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538:胴元
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「忙しくなりますね。」
「なんで?」
「投票の結果だけでは終わらない。
それこそ連日夜会だ。今度はこちらも呼ばなければなりません。」
「館の改装は問題ないよ?」
「ありがとうございます。宝石類を売り込みます。
雨の夜会に間に合いますからね。」
「おお!いいね!でも雨の日前なんでしょ?雨の夜会って。
なんで雨っていうの?」
「その日は雨の日が始まる5日前。その日に少しだけ雨が降るんですよ。
だから雨の夜会です。月が出ているのに雨が降るらしいのです。
翌日外に出ると地面が濡れているので。」
「見たことないの?」
「誰も外に出ません。
それを見ようと外に出たご婦人のドレスが粉々になった話は有名です。」
「ああ、それで外に出たのか。
外に出ようよ。月が出ていて雨が降るなんて素敵!
うまくすれば月の虹が出てるかも!楽しみ!!」
「え?外に?雨なのに?にじ?」
「見れるように考えるよ。ほんとだ、忙しいね。うふふふ。」
透明の傘?いや、砂漠石の膜でいい。
なんといってごまかすかを考えよう。
透明のビニールってすごいものだったんだね。
帰りの馬車はテール君と一緒。
鶏館までだ。名前はそのまま使うそうだ。
そうなると、割り込んでくるのがファンファンだ。
鶏館までということで一緒に乗って帰ることになった。
が、セサミン、わたし、テール、カーチ、ファンファンが乗れば
流石に一杯だ。
マティスとドーガーは代わりにそれぞれの馬車に乗せてもらうことになった。
マティスがラルトルガ、ドーガーがボルタオネで。
ドーガーが頭の中で必死でわたしを呼んでいた。
声が聞こえたわけではない。顔を見てわかるという奴だ。これか!
(ドーガー?)
(モウ様!あの中に領主襲撃の時に見た顔があります!)
(知らぬ存ぜぬで通せ、逆にドーガーだと本人だと気付くほうがおかしい)
(?)
(だってあの中で殺されたのはドーガーだけだ。それを皆が認識しているんだぞ?
なのに、あの時いたのはあなたですよねってことを聞いてくる前に、
じゃ、死んだあの男はだれ?ってなるだろ?)
(!)
(聞いては来ないが、探りを入れるなら、そいつは中央院寄りだ。
あの集まりにもこなかった奴だ。うまいこと聞き出せ!頑張れ!)
(承知!)
(愛しい人?)
(マティスの方もなんかいるの?)
(頑張れって言って?)
(マティス!マティス!わたしから離れるけど、心はつながってるから!
寂しくても頑張って!)
(承知!)
なんなんだ。
「ハニカ?待っている間何かあったか?」
「ええ。入れ代わり立ち代わりに、この馬車を寄こせと。」
「見せてくれとか、売ってくれではなく?」
「ええ。」
「それで何と答えた?」
「これはコットワッツに売ったものだから、それはできないとだけ。」
「ははは!それで?」
「無理矢理に触ろうとする者がいましたが、はじかれたように逃げていきました。
わたしが触ってもなんともないのに。」
「不思議だな。しかし、よくぞ守ってくれたな。
帰りはラルトリガとボルタオネの滞在館を先に廻ってほしい。頼めるか?」
「もちろん。」
歌はかえるの輪唱だ。
説明をして、最初に歌って、みんなで歌って、
え?ファンファンいい声。
それで、追いかけて歌ってもらう。
テール君が大興奮だ。
もう一回、もう一回と順番を変えて3順ほど。
ふんぬーと、
「一番うまく歌えたな!」
と、やっと満足してもらえた。
次は?と催促される。
馬の歌と豚の歌と歌い、アヒルの歌はセサミンがダメだという。
「どうして?」
「テール殿はアヒルはご存じか?」
「もちろん。見たことはないが。」
「んー、だったら大丈夫かな?
何かにつけて思い出して笑い出しても、おとなでも、プう、苦しいのですが。」
「え?」
「まぁ、同じ思いをしていただくのはいいかな?お面もないし、いいかな?」
お面はないけど、手の振りはあるよ?
たぶんこの手の動きが音とあってるのがおかしいんだ。
だって、内容はそんなに面白くないもの。
1回目で、テール君以外は下を向いて震えている。
2回目は純粋なテール君も一緒に手の動きも覚え歌うと、
カーチ以外声をあげて笑ってしまった。
「つ、着きました。ふ、ふ、ふ。」
ハニカさんはかなりこらえている。
歌しか聞こえていなかったのに。やっぱり歌なのかな?
