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 夜になって、サムが一人で別荘にやってきた。

 彼はよく、ここへやってくる。
 実家にはあまり帰らず、よくここへ来ているのは以前からのことだった。
 でも、以前は彼と頻繁に会えるのが、嬉しかった。
 そして、今は言うまでもなく、地獄である。

「おい、今月も金をよこせ」

 サムに言われて、私は彼の言う通り、お金を渡した。
 これは、いつものことだ。
 でも、以前はこんな言い方はしなかった。
 もっと申し訳なさそうに、困った顔で言っていた。
 しかし、今にして思えば、あれも演技だったのだ。

 彼とボニーのデートのお金を、私は知らずに払っていたことになる。
 屈辱だけれど、今更知ったところで、どうにもならない。

「ねえ、サム、ボニーのことで話があるのですけれど……」

 私は声を震わせながら言った。
 これは、きちんと彼に伝えておかないと、もしかしたら、一緒にいる私まで被害を被ることになるかもしれない。

「なんだ? なにか文句でもあるのか?」

 彼が私を睨みつけながら言った。
 彼がこんなにも恐ろしい表情をするなんて、ほんの最近まで知らなかった。
 こんな一面、知りたくはなかった……。

「いえ、そうではありません。ただ、彼女の噂のことを、あなたが知っているか確かめようと思って……」

「噂だと?」

「ええ、そうです。彼女は遊び人で、男をとっかえひっかえしているのです。それに、その男たちを都合よく利用して──」

「ボニーのことを悪く言うな!」

 私の言葉は、彼の突然の怒鳴り声にかき消された。

「彼女のことを悪く言うことは許さないぞ」

「いえ、でも、噂は本当なのです。この町の女性なら、大半の人は知っている噂ですし、実際に私もそういう場面を何度か見たことがあります。あなたも彼女にとっては、都合のいい存在であると──」

 彼のビンタによって、私はそれ以上言うことができなかった。
 私は床に倒れ、頬を押さえていた。

「いい加減にしろ! 彼女はそんなに尻軽じゃない! 確かにお前の監視も、彼女の男友達に任せてある。だが、それは彼女に人望があるからだ。けっして、お前の言うような尻軽な女だからではない! 彼女は確かに、よくほかの男といることもあるが、彼女が愛しているのは、このおれだけだ! おれと、ほかの有象無象どもとの間には、越えられない壁がある! おれだけが、彼女にとって、特別な存在なんだ!」

 彼は肩で息をしながら、興奮していた。
 これ以上私が何か言っても、また暴力を振るわれるだけだろう……。

「わかりました……。それでは、好きにしてください……」

 私はきちんと、警告しましたよ?
 これで責任は果たしました。

 だからもし、彼女のせいで身を滅ぼすことになっても、私を恨まないでくださいね?
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