8 / 24
8.
しおりを挟む
(※ジャック視点)
夜の遅い時間、僕はリビングでくつろいでいると、ベラがどこかへ出掛ける準備をしていた。
「ベラ、こんな時間にどこかへ出掛けるのか?」
僕は彼女に尋ねた。
「ええ、そうなの。相手の仕事の都合で、こんな遅い時間にしか会えないのよ。でも、すぐに戻ってくるから」
「遅い時間だから、ガラの悪い連中も町を彷徨いている。待ち合わせ場所まで送るよ」
僕はそう言うと、座っていたソファから立ち上がった。
「いえ、いいのよ。心配してくれるのは嬉しいけれど、あなたは家にいて。お酒を飲んでいるせいで、足元がふらついているわよ」
確かに、彼女の言う通りだった。
これでは、まっすぐに歩けるかどうかも怪しい。
僕はソファに座って、ボトルをコップに傾けた。
「帰ってきたら、君も一杯どうだい? 庶民の酒も悪くないと、最近になって気づいたんだ」
「ええ、そうね、いただくわ。それじゃあ、すぐに帰ってくるから待ってて」
彼女はそう言うと、扉を開けて出ていった。
なんだか、彼女の表情が一瞬、不安そうに見えた。
しかし、一瞬のことだったので気のせいかもしれない。
きっと、酔っているから見間違えたのだろう……。
僕はコップを傾けた。
なんとも心地のいい気分だ……。
そういえば、ベラは顔が隠れるくらい深くフードを被っていた。
庶民の女性の間では、あのようなものが流行っているのだろうか……。
少し怪しいというか、変な格好だなとは思ったが、もちろんそんなことは口にしなかった。
女性のファッションに口出ししてはいけない。
それも、僕が学んだ庶民の心得だった。
*
(※ベラ視点)
家を出た私は、ある場所に向かっていた。
こんな遅い時間だと柄の悪い連中が町を彷徨いていると、ジャックは心配してくれたけれど、私が会いに行くのは、まさにその柄の悪い連中である。
その目的は、彼らにとある頼み事をするためだった。
「ジャックの浪費が、もう少し減ってくれたらいいのに……」
歩きながら私は、思わず呟いていた。
彼がもう少しまともな金銭感覚を持てば、私がこんなに苦労することはないのだ。
たとえば、さっき彼が飲んでいたボトルにしてもそうだ。
貴族が飲むようなものに比べれば安いのだろうけれど、あのボトルは特別な日に開けるような物だ。
毎日の晩酌に呑むようなものではない。
「まあ、飲んでいる本人のあの幸せそうな顔を見ると、やめろとは言えないわね……」
私は思わず微笑んでいた。
それに、私が彼のお金遣いのことを指摘したら、また機嫌を悪くしてしまうかもしれないし……。
でも、きっと大丈夫。
私がこれからやろうとしていることが成功したら、そんな悩みも消えることになる。
横領がばれそうになった時はどうしようかと思ったけれど、私が思い付いた策によって、この悪い状況を打破できる。
これはきっと、私とジャックの愛がより深くなるために、神様が用意した試練に違いないわ。
「どうやら、この辺りね……」
私は辺りを見渡した。
大通りから一本道を入ったところで、ガラの悪そうな連中が屯している。
私はそちらに向かった。
後々面倒なことになる恐れがあるので、私は顔を知られないように、フードを深く被って顔は見えないようにしている。
「少し、いいかしら……。あなたたちに、あることをやってもらいたいの」
私は彼らにそう言った。
そして、具体的な説明をすると、彼らは思った通り私の話に乗ってきた。
思い通りに事が運び、私は思わず笑みを浮かべていた。
しかし、翌日になって、順調に進んでいたはずの私の計画に、狂いが生じ始めるのだった……。
夜の遅い時間、僕はリビングでくつろいでいると、ベラがどこかへ出掛ける準備をしていた。
「ベラ、こんな時間にどこかへ出掛けるのか?」
僕は彼女に尋ねた。
「ええ、そうなの。相手の仕事の都合で、こんな遅い時間にしか会えないのよ。でも、すぐに戻ってくるから」
「遅い時間だから、ガラの悪い連中も町を彷徨いている。待ち合わせ場所まで送るよ」
僕はそう言うと、座っていたソファから立ち上がった。
「いえ、いいのよ。心配してくれるのは嬉しいけれど、あなたは家にいて。お酒を飲んでいるせいで、足元がふらついているわよ」
確かに、彼女の言う通りだった。
これでは、まっすぐに歩けるかどうかも怪しい。
僕はソファに座って、ボトルをコップに傾けた。
「帰ってきたら、君も一杯どうだい? 庶民の酒も悪くないと、最近になって気づいたんだ」
「ええ、そうね、いただくわ。それじゃあ、すぐに帰ってくるから待ってて」
彼女はそう言うと、扉を開けて出ていった。
なんだか、彼女の表情が一瞬、不安そうに見えた。
しかし、一瞬のことだったので気のせいかもしれない。
きっと、酔っているから見間違えたのだろう……。
僕はコップを傾けた。
なんとも心地のいい気分だ……。
そういえば、ベラは顔が隠れるくらい深くフードを被っていた。
庶民の女性の間では、あのようなものが流行っているのだろうか……。
少し怪しいというか、変な格好だなとは思ったが、もちろんそんなことは口にしなかった。
女性のファッションに口出ししてはいけない。
それも、僕が学んだ庶民の心得だった。
*
(※ベラ視点)
家を出た私は、ある場所に向かっていた。
こんな遅い時間だと柄の悪い連中が町を彷徨いていると、ジャックは心配してくれたけれど、私が会いに行くのは、まさにその柄の悪い連中である。
その目的は、彼らにとある頼み事をするためだった。
「ジャックの浪費が、もう少し減ってくれたらいいのに……」
歩きながら私は、思わず呟いていた。
彼がもう少しまともな金銭感覚を持てば、私がこんなに苦労することはないのだ。
たとえば、さっき彼が飲んでいたボトルにしてもそうだ。
貴族が飲むようなものに比べれば安いのだろうけれど、あのボトルは特別な日に開けるような物だ。
毎日の晩酌に呑むようなものではない。
「まあ、飲んでいる本人のあの幸せそうな顔を見ると、やめろとは言えないわね……」
私は思わず微笑んでいた。
それに、私が彼のお金遣いのことを指摘したら、また機嫌を悪くしてしまうかもしれないし……。
でも、きっと大丈夫。
私がこれからやろうとしていることが成功したら、そんな悩みも消えることになる。
横領がばれそうになった時はどうしようかと思ったけれど、私が思い付いた策によって、この悪い状況を打破できる。
これはきっと、私とジャックの愛がより深くなるために、神様が用意した試練に違いないわ。
