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 (※キティ視点)

 私は、ハンクにウィリーとの浮気のことは何も聞かなかった。

 彼は私のところへ戻ってきてくれたのだから、過去を蒸し返す必要はない。
 今では私たちの仲も元通りで、幸せな日々を送っていた。
 ハンクも少しずつ元気が戻ってきて、今では完全に元通りだ。

 浮気を知った時は本当にどうしようかと思ったけど、乗り越えることができた。
 あれだけのことを乗り越えたのだから、これからどんな困難がやってきても、私たちならきっと大丈夫だわ。

 そう思っていたのに……。

     *

 (※フレデリック視点)

 私の生活は、順調だった。

 一時はどん底だったが、ハンクと出会ってから、私の人生は変わった。 
 シガンスキー病を治せる医者となった私は、富と名声を手にした。
 そして、今までやったこともない、新しい遊びも見つけた。

 私は今日も、ギャンブル場に来ていた。

 始めてからまだ数日だが、相変わらず私は勝ち続けている。
 どうやら私には、ポーカーの才能があるらしい。
 テーブルに着き、ゲームが始まった。
 私は配られた二枚のカードを確認した。

 よし、なかなかいい手だ。
 相手の顔を確認すると、何人か初めて見る顔もいた。
 まあ、ここでは私の方が新人なので、そんな私にとっては、まだ出会っていない相手はたくさんいる。
 めくられていくカードを見て、私は笑みを浮かべた。

「コール」

 いい感じになってきた。
 たぶん、これならいける。

「レイズ」

 しかし、相手も引かない。
 それでも私は、勝負することを選んだ。

 今の私はついている。
 今までも、勝ってきたんだ。
 今日だって、きっと勝てる。

「コール」

 手札を開示した。
 しかし結果は、私の負けだった。
 私はショックのあまり、言葉が出なかった。

 勝った男は、私からチップを回収しながら、こちらを向いてニヤニヤと笑みを浮かべている。

「あんた、初心者だろう? いるんだよなぁ。ビギナーズラックでたまたま勝っていただけなのに、それが自分の実力や才能だと思いこむ馬鹿が……。カモにしていた奴が最近は来なくなって寂しかったけど、あんたでしばらくは遊べそうだな」

 舞台俳優のようなキザな男が、私に向けてそう言った。
 その言葉は、私の理性を失わせるのには充分だった。

 今日はこの男に勝つまで、絶対に帰るわけにはいかない!

 そう意気込んで勝負に臨んだのだが……。

 おかしい……、どうしてだ……。
 何度やっても勝てない。

 私に屈辱を与えた、この俳優気取りの若造にだけは、絶対に負けたくなかった。
 しかし、結果は私の望むものではなかった。

 私には、実力や才能があったのではなかったのか?
 本当に彼の言う通り、私が今まで勝てていたのは、ビギナーズラックのおかげだとでもいうのか?
 実際の私は、実力が伴っていない初心者だとでもいうのか?

 そんなバカな……。

 何度やっても、勝てない。
 負けた分を取り返そうと、無茶な勝負を何度も繰り返し、あっさりと負けてしまう。
 それを何度も繰り返した。

 頭では降りるべきだと考えていても、心のどこかから、今度こそはという気持ちが沸いてきて、冷静な判断ができていなかった。
 認めたくはないが、今の私は完全にカモだ。
 こんなはずではなかったのに……。

 神は私を、見捨てたのか?

 ……いや、そんなはずはない。
 今はたまたま、私ではなく彼にツキが回っているだけだ。
 根気強く勝負を続けていれば、そのうち私が勝てるはずだ。
 この私をバカにしたこいつには、絶対に負けたくない。

 こんな俳優気取りの若造に、この私が負けるなど、あるはずがない。
 私はシガンスキー病に苦しむ人々を救ってきた英雄だぞ。
 それがこんな、軽薄そうなやつに負けるなんて、あるはずがない。
 
 次こそは、私が勝つ。
 何度もそうやって意気込んだ。
 しかし、一回も奴に勝つことはできなかった。

 高い授業料だった、という言葉で済ませられることができればいのだが、今の私にはそんな余裕などなかった。
 ついに、借金まで背負ってしまったのだ。
 
 私はこれから、どうすればいいんだ?
 とても、返済期間内に返せる額ではない。
 そして、返さなければどうなるかということくらい、私にだってわかる。
 
 どん底から這い上がって、楽しい毎日を送っていたのに、またどん底に逆戻りだ。
 私はいったい、どうすれば……。

 絶望に包まれ、気づけば涙が溢れそうになっていた……。
 しかしその時、私の頭に、ある考えが浮かんだ。
 
 そうだ……、に頼めば、お金のことは何とかなるかもしれない。
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