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ストーカーが公式になりました

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「そんな怖い顔しないで。私だってまだよくわかってないの。」
「説明しろ。」
「だから、わからないんだって。最近、気づいたら誰かにつけられてるし、視線を感じるのよねぇ。」


 はぁと、ため息を吐いて光が差すガラス張りの天井を眺めた。


「殺意はないみたいだけど、嫌な感じ。私一人の時ばかり狙ってくるから。」


 ハジメがいれば、すぐさま捕獲して貰えるんだけど。
 残念そうに言ってみせれば、眉を潜めて険しい顔をする大公様。


「彼ら、元は東の国の傭兵なんだよね。訳あって国から追い出されたから、私が傭兵として雇ったの。」
「罪人か?」
「悪い人ではないよ。彼らがいなきゃ、私多分何回も死んでるから。」


 あははと笑って見せれば、彼の眉間のシワはさらに濃くなった。
 傍若無人だなんだと揶揄されるが、女子供には慈悲のある男なのだ。


「当分は、この屋敷から出るな。俺もなるべくいるようにする。」
「いや、ここにいる必要はないよ。この領地にいてさえくればいいから。」


 そう告げて、腰掛けていたソファからすくっと立ち上がった。
 私が恐れているのは死ではなく、無駄な死だ。
 もし仮に暗殺されたとして、大公様がその犯人を見つけ黒幕を暴いてくれるなら、死んだかいがあると言うものだ。
 むしろ、私を狙って襲ってくれた方が早い解決に王手をかけられる。


「私がいつも願うのは、この国、皇帝陛下、そして大公陛下の永遠の繁栄でございます。どうか、反旗を翻す不届き者共を懲らしめ、民達へ平安をもたらしてください。」
「お前も、その民の一人だろう。」
「なんたる幸福、大公陛下は罪深き国賊の私でさえも、一民としてお考えくださるのですね。」


 突如、大声で慇懃無礼な話し方をし始めた私を見て、大公様は唖然とした顔を見せた。
 結婚当初も、私が彼のために作った料理や、掃除をしている姿を見てこんな顔をしていたな。
 あれを思い出しただけでも、今でも笑いがこみ上げてくる。
 私が片膝をゆっくりと地面につけたと同時に、温室に人影が映った。


「何言ってんだ。」
「私、モモラ•クイーンは王妃と結託した上、当時大公陛下を貶めようとこと、ならびに前皇帝陛下に対してはん…っ!」


 私が言葉を発しようとした瞬間、それをかき消すように鋭い何かが私の膝の横に振り下ろされた。
 さすが武神様、見事に私の後方の木々が真っ二つである。
 そしてその木々の真横には、先ほどまで殺されそうになっていた宰相の姿が。


「宰相、今何か聞いたか?」


 ジロリと睨み上げられた宰相は、大きく首を横に振っている。
 あぁ、なんて根性のない宰相でしょう。
 国賊自らが、罪を自白していたのにそれを聞き逃したことにするなんて……。
 あぁ、これでは王都まで連行される作戦が失敗ではないですか。
 どうしたものかと、頭を抱えてため息を吐けば、私の頭上に大きな影が落ちた。


「モモラ……。」
「……はい。なんなりと罰を申し付けてください。」


 振り下ろされた剣にビクビクしながら、彼の言葉を待つ。
 あぁ、きっとこの御屋敷に閉じ込められて、しばらくの間身動きが取れなくなってしまうのだろう。
 全く、これも宰相の根性がないせいである。


「以後、お前を俺の監視下に置く。カフェやその他の仕事には監視をつける。それがお前への罰だ。」
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