妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

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 私は町の外れにある小さな店の個室で、とある人物を待っていた。

 私と因縁のあるその人物と会うのは、随分と久しぶりだ。
 会って、どんな顔をすればいいのか、どんな話をすればいいのか、私は決めかねていた。

 その人物とは、私の元婚約者であるジェイソンである。

 彼は、シルビアに嵌められて冤罪で逮捕され、牢獄に入れられていた。
 しかし、真犯人であるシルビアが逮捕されたことにより、釈放されていた。
 
 そんな彼からは、時々手紙が届いていた。
 内容は、私に対する謝罪と、直接会ってきちんと謝りたいというものだった。
 しかし、私はその手紙を無視し続けた。

 冤罪で逮捕された彼には同情していたけれど、彼が過去に私にしてきたことを、忘れたわけではなかったからだ。
 彼は、シルビアや両親と一緒になって、私を理不尽な目に遭わせた。
 その事はいつまでも、私の心に残っていた。

 彼はその事を悔いていた。
 繰り返し送られてくる手紙の文面から、それは伝わってきた。
 どうやら彼は、自身が牢獄で酷い目に遭い、ようやく自分が今までしてきたことが、愚かなことだと気づいたそうだ。

 だからこそ、私に直接会って謝りたいと申し込んだ。
 そして私は、ついにおれた。
 彼の必死な思いに免じて、一度だけ会うことにした。
 さすがに彼が反省していることは伝わっていたので、無視し続けるのは不誠実だと思ったからだ。

 それが、現在というわけである。
 通路から、足音が近づいてきた。
 私は、一度だけ深呼吸をした。

「やあ、久しぶりだね、ソフィア」

 ジェイソンが部屋に入ってきた。
 彼は、ぎこちない表情を浮かべている。

「ええ、久しぶりね」

 私もたぶん、ぎこちない表情をしていただろう。
 私たちは、テーブルを挟んで向き合って座った。

「ソフィア、本当に申し訳なかった。私は、愚かだった。君に酷いことをし続けたことを、心から悔いている」

 ジェイソンは、深く頭を下げながら言った。
 私は数秒の間、そんな彼を見続けていた。
 以前までに彼なら、絶対に頭を下げることなんてできなかっただろう。
 それだけ彼が反省して、変化したということだ。
 
 そんな彼の姿を見て、私も変わらなければいけないと思った。
 いつまでも過去を引きずっていても、しかたがない。
 
「頭をあげて、ジェイソン。気持ちは、充分に伝わった。あなたのことは、許すわ」

 私は彼を、許すことにした。
 それだけで、少しだけ心が穏やかになった気がした。
 
 彼からの謝罪を受け入れてからは、しばらくの間、沈黙が流れた。
 彼を許したといっても、べつに仲良くなるわけではない。
 でも、それでいいと思っている。
 私たちは、既に別々の道を歩みだしているのだ。
 
 私が屋敷から追放されてから、随分と時が過ぎた。
 その間に、私やシルビアや両親には、様々な変化があった。
 当然、ジェイソンにも変化があった。

 結局、良い変化か悪い変化かは、その人次第ということね……。

 私たちは、店を出ることにした。
 別れ際、彼が私の手を見ていることに気づいた。
 もっと具体的にいうと、私がつけている指輪を見つめていた。
 
 現在、私がその指輪をつけている意味を、彼は理解している。
 彼の表情を見れば、それはわかった。
 彼は、意を決したような表情になった。

「さようなら、バウデン伯爵夫人。今日は会えてよかった。どうか、これからもお元気で」

 彼はそれだけ告げると、私の元から去っていった。
 その姿を見送ったあと、私は待っていた馬車に乗った。

 そして、が待つ屋敷に帰り始めた。
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