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「私は勘違いしていました。殺人未遂事件では、被害者はレンガで殴られたと思っていましたが、そうではありません」

「いえ、発見されたレンガには確かに、被害者の血がついていました。あのレンガが凶器だったことは間違いありませんよ」

「ええ、レンガが凶器だったのは、間違いありません。しかし、加害者はレンガで殴ったのではなく、高いところからレンガを落として、被害者に当てたのです」

「え……、いったい、どういうことですか?」

「まず、あの本屋の近くにある建物で屋上があるのは、窃盗事件があった建物だけです。ほかの建物の二階の窓からという可能性も、ないわけではありませんが、位置的にも高さ的にも、その可能性はほとんどゼロです。つまり犯人は、あの建物の屋上から、レンガを落としたのです」

「まさか……、犯人はあの屋上で待ち伏せするために、あの建物に侵入したということですか?」

 レナードさんは目を見開いていた。

「ええ、その通りです。そして、そのことがバレないようにするために、窃盗犯の犯行に見えるように偽装したのです。犯人は、あの屋上で被害者が来るのを待っていました。屋上なら被害者が来たらすぐにわかりますし、周りの人たちに見られる心配もありません。おそらく、被害者の人があの時間に本屋に行くことを知っていたのでしょう。だから、待ち伏せすることができた。そして、被害者が本屋に入ったあとは、レンガを構えて待っていればいいだけです」

「なるほど、それで被害者が本屋から出てきてから、被害者に向けてレンガを落としたわけですね」

「ええ、その通りです。幸い被害者は傘を差していたので、それで少しはダメージを軽減できたわけですが……」

 言っている途中で、私は気付いた。

「あの……、どうかされましたか?」

 レナードさんが、私の顔を伺っている。

 そうだわ……、なんで気付かなかったの?
 あの日は雨が降っていた。
 だから、被害者は本屋を出る時、傘を差した。
 当然、本屋に来るときも傘を差していた。
 
 それなら、どうやって、目標の人物を認識していたのか……。
 答えは簡単、傘を目印にしていたのだ。
 目標の人物は傘を差していて、犯人は屋上にいたのだから、顔どころか、服装もほとんど見えなかっただろう。
 犯人は、傘を目印にして犯行に及んだ。
 
 要するに、犯人がレンガを落とそうとしていた目標の人物は、あの傘の持ち主だったということである。
 そしてあの傘の持ち主は、実際に被害にあった人ではない。
 私があの傘を差して、あの本屋に入った。

 つまり、犯人が狙っていたのは、私だったのだ……。
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