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図鑑とテイクアウトと換気

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 息子が物心つくようになってから--二週間おきに最寄りの図書館で、絵本を調達するのが楽しみでした。
 知育、が目的ではなく、本を読む楽しさをただ知ってもらいたい。
 本好きな人間によくあるワガママです。
 それに本が好きになれば、本人が勉強したいと思った時、苦になることはないだろうという楽天的な考えも持っていました。

 いつも、百科事典でも楽に入る、大きめのバッグを用意します。
 車で通い、公民館の中の一階の部分の片隅にある、小さな図書館に入っていきます。
 まず、息子用の絵本を探します。
 図書館に入って、受付のすぐ目の前が絵本のコーナーです。棚の上には図書館員オススメの本が、表紙を向けて並んでいます。
 面白そうな本を見つけると、さっと読んでみます。
 説教くさかったり、難しかったり、絵が楽しく思えなければ戻します。
 絵本を選び終えたら、次は家内の料理のレシピ本を探しに、絵本の奥のコーナーへ。
 薄い背表紙の雑誌が、棚にずらりと並んでいます。家内が喜びそうなタイトルを探します。
 それが終われば、自分の本探し。さらに奥へ進み、ビジネス本の棚へと向かいます…。

 知らない本が家に常にあるのが当たり前、だった生活。
 ウイルスによる緊急事態戦後、住んでいた世界は変わってしまいました。

 図書館に行くことが出来なくなると、心臓が締め付けられるような息苦しさを味わいました。

 まるで心の換気ができなくなったようでした。新しい本を、新しい空気をと、心が飢えました。
 これから図書館に通えなくなったらどうするのか、と自問自答する日々でした。

 緊急事態宣言が終了したあとは、悶々と悩みました。

 今度また、何ヶ月も家にいることになり、図書館にも通えなくなったら--家にどんな本があればみんなが落ち着くだろうか、と考えました。
 そこで「図鑑」に興味を持ちました。
 中古でも入手しやすい本です。最近は美しい図版が多く、大人が見ても内容が充実している。性別、年齢に関係なく楽しむことができる。
 これはいけるのではないか、と希望をもちました。

 ネットのレビューが高評価だった図鑑を試しに一冊買ってみたところ、息子には大当たり。
 こちらの期待を上回り、毎日読みふけったので、本当に嬉しく思いました。
 親が読んでも、やっぱり面白かったので、毎月、少しずつ買い揃えたいと考えています。

 また、実際に自粛生活中、閉塞した空間を癒やしてくれたのは、テイクアウトを利用した『美味しい食事』でした。
 美味しいものを食べているのに、難しい顔をし続けることは難しい。
 我が家は美味しいものを食べた時、反応がそれぞれ異なります。
 私は、美味しい、と称賛。
 息子は、世界一美味しい、と絶唱。
 家内は、美味しいほど、夢中になって無言になります。

 何度もテイクアウトを頼むのは財政的に厳しいですが、たまにでもいいのです。心の換気に役立ちます。

 ところで、息子は誰に似たのか、車が大好きなので、本を選ぶときでも、のりもの系は外せません。
 ひらがな、カタカナが読めない時から、『世界の自動車』がお気に入り。毎年発行される、大人向けの本です。世界中の車のカタログを、何十分も飽きもせずに眺めています。

 好きなことは強い。
 子供が出来て、何度もそれを教えられました。
 私自身、強制されることは苦手ですし、好きなことなら夢中になれます(ですが、時々そんな基本的なことを忘れてしまいます)。
 また、これも息子から教えられたことですが、本当に好きなことに熱中している間は、嫌なことをみんな、忘れることができます。

 小学校の入学式が延期になり、いつ学校に行けるか分からない間、息子は多少、情緒不安定でした。
 けれど、車のドキュメンタリー番組やトミカの絵本、レーシングゲームに夢中になっている間は、晴れ晴れとした表情をしていました。
 大好きなものを持って生まれた息子の「強さ」を応援したい、と心から思います。それは生きる力、活力そのものです。

 心の息苦しさを覚えたら、本を広げて、胸の中に新鮮な風を送り込みたい。
 そこにちょっと、美味しいものをそえて、家族で舌鼓を打つとなお良いでしょう。
 本は、図鑑もいいですし、何より自分が大好きなものがテーマなら最高です。
 優れた本に共通することは、ジャンルがなんであれ、人を夢中にさせることです。いっとき、別世界に送り込んでくれることです。そして悩みを束の間でも、ほんの一瞬でも、本当に忘れさせてくれること。
 そんな本に囲まれていたら、なんとか、生きていくことができるのではないかと今では思っています。
 本好きな私の、それがこれからの希望です。
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