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「・・・・。」
セサミナ様は大きな声で話し始めた。
「ドーガーさん?ここは王都です。
無職になるということは住む場所がなくなるということ。
なかなかに仕事をやめてから次の仕事探すというのは難しいですよ?
領国ではないんですから。」
「そ、そうなんだ!」
「そうか。それはそうですね。」
「どんなところかわからないところでは働けないでしょ?
コットワッツは遠いし、王都にいる期間はいつも短い。
だから様子を見に来たってことなのでは?」
「そうだ!いや、こちらの方は話がわかるな!
そう!なので中に入れてほしい。」
「なるほど、それは堅実な考えですね。
外の方々も同じなのかな?
コットワッツは今、
いいも悪いも人が寄ってくるんですよ。
コットワッツで働いてくれるのなら大歓迎なんですが、
そうでない方々もいらっしゃるのは事実。
あなたもわかるでしょ?
あのように大騒ぎをして、あなたのように
純粋に来てくれた方の邪魔をする。
ただ働いている院からコットワッツの様子を見てこいと言われただけなのか?
様子と言っても、別段変わったことはないんですが。」
(中に入れようか)
(どこに?)
(展示室でいいだろ?宣伝にもなるしな)
(ああ!)
「ちょうどコットワッツの商品を展示している部屋があります。
そこだったら、わたしどもで案内できますから。
そこならどうですか?」
「・・・・。」
(この人、違うみたいですよ?)
(そのようだ。もう一度防音を)
「少し小さな声で話しましょうか?
どうぞ?後でセサミナ様に確認を取ってから、
中を見学できるようにしましょう。
ドーガーさん?そのように手配を。
あと、向こうにいる方は、スダウト家だ。
おなじように医家でも連れてきたのでしょうか?
追い返されては困るとなにか考えているようですね。
トビヘビが往復している。」
(え?見えませんでした!!)
(嘘だ)
・・・・・。
黙り込んでしまった。
セサミナ様は話を聞くようだ。
(スダウト家の話を聞いておいてくれ。
あとは、中の見学を許可すると。
内部をみてコットワッツで働く気があるのなら、
あらためてコットワッツ領に来いと。雨の日以降だ。
そこで面談するとな)
(それは、あの、どこかの密偵が紛れ込みますよ?)
(かまわん。オート殿を見習おうと思ってな)
(ああ!わかりました)
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
ドーガーがスダウト家と話をしている。
それをまた睨みつけながら、やっと話し始めた。
「・・・・医家の方が診てくれるというのを断るということは、
その、モウ殿の容態は?」
「詳しくは言えないのですよ?というかわかりません。
領主ともう一人の護衛マティスが付きっ切りですから。
ただ、王家専属の医家に診てもらうことをあれは望んでいません。」
「贅沢な!せっかくの機会なのに!
血が出たと聞いている!死ぬかもしれないんだぞ!!」
「ええ。なので、ルポイドに行く予定です。」
「それはどうして?」
「モウの曾祖父、赤い塊ですね。
その方がルポイド元首、エデト殿を治療したらしいんですよ。
なので、どのようにして連絡を取ったのかを聞きに。
すぐに呼べる手段があるのなら同行していたほうがいいでしょ?
それがだめでも、治療の方法を聞けるかもしれない。
なんでも大きなけがをしたとか?
あらゆる所から医家と石使いを呼んで治療をしたらしいですよ?
幸いにも当方の商品を気に入ってくださって、
コットワッツに好意的だ。
無碍にはされないと思うのです。」
皆が知っている話だ。
この男、集まった中で一番違和感があり、焦っていたから呼んだんだが。
なんだろうか?
読み取らないと。
「いつ?」
「この押し寄せている皆皆さまがいなくなればすぐにでも。」
「今から?長旅になる。モウ殿はそれに耐えれるのか?
問題ないほど軽症なのか?」
「ご存じでしょう?マティスさんが移動で運びますよ?
モウさんのことについては心配無用ですよ?」
「・・・・・。同行できないだろうか?」
「?どこに?」
「ルポイドに。」
「なぜ?」
また黙っている。
待つか。
「えー、そちらはスダウト家の方とお見受けします。
あ、他の皆さまは、従者応募に来てくださった方ですよね?
ちょっとお待ちください。」
早くしろと言いたいが、王族が先だ。
へたに文句は言えない。
従者だろうか?
一人の男がえらそうにこちらにやってきた。
後ろについている男たちは少し安堵している。
結局スダウト家の当主は誰になったんだ?
「わたくしは、ドーガーと申します。
門前で、お許しください。
資産院よりあてがわれた当地は、旧王都。
この地を守るという呪いが今も生きているようです。
なので、本来ならば館内にて主セサミナが応対すべきですが、
いまは、先ほど申し上げたように、コットワッツに仇、
というか、
商売敵は入れない。
本人だけでなく、遠い親戚や上司に遠縁の方がいてもです。
それだけで入れないのはやはり問題なので、
改善したいのですが、
いま、いろいろありましてできません。
お待ちいただくのも、申し訳ないので、
どうぞ、ここでご用件を!
ああ、従者応募でいらした方は、
スダウト家のお話が終われば、館内案内します。
働く価値ありとお思いでしたら、
雨の日以降にコットワッツ領にいらしてください。
改めて面談したします。」
おお!という皆さま。
何人かは、駆け出していった。
トリヘビを飛ばしている者もいる。
良かった、あの速さを捉えることはできている。
ビャクはもっと速いし、移動するけど。
「わたしは、スダウト家ピーナムだ。
此度会合での、当家のアンリの振舞い、
あの場では大事にならなかったが、
護衛が倒れたのは、アンリの撃った銃弾にあたったからではと。」
なんだこいつ?
アンリって呼び捨てでいいの?
名乗るだけまだましか?
(ドーガー?こちらは時間がかかるようだ。好きにしていいぞ?)
(お任せください!)
「スダウト家としてそうお考えになっていると?それで?」
「アンリの愚行で倒れたとなっては、
アンリの責任。それはスダウト家の責任。
なので、医家を連れてきた。
これは施しや、慈悲の心ではなく、
償いの為だ。中にいれろ。すぐに護衛の手当をしよう。」
「償い!
なるほど。しかし、しかしですよ?
あの時、当方の護衛とそちら様とのお約束では、
そちら様、アンリ殿ですね?あの方が撃った銃での負傷は、
すべてあたったものの責任だと明言されました。
それはこちらも認めております。
なので、あの時、もしうちの護衛にそちら様が撃った弾があたったとしても、
あったたものの責任となるのでは?」
「そうだが、やはり撃ったものの責任が大きい。そう考えたのだ。」
「誰が?」
「わたしだ!」
「え?もしかして、アンリ殿を呼び捨てにしている、あなた様?
ピーナム殿が次の御当主?これは失礼いたしました!」
「違う!スダウト家は王家の近い位置ある王族。
数多くの一族がある。アンリの母親がわたしの姉だ。」
「なるほど。」
アンリはどうでもいいが、
身内の立場は確保しておきたいってこと?
モウ様のけがを治すふりをして、
白い粉か、糸を使うかしてモウ様をどうにかするつもりか?
その手柄でアンリの母方の一族は追放を免れたいのか?
タレンテ家もスダウト家も本家筋は動いていない。
コットワッツと絡むのは避けたいはず。
必要な時に利用する、それが王族と領国の関係だ。
なのにやってくるのは、少しでも自分の一族が有利になりたいと思う、
一族の中でも力がないということか。
?
後ろの男、
父さんを診てくれた医家だ。
医家は連れてきてくれたんだ。
タレンテ家が引き連れていたのはどう見ても武官だったしな。
向こうも気付いたか?
王家専属になったのかな?
何も言うなと目で言われた。
そうだな、先にこっちだ。
「スダウト家、ピーナム殿はあの約束事であった、
弾があたった者の責任よりも、
撃ったものの責任の方が大きいと判断されたんですね。
それで、けがをしたかもしれない地方領主護衛の為に、
医家を派遣してくださったと?
あの場でそれで認めた、ニバーセル国軍部タゼリー隊長殿の言葉をも、
無視して?」
「・・・・。」
こういえば何も言えない。
断言はできない。
スダウト家当主が認めていれば軍隊長を無視したことになり、
軍隊長をも認めていれば、
天秤院ランサー殿をないがしろにしたことになる。
あの件は終わった話としないといけない。
この言った言わないのやり取りがうまいのが、セサミナ様だ。
そしてモウ様も。
モウ様はいつも、ただの言葉遊びよねーと笑ってらっしゃるが、
これが大事なのだ。
そしてそれを無意識に操るモウ様が素晴らしい。
あの場で軍隊長を絡めていないと今こうして、
問うこともできない。
黙ってるな。
逃げ道はこちらで用意し、それに流れてもらおう。
少し小声で。
「あの?あの後、ちょっと怖かったじゃないですか?
それで、護衛の銃撃、緑目の話、ね?
いろんな話が飛び交ってます。
こちらも何が何やらで。
そちら様もいろいろ大変じゃないんですか?
わかりますよ!
どの指示が最新で正確かなんて、
ほんとわかんないんですよね?
さっき言ったことと違うじゃん!ってことはあると思うんです。
それは何処でも。
難しいですよね?
あ!これはここだけの話にしてくださいよ?
でも!スダウト家が当方の護衛を気遣ってくださったことは十分にわかります!
このことは主セサミナにも伝えますし、
先程のタレンテ家の方々のこともある。
ここに残っているのはあとは従者に応募してきた方たちですが、
また、後ろについてこられると問題になります。
あのあとタレンテ家の馬車はうまく帰えることができたかどうか。
そうならないようにお帰りください。」
後ろの男たちは、良しと頷く。
中に入れなくてもいい。
タレンテ家よりもうまく立ち回ったという事実が必要なのだ。
しかも、本当の医家を連れてきている。
「?
それは!当家スダウト家がタレンテ家より下だと言いたいのか!!」
こいつ、あれだ、バカだ。
だれもそんなことは言っていない。
アンリの母親の弟っていっても従者の立場だろ?
戻って、タレンテ家の話をだして、
こっちはうまく話を持っていったが、どうも混乱しているようだったって
言えばいいのに!
何もわかってない!
もう一度説明する?
どうしようか?
それが顔に出たのだろうか、
後ろに控えていた医家達は、
ピーナムを褒め称えはじめた。
「ピーナム殿?ここは急いで帰ったほうが良いのでは?
タレンテ家が本当に無償で都下や下町の者たちを診るというなら、
こちらもその準備をしたほうがいい。
清潔な場所で診るほうがいいし、薬の準備もしなくては。
おそらくタレンテ家は適当に診ているに違いない。
そもそも診れているのかどうか?
タレンテお抱えの医家の方が優れていると言われるが、
連れて来ていた者たちは初めて見る顔だ。
タレンテ家の医家ではないと思う。
逃げ帰っただけだ。
群衆からは文句は出るだろう。
そこで、我々がきちんと診る。
するとどうなりますか?
スダウト家の評価が上がる。
群集の評価はいま必要ですよ?
それもピーナム殿の手配でだ。
だれも勝手なことをしたとは言わない。
コットワッツの人気はご存じでしょ?
護衛のけがよりも王都人、都下、下町のものを診るほうが、
優先だと言ったのは他でもないコットワッツなのだから。
金銭がかかるのは仕方がないですね。
アンリ殿の個人資産を使うことにしては?
使わなくてもどうせ本家が吸い上げるだけだ。
先に皆の前で宣言すればいい。
ピーナム殿ならうまく運営できる。そうでしょ?」
「そ、そうかな?」
「そうですよ!ピーナム殿のご決断はいつも素晴らしいんですから!!」
3人の医家たちが、
みなでビーナムを褒め称える。
ものすごく露骨だ。
聞いているこちらが、恥ずかしくなってくる。
アンリの尻ぬぐいをいつもして、
手柄はいつもアンリに行く。
そう言った愚痴を聞かされる。
今回も医家はたくさんの人を診ることで
腕も知識も向上するのだからと、
銃で倒れたという、護衛の傷を見せてほしかったの事。
?
そんなのモウ様でなくてもいいはず。
「いや、申し訳ない。
その、タレンテ家がこちらに向かったと聞いて。
それで、スダウト家の本家筋は動く様子がなかった。
ここで、ピーナム殿の手柄が、
そう、護衛殿の命の恩人とならば、
今後動きやすくなると。
コットワッツに恩を売ることになるのだから。
医家は金がかかる。
それは、道具や薬、設備にと金がかかるからだ。
食べていかないといけないしな。
ピーナム殿はそれを出してくれていたんだ。
見返り無しにな。」
「なにを言うか!見返りはいるぞ!
