性剣セクシーソード

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盗賊退治

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――リンニル街道――

 極たまに現れる魔物を倒しつつ、僕達はひたすら歩いた。
 僕も随分戦闘には慣れてきた気がする。
 敵を倒す数は、相変わらずニーヤの方が多いけど。
 短剣を両手に突っ込んで行く彼女の姿はカッコよかった。
 ここまで強くなるにはすごい努力をしたはずだ。
 彼女達は一体どんな子供時代を過ごしたんだろう。
 最近はそんな事が気になっていた。

「ねぇ、異世界ってどういう所なの?」
「どういう所って言えば?」
「魔物いないし、魔法もないんでしょ? すごい平和じゃない。そんな世界でどうやって暮らしてるのかなって」
「どうやってって言われてもな。普通に暮らしてるよ。大人は仕事をして、子供は学校に行ってって感じ」
「学校? 学校なんて行くの?」
 ニーヤが不思議そうな顔をする。この世界では学校に行かないのか?
「え? ニーヤ達だって勉強してたでしょ?」
 僕の言葉に、モミさんが口を開く。
「村では、大ばあさまの所で勉強したでしょう?」
「ああ、アタシは嫌だったなー。退屈だし、苦手でさ」
「ニーヤはいつもさぼっていましたものね」 
 ニーヤらしいな。あんまり机に向かってる姿が想像出来ない。

「じゃあそれ以外は何をしていたの? 毎日勉強していたわけじゃないでしょ?」
「まぁ、そうだけど。休みの日はネットしたり、ゲームしたり、テレビ見たりかなぁ」
「全く意味が分からないわよ。もっと分かりやすく言ってくれない?」
 困ったな。分かりやすくって言われても、どう説明すればいいのか。
「うーん。説明のしようが無いんだよな。僕の世界には電気っていう物があるんだよ。それは魔法みたいなもので、その電気を使って色んな道具を動かすんだ。その道具を使って僕達は生活しているんだよ」
「その道具というのは、例えばどんな事に使うんですか?」
「例えばかぁ。そうですね、蝋燭やランプを使わなくても明かりをつけたりできますよ」
「へぇ、それは魔法みたいね。他にどんな事が出来るの?」
「どんな事でも出来る。って言っちゃった方が早いくらい。それくらい何でも出来るんだよ。電気がなきゃ、多分僕達の世界の人々は殆ど生きていけないだろうね」
「そんなにすごいんだ、そのデンキってやつ。アンタがそれをワーワルツで使う事は出来ないの?」
「残念だけど。僕は電気がどういう物か知らないんだよ。生まれた時から当たり前にあって、当たり前に使っていたけど。それがどんな仕組みで動いてるのか全く分からないんだ」
「何だ、アンタ全然役に立たないね」
 つまらなそうに言ったニーヤの言葉に、怒りは覚えない。

 そう、僕は何にも出来ない。
 この世界に来て、それは凄く実感していた。
 ワーワルツじゃ一人で生きていく事すら出来ない。
 食べ物を採る方法だって知らない。
 採ったからと言ってさばく事も、調理する事も。火だっておこせない。
 ワーワルツだけじゃないな。元々居た世界だって、僕は何も出来なかった。
 何も出来ないから、僕は死を選んだ。

 僕は何が出来るんだろう。何にも出来ないこの僕に出来る事。
 それは何処にあるんだろう。何処に行けば見つかるんだろう。
――いつか見つかるんだろうか。
 彼女に会えば、分かるだろうか。
 少しだけ、不安だった。


 しばらく進むと、一台の荷馬車が止まっていた。
 それを取り囲む数人の男。何となく様子がおかしい。
「あれは……盗賊ね」
「盗賊? 襲われているの?」
「そうでしょうね。大陸では結構多いと聞きますし」
「しょうがない。ほら行くよ!」
 ニーヤが走り出す。僕達も後を追った。

 馬車に近づくと、剣を持った五人の男が馬車を取り囲んでいた。
「アンタ達! 命が惜しけりゃ諦めて帰りな!」
 ニーヤが叫ぶ。何てカッコいいんだ。完全にヒーローだ。
「何だお嬢ちゃん、頭でもいかれちまったのかい?」
「これはいい獲物が増えたぜ。女三人もいるじゃねぇか」
「大人しくしてりゃ優しくしてやるよ」
 下卑た笑みを浮かべながら、彼女達を舐め回すように見る。