鶏館で降りてもらう。
テール君のみ大満足の笑顔だ。
「セサミナ殿、これはつらい。」
「ええ。しかし、これはまだましなのですよ。歌と手の動きだけなので。
これを2人で全く同じ動きでやられると、ぷぷぷぷ。」
「言わないで下さい。想像してしまう。」
「カーチ?カーチが苦しそうだ。泣いてる?セサミナ殿!」
「カーチ殿、お笑いなさい。あなただけ、声をあげてないのはかっこつけすぎですよ?」
「カーチ?」
「テール殿、かまいませんよ、目の前で歌ってあげなさい。」
「むーかーし・・・・。」
「ぶははははははは!!!」
「おお!」
あれだ、誘い笑いだ。
笑い声を聞いてつられて笑っしまう。
「ふ、あははははは!」
「わははははは!」
「うふふふふふふ。」
「テール様、後でマーロ殿にも歌って差し上げてください。カーチ殿と一緒に。」
「わかった!うふふふふ。カーチの笑っているのを初めて見た。
マーロも見たことがないな。楽しみだ。
マリーありがとう!」
「こちらこそ。そうだ。コクに会いたいのですが?」
「コクは呼べば来てくれるぞ?コク!マリーが来ているぞ!」
あ、ほんとだ。絶対そこにはいなかったはずなのに、
森から出てきたように見える。
「コク!わたしたちはこれで引き上げます。
また、離れはじめに会合があるからその時に。」
(うまく行ってるみたいね。
そうだ、その時カンターウォーマーもできてるから持ってくるね。
コーヒーが温かいまま飲める奴)
カンター?南のか?
(ルポイドのコーヒー屋さん。知ってる?その人の豆のセットで売り出すの)
楽しみだな
(コクはコーヒー通だね。うちも今その人のところかった豆だよ?)
そうだったんだ
ははは!
(ん?楽しいんだ。おいしいものね。わかるよ。
でもねー、一番はマティスの入れてくれたコーヒーなんだ)
そうだろうな
香人はあなたが煎れたコーヒーが好きだというのだろう?
(そうみたい。くふふふ。じゃ、またね!)
「マリー?コクはなにか言っていたの?」
「コーヒーが好きみたいですよ?」
「そうなんだ!わたしはまだ呑めないが匂いは好きだ。」
「そうですか?では、ミルクをいっぱいいれたものをお出ししましょうね。
あと、コーヒープリンとかもありますよ?香りだけですから。」
「楽しみだ!」
それから、ファンファンにも挨拶をして、別れを済ます。
「ファンロ殿はお声、歌声が素晴らしいですね。子供向けの歌ではなく、
別の歌を聞いてみたいと思いましたよ。」
と、心からの称賛を送ったのだ。
「え?モウ殿にそういわれるとうれしいですね。
わたしの声ね。そうですか。なるほど。いいことを思いつきましたよ。」
その時にラルトルガの従者から
ものすごい殺気を受けた。え?
後でマティスに聞けば、いいことを思いついたというのは
半分の確率でロクでもないことらしい。
今はいいことをやっているから次はロクでもないことだと。
それを促したから皆が怒ったのだ、いらんこと言うなと。
済まぬ。でも、本人がなんかするんだからいいんじゃないの?
「だって、いい声だったんよ?あの体系から出る声だね。
次に会った時はそこら辺を説明しておくよ。」
「そうしてくれ。馬車の中で、歌声が聞こえるし、笑いをこらえないといけないし、
愚痴は聞かされるし、頑張ったんだ。」
「そうだね。頑張った。マティス偉い!」
頭をぐりぐり撫で出ておこう。
「ドーガーの方は?」
「探っているのかどうか。わたしのことを聞かれました。
嫁はいるのかどうかとかね。隠すこともできないので、祭りで知り合った
娘2人と結婚すると。そこから、マーロ殿からボルタオネの結婚の話やしきたりなんかを。」
「なにか引っ掛かりは?」
「食生活の話になって、あまりお茶、コーヒーも紅茶も飲まないそうです。
湯を冷ましたものを飲むとか。井戸から汲んで、
桶に入れて。その水を沸かして飲むと。
それ専用の容器があるとか。」
「面白いね。」
「ええ、それを聞いていた別の従者、会合に来てたものですね、
それが、あの時にコーヒーや紅茶、コムのお茶、緑茶が出たと
驚いたと言っていました。
そこで、コーヒーと紅茶の入れ方の話になりまして、
井戸から汲んだ水をすぐに沸かして入れるほうがいいと。
これはルグさんから教えてもらったことなのです。
おいておくと少し匂いが出ます。すぐに沸かせば出ないとか。
それをそのまま。試してみると言ってました。」
「親方の家ではコムのお茶を常に飲んでいるって言ってったけどね。
いろいろあるんだ。」
「そのようで。」
お茶の効果か、水が問題か。
師匠に報告だけしておこう。
今向かっているのはハンバーグ屋さん。
そこでご飯を食べる予定。
ハニカさんも一緒だ。
遠慮したが皆で食べるのが楽しいのだと強引に。
馬と馬車は預かってもらう。
邪な考えがない限り、しびれることはない。たぶん。
「ようこそ。さっそく来ていただいて感謝いたします。」
「なに、あれだと聞いているからな。」
「ええ。肉も変えてみたのです。」
「そうか、楽しみだな。ああ、大型の冷蔵庫と、冷凍庫、あと調味料があるのだが、
あとで見てほしい。時間はあるか?」
「やっと!ええ。もちろん。
まずは、ご賞味ください。」
うーまーいー!!
