3 / 20
2
しおりを挟む
美しいカーテシーをして、友人のステフ…ステファニー・アードラー公爵令嬢が退室した。
彼女は私の弟、リックベルと婚約関係にある。…のだが、あまり上手くいっていない様子だ。
問題はリックの方にあるのだろうことは想像に難くない。姉である、アリシアのことを、どうにも認めていないのだ。
普段から、お互いに会話らしい会話をしていないというのもあるが…。
「お姉様はこんなにも可愛らしいというのに…狭量な男ね…。」
愛でようとは思わないのだろうか。
私は、そんな二人の今後を思いつつ、気持ち良さそうに眠る姉の髪を撫でるのだった。
姉を愛でつつ紅茶を飲み終わった頃。
トントンッと扉が叩かれる。
入ってきたのは、リック…とお父様とお母様。
「なにか…ありましたか?」
驚いて、つい聞いてしまった。口を開いたのはお父様。
「今日は、ステファニー嬢と茶会をしたらしいな」
「そうですが…。」
「どうしてリックを呼ばなかった?」
「…呼んで欲しかったのですか?リック。」
「最近なかなか話す機会がありませんでしたので、来ているのであれば、一言欲しかったですね。」
リックの口調から、言わされているように聞こえた。
(まあ、ステフはお姉様がお好きなので、あの場に呼べば、リックは居心地があまり良くなかったでしょう。)
「では、次はリックに一言伝えるようにしますね。またお手紙にてご連絡がございますの。」
「…宜しくお願いします。クリスお姉様。」
弟の顔はあまり宜しくなさそうだ。
そんな彼を心配そうに見つめるお父様。そして、おそらく緩衝材を買って出てくれたお母様が申し訳無さそうな顔をしている。
「ごめんなさいね、クリス。せっかくのお茶会の後だったのに。」
「いえ、気にしてはおりませんわ、お母様。」
「シアの調子はどう?ちゃんと食事は取れてる?」
「はい。なんとか昼食は食べて頂けましたわ。」
「そう。それなら良かったわ。」
「ナーシャ…。」
「あなた、シアもあなたの娘なのですよ?同時に、わたくしの娘でもあります。」
「しかしだな」
「しかしもかかしもありません。」
「お父様、お母様も。あまり騒ぎ立ててはお姉様が起きてしまいますわ。」
「あら、ごめんなさい。」
「…」
段々と音量が高くなっていく二人に、思わず一言。
お姉様の体勢も、まるで周りの音をシャットダウンするかのように、モゾモゾと身体を丸めて、私のお腹にお顔を埋めてしまっていた。
思わず目を細めてしまった。
しかし、リックはそれが面白くなかったのだろう。
「クリスお姉様。…いつまで、そのような生活をするおつもりですか?」
「…そのような生活とは?」
「っ…四六時中ずっと世話を焼く生活のことです。」
「わたくしが好きでやっていることですわ。」
「ですが…!」
「何か、問題でもありまして?」
「…学園でもそうされるおつもりですか?」
「もちろん」
「…皆にどう思われるか想像できない訳ではないでしょう?」
「わたくしは気になりませんわ。そして、お姉様を放って置くことも、わたくしにはできません。」
「どうして…」
「お姉様が安心して過ごせる場所は、わたくしの側しか有り得ませんもの。」
「…っ。」
「そんな目で見られても、お姉様は渡しませんわよ。」
「そr…コホン。…そのようなことで怒っているのではありません。」
「ふふ。…まあ、お母様が説明してくださらない限り、貴方が理解できるとは思いませんわ。理解してもらおうとも思いませんが。」
お父様は、私たちの会話を黙って聞いていたが、次第に私を睨みつけるようにジッと見ていた。彼も、どうやら私の言い分に不満があるようだ。
何も言わないのは、お母様が居るからだろう。彼は彼女に頭が上がらないのだ。
もともとの立場も入り婿。現在も、お母様が居ない場合の代行に過ぎない。
「…続きは夕食後にいたしませんか?」
あまり居心地の良くない家族の団欒は、私のこの一言が出るまで続いた。
