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番外編 元妻とストーカーの馴れ初め。

巨体と書いて、盾と読む

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「お会いできて光栄です。本日はビーが私用のため、代理で護衛させていただくババロと申します。」


 膝を曲げて騎士特有の挨拶をする彼は、その姿が様になっている。
 外見から見ても、ビーくんより騎士歴は長いのだろう。
 

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


 にこりと微笑みかけて彼に立つよう促せば、ゆっくりと身体を持ち上げた。
 上背は王子より小さいが、なかなか頑丈そうな肉体だ。
 ビーくんは年もあるが少々細マッチョタイプで、争い事には一抹の不安を覚えていた。
 だが、まあ彼なら大丈夫そうだ。


「ババロさんは何がお好き?」


 私の唐突の質問に、彼は一瞬戸惑ったように聞き返した。
 

「せっかく護衛をしてくださるのだから、何かお好きな物を用意しようと思ったのだけど。やっぱりお肉かしら?」


 男性はお肉がお好きよね。
 そう念を押すように問いかけると、ババロさんは少し目を開いて頷いた。


「確か昨日料理長にミートパイを焼くよう言っておいたの。」
「でしたら、任務が終わり次第頂戴いたし……。」


 せっかくですから一緒に食べましょう!
 彼が言い終わる前に私の言葉が遮った。
 ババロさんの腕に手を回して、早く早くと厨房に引っ張っていく。
 強面とは裏腹に大人しくついてくるあたり、彼は存外優しいのかもしれない。
 
 厨房に入れば、突如現れた第二の主人に料理長達が慌てている。
 まあ、私に関しては以前の指摘が尾を引いているのだろう。
 当然、食事という大事な問題を敵のスパイに任せておくほど私は愚かじゃあない。


「料理長、昨日頼んでおいたミートパイいただけるかしら。」

 
 私がそう言えば、料理長が焼いたばかりであろうミートパイを出した。
 焼き立てで美味しそうなそれに、ババロさんが生唾を呑んだ。


「そうだ、美味しい茶葉をこの前取り寄せたの。」


 それも一緒にと、私が貯蔵庫に入ろうとして料理長が声を上げる。
 私がその声に内心笑って足を進めると、厨房付きの召使が私の手を掴もうと手を伸ばす。


「なぁに?何かやましいことでもあるの?」


 その言葉にさっと青ざめた召使に、ふふと微笑んだ。
 ババロさんは目を白黒させて、様子のおかしい召使達を見ている。


「あら?これは何かしら?」


 そう言って引っ張り出したのは、茶葉の袋に入った白い粉である。
 流行の如く、王宮では殺害に紅茶に化けた毒が使われるらしいが、本当だとは思わなかった。

 わざとらしくそれを滑り落として、盛大に床にぶちまけた。
 私は詫びれる気のない謝罪を言って、料理長に目を向ける。


「こちらは何の粉かしら?白い茶葉なんて聞いたことないのだけれど。」


 私が首を傾げると、料理長は釈明のため唇を震わせている。
 その他、このことを知っていた召使達も私の問いかけが向いてこないよう域を潜めている。
 まだ目を白黒させているババロさんは、どうやらこう言ったことには鈍いらしい。


「誰がこれを持ち込んだの?」
「我々は何も……。」
「見たところ、殺獣剤よね。よく鼠取りとして厨房で用いられるとは聞いていたけれど。」


 量が多ければ人もコロリしちゃう代物が、茶葉の袋に扮して置いてあるなんて……。
 そこまで言い終えて、やっとババロさんも合点が言ったようだ。
 だが、ここで彼らを逮捕と言うのは難しいだろう。


「我々は本当に何も知りません。奥様、どうか信じてください。」


 召使達が次々と膝を折って、懇願の形を取る。
 ナイフを持って切りかかってくるぐらいすると思ったが、皆己の身が可愛いらしい。
 私は小さくため息を吐いて、今回は犯人を見つけられないだろうと落胆した。


「わかりました。あなた方を信じましょう。」


 そう言って、置いてあったパイと残り少なくなった毒入りの茶葉の袋を持ってババロさんに向き合った。


「今回の件、私が預からせていただきます。」


 戸惑いの色を見せるババロさんに、ニヤリと笑ってパイを手渡す。


「もちろん、報告は旦那様、王妃様にもさせていただきます。」


 あなた方は王妃の推薦枠ですから。
 その一言に周りが一気に凍りついた。
 王子の暗殺を目論んでいた疑いが浮上したのだ。
 真っ先に疑われるのは王妃であり、それを防ぐため王妃は共犯者を闇に葬るだろう。
 本当は犯人でも祭り上げて、王子に献上したかったが仕方ない。


「それと、焦って辞表なんて出さないようにね。私しつこいから、実家まで追い回すわよ。」


 あはははと、高笑いをすればババロくんが額の汗を一筋こぼした。
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