いいところのお肉?贅沢なお味!チーズがいい!どこのチーズ?
「おいしいですね!チーズが違う?」
「そうだよね?食べたことのないチーズだよ?」
「店主!どこのチーズだ!」
「ほんと、おいしいですね。」
「・・・・。」
「ん?ハニカさん?ダメな味ですか?」
「あ、いえ。」
「!こうですよ!こう!仲間内の食事なんだから!
がっつり食べちゃいましょう!」
フォークにぐさりとさして食べてみる。
ああ、おいしい!
ハニカさんも真似して食べる。
「やわらかい!チーズなんだ!」
別に行儀が悪いとかではない。
ナイフを使うか使わないかの問題だ。
犬食いとか、寄せ箸、迷い箸とか、
そういうのがなければいいんじゃないかな?
正式な晩餐会じゃないんだから。
「けど、ま、ナイフを使ったほうが食べやすいことは食べやすい。
こんな感じね?」
「こうですか?」
「そそ。で、ソースもつける。チーズも集める。
ん!おいしいね!」
「あ、こうか、ああ。で、ん!なんだ!簡単だ!」
「そりゃ、そうだよ。食べるための簡単な方法なんだもの。
食べるのに苦労するなんて許せんよ?」
「そうなのか?あのなまこはかなり苦労したと思うが?」
「食べるための努力でしょ?前段階、下準備。それは問題ない。
だけど、食べ方がどうのというのがね。おいしく食べたらいいと思う。
もちろん、きちんとしないといけないときもあるけどね。
それは最低限でいい。」
「それはそうだ。」
「兄さん?なまこってあのコリコリした?」
「そうだ。あれは手間がかかるんだ。
あれが、あそこまでの味でなかったとしたら、
あそこまでの努力はしない。」
「それはいえるねー。ワタがうまいよね。」
そこから川ナマコが恐怖する夫婦の物語だ。
恐怖、拒絶、実食、うまー!の物語。
「何をやってるんですか!何を!」
「いやもう大変だった!処理はいいのよ。捕まえるのが!
今度ツイミ御大に教えてもらうんだ。」
「御大!しかし、ツイミなら仕方がないか。」
「あの人は食が何たるかを知っているね。
ううん、生きると言ことは食だということを知っている。
そしてお金の価値を知っている。今の職場にぴったりだ。」
「ええ、投票後のやり取りは良かったですね。」
「さらにすごいのはそう持っていったオート君だね。」
「なるほど。」
そうしなさいと言ったのおはおそらく師匠だ。
それは言わないけど。
「ハニカさん的には軍部の隊長が誰になろうとあんまり関係ない?」
「いえ、そんなことはないですよ?
前任のガイライ様は都下、ニック様がいらしたときは下町とよくいらっしゃってました。
ニック様が離れてからは、ガイライ様と、ルカリ様が下町まで。
軍を離れたとなった話はすぐに広まり、かなりの大騒ぎでしたよ。
ちょっとしたいざこざでも、すぐに取りまとめてくれていましたから。
ガイライ様、ニック様がいると、それだけで、安心感がある。
それがなくなった不安感があります。
次の軍部の方が見回ってくだされればいいんですがね。
すぐに決まった、次の方は名前を覚える前、ご病気とか。
しかし、その前に軍で働いていたものは大半は首に。
首というか、やめて行ったんですよ。給金が出ないと。
国の為に働くことは名誉なことだろうとね。
笑いますよね。先ほどの話のように生きることは食べること。金が要るんですよ。
今日は次の方が決まったんですよね?方針を変えてくださるといいのですが。
なんせ、仕事がなくなって、わたしと同じような荷運びをするものが増えています。
するなとは言えないでしょ?」
「そうだな。正式には混合いはじめの月の日に発表があるだろうな。
が、給金関係は見直しが決まった。知り合いがいれば教えてやればいい。
軍からではなく、国、資産院が責任をもって給金を出すだろうとな。」
「それはいい話だ!しかし、資産院ですか?」
「問題が?」
「もらえるものはきっちりするでしょうが、取られるものもきっちりとなりますから。
あの資産院ですよ?」
「あはははは!それはそうだ。が、納税は必要だからな。
あとで、どでかいしっぺ返しが来るぞ?」
「ナソニール?」
「ハニカさんは情報通だね。」
「街を廻っていれば、それなりに。ナソニールの方々が逃げるように王都を出たと。
その時は会合の時なのにって。
滞在館の物も一切合切運び出したそうで。」
「うわー。え?セサミン、ものすごく悪い顔だ。」
「え?そうですか?ふふふふ。ちょっとね。」
売り出しすであろう鉱山を買う気だ。
こっちにある備品まで持って帰ってお金にしないと足りないのか、
それともとにかくお金の確保だ。
セサミンは夜逃げだと踏んでるのかな?
