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 (※オリバー視点)

「ふ……、踏み台……」

 おれは、予想外の事態に困惑して、そう呟くことしかできなかった。
 そしておれは、四階のイザベルがいる部屋を見上げた。

 確かに憲兵のいう通り、踏み台は見えなかった。

 その事実によって、おれは窮地に追い込まれていた。
 しかし、それでも諦めるわけにはいかず、おれは反論を始めた。

「おれが見たときは、踏み台はきちんと立っていたんだ! だが今は、イザベルが蹴飛ばして床に倒れているから、見えないのは当たり前だ。貴様も現場を見ただろう!?」

 おれは憲兵に怒鳴り散らした。
 しかし、彼はその余裕のある態度を崩さなかった。

「ええ、もちろん、踏み台は倒れていました。しかし、さっき部屋を出る前に、部下に頼んで立ててもらいました。その状態でも見えないのですから、あなたの証言は矛盾しているということになります。踏み台に乗っている彼女を見たというのは、嘘ですね?」

「うぅ……」

 憲兵も鋭い目付きが、こちらを向いている。
 図星だったので、おれはなにも言い返せなかった。

「あの踏み台は、立ててある状態で膝くらいまでの高さでした。一方、あの部屋にある窓が取り付けられている位置は、底辺が腰の高さくらいです。なので一階の位置から、四階にあるあの踏み台が見えるなんて、あり得ないのですよ。だから私は、あなたが嘘をついているのだと判断しました」

 淀みのない口調で、憲兵は自分の意見を述べた。
 完璧すぎて、俺に反論の余地はなかった。
 さらに彼は続ける。

「そして、どうしてそんな嘘をついたのか、考えられる答えは一つしかありません。それは、あなたが犯人だからです。倒れていた踏み台や、彼女の首にあったロープは、自殺に見せかけるための、偽装工作ですね?」

「そ、それは……」

 おれは必死に言葉を探した。
 しかし、この状況を打開できる反論を思い付くことなどできなかった。

 そんなとき、憲兵のもとへ一人の部下がやって来た。
 何やら耳打ちして、すぐにその場を去っていった。

「新しい情報が入りました。特別に、教えてさしあげましょう」

「い、いったいどんな情報だ?」

 震える声で、おれは憲兵に尋ねた。

「あなたが偽装工作をした証拠となる、新たな情報です」

 憲兵は静かにそう答えた。

「な……、なんだと……、まだなにか、あるのか?」

 完璧な偽装工作で罪から逃れるつもりだったのに、とんでもないことになってしまった。
 まさかこんなことになるなんて、数分前までは思ってもいなかった。
 
 だんだんと追い込まれていくことに、おれは不安どころか、恐怖すら感じ始めていた……。
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