65 / 78
番外編 元妻とストーカーの馴れ初め。
巨体と書いて、盾と読む
しおりを挟む「お会いできて光栄です。本日はビーが私用のため、代理で護衛させていただくババロと申します。」
膝を曲げて騎士特有の挨拶をする彼は、その姿が様になっている。
外見から見ても、ビーくんより騎士歴は長いのだろう。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
にこりと微笑みかけて彼に立つよう促せば、ゆっくりと身体を持ち上げた。
上背は王子より小さいが、なかなか頑丈そうな肉体だ。
ビーくんは年もあるが少々細マッチョタイプで、争い事には一抹の不安を覚えていた。
だが、まあ彼なら大丈夫そうだ。
「ババロさんは何がお好き?」
私の唐突の質問に、彼は一瞬戸惑ったように聞き返した。
「せっかく護衛をしてくださるのだから、何かお好きな物を用意しようと思ったのだけど。やっぱりお肉かしら?」
男性はお肉がお好きよね。
そう念を押すように問いかけると、ババロさんは少し目を開いて頷いた。
「確か昨日料理長にミートパイを焼くよう言っておいたの。」
「でしたら、任務が終わり次第頂戴いたし……。」
せっかくですから一緒に食べましょう!
彼が言い終わる前に私の言葉が遮った。
ババロさんの腕に手を回して、早く早くと厨房に引っ張っていく。
強面とは裏腹に大人しくついてくるあたり、彼は存外優しいのかもしれない。
厨房に入れば、突如現れた第二の主人に料理長達が慌てている。
まあ、私に関しては以前の指摘が尾を引いているのだろう。
当然、食事という大事な問題を敵のスパイに任せておくほど私は愚かじゃあない。
「料理長、昨日頼んでおいたミートパイいただけるかしら。」
私がそう言えば、料理長が焼いたばかりであろうミートパイを出した。
焼き立てで美味しそうなそれに、ババロさんが生唾を呑んだ。
「そうだ、美味しい茶葉をこの前取り寄せたの。」
それも一緒にと、私が貯蔵庫に入ろうとして料理長が声を上げる。
私がその声に内心笑って足を進めると、厨房付きの召使が私の手を掴もうと手を伸ばす。
「なぁに?何かやましいことでもあるの?」
その言葉にさっと青ざめた召使に、ふふと微笑んだ。
ババロさんは目を白黒させて、様子のおかしい召使達を見ている。
「あら?これは何かしら?」
そう言って引っ張り出したのは、茶葉の袋に入った白い粉である。
流行の如く、王宮では殺害に紅茶に化けた毒が使われるらしいが、本当だとは思わなかった。
わざとらしくそれを滑り落として、盛大に床にぶちまけた。
私は詫びれる気のない謝罪を言って、料理長に目を向ける。
「こちらは何の粉かしら?白い茶葉なんて聞いたことないのだけれど。」
私が首を傾げると、料理長は釈明のため唇を震わせている。
その他、このことを知っていた召使達も私の問いかけが向いてこないよう域を潜めている。
まだ目を白黒させているババロさんは、どうやらこう言ったことには鈍いらしい。
「誰がこれを持ち込んだの?」
「我々は何も……。」
「見たところ、殺獣剤よね。よく鼠取りとして厨房で用いられるとは聞いていたけれど。」
量が多ければ人もコロリしちゃう代物が、茶葉の袋に扮して置いてあるなんて……。
そこまで言い終えて、やっとババロさんも合点が言ったようだ。
だが、ここで彼らを逮捕と言うのは難しいだろう。
「我々は本当に何も知りません。奥様、どうか信じてください。」
召使達が次々と膝を折って、懇願の形を取る。
ナイフを持って切りかかってくるぐらいすると思ったが、皆己の身が可愛いらしい。
私は小さくため息を吐いて、今回は犯人を見つけられないだろうと落胆した。
「わかりました。あなた方を信じましょう。」
そう言って、置いてあったパイと残り少なくなった毒入りの茶葉の袋を持ってババロさんに向き合った。
「今回の件、私が預からせていただきます。」
戸惑いの色を見せるババロさんに、ニヤリと笑ってパイを手渡す。
「もちろん、報告は旦那様、王妃様にもさせていただきます。」
あなた方は王妃の推薦枠ですから。
その一言に周りが一気に凍りついた。
王子の暗殺を目論んでいた疑いが浮上したのだ。
真っ先に疑われるのは王妃であり、それを防ぐため王妃は共犯者を闇に葬るだろう。
本当は犯人でも祭り上げて、王子に献上したかったが仕方ない。
「それと、焦って辞表なんて出さないようにね。私しつこいから、実家まで追い回すわよ。」
あはははと、高笑いをすればババロくんが額の汗を一筋こぼした。
0
お気に入りに追加
525
あなたにおすすめの小説
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる