3 / 10
商会の会計士
しおりを挟む
「やっぱり、元王族のお屋敷はすごいもんね。」
ほとんど修復も必要とせず、安くついた。
あとは、問題なく王都での商売が軌道に乗れば商会の益々の繁栄が望める。
グッと拳を作り、意気込むように鼻息を荒くすれば、大公が薄く笑って見下ろしている。
「何よ。」
「いや、ホント貴族の面影のカケラもないなと。」
「いいでしょ、私らしくて。」
ふんと鼻を鳴らして、マントを翻して歩けば少し裾が宙を舞う。
すると大公が、今度はなんとも形容しがたい顔で私を見ている。
言葉を紡ぐのが憚られて、すぐにどこかにいるであろうハジメに声をかけた。
「お疲れ様です。……早かったですね。」
「大公が馬車を出してくれたからね。」
「新商品を先に見せてくれるそうだからな。」
いつもの悪どい顔付きで笑って見せた大公に、ふっと息を吐いた。
早速、大公を個室にとハジメに顔を向けると、その本人は眉に皺を寄せている。
「何よ、なんかトラブル?」
私がそう声を掛ければ、大公は察したのか少し首を傾げて、部屋の隅にあるソファーへと足を伸ばした。
……この部屋内の会話くらいなら、全部彼に筒抜けてそうだけれど。
「会計士様が来られて、新店舗の詳細を確認したいと……。」
「マジ?」
聞いてないんだけど?
そう続けようとして、ハジメが私の口を手で塞いだ。
大公に聞かれては不味いと踏んだのか、グイグイと私の腕を引っ張り受付の小部屋に押し込めた。
「あの方、よもや耳まで良いなんてことないですよね?」
「知らないわよ。」
どうするんですか?と、ハジメは声を荒げて私のことを指差した。
「今はビャクが引き止めてますが、ここに来るのも時間の問題ですよ。」
「面倒ね。鉢合わせるのは予定になかった。」
あの子は、スラムの店舗を任せていたし、特に王都に興味もないから近寄らないと思っていたけど……。
どういう風の吹き回しかしら……。
顎に手を当て、小さく息を吐いた。
いずれ対面は避けられないとは思っていたが、今このタイミングは都合が悪い。
支えにする態勢も整っていない中、あの子を表に出すのは非常に面倒が多いのだ。
何より、ハロルドが気付けば、何がなんでもあの子を取りに来るだろう。
どうしたものかと、さらに思考を巡らせるため目を閉じる。
「モモラさん。」
「もうちょっと待って、なんとか方法を。」
「もう手遅れです。」
へ?
ハジメが、呆れたようにため息を吐いて、やれやれと頭を振った。
部屋から顔を出して見えるのは、私と同じ黒い髪の少女が大公の隣に座って笑っている光景。
なにやってんの!?
ほとんど修復も必要とせず、安くついた。
あとは、問題なく王都での商売が軌道に乗れば商会の益々の繁栄が望める。
グッと拳を作り、意気込むように鼻息を荒くすれば、大公が薄く笑って見下ろしている。
「何よ。」
「いや、ホント貴族の面影のカケラもないなと。」
「いいでしょ、私らしくて。」
ふんと鼻を鳴らして、マントを翻して歩けば少し裾が宙を舞う。
すると大公が、今度はなんとも形容しがたい顔で私を見ている。
言葉を紡ぐのが憚られて、すぐにどこかにいるであろうハジメに声をかけた。
「お疲れ様です。……早かったですね。」
「大公が馬車を出してくれたからね。」
「新商品を先に見せてくれるそうだからな。」
いつもの悪どい顔付きで笑って見せた大公に、ふっと息を吐いた。
早速、大公を個室にとハジメに顔を向けると、その本人は眉に皺を寄せている。
「何よ、なんかトラブル?」
私がそう声を掛ければ、大公は察したのか少し首を傾げて、部屋の隅にあるソファーへと足を伸ばした。
……この部屋内の会話くらいなら、全部彼に筒抜けてそうだけれど。
「会計士様が来られて、新店舗の詳細を確認したいと……。」
「マジ?」
聞いてないんだけど?
そう続けようとして、ハジメが私の口を手で塞いだ。
大公に聞かれては不味いと踏んだのか、グイグイと私の腕を引っ張り受付の小部屋に押し込めた。
「あの方、よもや耳まで良いなんてことないですよね?」
「知らないわよ。」
どうするんですか?と、ハジメは声を荒げて私のことを指差した。
「今はビャクが引き止めてますが、ここに来るのも時間の問題ですよ。」
「面倒ね。鉢合わせるのは予定になかった。」
あの子は、スラムの店舗を任せていたし、特に王都に興味もないから近寄らないと思っていたけど……。
どういう風の吹き回しかしら……。
顎に手を当て、小さく息を吐いた。
いずれ対面は避けられないとは思っていたが、今このタイミングは都合が悪い。
支えにする態勢も整っていない中、あの子を表に出すのは非常に面倒が多いのだ。
何より、ハロルドが気付けば、何がなんでもあの子を取りに来るだろう。
どうしたものかと、さらに思考を巡らせるため目を閉じる。
「モモラさん。」
「もうちょっと待って、なんとか方法を。」
「もう手遅れです。」
へ?
ハジメが、呆れたようにため息を吐いて、やれやれと頭を振った。
部屋から顔を出して見えるのは、私と同じ黒い髪の少女が大公の隣に座って笑っている光景。
なにやってんの!?
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる