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(※ジェイソン視点)
私は決心した。
やはり、シルビアは婚約者として相応しくない。
彼女のことはもちろん愛しているが、社交界で彼女がうまくやっていけるとは思えない。
ここはやはり、今まで通り、彼女には愛人のままでいてもらい、ソフィアに婚約者になってもらおう。
厳しい教育を受けている彼女なら、今までも問題なかった。
シルビアとの婚約を解消しなければならないのは心苦しいが、彼女への愛が消えたわけではない。
今まで通り、彼女のことは愛している。
それさえシルビアに伝われば、きっと彼女だって納得してくれるはずだ。
「なあ、シルビア……」
部屋で二人きりになった時、私は切り出した。
「やはり、私たちは愛人の関係に戻らないか?」
私は、勇気を出して彼女に言った。
「……え?」
当然、彼女は驚いていた。
せっかくこれから二人の新たな人生が始まったのに、こんなことを言われたのだから、驚くのも無理はない。
「その……、ほら、私の婚約者になると、いろいろと面倒なパーティにも参加しなければならなくなるよ。そういうのは、君も煩わしいだろう?」
常識のない君を社交界で人前に晒すことなんてできない、なんてはっきりとは言えるはずもない。
だから私は、彼女が納得しそうな言葉を選んだ。
「いえ、そんなことないわよ。あなたと一緒なら、社交界も煩わしいとは思わないわ。むしろ、楽しみなくらいよ」
それが、彼女から返ってきた答えだった。
なんてことだ……。
私は次の言葉に詰まっていた。
なんとかして、彼女を説得しなければ……。
「ほら……、社交界には、いい人がほとんどだけれど、少しは、嫌な人もいる。君に、そういう面倒ごとに巻き込まれてほしくないんだ」
何とか言葉を選んで、私は彼女にそう伝えた。
しかし……。
「その時は、あなたが守ってくれるのでしょう? 何も問題なんてないわ」
彼女は笑顔でそう言うのだった。
ダメだ……、まったく思い通りに行かない。
彼女を社交界に出すわけにはいかない。
常識のないわがままな彼女が問題を起こすことは、目に見えているからだ。
しかし、愛する彼女に、面と向かってそう言うわけにはいかない。
「お願いだ……、シルビア。愛人に戻ってほしい。私はソフィアと婚約し直すつもりだ。公には発表していないから、あっさりと元に戻すことができるだろう。そうすれば、君は社交界に出なくてもよくなるから、余計なことで気をもまなくてもよくなる。いい考えだと思うんだが、ダメかな……」
「……どうして、そんなに愛人関係に戻りたいの?」
シルビアが、私に鋭い視線を向けながら言った。
「それは……」
私は言葉に詰まった。
今までの言葉では、彼女は納得しなかったようだ。
しかし、だからといって正直に、「君は自分勝手でわがままだから、社交界で問題を起こされると困るからだ」なんて言えるはずもない。
私はシルビアのことを、愛している。
愛する人に、そんな傷つくような言葉をかけるなんてできない。
私はシルビアのわがままなところも個性の一つだと思って愛おしく思っているが、ほかの人がそう受け取る可能性はほとんどない。
眉を顰められ、反感を買い、大きな問題に発展することもあるだろう。
私はただ、それを避けたいだけなのだ。
シルビアとは遊びだから愛人に戻りたいと言っているわけではない。
「……もしかして、お姉さまのことが、好きになったの? だから、私を愛人に戻して、お姉さまと婚約したがっているの!?」
シルビアが、怒った表情で声をあげた。
「いや、待ってくれ。そうじゃない。私が愛しているのは、君だけだ。これは、君のためを思って言っているんだ」
本当は自分のためを思って言っている。
彼女が問題を起こせば、恥をかくのは私なのだ。
「だから私は、問題なんてないって言っているでしょう!? どうしてわかってくれないの!? 愛人に戻るなんて嫌よ!」
彼女の声は、だんだん大きくなってきた。
「君こそ、どうしてわかってくれないんだ! 私は本当に、君のことを愛しているんだ! 少しは私の言うことを聞いてくれ! どうして君は、そんなにわがままなんだ!?」
私も、つい声が大きくなってしまった。
最後の一言は、完全に余計だった。