スダウト家内での確固たる地位が欲しいのだ!」
「ええ、そうです。我々もそのために頑張っていますよ?」
「そうだろ?だから!
中に入れて、護衛を診せろ!!」
やっぱりバカだ。
医家たちも困り顔だ。
お前も言えと目線で指示される。
え?褒めればいいの?
しかし、へたなことを言ってコットワッツの責任になるのは困る!
(セサミナ様!!)
(聞こえている!領主から礼状を出す!)
(はい!)
「わかります、ご事情も。
ただわたしは傍付きと言えど、次席の身。
わたしの判断では中に入れることはできません。
従者希望の方々をお通しするのは一部の部屋です。
護衛モウ様の傍にマティス様はもちろん、
セサミナ様も付きっ切りです。
医家には診せないという判断はセサミナ様の判断です。
なにか、わたしどもには知らされていないことがあるのでは、と考えております。
どうぞ、ここは、医家殿のご意見通りに都下民、下町の民を
診てください。
この件に関して、わたくしドーガーは必ずセサミナ様から、
ピーナム殿に礼状が行くようにいたしましょう。
ええ、必ずです。
どうぞ、このドーガーを信じてください。
それはこれから先、ピーナム殿がご活躍の暁には、
このドーガーのことをお忘れなきよう。
ええ、そのためにも、はい、此度のことセサミナ様に、
必ず進言しますので。」
「そうですよ、ピーナム殿!
ここで、護衛モウ殿とつがりを作るよりも、
先に次席ドーガー殿ですよ?
ドーガー殿のご活躍の話は、
こちらまで聞こえてますよ?ドーガー殿?」
「そ、そうなのか?え?どんなの?」
聞くなよ!
話を合わせてくれてるんだよ!
「そうですね。
ラルトリガの200人抜き?これは、筆頭ルグ殿もいらっしゃったが、
かなりの人数を倒したとか?
軍部解体の発端となったのは彼ですよ?
第4軍の方々を全て倒したと。
辺境領主の傍付きに倒されたとあっては軍部として意味がない。
4番副隊長も筆頭に一撃で沈んだと聞いてますよ?」
「ほう!すごいな?
ん?その筆頭がすごいのでは?」
そうだけど!
でも!俺の話、知ってるんだ!
ちょっとうれしい!!
「筆頭も素晴らしいですが、次席も素晴らしいってことですよ?
それを抱えているコットワッツもね。
その領主、セサミナ殿から礼状が来る。
ピーナム殿にね。
コットワッツは先代から王都、王族貴族とのつながりはほとんどなかった。
セサミナ殿の代になってからは全てです。
そのつながりができるんですよ?ピーナム殿が最初に。
やはり来てよかった。さ、早く、都下に向かいましょう。
そこで医家の力を披露しましょう!
それはピーナム殿の力ですよ?」
「そうか?そうだな!良し!
では、えーっと、ドーガー殿?礼状、頼むぞ?」
(ドーガー?取りに来させろ。医家にだ。)
(はい、この正面の方、父を診てくれた方です)
(そうか、その人でいい)
(わかりました)
「もちろんです!えっと、それで、取りに来ていただけますか?
おそらく、セサミナ様も直接礼を述べたいと思いますし、
今から行うことの内容も知りたい。
なので、医家の方。ああ、あなたが来てくださいますか?」
「!ええ、診察の準備、ある程度のめどが立てば、すぐに。」
「そうですね、その方がいいですね。おそらく、我々はここを離れることになる。
お願いします。」
ピーナムは残り2人の医家に、さすがです!と言われ、
満足げだ。
そのまま、今からスダウト家ピーナムが本当の医家を連れて、
診療しようと宣言した。
タレンテ家は逃げたと皆が思っている。
なのにスダウト家は診ると宣言したのだ。
従者希望の必死さのない輩も、これは一大事だと、
半分ぐらいが一緒についていった。
だれか身内に病人がいるのなら、
診てほしいということだろう。
コットワッツの中にはなぜか入れなかったと、
上司の親戚が商売敵では?と言い訳ができるから。
しかし取りに来いというのは?
医家とのつがりがほしいから?