「ハニカ、こちらこそいい話だ。ありがとう。」
「え?そうですか?なにかお役に立ったのならよかった。
それにこの食事おいしかったです。服も。
あいつがあんなに元気になったのも何年振りでしょうか。
コットワッツの話は聞いていました。
あなた方を見たときに、ああ、笑いものにするのだなと。
しかし、あははは!笑いものになったのはあの役人でしたね。
思い出しても笑いがこみ上げる。
馬車に触れて、手を押さえながら逃げていったんですよ。
見ていた、御者連中は指をさして笑いましたよ。」
「見せてほしいんなら見たいっていえばいいし、
売ってほしいんならそういえばいいのに。
ハニカさん、良かったらあの馬車もらって?
簡易で作ったから改良しないといけないと思うけど。
ちょっと地方から出てきた人たちをのせて王都を案内するのも
いいと思うよ?おすすめのお店とか、王都ならではの面白い話とかね。
王都を廻るのがダメなら都下でも十分。
気を付けないといけないのは嘘だ。
自分の体験した話が一番いいけど、悪口もだめ。」
「案内?え?あれをいただけるんですか?」
「うん。今度来るときはもっと本格的なものを用意するから。
セサミン、いい?」
「あれで十分ですよ?」
「んー、ちょっとカッコつけないと。装飾品とか売れないよ?」
「そうですか?その、あまり派手にならずに、
みんなと乗れるのがいいですね。」
「そうだね。そん時はハニカさんの馬車に乗ろう。
廻ってない王都も見てみたいしね。」
「また呼んでくれるんですか!うれしです!」
「だって、ほかの馬だと酔うもの。コットワッツの護衛、
モウが酔わない馬車って宣伝していいよ?」
「ええ、聞いています。赤い塊のモウは馬車に弱いって。」
「え?やっぱり知ってるんだ。
噂恐るべしだね。えーと、ちなみに赤い塊、護衛の方ね、
その噂ってどんなの?」
「え?本人を前に言うんですか?」
「ハニカ、本人が聞きたいと言っているんだ、
聞いた噂のまま話してやれ。」
「あの?」
「ハニカ、かまわない、噂は噂だ。」
セサミンもマティスもそういって促す。
そうですか?とハニカさんも話してくれた。
前置きに、石使いと護衛とおそらく一緒になっていると。
曰く、
大食いで、金にがめつく、恐るべき石使い。
尚且つ、武術全般が得意で、常に赤い服を身に付けている。
でないと死ぬそうだ。
面布、口布を付けているときの方が石使いの力が上がる。
最近の石使いはそれ真似て口布を付けているとか。
なんでも息から力が抜けるとか。なにそれ?怖い設定だ。
あとは常に2人組。
お互いを守る契約をしていると。
「伴侶ではないのか?」
「赤き塊と護衛のほうと一緒になっているんですよ。
赤い塊モウ様の伴侶はマティス様って知っているものは知っていますよ?」
「だったらいいい。ん?」
マティスの突っ込みにそう答えたハニカさんだが、
少し言いよどんだのだ。
「その、マティス様の伴侶はたくさんいると。」
「それは間違いだ。私の伴侶は唯一、この愛しい人だけだ。」
「それですよ!」
「なんだ?」
「マティス様の傍らには常に美しい人がいるけど、いつも違うと。
呼び名も愛しい人と呼んでいるから、わたしが聞いた話では4人ほどいらっしゃる。」
「あはははは!たぶんそれ全部わたしだよ?」
「ええ、そうでしょうね。わたしも、その、最初に見た方と、馬車を作っている方と、
馬車に乗った方と、今と、声を聴かなければ別人だと思いますから。
それなのに、常にマティス様は愛しい人と呼ぶ。
男どもは間違わないようにそう言っているんだと話してたんですが。」
これに皆が大笑いした。
噂話はこうだと話しているところから、入ってきたここの店主もだ。
ちょうど、デザートを持ってきてくれたのだ。
「名前を間違えるというのはあるな。
わたしも2人の妻を持つ身だ。一呼吸おいてから呼ぶようにしている。
ドーガー?お前も気を付けろ?」
「肝に命じます。」
「愛しい人は愛しい人という名だからだ。」
「その話はわたしの耳にも入りましたよ?愛しい人というのはわたしのことだと、
王族の娘たちが皆いっているとか。それで、娘同士が喧嘩しているとか。」
これは店主の話。
「勝手にしてくれってことだね。」
「そうなるな。が、雨の夜会ではっきりするだろう。」
「やはりご出席するのですね!」
「愛しい人を皆に紹介するためにな。」
「いま、誰がマティス殿の伴侶なのかと賭けが出てるんですけど、
モウ殿にかけていいですか?」
「わたしの名前が挙がってるの?」
「ええ。護衛赤い塊モウと。」
「そうなんだ。それ、胴元は?ほかの人の名前は?」
「確か、スダウト家だと聞きました。
他の娘さんお名前はそのスダウト家のココエート嬢、ルリチ嬢、
同じく、シルト嬢。この3人はいとこ同士ですね。
あとはタレンテ家のトウキ嬢、ルパラ嬢、
ダクツ家のカミツ嬢、イボン家のデンプ嬢ですか。皆王族ですよ?