しかし、あまりにも彼女が言うことを聞かないので、つい言ってしまった。
「……何よ、それ。どうしてそんなひどいことを言うの? 私のことを思って言っているって言っていたけれど、本当はお姉さまとのよりを戻したいだけなんでしょう!? もう、あなたなんて知らない! 今すぐ部屋から出て行って!」
シルビアは、涙を流しながら私に怒鳴った。
私もこれ以上話しても、余計に彼女を刺激してしまうだけだと思い、部屋から出た。
そして、外の空気を吸いたいと思ったので、町を歩き始めた。
「どうして、わかってくれないんだ……」
シルビアとは愛人関係で、ソフィアと婚約する。
そして、私は今まで通り、シルビアに愛情を注ぐ。
それが、一番いい収まり方なのに、どうしてうまくいかないんだ……。
まあ、シルビアもさっきは興奮していたけれど、時間が経って落ち着いたら、きっとわかってくれるだろう……。
そう思って私は、ソフィアを探すことにした。
屋敷を追放されてから彼女がどうしているのか、私にはわからない。
しかし、いきなり土地勘のない場所へ一人で行くとは考えずらい。
きっとこの町のどこかにいるはずだ。
そう思って私は、彼女を探し始めた。
*
(※シルビア視点)
「どうしてなのよ、ジェイソン……」
私は部屋で一人、悲しみに暮れていた。
どうして、愛人関係に戻ろうなんて言うの?
やっと堂々と二人きりで会えるようになったのに、それを拒むようなことをするのよ……。
私のことは、所詮遊びだったの?
本当は、お姉さまとのよりを戻したいから、それらしい理由で、私を丸め込もうとしたんでしょう?
私はあなたのことを愛しているのに、酷いわ……。
ふと、窓から外を見下ろした。
そこには、歩いているジェイソンの姿があった。
どこへ行っているのかしら……。
まさか、私に隠れて、お姉さまに会う気?
そして、本当は愛していると伝えて、よりを戻すつもりなんでしょう!?
ハッキリとは言わないけれど、私のことなんて、所詮はお遊びだったのでしょう?
どこへ向かっているのか、確かめてやるわ……。
私は急いで部屋を出て、ジェイソンのあとをつけ始めた。
私は決心した。
やはり、シルビアは婚約者として相応しくない。
彼女のことはもちろん愛しているが、社交界で彼女がうまくやっていけるとは思えない。
ここはやはり、今まで通り、彼女には愛人のままでいてもらい、ソフィアに婚約者になってもらおう。
厳しい教育を受けている彼女なら、今までも問題なかった。
シルビアとの婚約を解消しなければならないのは心苦しいが、彼女への愛が消えたわけではない。
今まで通り、彼女のことは愛している。
それさえシルビアに伝われば、きっと彼女だって納得してくれるはずだ。
「なあ、シルビア……」
部屋で二人きりになった時、私は切り出した。
「やはり、私たちは愛人の関係に戻らないか?」
私は、勇気を出して彼女に言った。
「……え?」
当然、彼女は驚いていた。
せっかくこれから二人の新たな人生が始まったのに、こんなことを言われたのだから、驚くのも無理はない。
「その……、ほら、私の婚約者になると、いろいろと面倒なパーティにも参加しなければならなくなるよ。そういうのは、君も煩わしいだろう?」
常識のない君を社交界で人前に晒すことなんてできない、なんてはっきりとは言えるはずもない。
だから私は、彼女が納得しそうな言葉を選んだ。
「いえ、そんなことないわよ。あなたと一緒なら、社交界も煩わしいとは思わないわ。むしろ、楽しみなくらいよ」
それが、彼女から返ってきた答えだった。
なんてことだ……。
私は次の言葉に詰まっていた。
なんとかして、彼女を説得しなければ……。
「ほら……、社交界には、いい人がほとんどだけれど、少しは、嫌な人もいる。君に、そういう面倒ごとに巻き込まれてほしくないんだ」
何とか言葉を選んで、私は彼女にそう伝えた。
しかし……。
「その時は、あなたが守ってくれるのでしょう? 何も問題なんてないわ」
彼女は笑顔でそう言うのだった。
ダメだ……、まったく思い通りに行かない。
彼女を社交界に出すわけにはいかない。
常識のないわがままな彼女が問題を起こすことは、目に見えているからだ。
しかし、愛する彼女に、面と向かってそう言うわけにはいかない。