セサミナ様は大きな声で話し始めた。
「ドーガーさん?ここは王都です。
無職になるということは住む場所がなくなるということ。
なかなかに仕事をやめてから次の仕事探すというのは難しいですよ?
領国ではないんですから。」
「そ、そうなんだ!」
「そうか。それはそうですね。」
「どんなところかわからないところでは働けないでしょ?
コットワッツは遠いし、王都にいる期間はいつも短い。
だから様子を見に来たってことなのでは?」
「そうだ!いや、こちらの方は話がわかるな!
そう!なので中に入れてほしい。」
「なるほど、それは堅実な考えですね。
外の方々も同じなのかな?
コットワッツは今、
いいも悪いも人が寄ってくるんですよ。
コットワッツで働いてくれるのなら大歓迎なんですが、
そうでない方々もいらっしゃるのは事実。
あなたもわかるでしょ?
あのように大騒ぎをして、あなたのように
純粋に来てくれた方の邪魔をする。
ただ働いている院からコットワッツの様子を見てこいと言われただけなのか?
様子と言っても、別段変わったことはないんですが。」
(中に入れようか)
(どこに?)
(展示室でいいだろ?宣伝にもなるしな)
(ああ!)
「ちょうどコットワッツの商品を展示している部屋があります。
そこだったら、わたしどもで案内できますから。
そこならどうですか?」
「・・・・。」
(この人、違うみたいですよ?)
(そのようだ。もう一度防音を)
「少し小さな声で話しましょうか?
どうぞ?後でセサミナ様に確認を取ってから、
中を見学できるようにしましょう。
ドーガーさん?そのように手配を。
あと、向こうにいる方は、スダウト家だ。
おなじように医家でも連れてきたのでしょうか?
追い返されては困るとなにか考えているようですね。
トビヘビが往復している。」
(え?見えませんでした!!)
(嘘だ)
・・・・・。
黙り込んでしまった。
セサミナ様は話を聞くようだ。
(スダウト家の話を聞いておいてくれ。
あとは、中の見学を許可すると。
内部をみてコットワッツで働く気があるのなら、
あらためてコットワッツ領に来いと。雨の日以降だ。
そこで面談するとな)
(それは、あの、どこかの密偵が紛れ込みますよ?)
(かまわん。オート殿を見習おうと思ってな)
(ああ!わかりました)
─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘
ドーガーがスダウト家と話をしている。
それをまた睨みつけながら、やっと話し始めた。
「・・・・医家の方が診てくれるというのを断るということは、
その、モウ殿の容態は?」
「詳しくは言えないのですよ?というかわかりません。
領主ともう一人の護衛マティスが付きっ切りですから。
ただ、王家専属の医家に診てもらうことをあれは望んでいません。」
「贅沢な!せっかくの機会なのに!
血が出たと聞いている!死ぬかもしれないんだぞ!!」
「ええ。なので、ルポイドに行く予定です。」
「それはどうして?」
「モウの曾祖父、赤い塊ですね。
その方がルポイド元首、エデト殿を治療したらしいんですよ。
なので、どのようにして連絡を取ったのかを聞きに。
すぐに呼べる手段があるのなら同行していたほうがいいでしょ?
それがだめでも、治療の方法を聞けるかもしれない。
なんでも大きなけがをしたとか?
あらゆる所から医家と石使いを呼んで治療をしたらしいですよ?
幸いにも当方の商品を気に入ってくださって、
コットワッツに好意的だ。
無碍にはされないと思うのです。」
皆が知っている話だ。
この男、集まった中で一番違和感があり、焦っていたから呼んだんだが。
なんだろうか?
読み取らないと。
「いつ?」
「この押し寄せている皆皆さまがいなくなればすぐにでも。」
「今から?長旅になる。モウ殿はそれに耐えれるのか?
問題ないほど軽症なのか?」
「ご存じでしょう?マティスさんが移動で運びますよ?
モウさんのことについては心配無用ですよ?」
「・・・・・。同行できないだろうか?」
「?どこに?」
「ルポイドに。」
「なぜ?」
また黙っている。
待つか。
「えー、そちらはスダウト家の方とお見受けします。
あ、他の皆さまは、従者応募に来てくださった方ですよね?