彼女は私の弟、リックベルと婚約関係にある。…のだが、あまり上手くいっていない様子だ。
問題はリックの方にあるのだろうことは想像に難くない。姉である、アリシアのことを、どうにも認めていないのだ。
普段から、お互いに会話らしい会話をしていないというのもあるが…。
「お姉様はこんなにも可愛らしいというのに…狭量な男ね…。」
愛でようとは思わないのだろうか。
私は、そんな二人の今後を思いつつ、気持ち良さそうに眠る姉の髪を撫でるのだった。
姉を愛でつつ紅茶を飲み終わった頃。
トントンッと扉が叩かれる。
入ってきたのは、リック…とお父様とお母様。
「なにか…ありましたか?」
驚いて、つい聞いてしまった。口を開いたのはお父様。
「今日は、ステファニー嬢と茶会をしたらしいな」
「そうですが…。」
「どうしてリックを呼ばなかった?」
「…呼んで欲しかったのですか?リック。」
「最近なかなか話す機会がありませんでしたので、来ているのであれば、一言欲しかったですね。」
リックの口調から、言わされているように聞こえた。
(まあ、ステフはお姉様がお好きなので、あの場に呼べば、リックは居心地があまり良くなかったでしょう。)
「では、次はリックに一言伝えるようにしますね。またお手紙にてご連絡がございますの。」
「…宜しくお願いします。クリスお姉様。」
弟の顔はあまり宜しくなさそうだ。
そんな彼を心配そうに見つめるお父様。そして、おそらく緩衝材を買って出てくれたお母様が申し訳無さそうな顔をしている。
「ごめんなさいね、クリス。せっかくのお茶会の後だったのに。」
「いえ、気にしてはおりませんわ、お母様。」
「シアの調子はどう?ちゃんと食事は取れてる?」
「はい。なんとか昼食は食べて頂けましたわ。」
「そう。それなら良かったわ。」
「ナーシャ…。」
「あなた、シアもあなたの娘なのですよ?同時に、わたくしの娘でもあります。」
「しかしだな」
「しかしもかかしもありません。」
「お父様、お母様も。あまり騒ぎ立ててはお姉様が起きてしまいますわ。」
「あら、ごめんなさい。」
「…」
段々と音量が高くなっていく二人に、思わず一言。
お姉様の体勢も、まるで周りの音をシャットダウンするかのように、モゾモゾと身体を丸めて、私のお腹にお顔を埋めてしまっていた。
思わず目を細めてしまった。
しかし、リックはそれが面白くなかったのだろう。
「クリスお姉様。…いつまで、そのような生活をするおつもりですか?」
「…そのような生活とは?」
「っ…四六時中ずっと世話を焼く生活のことです。」
「わたくしが好きでやっていることですわ。」
「ですが…!」
「何か、問題でもありまして?」
「…学園でもそうされるおつもりですか?」
「もちろん」
「…皆にどう思われるか想像できない訳ではないでしょう?」
「わたくしは気になりませんわ。そして、お姉様を放って置くことも、わたくしにはできません。」
「どうして…」
「お姉様が安心して過ごせる場所は、わたくしの側しか有り得ませんもの。」
「…っ。」
「そんな目で見られても、お姉様は渡しませんわよ。」
「そr…コホン。…そのようなことで怒っているのではありません。」
「ふふ。…まあ、お母様が説明してくださらない限り、貴方が理解できるとは思いませんわ。理解してもらおうとも思いませんが。」
お父様は、私たちの会話を黙って聞いていたが、次第に私を睨みつけるようにジッと見ていた。彼も、どうやら私の言い分に不満があるようだ。
何も言わないのは、お母様が居るからだろう。彼は彼女に頭が上がらないのだ。
もともとの立場も入り婿。現在も、お母様が居ない場合の代行に過ぎない。
「…続きは夕食後にいたしませんか?」
あまり居心地の良くない家族の団欒は、私のこの一言が出るまで続いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる