妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

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 (※シルビア視点)

 私はナイフを握りしめたまま、マーガレットに近づいた。

 彼女は興奮状態で高笑いしているので、こちらには気づいていない。
 彼女との距離が縮まる。
 そして、ついにナイフが届く位置まで近づいた。

 私の中では、様々な感情が渦巻いていた。

「マーガレット……」

 私は彼女に声をかけた。
 彼女は驚いてこちらに振り返った。
 いつのまにか私が近くにいたせいだろう。

「ナイフ、落としたわよ。濡れると錆びてしまうから、仕舞っておいたほうがいわ」

 私は自分の中の色々なものを圧し殺し、震えながら彼女にナイフを渡した。

「おう、確かに錆びて使い物にならなくなるのは困るな」

 彼女は私の手からナイフを受け取ったので、私は床の掃除をし始めた。
 その時間は、地獄のように長く、苦痛に感じた。
 それでも私は、なんとか耐えた。

 マーガレットは満足したようすで、ベッドに寝転がった。
 私のことを、自身が楽しむためのオモチャとして扱うなんて、許せない。
 生まれてはじめて、殺意すら芽生えた。
 しかし、それでも彼女を刺すことはできなかった。

 それは、自分の保身のために理性が働いたからだ。
 もし彼女を刺せば、私の社会的立場は、更に悪くなっていただろう。
 それに、もし刺していたとしても、非力な私が確実に彼女に致命傷を与えられたとは限らない。
 その後の彼女の報復で、本当に命を落としていたかもしれない。

 だから私は、彼女を刺さなかった……。

 ようやく、床の掃除が終わった。
 もう、二度と同じ作業はやりたくない。
 私は、ベッドにいるマーガレットの方を見た。
 彼女は寝息をたてながら眠っている。

 ……確かに私は、彼女を刺さなかった。
 しかし、彼女への憎しみが消えたわけではない。
 こんな状況になった元凶である彼女を許すことなんて、できるはずがない。

 そして、ナイフで刺す以外の手段で彼女に復讐する方法を、私は思い付いていた……。
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