ちょっとお待ちください。」
早くしろと言いたいが、王族が先だ。
へたに文句は言えない。
従者だろうか?
一人の男がえらそうにこちらにやってきた。
後ろについている男たちは少し安堵している。
結局スダウト家の当主は誰になったんだ?
「わたくしは、ドーガーと申します。
門前で、お許しください。
資産院よりあてがわれた当地は、旧王都。
この地を守るという呪いが今も生きているようです。
なので、本来ならば館内にて主セサミナが応対すべきですが、
いまは、先ほど申し上げたように、コットワッツに仇、
というか、
商売敵は入れない。
本人だけでなく、遠い親戚や上司に遠縁の方がいてもです。
それだけで入れないのはやはり問題なので、
改善したいのですが、
いま、いろいろありましてできません。
お待ちいただくのも、申し訳ないので、
どうぞ、ここでご用件を!
ああ、従者応募でいらした方は、
スダウト家のお話が終われば、館内案内します。
働く価値ありとお思いでしたら、
雨の日以降にコットワッツ領にいらしてください。
改めて面談したします。」
おお!という皆さま。
何人かは、駆け出していった。
トリヘビを飛ばしている者もいる。
良かった、あの速さを捉えることはできている。
ビャクはもっと速いし、移動するけど。
「わたしは、スダウト家ピーナムだ。
此度会合での、当家のアンリの振舞い、
あの場では大事にならなかったが、
護衛が倒れたのは、アンリの撃った銃弾にあたったからではと。」
なんだこいつ?
アンリって呼び捨てでいいの?
名乗るだけまだましか?
(ドーガー?こちらは時間がかかるようだ。好きにしていいぞ?)
(お任せください!)
「スダウト家としてそうお考えになっていると?それで?」
「アンリの愚行で倒れたとなっては、
アンリの責任。それはスダウト家の責任。
なので、医家を連れてきた。
これは施しや、慈悲の心ではなく、
償いの為だ。中にいれろ。すぐに護衛の手当をしよう。」
「償い!
なるほど。しかし、しかしですよ?
あの時、当方の護衛とそちら様とのお約束では、
そちら様、アンリ殿ですね?あの方が撃った銃での負傷は、
すべてあたったものの責任だと明言されました。
それはこちらも認めております。
なので、あの時、もしうちの護衛にそちら様が撃った弾があたったとしても、
あったたものの責任となるのでは?」
「そうだが、やはり撃ったものの責任が大きい。そう考えたのだ。」
「誰が?」
「わたしだ!」
「え?もしかして、アンリ殿を呼び捨てにしている、あなた様?
ピーナム殿が次の御当主?これは失礼いたしました!」
「違う!スダウト家は王家の近い位置ある王族。
数多くの一族がある。アンリの母親がわたしの姉だ。」
「なるほど。」
アンリはどうでもいいが、
身内の立場は確保しておきたいってこと?
モウ様のけがを治すふりをして、
白い粉か、糸を使うかしてモウ様をどうにかするつもりか?
その手柄でアンリの母方の一族は追放を免れたいのか?
タレンテ家もスダウト家も本家筋は動いていない。
コットワッツと絡むのは避けたいはず。
必要な時に利用する、それが王族と領国の関係だ。
なのにやってくるのは、少しでも自分の一族が有利になりたいと思う、
一族の中でも力がないということか。
?
後ろの男、
父さんを診てくれた医家だ。
医家は連れてきてくれたんだ。
タレンテ家が引き連れていたのはどう見ても武官だったしな。
向こうも気付いたか?
王家専属になったのかな?
何も言うなと目で言われた。
そうだな、先にこっちだ。
「スダウト家、ピーナム殿はあの約束事であった、
弾があたった者の責任よりも、
撃ったものの責任の方が大きいと判断されたんですね。
それで、けがをしたかもしれない地方領主護衛の為に、
医家を派遣してくださったと?
