妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

３３.

　(※オリバー視点)

　おれは、動かなくなったイザベルを見て、体が震えていた。

「……イザベル？」

　もう一度、彼女に呼び掛けてみた。
　しかし、彼女からの返事はなかった。

　まさか、こんなことになるなんて……。

　おれはただ、報告しに行こうとするイザベルを、止めたかっただけなのに……。

「いったい、どうすればいいんだ……」

　おれは必死に考えた。
　これは、事故だ。
　殺すつもりなんて、なかった。
　しかし、そんな言葉を憲兵が信じてくれるとは思えない。

　つまり、これから俺がとるべき行動は一つしかない。

「イザベルが、自殺したように見せかけよう」

　もう、それしか手はない。
　なんとか偽装工作をして、おれがやったのだとバレないようにしなければ……。
　もしおれがやったとバレたら、人生終了だ。
　それだけは、避けなければならない。

　おれはさっそく、作業に取りかかった。

　　　　　＊

　(※憲兵視点)

　私は大勢の部下を連れて、現場に到着した。

　状況を確認すると、私はまず、イザベルを運び出すように部下に指示をした。
　彼女の首には、ロープが巻かれていた。
　そして、床には膝くらいの高さがある踏み台が倒れている。

　自殺という言葉が、私の頭をよぎった。

　私は、別の部屋で待機していたオリバーのもとへ向かった。
　彼が、第一発見者である。
　なので、彼から詳しく事情を聴くことにした。

「あなたが、彼女を発見したそうですね。その経緯を詳しく教えていただけませんか？」

　私は暗い表情をしているオリバーに尋ねた。

「……ああ。おれは外を歩いていて、ふと空を見上げたんだ。その時、踏み台に乗っているイザベルを見つけたんだ」

　確かに、四階にあるこの部屋は、道に面した位置にあるので、上を見上げれば彼女の姿が目に入る。

「おれは、彼女が自殺しようとしていると、すぐにわかった。だから、すぐに彼女のもとへ駆けつけて、首をつっている彼女を床に下ろしたんだが、間に合わなかった……。もう少しおれが早く気づいていれば、彼女は死なずに済んだのに……」

　オリバーは涙を流しながら、声を震わせていた。
　本来ならこういう場合、彼に慰めの言葉や励ましの言葉をかけるべきなのだろう。
　しかし、私はそうしなかった。

　なぜなら私は、彼の勘違いと、矛盾した証言に気づいたからだ。