「お願いだ……、シルビア。愛人に戻ってほしい。私はソフィアと婚約し直すつもりだ。公には発表していないから、あっさりと元に戻すことができるだろう。そうすれば、君は社交界に出なくてもよくなるから、余計なことで気をもまなくてもよくなる。いい考えだと思うんだが、ダメかな……」
「……どうして、そんなに愛人関係に戻りたいの?」
シルビアが、私に鋭い視線を向けながら言った。
「それは……」
私は言葉に詰まった。
今までの言葉では、彼女は納得しなかったようだ。
しかし、だからといって正直に、「君は自分勝手でわがままだから、社交界で問題を起こされると困るからだ」なんて言えるはずもない。
私はシルビアのことを、愛している。
愛する人に、そんな傷つくような言葉をかけるなんてできない。
私はシルビアのわがままなところも個性の一つだと思って愛おしく思っているが、ほかの人がそう受け取る可能性はほとんどない。
眉を顰められ、反感を買い、大きな問題に発展することもあるだろう。
私はただ、それを避けたいだけなのだ。
シルビアとは遊びだから愛人に戻りたいと言っているわけではない。
「……もしかして、お姉さまのことが、好きになったの? だから、私を愛人に戻して、お姉さまと婚約したがっているの!?」
シルビアが、怒った表情で声をあげた。
「いや、待ってくれ。そうじゃない。私が愛しているのは、君だけだ。これは、君のためを思って言っているんだ」
本当は自分のためを思って言っている。
彼女が問題を起こせば、恥をかくのは私なのだ。
「だから私は、問題なんてないって言っているでしょう!? どうしてわかってくれないの!? 愛人に戻るなんて嫌よ!」
彼女の声は、だんだん大きくなってきた。
「君こそ、どうしてわかってくれないんだ! 私は本当に、君のことを愛しているんだ! 少しは私の言うことを聞いてくれ! どうして君は、そんなにわがままなんだ!?」
私も、つい声が大きくなってしまった。
最後の一言は、完全に余計だった。
しかし、あまりにも彼女が言うことを聞かないので、つい言ってしまった。
「……何よ、それ。どうしてそんなひどいことを言うの? 私のことを思って言っているって言っていたけれど、本当はお姉さまとのよりを戻したいだけなんでしょう!? もう、あなたなんて知らない! 今すぐ部屋から出て行って!」
シルビアは、涙を流しながら私に怒鳴った。
私もこれ以上話しても、余計に彼女を刺激してしまうだけだと思い、部屋から出た。
そして、外の空気を吸いたいと思ったので、町を歩き始めた。
「どうして、わかってくれないんだ……」
シルビアとは愛人関係で、ソフィアと婚約する。
そして、私は今まで通り、シルビアに愛情を注ぐ。
それが、一番いい収まり方なのに、どうしてうまくいかないんだ……。
まあ、シルビアもさっきは興奮していたけれど、時間が経って落ち着いたら、きっとわかってくれるだろう……。
そう思って私は、ソフィアを探すことにした。
屋敷を追放されてから彼女がどうしているのか、私にはわからない。
しかし、いきなり土地勘のない場所へ一人で行くとは考えずらい。
きっとこの町のどこかにいるはずだ。
そう思って私は、彼女を探し始めた。
*
(※シルビア視点)
「どうしてなのよ、ジェイソン……」
私は部屋で一人、悲しみに暮れていた。
どうして、愛人関係に戻ろうなんて言うの?
やっと堂々と二人きりで会えるようになったのに、それを拒むようなことをするのよ……。
私のことは、所詮遊びだったの?
本当は、お姉さまとのよりを戻したいから、それらしい理由で、私を丸め込もうとしたんでしょう?
私はあなたのことを愛しているのに、酷いわ……。
ふと、窓から外を見下ろした。
そこには、歩いているジェイソンの姿があった。
どこへ行っているのかしら……。
まさか、私に隠れて、お姉さまに会う気?
そして、本当は愛していると伝えて、よりを戻すつもりなんでしょう!?
ハッキリとは言わないけれど、私のことなんて、所詮はお遊びだったのでしょう?
どこへ向かっているのか、確かめてやるわ……。
私は急いで部屋を出て、ジェイソンのあとをつけ始めた。
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