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 (※エリオット視点)

 僕はシンシアと一緒に、学園祭を楽しんでいた。

 なんだろう……、こんな気持ちは初めてである。
 自分でいうのもなんだけれど、僕は女子からよくデートの誘いを受ける。
 しかし、デートの最中に毎回、僕は女子たちの機嫌を損ねてしまっていた。
 その原因は、僕にある。
 僕はべつにシスコンというわけではないけれど、カトリーの話題をよく持ち出す。
 そして、僕とデートしている女子は、自分がいるのにほかの女性の話をされるのが面白くないらしく、一回のデートでそれっきりということが何度かあった。

 僕はそれ以降少し学んで、女子とデートしている時は、彼女たちに気を遣ってカトリーの話題を控えるようになった。
 シスコンではないので、それくらいの我慢はできる。
 しかし、何の因果か、うっかりと無意識のうちに、ぽろっとカトリーのことを話してしまうのだ。
 それで、デートはそれっきりとなってしまっていた。

 そんな僕だけれど、シンシアと一緒に回る今日の学園祭は、心から楽しんでいた。

 シンシアとは、これまでにハワードの家に行った時などに、何度も話したことがある。
 しかし、二人きりというシチュエーションは初めてだった。
 最初のうちは、彼女に気を遣ってカトリーの話題は避けていた。
 しかし例のごとく、シスコンではないはずの僕は、なぜかうっかり彼女の話題を口にしてしまっていた。
 しまった、と思ったが、意外にもシンシアは嫌な顔一つせず、僕の話に付き合ってくれた。

 一応さりげなく、自然な感じで、「今までデートした女子は、カトリーの話題を出すと不機嫌になっていたけれど、君は平気なの?」とシンシアに聞いてみたところ、「私はシスコンに理解があるので大丈夫です」というのが彼女の返答だった。

 そうか……、彼女には、シスコンの兄であるハワードがいる。
 だから、こんなことには慣れているということか。
 まあ、僕はシスコンではないけれど。
 しかし、シスコンと言われること自体は嫌いではない。
 いつまでも変わらないカトリーへの愛情を、まるで褒められているように感じるからだ。

「さて、次はカトリーのクラスへ行こうか。変わった飲み物や食べ物を提供しているそうだよ」

「いいですねぇ。行きましょう、行きましょう」

 僕たちは、カトリーのクラスへ向かった。
 この楽しい時間が、もっと続くと思っていた。
 しかし、この楽しい学園祭はいつまでも続かなかった。

 以前僕に告白してきた彼女が、をしてしまったせいで……。
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