妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

文字の大きさ
上 下
35 / 45

35.

しおりを挟む
 (※オリバー視点)

「む……、矛盾だと!? おれの証言の、いったいどこが矛盾しているというんだ?」

 おれは不安な気持ちになりながら、震える声で憲兵に質問した。
 もう一度自分の中で、先程の証言を精査してみたが、どこにもおかしなところがあるとは思えなかった。
 矛盾などない、完璧な証言だったはずだ。
 それなのに、どうしてこの憲兵は、こんな鋭い目付きでおれの方をにらんでいるんだ?

 まるで、彼の中ではすでに、おれが犯人だと確定しているみたいじゃないか……。

「あなたは、見えるはずのないものを見えたと証言したのですよ。だから私は、あなたが嘘をついとぃるのだと確信しました」

 憲兵のその言葉を聞いても、彼がなんのことについて言っているのか、おれにはわからなかった。
 見えるはずのないものを、見えたと証言した?
 いったい、なんのことだ?

 おれは、不安や焦りに包まれながらも、必死に頭を回転させた。

 イザベルがいたのは、通りに面した四階にある部屋だ。
 先程のおれの証言通り、通りから上を見上げれば、彼女の姿を見ることができる。
 どこにも、矛盾などない。

 ……ああ、そういうことか。

 おれは、完全に理解した。
 おれの証言には、矛盾などなかったのだ。
 すべては、この憲兵の勘違いだ。
 彼が何を勘違いしたのか、おれには見当がついていた。
 
 おれは真相を突き止めたことにより、先程までの不安や焦りは消え、心の余裕ができていた。
 彼が何を勘違いしているのか、おれにはわかった。
 だから、それを説明してやろう。

 そうすれば彼は、部下たちの前で恥をかくことになる。
 そしてそのあとに、おれを不当に逮捕しようとしたと訴えて、クビにしてもらおう。
 おれは、思わず笑みを浮かべた。
 
「貴様は、勘違いしている。今からそれを、証明してやろう」

「私が、勘違いですか……。まあ、何か言い分があるのなら聞きましょう」

 憲兵は自分の勘違いに、まだ気づいていない様子だ。

「一度、通りに出るぞ。そこで説明した方が、わかりやすいからな」

「いいでしょう。私もちょうど、あなたの証言の矛盾を説明するために、外に出ようと提案しようとしていたところです」

 ということで、俺たちは一度、外に出ることにした。
 そして、通りに出ると、さっそくおれは説明を始めた。

「貴様の言おうとしていたことを、当ててやろう。部屋が四階だと、窓が反射して中の様子が見えないと言いたかったのだろう!? しかし、そんなことはない。今は夜だ。そして、部屋には明かりがついている。この状況なら、通りから四階の部屋を見上げても窓は反射しないから、部屋の中を見ることができるんだ!」

 おれは、先回りして憲兵を論破したことで、満足していた。
 彼は上を向き、四階の部屋を覗いている。
 今ごろ自分の勘違いに、気づいたことだろう。
 そう思っていた。

 しかし、彼は予想外の言葉を口にした。

「勘違いしているのは、あなたの方ですよ。私は、窓が反射するだなんて、思っていません」

「な、なんだと!?」

 おれは再び、焦りや不安を感じ始めた。

「では、見えないはずのものとは、いったいなんのことなんだ!?」

 おれはたまらず、憲兵に怒鳴り散らしながら尋ねた。

「それは、踏み台ですよ」

 憲兵は、おれとは対照的に、冷静な態度で答えた。
 
 ただ、こちらを向くその目は、獲物を捉えた狩人のように鋭かった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

婚約破棄された令嬢のささやかな幸福

香木陽灯
恋愛
 田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。  しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。 「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」  婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。  婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。  ならば一人で生きていくだけ。  アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。 「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」  初めての一人暮らしを満喫するアリシア。  趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。 「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」  何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。  しかし丁重にお断りした翌日、 「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」  妹までもがやってくる始末。  しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。 「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」  家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。

婚約者を奪われた私は、他国で新しい生活を送ります

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルクルは、エドガー王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。 聖女を好きにったようで、婚約破棄の理由を全て私のせいにしてきた。 聖女と王子が考えた嘘の言い分を家族は信じ、私に勘当を言い渡す。 平民になった私だけど、問題なく他国で新しい生活を送ることができていた。

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは

今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。 長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。 次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。 リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。 そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。 父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。 「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

処理中です...