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 私たちは王宮のある中心街へ向かって、途中で寄り道をしつつ、のんびりと帰っていた。

 お父様は、爵位を剥奪されたみたいだ。
 だから、私が当主になる。

 屋敷は、どうしよう……。
 事件現場となった屋敷に戻るのは、なんとなく気が引ける。

 以前、使用人が盗みをしていたのをきっかけに、お父様が使用人を全て首にしたので、屋敷には誰もいない。
 今まで使っていたのは小さいほうの棟だけれど、あそこはもう使いたくない。
 あそこにいても、悪い思い出ばかりを思い出してしまうから。
 
 お父様は使用人を全員をクビにして、それ以降誰も雇わないなんて極端なことをしていたけれど、私は、そこまでしようとは思わない。
 べつに、信頼できる人であれば、雇ってもいいと思っている。

 あの屋敷で一人というのは、少し寂しい。
 私が雇ってもいいと思えるような、信頼できる人といえば……。
 まあ、これからのことは、あとでゆっくりと考えよう。
 
 さて、私たちがいる場所は、中心街から随分と離れている。
 のんびりと寄り道をして帰れば、数日はかかる。
 でも、羽を伸ばすのにはちょうどいい。

 ここ最近は、本当に大変だった。
 牢獄に入れられたり、処刑されそうになったり……、ほかにも、本当にいろいろあった。
 さすがに、少し疲れたので、今くらいはのんびりしても、許されるはず。

 とりあえず今は、いろいろなことを忘れて、アンドレさんと二人で過ごす時間を楽しもうと思った。

     *

 (※ウィリアム視点)

 私はヘレンと共に、ある場所に向かっている。

 平民としての生活は、想像していたものとは、まったく違っていた。
 てっきり、一生暮らせるくらいの財産は与えられると思っていたけれど、そんなことはなかった。
 私に与えられたのは、小さな家と僅かな財産のみ。
 今までのような生活をしていれば、あっという間に底を尽きてしまうほどの額しか、与えられなかった。

 このままでは、質素な生活をしたとしても、数か月しか持たないだろう。
 何とかしなければ……。

 私とヘレンは、これから生活することになる家に着いた。
 その家を見た第一声は……。

「なんだこれは……、小屋か?」

「これからずっと、こんなところで生活するの?」

 今までいた王宮に比べると、小屋同然の建物だった。
 この建物が、現在の私たちの状況を象徴しているかのようだった。
 そうだ……、私たちは、平民になったのだ……。
 わかってはいたけれど、ようやく、そのことが現実のこととして認識され始めた。

 とりあえず、家の中に入った。
 なんというか……、最低限のものしかない、という印象だ。
 これからずっと、こんなところで暮らすのか……。
 まずは、一つずつ問題を解決していかなければならない。

 もっとも切迫した問題は、金銭面でのことだ。
 このまま普通にここで暮らしていても、いずれ金は尽きてしまう。
 ということは、つまり……。

「これからは、働かなければならないのか……」

 私は大きなため息とともに呟いた。
 そして、今まで働いたことのない私には、ここから地獄のような試練が待っているのだった……。
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