「どうやら、この辺りね……」
私は辺りを見渡した。
大通りから一本道を入ったところで、ガラの悪そうな連中が屯している。
私はそちらに向かった。
後々面倒なことになる恐れがあるので、私は顔を知られないように、フードを深く被って顔は見えないようにしている。
「少し、いいかしら……。あなたたちに、あることをやってもらいたいの」
私は彼らにそう言った。
そして、具体的な説明をすると、彼らは思った通り私の話に乗ってきた。
思い通りに事が運び、私は思わず笑みを浮かべていた。
しかし、翌日になって、順調に進んでいたはずの私の計画に、狂いが生じ始めるのだった……。
12
お気に入りに追加
798
あなたにおすすめの小説
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。
だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。
しかも新たな婚約者は妹のロゼ。
誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。
だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。
それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。
主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。
婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。
この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。
これに追加して書いていきます。
新しい作品では
①主人公の感情が薄い
②視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
ご迷惑をお掛けいたしました
婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました
Blue
恋愛
幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。
婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。
【完結】目覚めたらギロチンで処刑された悪役令嬢の中にいました
桃月とと
恋愛
娼婦のミケーラは流行り病で死んでしまう。
(あーあ。贅沢な生活してみたかったな……)
そんな最期の想いが何をどうして伝わったのか、暗闇の中に現れたのは、王都で話題になっていた悪女レティシア。
そこで提案されたのは、レティシアとして贅沢な生活が送れる代わりに、彼女を陥れた王太子ライルと聖女パミラへの復讐することだった。
「復讐って、どうやって?」
「やり方は任せるわ」
「丸投げ!?」
「代わりにもう一度生き返って贅沢な暮らしが出来るわよ?」
と言うわけで、ミケーラは死んだはずのレティシアとして生き直すことになった。
しかし復讐と言われても、ミケーラに作戦など何もない。
流されるままレティシアとして生活を送るが、周りが勝手に大騒ぎをしてどんどん復讐は進んでいく。
「そりゃあ落ちた首がくっついたら皆ビックリするわよね」
これはミケーラがただレティシアとして生きただけで勝手に復讐が完了した話。
【完結済み】「こんなことなら、婚約破棄させてもらう!」幼い頃からの婚約者に、浮気を疑われた私。しかし私の前に、事の真相を知る人物が現れて……
オコムラナオ
恋愛
(完結済みの作品を、複数話に分けて投稿します。最後まで書きあがっておりますので、安心してお読みください)
婚約者であるアルフレッド・アルバートン侯爵令息から、婚約破棄を言い渡されたローズ。
原因は、二人で一緒に行ったダンスパーティーで、ローズが他の男と踊っていたから。
アルフレッドはローズが以前から様子がおかしかったことを指摘し、自分以外の男に浮気心を持っているのだと責め立てる。
ローズが事情を説明しようとしても、彼は頑なに耳を貸さない。
「こんなことなら、婚約破棄させてもらう!」
彼がこう宣言したとき、意外なところからローズに救いの手が差し伸べられる。
明かされたのはローズの潔白だけではなく、思いもよらない事実だった……
婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……まさかの事件が起こりまして!? ~人生は大きく変わりました~
四季
恋愛
私ニーナは、婚約破棄されたので実家へ帰って編み物をしていたのですが……ある日のこと、まさかの事件が起こりまして!?
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。
しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。
レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。
そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。
「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです
もぐすけ
恋愛
カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。
ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。
十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。
しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。
だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。
カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。
一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる