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美しいカーテシーをして、友人のステフ…ステファニー・アードラー公爵令嬢が退室した。

彼女は私の弟、リックベルと婚約関係にある。…のだが、あまり上手くいっていない様子だ。

問題はリックの方にあるのだろうことは想像に難くない。姉である、アリシアのことを、どうにも認めていないのだ。

普段から、お互いに会話らしい会話をしていないというのもあるが…。


「お姉様はこんなにも可愛らしいというのに…狭量な男ね…。」


愛でようとは思わないのだろうか。

私は、そんな二人の今後を思いつつ、気持ち良さそうに眠る姉の髪を撫でるのだった。






姉を愛でつつ紅茶を飲み終わった頃。
トントンッと扉が叩かれる。
入ってきたのは、リック…とお父様とお母様。

「なにか…ありましたか?」

驚いて、つい聞いてしまった。口を開いたのはお父様。

「今日は、ステファニー嬢と茶会をしたらしいな」

「そうですが…。」

「どうしてリックを呼ばなかった?」

「…呼んで欲しかったのですか?リック。」

「最近なかなか話す機会がありませんでしたので、来ているのであれば、一言欲しかったですね。」


リックの口調から、言わされているように聞こえた。

(まあ、ステフはお姉様がお好きなので、あの場に呼べば、リックは居心地があまり良くなかったでしょう。)

「では、次はリックに一言伝えるようにしますね。またお手紙にてご連絡がございますの。」

「…宜しくお願いします。クリスお姉様。」


弟の顔はあまり宜しくなさそうだ。
そんな彼を心配そうに見つめるお父様。そして、おそらく緩衝材を買って出てくれたお母様が申し訳無さそうな顔をしている。

「ごめんなさいね、クリス。せっかくのお茶会の後だったのに。」

「いえ、気にしてはおりませんわ、お母様。」

「シアの調子はどう?ちゃんと食事は取れてる?」

「はい。なんとか昼食は食べて頂けましたわ。」

「そう。それなら良かったわ。」



「ナーシャ…。」

「あなた、シアもあなたの娘なのですよ?同時に、わたくしの娘でもあります。」

「しかしだな」

「しかしもかかしもありません。」

「お父様、お母様も。あまり騒ぎ立ててはお姉様が起きてしまいますわ。」

「あら、ごめんなさい。」

「…」

段々と音量が高くなっていく二人に、思わず一言。
お姉様の体勢も、まるで周りの音をシャットダウンするかのように、モゾモゾと身体を丸めて、私のお腹にお顔をうずめてしまっていた。
思わず目を細めてしまった。



しかし、リックはそれが面白くなかったのだろう。

「クリスお姉様。…いつまで、そのような生活をするおつもりですか?」


「…そのような生活とは?」

「っ…四六時中ずっと世話を焼く生活のことです。」

「わたくしが好きでやっていることですわ。」

「ですが…!」

「何か、問題でもありまして?」

「…学園でもそうされるおつもりですか?」

「もちろん」

「…皆にどう思われるか想像できない訳ではないでしょう?」

「わたくしは気になりませんわ。そして、お姉様を放って置くことも、わたくしにはできません。」

「どうして…」

「お姉様が安心して過ごせる場所は、わたくしの側しか有り得ませんもの。」

「…っ。」

「そんな目で見られても、お姉様は渡しませんわよ。」

「そr…コホン。…そのようなことで怒っているのではありません。」

「ふふ。…まあ、お母様が説明してくださらない限り、貴方が理解できるとは思いませんわ。理解してもらおうとも思いませんが。」

お父様は、私たちの会話を黙って聞いていたが、次第に私を睨みつけるようにジッと見ていた。彼も、どうやら私の言い分に不満があるようだ。

何も言わないのは、お母様が居るからだろう。彼は彼女に頭が上がらないのだ。
もともとの立場も入り婿。現在も、お母様が居ない場合の代行に過ぎない。


「…続きは夕食後にいたしませんか?」

あまり居心地の良くない家族の団欒は、私のこの一言が出るまで続いた。



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