しかも有力者たちだ。」
「すごいな!え?雨の夜会って招待制なんじゃないの?
みな招待されてるの?」
「らしいですよ?実際には金で買えるといううわさもありますし。」
「なんだ。そんな格式ある夜会じゃないんだね。ちょっとがっかり。」
「いえいえ!雨の夜会と言えば、皆があこがれる夜会ですよ?特に女性は!
ここ最近は少し傾向が変わって来たとか。
重鎮が出席なさらないのが原因だとも言われていますよ?」
「へー。なんにしても、それ、賭けちゃだめだよ?」
「え?どうしてですか?モウ様にかければ儲かりますよ?」
「ドーガー?考えてみ?自分の娘が嫁になれると
おそらくほかをあおって賭けを開催してるんだよ?胴元は。
それが、王族でもないわたしが唯一の伴侶ってなっても、
誰がお金を払ってくれるの?そんなのうやむやになって丸損よ?」
「危ないとこでした!」
「ダメだよ?だからってこの話を広めるのもダメ。
何をされるか分かったもんじゃない。
そんなことに賭けるのは俺の心情に反するって誘われても断るのがいいよ?」
「そうします。」
「ハニカさんまで!ダメだよ?この件は関わっちゃダメ!胴元になるのもダメ!」
「え?それも?」
「ダメダメ!結果を知ってるのにそんな狡いことしちゃだめ!
知り合いのことを賭けの出しにしちゃダメ!」
「それもそうですね。赤い塊モウと知り合いっていうほうがいいですね。」
「そこに価値を置かれると照れる。」
「愛しい人!かわいい!」
「もう!わかったから!」
とにかくハンバーグはおいしかったと。
チーズはいろいろなものを溶かして、それを入れているとのこと。
配合は内緒だが、こっそり教えてくれた。なるほど!
あとは冷蔵庫と冷凍庫を売り込んだ。お醤油も。
本体は大型なので、馬車にあるといって運び込んでもらう。
ハニカさんは驚いていたが、黙ってくれている。
賢い人なのだ。
大型は100リングとかなりな金額だが、
使い方次第だ。
店主は即、お買い上げ。
アイスクリームとプリンのレシピ付きは同じ。
磁石はシンプルなものだ。
家庭用は次回になる。
さすがに、ほいほい出すわけにもいかないから。
また、鉄板皿のこともあるから近いうちに尋ねると言っておく。
あとは、大門まで送ってもらった。
コットワッツは領国に帰るということだ。
馬車の陰でチャーたちを呼ぶ。
馬車があれば物影ができるから便利です。
ハニカさんはそれにも何も言わずに、またお声をかけてくださいと帰っていった。
運び屋ハニカと言えばわかるそうだ。
馬にも手を振って別れた。
大門を出て、そこから移動。
わたし達もいったんコットワッツに。
この日はサボテンの森の扉君の家でゆっくり寝る。
明日は、一日マティスと食料調達と、レタン、フレシアのエリングさんのところで、
コーヒーフィルターに使う布の相談と発注。
翌日はトックスさんと館の改装。
さらに翌日はクーちゃんとビャク、トックスさんとで、
タトートに。
日帰りだ。
またコットワッツに戻って、草原の話。
すぐにでも、ニックさんとガイライ、ルカリさんもやってきて、ルグたちの鍛錬だ。
離れはじめと会わずの月の真ん中あたりで道具もそろうから、
カンターウォーマーの準備もしないと。
エデトの話も聞きに行く。
それが終われば会わずの月で、そこから裏街道ツアーだ!
師匠もいけるのだろうか?
お揃いの服も用意しなくては!
まずは明日のごそごそだ!
