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【第3章】いつも彼女のそばで
第7話
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ドン! ドン! ドン!
「おい! 柊! いるんだろ? 開けてくれ!」
玄関が乱暴に叩かれる音が、急に家中に響き渡る。
さらに聞き覚えのある怒声で目を覚ましてしまった。
……あの人が帰って来たみたいだ。
時間を確認すると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
重い足取りで玄関まで移動。
少し震える手で鍵を開ける。
ガシャッ!
ドン!
ドアチェーンを外していなかったため、ドアが開くのを阻害している。
あまりにも強い勢いでドアが引かれたため、思わず後ずさり。
「ちっ。早くチェーンを外してくれ」
言われるがまま、すぐにチェーンを外す。
再びドアがものすごい勢いで開かれたかと思うと、お酒と汗の不快な臭いとともに玄関に倒れ込む。
お父さんが帰って来た。
ボクが家に閉じこもっている間に、会社からリストラされていたらしい。
最近は、そのストレスから夜な夜な呑み歩いては、近所迷惑を無視して夜中に大声を上げながら帰って来ることが多い。
特に暴力を振るわれたことはなかったが、酒を呑んでいないときの温厚な姿とのギャップにいつも恐れていた。
お母さんは、そんなお父さんを早くから見限って離婚。
そしてボクは引きこもり。
もしかしたら、ボクたち家族は何かしらに呪われているんじゃないか?
そんな風に思えてしまうくらい枯れて果て、絶望の渦に飲み込まれてしまっている。
「う……」
お父さんがこのまま寝てしまいそうだ。
ボクは急いでコップに水を注ぎ、ひとまず飲ませようとする。
「お父さん、水————」
バン!
パリンッ!
差し出したコップはボクの掌から弾き飛ばされ、水と共に割れた破片がバラバラに飛び散る。
「え……?」
状況を飲み込むことができず、呆然としてしまう。
でも、お父さんの様子がいつもと違うことだけは分かった。
「なぁ……」
ふらふらの状態から立ち上がって、ボクを見下ろしながら声を掛けてきた。
答えようにも、思うように口が開かない。
ドン!
バサッ!
先ほどのコップと同じように、今度はボクが勢いよく押し飛ばされる。
「ゴホッ、ゴホッ……」
背中から床に着地してしまい、痛みと共に咳が込み上げてきた。
そんなことはお構いなしに、お父さんは言葉を続ける。
「なぁ……。どうして俺なんだ? 俺が悪いことしたか? なんで俺ばっかりこんな目に合わなくちゃいけないんだよ? なぁ! どうしてなんだよ!」
ボクの肩を持ったかと思うと、今度は壁に叩きつける。
「ゔっ……!」
今まではどんなに酔いつぶれても暴力は振るってこなかった。
でも今のお父さんは、まるで目の前にいるのが誰か分かっていないかのように目を血走らせ、息を荒くしている。
……怖い。
身体の震えは止まらない。
目を閉じて、少しでも今のこの現実から逃げ出したいのに、目すら閉じられない。
「やめて……」
やっとのこと声が出たけど、その声は弱弱しく、虫のようなか細い声になってしまった。
でも、お父さんにその声が届いたのか、
「ちっ」
そのままボクの前からいなくなり、自室に戻っていった。
急に何かが込み上げてくる。
————なんでボクばっかりこんな目に合うんだ?
————誰かに悪いことをしたのか?
————誰かに恨まれるようなことをしたのか?
いや。してない。
ボクは何も悪いことなんてしてない。
頬に熱いものが伝っている感覚。
あぁ……、自分の無力さに耐えきれずに、涙を流してしまったんだ。
噛みしめた唇からは血の味もする。
……どうして?
……死にたい。
……結葉……。
「柊! どうしたの? もしかして、お父さんに……?」
いつの間にか視界には結葉がいた。
「……ごめん……」
どうしてなのか、謝罪の言葉が出てしまった。
「ううん。言ったでしょ。柊は何も悪くない」
いつもの優しい表情。気だるそうだけど、妙に甘ったるい声。
ボクにはいつだって心の癒しだった。
その癒しの人は、いつもこう言ってくれる。
「……柊は私が守ってあげる」
すると視界が急に暗くなり、意識も遠くの方へと旅立ってしまった。
「おい! 柊! いるんだろ? 開けてくれ!」
玄関が乱暴に叩かれる音が、急に家中に響き渡る。
さらに聞き覚えのある怒声で目を覚ましてしまった。
……あの人が帰って来たみたいだ。
時間を確認すると、もうすぐ日付が変わろうとしていた。
重い足取りで玄関まで移動。
少し震える手で鍵を開ける。
ガシャッ!
