妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上

文字の大きさ
上 下
6 / 45

5.

しおりを挟む
 ジェイソンは、私のもとを去っていった。

 私は彼の後ろ姿を見送ったあと、大きくため息をついた。
 いったい、何様のつもりなのかしら……。
 自分で理不尽な婚約破棄をしておきながら、今更婚約破棄をなかったことにしてくれですって?

 そんな都合のいいこと、私が聞き入れるわけがないでしょう?
 どれだけ人のことを馬鹿にしているの?
 私があの一件で、どれだけ傷ついたと思っているの……。
 私はあなたの、都合のいい道具ではないのよ……。

 私は屋敷を目指して歩き始めた。

「でも、ようやくジェイソンも気付いたようね。まあ、今更気付いたところで、既に手遅れだけれど……」

 彼は浮かれていて、今まで考えてもいなかったのだ。
 シルビアと婚約するということが、どういうことなのかを……。
 彼女と婚約をすれば、同伴でパーティに参加することもある。
 しかしシルビアは、お世辞にも品行方正とはいえないような人物だ。

 そして、表向きだけ、大人しく品がある女性を演じることすらもできない。
 彼女は今まで甘やかされて育てられてきたので、わがままで自分勝手な自分を抑えることなんてできない。
 そんな彼女がパーティに参加すれば、問題を起こすことは確実だ。
 そして、そうなればジェイソンが恥をかくことになる。

 そのことに、ようやくジェイソンも気付いた。
 彼は認めなかったけれど、図星なのは明らかだった。
 だから私に、婚約者に戻ってくれるように頼んできたのだ。
 まあ、とても人にものを頼むような態度ではなかったけれど……。

 もちろん私は、ジェイソンの頼みを聞き入れるつもりなんてない。
 彼は、私がいずれは婚約者に戻ると思っているようだけれど、それはありえない。
 彼は私が生活に困っていると思っているようだったけれど、それは違う。
 私はエルウッド様に助けられ、何不自由なく生活している。
 ジェイソンに頼る必要など、どこにもない。
 まあ、もし仮に、私がまだ生活に困っている状態だったとしても、彼に頼るという選択肢だけは選ばないだろう。
 
 ジェイソンは完全に、私と婚約破棄したことを後悔している様子だった。
 シルビアに頼まれてそうしたのだろうけれど、あのままの状態の方が、彼にとっては都合がよかったのだ。
 そのことに、彼自身もようやく気付いた。

 しかしすでに、手遅れである。
 あの時、ああしていれば、こうすればよかった、そんなことをいくら思っても、時は戻らないのだ。

 彼はシルビアとの幸せな生活を手に入れたはずなのに、とても人生を楽しんでいる人の顔には見えなかった。

     *

 (※ジェイソン視点)

 最近、シルビアがろくに口をきいてくれない。

 愛人に戻ってくれと頼んだあの一件以来、ずっとこのような調子だ。 
 私はシルビアのためを思って、愛人に戻ってくれと言ったのに、どうしても彼女にはわかってもらえない。
 私は愛する彼女が、貴族たちの前でさらし者になるのを防ぐために、愛人に戻るべきだと提案しているだけなのに……。

 そしてソフィアを婚約者に戻せばすべては丸く収まるのに、どうしてわかってくれないんだ……。
 
 シルビアと顔を合わしても、彼女はろくに口も利かないし、口を開いたと思ったら嫌みを言われたりもする。
 そんな彼女の態度に、私も苛立ちを覚えるようになった。
 ただの個性だと思っていたわがままな部分も、悪い部分として見るようになってしまっていた。
 
 だから私たちの間には、いつしか喧嘩が絶えないようになった。
 いつもいつも怒鳴り合って、どちらも謝らない。

 私は本当に、シルビアのことを愛しているのか?

 そんな自問をする回数も、日に日に増えていった。
 愛するシルビアのことを、邪魔者のように思うこともあった。
 私は彼女のためを思って言っているのに、あんな生意気でわがままな態度をとられたら、殺意すら湧きそうだった。

 私は本当に、シルビアのことを愛しているのか?

     *

 (※シルビア視点)

「街に新しい店ができたんだ。珍しくて高級な食材を使っているから、すごくおいしいらしいよ。一緒に行ってみないか?」

 ジェイソンがそんな提案をしてきた。

 最近は喧嘩ばかりだったので、どうやら、仲直りがしたいらしい。
 それで、美味しいものを食べて、きちんと話し合いたいそうだ。

「ええ、いいわよ……」

 私は彼の提案を受け入れた。
 お姉さまとこっそりと会っていたことを、忘れたわけではない。
 私を裏切ったのに、今更関係が修復できるとでも思っているの?

