いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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686:納得

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「先に戻ってくれ、後から行く。モウちゃん?」
「ん?ムムロズさんとお話?」

極力移動は使わない。
ゾロゾロと館を出るところだ。

「念押しだな。」
「あのままなら問題ないんよ?ザスは。」
「わかっている。」
「それにあくまでも、故郷での話だ。」
「わかっている。」
「ん。気をまとって匂いを遮断する方法は教えてあげてね。
さすがにあの作業はつらい。
クインタは修行次第だろうね。セサミンも頑張ったから。
それって、もともとルグの発案だから、たぶん気を練れる人は皆出来る。」
「そうだな。あれに、移動の話をしてもできるようにはならないのか?」
「説明してできるのなら、とっくの昔に皆出来てると思うよ?
無理なんじゃないかな?
石使いだって、あんな大きな石を使って少しの距離だから。」

立ち止まりうつむくニックさん。

「俺はなんでできるんだろうか?」

マティスが膜を張る。完全防音タイプだ。
マティスにも聞こえない。わたしの心の動きだけ。
廻りをまたガイライが警戒していく。
ツイミさんは、なんか書き出していってる。ちょっと怖い。


膜の中は2人だけ。

「つらい?」
「いや、そんなことはない。」
「移動と呼び寄せができれば、かなりのことができる。
商売も、軍としての能力も。
1人で、一中隊に匹敵するかもしれない。
その力を自分だけが持つ。
つらい?」
「いや、できてよかったと思う。」
「できればできるほど、することが増える。
兵站なんかいらない。土豪もあっという間にできる。
若い兵士が死ぬことを防ぐことができる。
その代わり己の負担が大きくなる。
つらい?」


誰もが思うことだ。

「いや、できることは限られている。
現に、砂抜きは出来なかったし、
サイ一頭を移動することは出来なかった。
軍人はできることをできる範囲でするだけだ。
決して己を犠牲にはしない。
最初に叩き込まれることだ。」
「うん。それで?」
「・・・。なぜ、俺ができて、ムムロズはできない?」
「ふふ。元に戻るね。
セサミンが教えてくれたけど、
わたしが説明をしたってことが重要らしい。
マティスや、セサミナ、ガイライやニックさんがほかの人に、
わたしの説明とおなじ文言を言っても理解はできないみたい。」
「じゃ、モウちゃんがムムロズに説明すればできるのか?」
「あの人わたしのことは受け入れてないよ?
これも条件なんだ。
商売相手としてみてくれている。それも嫌な相手だとしてね。
ニックさんは受け入れてくれているからね、わたしを。」
「異国から来たってことか?それを受け入れたら?」
「それでも、ダメだろうな。」
「どうして?」
「だって、あの人はマティスには必要ない。」
「!」
「これが条件だ。これを言うのは初めてだけど。
マティスがマティスであるためには、セサミナがいる、ワイプがいる。
セサミナの為にはルグとドーガーがいる。
ワイプの為にはツイミ兄弟がいる。
マティスにとっているかいらないかだ。
マティスの成長にはガイライとニックさんがいる。
だから話をした。
それだけだ。
ニックさん?わたしを見て?」


下を向いていたニックさんがわたしを見て、また下を向いた。

わたしは緑の目になっている。
意識すればそうなってしまうようだ。
これは言霊で姿かたちを変えているわけでもない。
つい最近気づいた。

「内緒だよ?マティスもまだ知らない。
雨の日に教えてあげるの。
きっと喜ぶよ?それまで内緒ね。」

「あはははははは!
わかった。納得がいった。」
「あまりにも薄情だと思った?」
「いや、違うよ。
ムムロズの問いにすべて答えないとあれは納得はしない、
理解はしない。
その前にもっと俺がモウちゃんを理解しないといけないと思った。
対価の話であそこまで割り切れるのかと驚いたんだ。
あのやり取りに嘘やはったりはなかった。
緑の目なら納得だ。
いや、だとすればかなりの譲歩がある。それは?」
「マティスもでしょ?ガイライが言うにはマティスの対象は
わたしとわたしが望む世界だ。
わたしはマティスとマティスがマティスである世界だ。」
「ああ。そうか。」
「マティスの世界にはニックさんが必要なんだよ。」
「モウちゃんは?俺は必要?」
「・・・・。」
「いらないか?」
「ここだけの話、ニックさんって超真ん中ドスライクのタイプなのよ。
ものすごく好みなのね。
だからいるっていったらマティスに殺されるんだけど?」

あ、膜が取れた。

「愛しい人!何を照れてるんだ!!ニックなにをした!!死ね!!!!」
「あははははははは!!!!
死にたくないし、お前では無理だ!!
じゃ、後でな。」

完全に気配を断たれた。
マティスもキョロキョロしてる。わからないんだ。

「うふふふ。マティス!頑張ろうね!打倒ニックだね!」
「もちろんだ。で?ニックは?大丈夫なのか?」

マティスだってニックさんの気持ちを分かっている。

「うん。ちゃんと話をしないとね。ガイライ?
あとで、話を聞いてあげてね。」
「モウ、自分が不甲斐ないです。」
「またそんな風にいう。違うよ?
彼もあなたも軍人だ。最短で解決しようとしていただけだ、問題を。
ムムロズさんと話せばわたしのことをもっと鋭く聞いてくる。
知らないなって言えないでしょ?それだけで説得力は半減する。
わたしのことを話しても理解できる出来ないは別問題で、
説明するニックさんが理解していないとね。
さ、ルカリさんと手合わせしないと!
その前にお風呂入りたい。マティス、一緒に入ろう!」
「いいな!戻るぞ!」


ツイミさんがいるので、ガイライの館に皆で戻った。


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



「ムムロズ?」
「皆は戻ったのか?」
「俺もすぐに戻る。貸し借りはすでにないよな?」
「そうだな。ザスの話が本当だとすればな。お前がテンレのことを黙って、
仕事を引き渡したことはな。」
「でもさ、それ、感謝してもいいんじゃない?」
「また別の話だ。」
「そうか。それはもういいな。」
「そうだ。で?あれはなんだ?」
「まずは俺の話をしよう。
マティスがイリアスに訪ねてきたところから。」
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