いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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「あのね、あのね・・・・」


愛しい人が本当に嬉しそうに微笑んでいる。
うまいものを食べたときの顔以上にだ。


「いまなにもしてないよ?言霊もなにも。」
「ん?そうだな?どうした?」

愛しい人は掌を目に当てた。それを外して、

「ほら!」

緑の目!!どうして!
対象は?肉?

「!お肉が対象って考えた?
失礼な!マティスだよ。これ、わかるんだね。
マティスが三大欲求の上に来たよ。
当たり前だよね。だってわたしの半身なんだもの。
食べること、寝ること、エッチすること。
これらの欲ってみんなマティスと一緒じゃないとしないことだ。
じゃ、必ずマティスがいるってことだ。
そりゃ対象だわ。
てか、最初からだと思うよ?体の変化が追いついたんだね。」
「・・・・・・。」
「あれ?ノーリアクション?」
「私はあなたの対象なのか?」
「そうだね。わたしがマティスの対象のようにね。
同じだね。
ああ、でも、緑の涙は違うかな?
マティスはわたしと生きていくことができるとわかったから
緑の涙を流してくれたけど、
わたしの緑の涙はきっとつとめを果たせたらながれるとおもうよ?
わたしに涙を流させてね。」


緑の目は対象を必要とする。
私は愛しい人が必要だ。
では、愛しい人は?
愛しい人がなんと思おうとも、私には関係ないと考えていた。
しかし、人は欲の塊だ。
私を必要としてほしい、そう思っていた。
彼女の興味の大半は食だが、他のものにも次々に興味を示す。
商売もそうだ。武も。
もし、それらのなにかが、対象になったら?
その恐怖が常にあった。
己が思っていれば、相手の気持ちは2の次だとは言うが、
それは建前だ。

彼女の対象が私だ。
ああ、まさしく半身。
何も恐れることはなくなった。

つとめを果たせばいい。
なんて幸せなことだろう。

涙が流れる。コロン、コロン、と。
・・・・鼻水も。


「ぶひゃひゃひゃひゃははははは!!
鼻水!鼻水が!!!
提灯になってる!ギャー!!落ちる!お湯のなかに落ちる!!
タオル!タオル!!チーンって!」

チョウチン?
ものすごく喜んでいるんが分かるんだが、
また鼻をかんでくれた。
・・・・恥ずかしい。


「あ!石!
何回も出るものなの?緑の涙って?」

湯舟に沈んだ緑の石を拾い上げる。
チョウチンのほうが優先だったようだ。

「知らないが、私の憂いがなくなったからだろう?」
「ん?なにを憂いてたの?」
「・・・・どういう条件で緑の目になるかはわからない。
執着すればなるのか?
なにかに執着するのは当然皆あるだろ?
トックスも服飾に対しあるだろうし、ワイプも数字に対してなるだろう。
そうなると、資産院のほとんどが緑目だ。
だが、そんなにはいない。私も自分以外には話を聞くだけだった。
排除しているか、やはり数は少ないんだ。
しかし、緑目はいる。
あなたが緑目になることもあるだろうと思っていた。
その対象はなにになる?食だったらいい。
人だったら?
その対象が私以外だったら?
もしもの話はしない。しかし、考えてしまう。
私の対象はあなただ。あなたと一緒に生きていきたい。
あなたがもし、私以外の人に対して緑目になることになれば、
どうすればいい?」
「え?そんなこと考えてたの?」
「・・・・。」
「もしかして、ずっと?」

黙って頷いた。
その人間と一緒に生きていくのか?
無理だ。排除してしまうだろう。そうなるとあなたは生きていけない。
私も死ぬことになる。
それが分かっていても排除するだろう。
自分で心臓に剣を突き立てるということだ。
そんな考え間違っている。



「んー、一言言っていい?」
「ああ。」
「お間抜け満載だね。」
「な!!」

鼻がパチンと鳴った。

「ぶ!ほれ、拭きなさい。あ、裏でね。
あのね?最初に言ったはずだよ?なんで、
わたしがマティスの傍にいるのかって。」
「・・・・。わかっている。愛してくれているからだ。私を。」
「うん。そうだね。あ、脚組んで。」