あの場でそれで認めた、ニバーセル国軍部タゼリー隊長殿の言葉をも、
無視して?」
「・・・・。」
こういえば何も言えない。
断言はできない。
スダウト家当主が認めていれば軍隊長を無視したことになり、
軍隊長をも認めていれば、
天秤院ランサー殿をないがしろにしたことになる。
あの件は終わった話としないといけない。
この言った言わないのやり取りがうまいのが、セサミナ様だ。
そしてモウ様も。
モウ様はいつも、ただの言葉遊びよねーと笑ってらっしゃるが、
これが大事なのだ。
そしてそれを無意識に操るモウ様が素晴らしい。
あの場で軍隊長を絡めていないと今こうして、
問うこともできない。
黙ってるな。
逃げ道はこちらで用意し、それに流れてもらおう。
少し小声で。
「あの?あの後、ちょっと怖かったじゃないですか?
それで、護衛の銃撃、緑目の話、ね?
いろんな話が飛び交ってます。
こちらも何が何やらで。
そちら様もいろいろ大変じゃないんですか?
わかりますよ!
どの指示が最新で正確かなんて、
ほんとわかんないんですよね?
さっき言ったことと違うじゃん!ってことはあると思うんです。
それは何処でも。
難しいですよね?
あ!これはここだけの話にしてくださいよ?
でも!スダウト家が当方の護衛を気遣ってくださったことは十分にわかります!
このことは主セサミナにも伝えますし、
先程のタレンテ家の方々のこともある。
ここに残っているのはあとは従者に応募してきた方たちですが、
また、後ろについてこられると問題になります。
あのあとタレンテ家の馬車はうまく帰えることができたかどうか。
そうならないようにお帰りください。」
後ろの男たちは、良しと頷く。
中に入れなくてもいい。
タレンテ家よりもうまく立ち回ったという事実が必要なのだ。
しかも、本当の医家を連れてきている。
「?
それは!当家スダウト家がタレンテ家より下だと言いたいのか!!」
こいつ、あれだ、バカだ。
だれもそんなことは言っていない。
アンリの母親の弟っていっても従者の立場だろ?
戻って、タレンテ家の話をだして、
こっちはうまく話を持っていったが、どうも混乱しているようだったって
言えばいいのに!
何もわかってない!
もう一度説明する?
どうしようか?
それが顔に出たのだろうか、
後ろに控えていた医家達は、
ピーナムを褒め称えはじめた。
「ピーナム殿?ここは急いで帰ったほうが良いのでは?
タレンテ家が本当に無償で都下や下町の者たちを診るというなら、
こちらもその準備をしたほうがいい。
清潔な場所で診るほうがいいし、薬の準備もしなくては。
おそらくタレンテ家は適当に診ているに違いない。
そもそも診れているのかどうか?
タレンテお抱えの医家の方が優れていると言われるが、
連れて来ていた者たちは初めて見る顔だ。
タレンテ家の医家ではないと思う。
逃げ帰っただけだ。
群衆からは文句は出るだろう。
そこで、我々がきちんと診る。
するとどうなりますか?
スダウト家の評価が上がる。
群集の評価はいま必要ですよ?
それもピーナム殿の手配でだ。
だれも勝手なことをしたとは言わない。
コットワッツの人気はご存じでしょ?
護衛のけがよりも王都人、都下、下町のものを診るほうが、
優先だと言ったのは他でもないコットワッツなのだから。
金銭がかかるのは仕方がないですね。
アンリ殿の個人資産を使うことにしては?
使わなくてもどうせ本家が吸い上げるだけだ。
先に皆の前で宣言すればいい。
ピーナム殿ならうまく運営できる。そうでしょ?」
「そ、そうかな?」
「そうですよ!ピーナム殿のご決断はいつも素晴らしいんですから!!」
3人の医家たちが、
みなでビーナムを褒め称える。
ものすごく露骨だ。
聞いているこちらが、恥ずかしくなってくる。
アンリの尻ぬぐいをいつもして、
手柄はいつもアンリに行く。
そう言った愚痴を聞かされる。
今回も医家はたくさんの人を診ることで
腕も知識も向上するのだからと、
銃で倒れたという、護衛の傷を見せてほしかったの事。
?
そんなのモウ様でなくてもいいはず。
「いや、申し訳ない。
その、タレンテ家がこちらに向かったと聞いて。
それで、スダウト家の本家筋は動く様子がなかった。
ここで、ピーナム殿の手柄が、
そう、護衛殿の命の恩人とならば、
今後動きやすくなると。
コットワッツに恩を売ることになるのだから。
医家は金がかかる。
それは、道具や薬、設備にと金がかかるからだ。
食べていかないといけないしな。
ピーナム殿はそれを出してくれていたんだ。
見返り無しにな。」
「なにを言うか!見返りはいるぞ!
