何の変哲もない違和感

遊楽部八雲

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毛糸と鉄球

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 ある日の昼下がり。
 カフェでは、A氏とB氏の二人の男がコーヒーをすすっていた。A氏のおごりだ。
 するとA氏がコーヒーを皿に置き、B氏にを持ちかける。それはきっと、騙されやすくてばかなやつだと周りからいじられた挙句、借金を抱えていて食うのに困っていたB氏にとって、ものすごくオイシイ話であることに間違いはなかった。
「なあ、今食うのに困ってるんだろ」
「まあな。取引先に騙されて事業は失敗。金もどこかへ消えていき、お先真っ暗さ」B氏が答える。
「ならば、いい知らせがある」
「なんだ。社長じきじきの求人募集ならごめんだぜ。いつも言っているだろう。おれは水がきらいなんだ」
 A氏はミネラルウォーター製造会社の社長であり、貯金はたんまりとあった。
「そうじゃない。今ここでわたしが出す簡単な問題に答えてくれるだけでいい。きみにも当然できる」
「おい待て、知識の問題ではおれは無理だぜ」
「安心しろ。二択の問題だ」
「二択か。それならおれにもできるかな」
「そして肝心な金だが…もしきみが見事正解したらわたしの貯金の三分の一を譲ろう」
 B氏は喜ぶ、というよりかは困惑していた。
「あ、でもその金でプー太郎になるのは勘弁だぞ」
「お、おお」
「きみの転職活動のためなんだからな」
「もちろん。わかっているさ」
 B氏はここでようやく喜びをかみ締めた。
 と、A氏は突然にやりと笑った。
「ただし、もしきみが間違えればわたしの会社に転職してもらうぞ」
「なんだと」
 B氏はA氏に先ほどの喜びの表情から一変、曇った表情を見せた。
「なあに、正解すればいいだけの話ではないか」
「そ、そうだな。おい、早く問題を出せ」
「わかった。では、どちらかを選ぶんだ」
 B氏は息を飲んだ。
「十キロの毛糸と十キロの鉄球だと、どちらの方が重い?」
 なんだ、思ったより簡単ではないか、とB氏は思った。
 そしてすぐさまこう答えた。
「十キロの鉄球だろ。当然だよ」
「わかった。十キロの鉄球の方が重いということでいいんだな?」
「なんだよ、鉄球の方が重いに決まってるだろ」
「残念だったな。わたしは双方ともにとまでしか言わなかったのを思い出したかい。つまり、もっと質問を正すとするならば、『十キロメートルの毛糸と十キログラムの鉄球だと、どちらの方が重い?』になるかな」
「なんだと。そんな理不尽な問題出しやがって」
「言葉足らずなこの問題を疑わなかったきみがわるいんだ。だからきみはそういうことになるのさ」
 そう言ってA氏はB氏を車で連れ出した。
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