が、マティスが聞いてくるのだ。
「寝る?」
「んー、ちょっとだけイチャイチャしたい。」
ちょっとだけでは済まないが、仕方なし。
「なんで?」
「投票の結果だけでは終わらない。
それこそ連日夜会だ。今度はこちらも呼ばなければなりません。」
「館の改装は問題ないよ?」
「ありがとうございます。宝石類を売り込みます。
雨の夜会に間に合いますからね。」
「おお!いいね!でも雨の日前なんでしょ?雨の夜会って。
なんで雨っていうの?」
「その日は雨の日が始まる5日前。その日に少しだけ雨が降るんですよ。
だから雨の夜会です。月が出ているのに雨が降るらしいのです。
翌日外に出ると地面が濡れているので。」
「見たことないの?」
「誰も外に出ません。
それを見ようと外に出たご婦人のドレスが粉々になった話は有名です。」
「ああ、それで外に出たのか。
外に出ようよ。月が出ていて雨が降るなんて素敵!
うまくすれば月の虹が出てるかも!楽しみ!!」
「え?外に?雨なのに?にじ?」
「見れるように考えるよ。ほんとだ、忙しいね。うふふふ。」
透明の傘?いや、砂漠石の膜でいい。
なんといってごまかすかを考えよう。
透明のビニールってすごいものだったんだね。
帰りの馬車はテール君と一緒。
鶏館までだ。名前はそのまま使うそうだ。
そうなると、割り込んでくるのがファンファンだ。
鶏館までということで一緒に乗って帰ることになった。
が、セサミン、わたし、テール、カーチ、ファンファンが乗れば
流石に一杯だ。
マティスとドーガーは代わりにそれぞれの馬車に乗せてもらうことになった。
マティスがラルトルガ、ドーガーがボルタオネで。
ドーガーが頭の中で必死でわたしを呼んでいた。
声が聞こえたわけではない。顔を見てわかるという奴だ。これか!
(ドーガー?)
(モウ様!あの中に領主襲撃の時に見た顔があります!)
(知らぬ存ぜぬで通せ、逆にドーガーだと本人だと気付くほうがおかしい)
(?)
(だってあの中で殺されたのはドーガーだけだ。それを皆が認識しているんだぞ?
なのに、あの時いたのはあなたですよねってことを聞いてくる前に、
じゃ、死んだあの男はだれ?ってなるだろ?)
(!)
(聞いては来ないが、探りを入れるなら、そいつは中央院寄りだ。
あの集まりにもこなかった奴だ。うまいこと聞き出せ!頑張れ!)
(承知!)
(愛しい人?)
(マティスの方もなんかいるの?)
(頑張れって言って?)
(マティス!マティス!わたしから離れるけど、心はつながってるから!
寂しくても頑張って!)
(承知!)
なんなんだ。
「ハニカ?待っている間何かあったか?」
「ええ。入れ代わり立ち代わりに、この馬車を寄こせと。」
「見せてくれとか、売ってくれではなく?」
「ええ。」
「それで何と答えた?」
「これはコットワッツに売ったものだから、それはできないとだけ。」
「ははは!それで?」
「無理矢理に触ろうとする者がいましたが、はじかれたように逃げていきました。
わたしが触ってもなんともないのに。」
「不思議だな。しかし、よくぞ守ってくれたな。
帰りはラルトリガとボルタオネの滞在館を先に廻ってほしい。頼めるか?」
「もちろん。」
歌はかえるの輪唱だ。
説明をして、最初に歌って、みんなで歌って、
え?ファンファンいい声。
それで、追いかけて歌ってもらう。
テール君が大興奮だ。
もう一回、もう一回と順番を変えて3順ほど。
ふんぬーと、
「一番うまく歌えたな!」
と、やっと満足してもらえた。
次は?と催促される。
馬の歌と豚の歌と歌い、アヒルの歌はセサミンがダメだという。
「どうして?」
「テール殿はアヒルはご存じか?」
「もちろん。見たことはないが。」
「んー、だったら大丈夫かな?
何かにつけて思い出して笑い出しても、おとなでも、プう、苦しいのですが。」
「え?」
「まぁ、同じ思いをしていただくのはいいかな?お面もないし、いいかな?」
お面はないけど、手の振りはあるよ?
たぶんこの手の動きが音とあってるのがおかしいんだ。
だって、内容はそんなに面白くないもの。
1回目で、テール君以外は下を向いて震えている。
2回目は純粋なテール君も一緒に手の動きも覚え歌うと、
カーチ以外声をあげて笑ってしまった。
「つ、着きました。ふ、ふ、ふ。」
ハニカさんはかなりこらえている。
歌しか聞こえていなかったのに。やっぱり歌なのかな?