スダウト家内での確固たる地位が欲しいのだ!」
「ええ、そうです。我々もそのために頑張っていますよ?」
「そうだろ?だから!
中に入れて、護衛を診せろ!!」
やっぱりバカだ。
医家たちも困り顔だ。
お前も言えと目線で指示される。
え?褒めればいいの?
しかし、へたなことを言ってコットワッツの責任になるのは困る!
(セサミナ様!!)
(聞こえている!領主から礼状を出す!)
(はい!)
「わかります、ご事情も。
ただわたしは傍付きと言えど、次席の身。
わたしの判断では中に入れることはできません。
従者希望の方々をお通しするのは一部の部屋です。
護衛モウ様の傍にマティス様はもちろん、
セサミナ様も付きっ切りです。
医家には診せないという判断はセサミナ様の判断です。
なにか、わたしどもには知らされていないことがあるのでは、と考えております。
どうぞ、ここは、医家殿のご意見通りに都下民、下町の民を
診てください。
この件に関して、わたくしドーガーは必ずセサミナ様から、
ピーナム殿に礼状が行くようにいたしましょう。
ええ、必ずです。
どうぞ、このドーガーを信じてください。
それはこれから先、ピーナム殿がご活躍の暁には、
このドーガーのことをお忘れなきよう。
ええ、そのためにも、はい、此度のことセサミナ様に、
必ず進言しますので。」
「そうですよ、ピーナム殿!
ここで、護衛モウ殿とつがりを作るよりも、
先に次席ドーガー殿ですよ?
ドーガー殿のご活躍の話は、
こちらまで聞こえてますよ?ドーガー殿?」
「そ、そうなのか?え?どんなの?」
聞くなよ!
話を合わせてくれてるんだよ!
「そうですね。
ラルトリガの200人抜き?これは、筆頭ルグ殿もいらっしゃったが、
かなりの人数を倒したとか?
軍部解体の発端となったのは彼ですよ?
第4軍の方々を全て倒したと。
辺境領主の傍付きに倒されたとあっては軍部として意味がない。
4番副隊長も筆頭に一撃で沈んだと聞いてますよ?」
「ほう!すごいな?
ん?その筆頭がすごいのでは?」
そうだけど!
でも!俺の話、知ってるんだ!
ちょっとうれしい!!
「筆頭も素晴らしいですが、次席も素晴らしいってことですよ?
それを抱えているコットワッツもね。
その領主、セサミナ殿から礼状が来る。
ピーナム殿にね。
コットワッツは先代から王都、王族貴族とのつながりはほとんどなかった。
セサミナ殿の代になってからは全てです。
そのつながりができるんですよ?ピーナム殿が最初に。
やはり来てよかった。さ、早く、都下に向かいましょう。
そこで医家の力を披露しましょう!
それはピーナム殿の力ですよ?」
「そうか?そうだな!良し!
では、えーっと、ドーガー殿?礼状、頼むぞ?」
(ドーガー?取りに来させろ。医家にだ。)
(はい、この正面の方、父を診てくれた方です)
(そうか、その人でいい)
(わかりました)
「もちろんです!えっと、それで、取りに来ていただけますか?
おそらく、セサミナ様も直接礼を述べたいと思いますし、
今から行うことの内容も知りたい。
なので、医家の方。ああ、あなたが来てくださいますか?」
「!ええ、診察の準備、ある程度のめどが立てば、すぐに。」
「そうですね、その方がいいですね。おそらく、我々はここを離れることになる。
お願いします。」
ピーナムは残り2人の医家に、さすがです!と言われ、
満足げだ。
そのまま、今からスダウト家ピーナムが本当の医家を連れて、
診療しようと宣言した。
タレンテ家は逃げたと皆が思っている。
なのにスダウト家は診ると宣言したのだ。
従者希望の必死さのない輩も、これは一大事だと、
半分ぐらいが一緒についていった。
だれか身内に病人がいるのなら、
診てほしいということだろう。
コットワッツの中にはなぜか入れなかったと、
上司の親戚が商売敵では?と言い訳ができるから。
しかし取りに来いというのは?
医家とのつがりがほしいから?
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