妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

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 (※オリバー視点)

「む……、矛盾だと!? おれの証言の、いったいどこが矛盾しているというんだ?」

 おれは不安な気持ちになりながら、震える声で憲兵に質問した。
 もう一度自分の中で、先程の証言を精査してみたが、どこにもおかしなところがあるとは思えなかった。
 矛盾などない、完璧な証言だったはずだ。
 それなのに、どうしてこの憲兵は、こんな鋭い目付きでおれの方をにらんでいるんだ?

 まるで、彼の中ではすでに、おれが犯人だと確定しているみたいじゃないか……。

「あなたは、見えるはずのないものを見えたと証言したのですよ。だから私は、あなたが嘘をついとぃるのだと確信しました」

 憲兵のその言葉を聞いても、彼がなんのことについて言っているのか、おれにはわからなかった。
 見えるはずのないものを、見えたと証言した?
 いったい、なんのことだ?

 おれは、不安や焦りに包まれながらも、必死に頭を回転させた。

 イザベルがいたのは、通りに面した四階にある部屋だ。
 先程のおれの証言通り、通りから上を見上げれば、彼女の姿を見ることができる。
 どこにも、矛盾などない。

 ……ああ、そういうことか。

 おれは、完全に理解した。
 おれの証言には、矛盾などなかったのだ。
 すべては、この憲兵の勘違いだ。
 彼が何を勘違いしたのか、おれには見当がついていた。
 
 おれは真相を突き止めたことにより、先程までの不安や焦りは消え、心の余裕ができていた。
 彼が何を勘違いしているのか、おれにはわかった。
 だから、それを説明してやろう。

 そうすれば彼は、部下たちの前で恥をかくことになる。
 そしてそのあとに、おれを不当に逮捕しようとしたと訴えて、クビにしてもらおう。
 おれは、思わず笑みを浮かべた。
 
「貴様は、勘違いしている。今からそれを、証明してやろう」

「私が、勘違いですか……。まあ、何か言い分があるのなら聞きましょう」

 憲兵は自分の勘違いに、まだ気づいていない様子だ。

「一度、通りに出るぞ。そこで説明した方が、わかりやすいからな」

「いいでしょう。私もちょうど、あなたの証言の矛盾を説明するために、外に出ようと提案しようとしていたところです」

 ということで、俺たちは一度、外に出ることにした。
 そして、通りに出ると、さっそくおれは説明を始めた。

「貴様の言おうとしていたことを、当ててやろう。部屋が四階だと、窓が反射して中の様子が見えないと言いたかったのだろう!? しかし、そんなことはない。今は夜だ。そして、部屋には明かりがついている。この状況なら、通りから四階の部屋を見上げても窓は反射しないから、部屋の中を見ることができるんだ!」

 おれは、先回りして憲兵を論破したことで、満足していた。
 彼は上を向き、四階の部屋を覗いている。
 今ごろ自分の勘違いに、気づいたことだろう。
 そう思っていた。

 しかし、彼は予想外の言葉を口にした。

「勘違いしているのは、あなたの方ですよ。私は、窓が反射するだなんて、思っていません」

「な、なんだと!?」

 おれは再び、焦りや不安を感じ始めた。

「では、見えないはずのものとは、いったいなんのことなんだ!?」

 おれはたまらず、憲兵に怒鳴り散らしながら尋ねた。

「それは、踏み台ですよ」

 憲兵は、おれとは対照的に、冷静な態度で答えた。
 
 ただ、こちらを向くその目は、獲物を捉えた狩人のように鋭かった……。
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