「アンタ、人間だからって躊躇してたら死ぬよ。この世界は殺るか殺られるかだからね」
 僕に向かって、はっきりとニーヤはそう言った。
 その言葉に、若干の緊張が走る。
「ああ、分かった。殺す気で行くよ」
――殺す。
 自分に言い聞かせるように、そのワードを口に出す。
 殺さなきゃ、殺される。躊躇っている場合じゃない。
 気を引き締め、腰の剣を抜いた。

「お、やる気か? お嬢ちゃん、怪我した――」
 男の額に、ニーナの投げたナイフが突き刺さった。
 糸の切れた人形の様にその場に崩れる。
 死んだ。目の前にいた男が一瞬で死んだ。
 覚悟を決めていたはずだったが、それはあまりにも衝撃的だった。
 だかその反面、完全に僕の中で迷いは消えた。

「てめえええ! やっちまえ!」
 盗賊が一斉に襲い掛かる。振り下ろした僕の剣は受け止められ、腹に強烈な蹴りをくらった。
 今までの魔物とは違う、知恵のある人間の動き。
 剣を防がれた、その次の行動を僕は知らない。
 盗賊の攻撃に、僕は防戦一方だった。
 振り下ろされる剣の重さに、受け止めた手がしびれる。
 繰り出される攻撃に、僕は恐怖を感じていた。
 あの剣が顔に刺さったら、その瞬間に死んでしまう。
 死にたくない。死にたくない。

 その時だった。盗賊の剣が鎧の隙間を抜け、僕の左腕に突き刺さった。
 痺れにも似た激痛が走る。でも、そこまでじゃない!
 魔女に腕を落とされた時はもっと痛かった。
――あの時の痛みに比べればこんなもの!
 全身の力を右腕に込め、力いっぱい剣を振り下ろす。
 真っ二つに裂ける肉の感触。血しぶきをあげ、視界から男が消えた。

 前を見ると、盗賊が逃げ出していく。
 最初にニーヤが殺したやつと合わせて、三人の死体が転がっていた。
「ふぅ。大丈夫だった?」
 少しだけ顔を血で汚したニーヤが、赤い髪をなびかせて僕の方を見る。 
「ああ、何とか――」
 気を抜いた瞬間、腕に激痛が走る。
 頭がおかしくなりそうな痛みに、たまらず大声を上げる。
「いってええええええええええええええええ!」

 黄色いオーラに包まれたモミさんの両手が、僕の傷口に向けられる。
 これは回復魔法なんだろうか。魔女にかけられた時は気絶していたし、見るのは初めて。
 でも、感動している余裕はない。
「うう……。痛い……。痛い……」
「うるさいな。男なんだからちょっとは我慢しなさいよ」
 ニーヤが呆れた顔をしている。
 怒られても痛いものは痛い。
 何か言ってないと我慢できない。
 僕は足の小指を角にぶつけたら走り回る派だ。その場にうずくまる派じゃないのだ。
 黙っていると余計痛いような気がするから。

「はい、これで大丈夫です。しばらくは上手く動かせませんが」
 モミさんの言葉に、いつのまにか痛みは消えていた。
「ありがとうございます」
 左腕、肘の関節が動かない。
 前もそうだったけど、怪我を直すとしばらく動かなくなるんだろう。
 
「ありがとうございました。おかげさまで助かりました」
 馬車の持ち主らしき、中年の男性が頭を下げる。
「いえいえ、お気にならさないで下さい。困った人を助けるのは当然の事ですので」
「最近はよく出るの? アタシ達あんまり大陸の事は知らないんだよね」
「最近はそこまで頻繁には出ないんですけどね、今日は運が悪かったんでしょう。最近はもっぱら荷物より人を狙う盗賊が増えてるらしいですから」
 人間を狙う。その言葉に何となく嫌な予感がした。
「ドラーシュ、ですか?」
「ええ、最近は盗賊も手を染めているらしくて。良いのか悪いのか、私達みたいな年寄りの被害は減っていますけどね」
 ドラーシュ。
 ここワーワルツに存在する、悪しき奴隷制度。
 その言葉を聞くと、身体中から怒りが湧いてくる。
 ワーワルツがどうであろうと、人間は自由に生きるべきだ。
 奴隷制度なんて、決して許される事じゃない。
 洞窟で出合った少女達のような不幸を、僕はもう見たくはなかった。
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