鶏館で降りてもらう。
テール君のみ大満足の笑顔だ。
「セサミナ殿、これはつらい。」
「ええ。しかし、これはまだましなのですよ。歌と手の動きだけなので。
これを2人で全く同じ動きでやられると、ぷぷぷぷ。」
「言わないで下さい。想像してしまう。」
「カーチ?カーチが苦しそうだ。泣いてる?セサミナ殿!」
「カーチ殿、お笑いなさい。あなただけ、声をあげてないのはかっこつけすぎですよ?」
「カーチ?」
「テール殿、かまいませんよ、目の前で歌ってあげなさい。」
「むーかーし・・・・。」
「ぶははははははは!!!」
「おお!」
あれだ、誘い笑いだ。
笑い声を聞いてつられて笑っしまう。
「ふ、あははははは!」
「わははははは!」
「うふふふふふふ。」
「テール様、後でマーロ殿にも歌って差し上げてください。カーチ殿と一緒に。」
「わかった!うふふふふ。カーチの笑っているのを初めて見た。
マーロも見たことがないな。楽しみだ。
マリーありがとう!」
「こちらこそ。そうだ。コクに会いたいのですが?」
「コクは呼べば来てくれるぞ?コク!マリーが来ているぞ!」
あ、ほんとだ。絶対そこにはいなかったはずなのに、
森から出てきたように見える。
「コク!わたしたちはこれで引き上げます。
また、離れはじめに会合があるからその時に。」
(うまく行ってるみたいね。
そうだ、その時カンターウォーマーもできてるから持ってくるね。
コーヒーが温かいまま飲める奴)
カンター?南のか?
(ルポイドのコーヒー屋さん。知ってる?その人の豆のセットで売り出すの)
楽しみだな
(コクはコーヒー通だね。うちも今その人のところかった豆だよ?)
そうだったんだ
ははは!
(ん?楽しいんだ。おいしいものね。わかるよ。
でもねー、一番はマティスの入れてくれたコーヒーなんだ)
そうだろうな
香人はあなたが煎れたコーヒーが好きだというのだろう?
(そうみたい。くふふふ。じゃ、またね!)
「マリー?コクはなにか言っていたの?」
「コーヒーが好きみたいですよ?」
「そうなんだ!わたしはまだ呑めないが匂いは好きだ。」
「そうですか?では、ミルクをいっぱいいれたものをお出ししましょうね。
あと、コーヒープリンとかもありますよ?香りだけですから。」
「楽しみだ!」
それから、ファンファンにも挨拶をして、別れを済ます。
「ファンロ殿はお声、歌声が素晴らしいですね。子供向けの歌ではなく、
別の歌を聞いてみたいと思いましたよ。」
と、心からの称賛を送ったのだ。
「え?モウ殿にそういわれるとうれしいですね。
わたしの声ね。そうですか。なるほど。いいことを思いつきましたよ。」
その時にラルトルガの従者から
ものすごい殺気を受けた。え?
後でマティスに聞けば、いいことを思いついたというのは
半分の確率でロクでもないことらしい。
今はいいことをやっているから次はロクでもないことだと。
それを促したから皆が怒ったのだ、いらんこと言うなと。
済まぬ。でも、本人がなんかするんだからいいんじゃないの?
「だって、いい声だったんよ?あの体系から出る声だね。
次に会った時はそこら辺を説明しておくよ。」
「そうしてくれ。馬車の中で、歌声が聞こえるし、笑いをこらえないといけないし、
愚痴は聞かされるし、頑張ったんだ。」
「そうだね。頑張った。マティス偉い!」
頭をぐりぐり撫で出ておこう。
「ドーガーの方は?」
「探っているのかどうか。わたしのことを聞かれました。
嫁はいるのかどうかとかね。隠すこともできないので、祭りで知り合った
娘2人と結婚すると。そこから、マーロ殿からボルタオネの結婚の話やしきたりなんかを。」
「なにか引っ掛かりは?」
「食生活の話になって、あまりお茶、コーヒーも紅茶も飲まないそうです。
湯を冷ましたものを飲むとか。井戸から汲んで、
桶に入れて。その水を沸かして飲むと。
それ専用の容器があるとか。」
「面白いね。」
「ええ、それを聞いていた別の従者、会合に来てたものですね、
それが、あの時にコーヒーや紅茶、コムのお茶、緑茶が出たと
驚いたと言っていました。
そこで、コーヒーと紅茶の入れ方の話になりまして、
井戸から汲んだ水をすぐに沸かして入れるほうがいいと。
これはルグさんから教えてもらったことなのです。
おいておくと少し匂いが出ます。すぐに沸かせば出ないとか。
それをそのまま。試してみると言ってました。」
「親方の家ではコムのお茶を常に飲んでいるって言ってったけどね。
いろいろあるんだ。」
「そのようで。」
お茶の効果か、水が問題か。
師匠に報告だけしておこう。
今向かっているのはハンバーグ屋さん。
そこでご飯を食べる予定。
ハニカさんも一緒だ。
遠慮したが皆で食べるのが楽しいのだと強引に。
馬と馬車は預かってもらう。
邪な考えがない限り、しびれることはない。たぶん。
「ようこそ。さっそく来ていただいて感謝いたします。」
「なに、あれだと聞いているからな。」
「ええ。肉も変えてみたのです。」
「そうか、楽しみだな。ああ、大型の冷蔵庫と、冷凍庫、あと調味料があるのだが、
あとで見てほしい。時間はあるか?」
「やっと!ええ。もちろん。
まずは、ご賞味ください。」
うーまーいー!!
