもない――現実だ。
「認めないと……。この事、皆に言います……」
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