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 (※オリバー視点)

 おれは泣きながら声を震わせ、憲兵の質問に答えた。

 完璧だ。
 我ながら、なんという演技力。
 今のおれは、婚約者を失った哀れな被害者だ。

 さすがにこの憲兵も同情して、情けの言葉をかけてくるだろう。
 そして、もう帰ってもいいと許可が出るはずだ。
 そう思っていたが……。

「オリバー様、あなたを逮捕します」

 おれの予想は外れ、そんな言葉を憲兵からかけられた。

「……は?」
 
 おれは訳がわからず、困惑していた。
 ……逮捕?
 逮捕だと!?
 この憲兵は今、おれのことを逮捕すると言ったのか?

 いったい、どうして……。

 当然、その疑問が浮かんでくる。
 そして逮捕されるという不安からか、おれの体は震えていた。
 すべてうまくいくと思っていただけに、こんな展開は予想だにしていなかった。

 おれは何か、ミスをおかしたのか?
 
 確かにイザベルが動かなくなった姿を見て気が動転していたし、こんな状況ははじめてだったから、常に不安な気持ちに支配されていた。
 しかし、それでも必死に考え、完璧な偽装工作をしたはずだ。
 彼女はどう見ても、首をつって自殺を図ったように見えたはず……。

 それにも関わらず、目の前にいる憲兵は、おれのことを逮捕すると言った。
 まずは、その理由を聞かなくてはならない。
 そうだ、落ち着くんだ……。

 逮捕すると言われて動揺したが、単に彼がハッタリで鎌をかけてきている可能性だってあるんだ。
 それでおれの自白を引き出そうとしているに違いない。
 だが、その手には乗らないぞ。
 そんな手が通用するのは、気の弱い臆病者の犯罪者だけだ。
 おれは、そうではない。

 必ず言い逃れして、この状況から脱してやる。

「おいおい、逮捕だって? このおれを誰だと思っている? それなりの覚悟はしているんだろうな? もしお前の勘違いだったら、ただじゃおかないぞ」

 おれは憲兵を睨み付け、鋭い口調でそう言った。
 これで恐れをなして、先程の逮捕するという発言を取り消してくれたらいいのだが……。
 まあ、取り消さずにおれを逮捕する正当な理由をのべても、おれはそれを論破して、必ず逃げ切ってやるまでだ。

「では、説明いたしましょう」

 憲兵が口を開いた。
 そして、続ける。

「あなたは、明らかに嘘をついている。憲兵の質問にたいして嘘の証言をするのは、あなたの立場を悪くするだけですよ?」

「嘘だと? おれは、嘘なんてついていない。正直に見たままの状況を話しただけだ」

 ここで動揺している姿を見せるわけにはいかない。
 それだと、嘘をついていたと言っているようなものだからだ。

「あくまでも、嘘をついていたと認めないのですね。それでは続けましょう。先程あなたは、イザベル様が踏み台に乗っているところを、通りから見たと言いましたね? それで自殺しようとしていると察したわけですね?」

「そうだ。部屋は四階とはいえ、窓の近くだから、通りからでも見えたんだ。この部屋は通りに面したところにあるのだから、どこにも矛盾などないはずだ」

 おれは自信のある態度を崩さずにそう言った。

「いえ、まさにそれが、矛盾した発言なのですよ」

 憲兵が鋭い目付きをこちらに向けながら言った。
 訳がわからない。
 どこにも矛盾などないはずだ。
 
 そう頭では考えていても、先程までの自信は鳴りを潜め、おれの体は不安で震え始めていた……。
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