妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

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5.

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 ジェイソンは、私のもとを去っていった。

 私は彼の後ろ姿を見送ったあと、大きくため息をついた。
 いったい、何様のつもりなのかしら……。
 自分で理不尽な婚約破棄をしておきながら、今更婚約破棄をなかったことにしてくれですって?

 そんな都合のいいこと、私が聞き入れるわけがないでしょう?
 どれだけ人のことを馬鹿にしているの?
 私があの一件で、どれだけ傷ついたと思っているの……。
 私はあなたの、都合のいい道具ではないのよ……。

 私は屋敷を目指して歩き始めた。

「でも、ようやくジェイソンも気付いたようね。まあ、今更気付いたところで、既に手遅れだけれど……」

 彼は浮かれていて、今まで考えてもいなかったのだ。
 シルビアと婚約するということが、どういうことなのかを……。
 彼女と婚約をすれば、同伴でパーティに参加することもある。
 しかしシルビアは、お世辞にも品行方正とはいえないような人物だ。

 そして、表向きだけ、大人しく品がある女性を演じることすらもできない。
 彼女は今まで甘やかされて育てられてきたので、わがままで自分勝手な自分を抑えることなんてできない。
 そんな彼女がパーティに参加すれば、問題を起こすことは確実だ。
 そして、そうなればジェイソンが恥をかくことになる。

 そのことに、ようやくジェイソンも気付いた。
 彼は認めなかったけれど、図星なのは明らかだった。
 だから私に、婚約者に戻ってくれるように頼んできたのだ。
 まあ、とても人にものを頼むような態度ではなかったけれど……。

 もちろん私は、ジェイソンの頼みを聞き入れるつもりなんてない。
 彼は、私がいずれは婚約者に戻ると思っているようだけれど、それはありえない。
 彼は私が生活に困っていると思っているようだったけれど、それは違う。
 私はエルウッド様に助けられ、何不自由なく生活している。
 ジェイソンに頼る必要など、どこにもない。
 まあ、もし仮に、私がまだ生活に困っている状態だったとしても、彼に頼るという選択肢だけは選ばないだろう。
 
 ジェイソンは完全に、私と婚約破棄したことを後悔している様子だった。
 シルビアに頼まれてそうしたのだろうけれど、あのままの状態の方が、彼にとっては都合がよかったのだ。
 そのことに、彼自身もようやく気付いた。

 しかしすでに、手遅れである。
 あの時、ああしていれば、こうすればよかった、そんなことをいくら思っても、時は戻らないのだ。

 彼はシルビアとの幸せな生活を手に入れたはずなのに、とても人生を楽しんでいる人の顔には見えなかった。

     *

 (※ジェイソン視点)

 最近、シルビアがろくに口をきいてくれない。

 愛人に戻ってくれと頼んだあの一件以来、ずっとこのような調子だ。 
 私はシルビアのためを思って、愛人に戻ってくれと言ったのに、どうしても彼女にはわかってもらえない。
 私は愛する彼女が、貴族たちの前でさらし者になるのを防ぐために、愛人に戻るべきだと提案しているだけなのに……。

 そしてソフィアを婚約者に戻せばすべては丸く収まるのに、どうしてわかってくれないんだ……。
 
 シルビアと顔を合わしても、彼女はろくに口も利かないし、口を開いたと思ったら嫌みを言われたりもする。
 そんな彼女の態度に、私も苛立ちを覚えるようになった。
 ただの個性だと思っていたわがままな部分も、悪い部分として見るようになってしまっていた。
 
 だから私たちの間には、いつしか喧嘩が絶えないようになった。
 いつもいつも怒鳴り合って、どちらも謝らない。

 私は本当に、シルビアのことを愛しているのか?

 そんな自問をする回数も、日に日に増えていった。
 愛するシルビアのことを、邪魔者のように思うこともあった。
 私は彼女のためを思って言っているのに、あんな生意気でわがままな態度をとられたら、殺意すら湧きそうだった。

 私は本当に、シルビアのことを愛しているのか?

     *

 (※シルビア視点)

「街に新しい店ができたんだ。珍しくて高級な食材を使っているから、すごくおいしいらしいよ。一緒に行ってみないか?」

 ジェイソンがそんな提案をしてきた。

 最近は喧嘩ばかりだったので、どうやら、仲直りがしたいらしい。
 それで、美味しいものを食べて、きちんと話し合いたいそうだ。

「ええ、いいわよ……」

 私は彼の提案を受け入れた。
 お姉さまとこっそりと会っていたことを、忘れたわけではない。
 私を裏切ったのに、今更関係が修復できるとでも思っているの?

 高級料理店というのは悪くない。
 だから私は、彼の提案を受け入れることにした。

 決して、彼の裏切りを、忘れたわけではない……。

     *

 (※エルウッド視点)

 私は、ソフィアと共に、町に新しくできた料理店に来ていた。

 珍しい食材を使っているらしいので、どんな料理が来るのか楽しみだった。
 テーブルを挟んで向かい側の席に座っているソフィアも、期待の表情だった。
 私たちのいる席は、半個室のようになっていて、壁に囲まれている。

「あ……」

 向かい側の席に座っているソフィアが、テーブルに手を着き身を乗り出した。
 そして、そこから壁の外を覗き見ている。

「あれは、ジェイソンとシルビアだわ……」

 彼女はそう呟いた。
 まあ、評判のいい店だから、あの二人が来るのもおかしなことではない。

 しかし、この店でまさかが起きるなんて、この時は想像すらしていなかったのだった……。
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