ドン!
ドアチェーンを外していなかったため、ドアが開くのを阻害している。
あまりにも強い勢いでドアが引かれたため、思わず後ずさり。
「ちっ。早くチェーンを外してくれ」
言われるがまま、すぐにチェーンを外す。
再びドアがものすごい勢いで開かれたかと思うと、お酒と汗の不快な臭いとともに玄関に倒れ込む。
お父さんが帰って来た。
ボクが家に閉じこもっている間に、会社からリストラされていたらしい。
最近は、そのストレスから夜な夜な呑み歩いては、近所迷惑を無視して夜中に大声を上げながら帰って来ることが多い。
特に暴力を振るわれたことはなかったが、酒を呑んでいないときの温厚な姿とのギャップにいつも恐れていた。
お母さんは、そんなお父さんを早くから見限って離婚。
そしてボクは引きこもり。
もしかしたら、ボクたち家族は何かしらに呪われているんじゃないか?
そんな風に思えてしまうくらい枯れて果て、絶望の渦に飲み込まれてしまっている。
「う……」
お父さんがこのまま寝てしまいそうだ。
ボクは急いでコップに水を注ぎ、ひとまず飲ませようとする。
「お父さん、水————」
バン!
パリンッ!
差し出したコップはボクの掌から弾き飛ばされ、水と共に割れた破片がバラバラに飛び散る。
「え……?」
状況を飲み込むことができず、呆然としてしまう。
でも、お父さんの様子がいつもと違うことだけは分かった。
「なぁ……」
ふらふらの状態から立ち上がって、ボクを見下ろしながら声を掛けてきた。
答えようにも、思うように口が開かない。
ドン!
バサッ!
先ほどのコップと同じように、今度はボクが勢いよく押し飛ばされる。
「ゴホッ、ゴホッ……」
背中から床に着地してしまい、痛みと共に咳が込み上げてきた。
そんなことはお構いなしに、お父さんは言葉を続ける。
「なぁ……。どうして俺なんだ? 俺が悪いことしたか? なんで俺ばっかりこんな目に合わなくちゃいけないんだよ? なぁ! どうしてなんだよ!」
ボクの肩を持ったかと思うと、今度は壁に叩きつける。
「ゔっ……!」
今まではどんなに酔いつぶれても暴力は振るってこなかった。
でも今のお父さんは、まるで目の前にいるのが誰か分かっていないかのように目を血走らせ、息を荒くしている。
……怖い。
身体の震えは止まらない。
目を閉じて、少しでも今のこの現実から逃げ出したいのに、目すら閉じられない。
「やめて……」
やっとのこと声が出たけど、その声は弱弱しく、虫のようなか細い声になってしまった。
でも、お父さんにその声が届いたのか、
「ちっ」
そのままボクの前からいなくなり、自室に戻っていった。
急に何かが込み上げてくる。
————なんでボクばっかりこんな目に合うんだ?
————誰かに悪いことをしたのか?
————誰かに恨まれるようなことをしたのか?
いや。してない。
ボクは何も悪いことなんてしてない。
頬に熱いものが伝っている感覚。
あぁ……、自分の無力さに耐えきれずに、涙を流してしまったんだ。
噛みしめた唇からは血の味もする。
……どうして?
……死にたい。
……結葉……。
「柊! どうしたの? もしかして、お父さんに……?」
いつの間にか視界には結葉がいた。
「……ごめん……」
どうしてなのか、謝罪の言葉が出てしまった。
「ううん。言ったでしょ。柊は何も悪くない」
いつもの優しい表情。気だるそうだけど、妙に甘ったるい声。
ボクにはいつだって心の癒しだった。
その癒しの人は、いつもこう言ってくれる。
「……柊は私が守ってあげる」
すると視界が急に暗くなり、意識も遠くの方へと旅立ってしまった。
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