彼女はまたうれしそうに微笑んだ。
私の前に回り込み、手で腹を抱えるように誘導する。
私はそのまま彼女の首筋に顔をうずめた。


「緑の目はそんなに突拍子ないものが対象になるの?
たとえば、わたしが突然にさ、虫大好きっ子になるとか?
あり得ないでしょ?うん、いまちょっとゾワっときた。
違うよね?執着の延長上?いや、違うな。
たぶんね、緑の目にしてそれだけを考えるようにしてるんだよ、
この世界の仕組みが。」
「?」
「だって、ここはあんまり考えない世界なんだよ?
失礼な言い方だけどね。
執着すればいろんなことを考える。すると、どうなる?
この世界の砂漠石のことや月のことなんかも考えていく。
この世界はそんなこと考えるのはあんまりよろしくないんだよ。
だからね、その好きなことだけを考えればいい、
世界の真理に近づかないように防御してるんだ。
でも、それって、余りにも理不尽だよね?
だから、あなたの好きなことだけを考えて
生きればいいってことにしてくれてるんだよ。
ある意味ご褒美だね。うん、きっとそう。」
「!」
「わたしの場合は、体が順応してるんだよ。
世界の真理に近づく気もさらさらないんだけどね。
防御されようが邪魔されようが必要なら近づくだろう。
わたしの性格的にそんな面倒なことはしないんだけど、
それに拍車がかかっているのは事実だ。
マティスがいればいいからね。
けどさ、それは最初からだ。
なので、この世界でお気楽マンボで生きていける。
そうじゃなきゃ、強制終了しているよ?
ああ、つとめを果たすよ?それはマティスとね。
このままそんな感じでどーそ、ってことだろうね。
そうわたしは思うことにするよ。
てか、そう考えるね。
この世界に受け入れられてうれしいよ。」
「で、では、エデトの奥方が緑目ではなくなったのは?」
「コクが言ってたよ?
あの国の納める力は伴侶選びだと。
エデトが選んだ時点で、緑目は薄くなってただろうね。
子ができれば決定的だ。双方が望んだんだよ。」
「では、緑目を王が望めば薄くなる?」
「いやだから、ルポイドの納める力がそうだってこと。
お互いがお互いの為を思える人じゃないと選びようがないんよ。
緑目がなくならないのなら、
エデトは彼女を求めない。
緑目のまま選んだとしても、
子育て舐めちゃいけないよ?対象よりも大事なもの、
違うな、対象を2の次にしないといけない守るべきものができたんだ。
いや、出来てしまったんだ。
本来は子供は作らない。望めないんでしょ?
研究のために作ってしまったからね。
にわとりがさきか卵が先かって話になるかもしれないけど、
あの2人だからだ。これは特例と言っていんじゃない?」
「・・・そんな特例があなたに当てはまることは?」
「それこそ、お間抜けな話だ。
そんなことはない。なぜか?それはわたしにも言えることだ。
マティスの緑目が何かの拍子で青に変わったら?
この目になる前からも思っていたけど、今なら声を出して言える。
そんなことありえないね。」
「ど、どうして?いや、どうやったらそう言える?」
「ん?そうなったら、マティスを道連れにつとめを終えるからだよ?
だから、マティスもそうすればいい。」


ああ、愛しい人。私の愛する人。
私は彼女を抱きしめただただ泣いた。
あなたは私のすべてを受け入れてくれる。


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



自死というのが考えられないんだ。
その考えに至っても葛藤があったんだろうな。
動物の世界にもないというからね。
死後の世界もないらしい。

死への恐怖から死後の世界や宗教が出来たと聞いた。
ほんと、故郷の世界は複雑に出来上がった世界だったんだな。

ここは死ぬまで生きるというのが基本か。
エデトんところは不慮の事故なんかで
どちらかがなくなったらどうするんだろう?
子供がいればいいよ?ない場合は?
ボルタオネのように影がいるとか?
その時になったら何とかなるんだろうか?
こういうのを研究したのかな?あの奥方は?
んー、どうでもいいか。




「マ、マティスさんや?
なんとなく粘着質的なものが流れているような?
いや、もう、いいけどね。」

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