 高級料理店というのは悪くない。
 だから私は、彼の提案を受け入れることにした。

 決して、彼の裏切りを、忘れたわけではない……。

     *

 (※エルウッド視点)

 私は、ソフィアと共に、町に新しくできた料理店に来ていた。

 珍しい食材を使っているらしいので、どんな料理が来るのか楽しみだった。
 テーブルを挟んで向かい側の席に座っているソフィアも、期待の表情だった。
 私たちのいる席は、半個室のようになっていて、壁に囲まれている。

「あ……」

 向かい側の席に座っているソフィアが、テーブルに手を着き身を乗り出した。
 そして、そこから壁の外を覗き見ている。

「あれは、ジェイソンとシルビアだわ……」

 彼女はそう呟いた。
 まあ、評判のいい店だから、あの二人が来るのもおかしなことではない。

 しかし、この店でまさかが起きるなんて、この時は想像すらしていなかったのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

【完結】私のことを愛さないと仰ったはずなのに 〜家族に虐げれ、妹のワガママで婚約破棄をされた令嬢は、新しい婚約者に溺愛される〜

ゆうき
恋愛
とある子爵家の長女であるエルミーユは、家長の父と使用人の母から生まれたことと、常人離れした記憶力を持っているせいで、幼い頃から家族に嫌われ、酷い暴言を言われたり、酷い扱いをされる生活を送っていた。 エルミーユには、十歳の時に決められた婚約者がおり、十八歳になったら家を出て嫁ぐことが決められていた。 地獄のような家を出るために、なにをされても気丈に振舞う生活を送り続け、無事に十八歳を迎える。 しかし、まだ婚約者がおらず、エルミーユだけ結婚するのが面白くないと思った、ワガママな異母妹の策略で騙されてしまった婚約者に、婚約破棄を突き付けられてしまう。 突然結婚の話が無くなり、落胆するエルミーユは、とあるパーティーで伯爵家の若き家長、ブラハルトと出会う。 社交界では彼の恐ろしい噂が流れており、彼は孤立してしまっていたが、少し話をしたエルミーユは、彼が噂のような恐ろしい人ではないと気づき、一緒にいてとても居心地が良いと感じる。 そんなブラハルトと、互いの結婚事情について話した後、互いに利益があるから、婚約しようと持ち出される。 喜んで婚約を受けるエルミーユに、ブラハルトは思わぬことを口にした。それは、エルミーユのことは愛さないというものだった。 それでも全然構わないと思い、ブラハルトとの生活が始まったが、愛さないという話だったのに、なぜか溺愛されてしまい……? ⭐︎全56話、最終話まで予約投稿済みです。小説家になろう様にも投稿しております。2/16女性HOTランキング1位ありがとうございます!⭐︎

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。 妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。 しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。 父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。 レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。 その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。 だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。

虐げられていた姉はひと月後には幸せになります~全てを奪ってきた妹やそんな妹を溺愛する両親や元婚約者には負けませんが何か?~

***あかしえ
恋愛
「どうしてお姉様はそんなひどいことを仰るの?!」 妹ベディは今日も、大きなまるい瞳に涙をためて私に喧嘩を売ってきます。 「そうだぞ、リュドミラ!君は、なぜそんな冷たいことをこんなかわいいベディに言えるんだ!」 元婚約者や家族がそうやって妹を甘やかしてきたからです。 両親は反省してくれたようですが、妹の更生には至っていません! あとひと月でこの地をはなれ結婚する私には時間がありません。 他人に迷惑をかける前に、この妹をなんとかしなくては! 「結婚!?どういうことだ!」って・・・元婚約者がうるさいのですがなにが「どういうこと」なのですか? あなたにはもう関係のない話ですが? 妹は公爵令嬢の婚約者にまで手を出している様子!ああもうっ本当に面倒ばかり!! ですが公爵令嬢様、あなたの所業もちょぉっと問題ありそうですね? 私、いろいろ調べさせていただいたんですよ? あと、人の婚約者に色目を使うのやめてもらっていいですか? ・・・××しますよ?

妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜

雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。 だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。 国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。 「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」 *この作品はなろうでも連載しています。

処理中です...