いいところのお肉?贅沢なお味!チーズがいい!どこのチーズ?
「おいしいですね!チーズが違う?」
「そうだよね?食べたことのないチーズだよ?」
「店主!どこのチーズだ!」
「ほんと、おいしいですね。」
「・・・・。」
「ん?ハニカさん?ダメな味ですか?」
「あ、いえ。」
「!こうですよ!こう!仲間内の食事なんだから!
がっつり食べちゃいましょう!」
フォークにぐさりとさして食べてみる。
ああ、おいしい!
ハニカさんも真似して食べる。
「やわらかい!チーズなんだ!」
別に行儀が悪いとかではない。
ナイフを使うか使わないかの問題だ。
犬食いとか、寄せ箸、迷い箸とか、
そういうのがなければいいんじゃないかな?
正式な晩餐会じゃないんだから。
「けど、ま、ナイフを使ったほうが食べやすいことは食べやすい。
こんな感じね?」
「こうですか?」
「そそ。で、ソースもつける。チーズも集める。
ん!おいしいね!」
「あ、こうか、ああ。で、ん!なんだ!簡単だ!」
「そりゃ、そうだよ。食べるための簡単な方法なんだもの。
食べるのに苦労するなんて許せんよ?」
「そうなのか?あのなまこはかなり苦労したと思うが?」
「食べるための努力でしょ?前段階、下準備。それは問題ない。
だけど、食べ方がどうのというのがね。おいしく食べたらいいと思う。
もちろん、きちんとしないといけないときもあるけどね。
それは最低限でいい。」
「それはそうだ。」
「兄さん?なまこってあのコリコリした?」
「そうだ。あれは手間がかかるんだ。
あれが、あそこまでの味でなかったとしたら、
あそこまでの努力はしない。」
「それはいえるねー。ワタがうまいよね。」
そこから川ナマコが恐怖する夫婦の物語だ。
恐怖、拒絶、実食、うまー!の物語。
「何をやってるんですか!何を!」
「いやもう大変だった!処理はいいのよ。捕まえるのが!
今度ツイミ御大に教えてもらうんだ。」
「御大!しかし、ツイミなら仕方がないか。」
「あの人は食が何たるかを知っているね。
ううん、生きると言ことは食だということを知っている。
そしてお金の価値を知っている。今の職場にぴったりだ。」
「ええ、投票後のやり取りは良かったですね。」
「さらにすごいのはそう持っていったオート君だね。」
「なるほど。」
そうしなさいと言ったのおはおそらく師匠だ。
それは言わないけど。
「ハニカさん的には軍部の隊長が誰になろうとあんまり関係ない?」
「いえ、そんなことはないですよ?
前任のガイライ様は都下、ニック様がいらしたときは下町とよくいらっしゃってました。
ニック様が離れてからは、ガイライ様と、ルカリ様が下町まで。
軍を離れたとなった話はすぐに広まり、かなりの大騒ぎでしたよ。
ちょっとしたいざこざでも、すぐに取りまとめてくれていましたから。
ガイライ様、ニック様がいると、それだけで、安心感がある。
それがなくなった不安感があります。
次の軍部の方が見回ってくだされればいいんですがね。
すぐに決まった、次の方は名前を覚える前、ご病気とか。
しかし、その前に軍で働いていたものは大半は首に。
首というか、やめて行ったんですよ。給金が出ないと。
国の為に働くことは名誉なことだろうとね。
笑いますよね。先ほどの話のように生きることは食べること。金が要るんですよ。
今日は次の方が決まったんですよね?方針を変えてくださるといいのですが。
なんせ、仕事がなくなって、わたしと同じような荷運びをするものが増えています。
するなとは言えないでしょ?」
「そうだな。正式には混合いはじめの月の日に発表があるだろうな。
が、給金関係は見直しが決まった。知り合いがいれば教えてやればいい。
軍からではなく、国、資産院が責任をもって給金を出すだろうとな。」
「それはいい話だ!しかし、資産院ですか?」
「問題が?」
「もらえるものはきっちりするでしょうが、取られるものもきっちりとなりますから。
あの資産院ですよ?」
「あはははは!それはそうだ。が、納税は必要だからな。
あとで、どでかいしっぺ返しが来るぞ?」
「ナソニール?」
「ハニカさんは情報通だね。」
「街を廻っていれば、それなりに。ナソニールの方々が逃げるように王都を出たと。
その時は会合の時なのにって。
滞在館の物も一切合切運び出したそうで。」
「うわー。え?セサミン、ものすごく悪い顔だ。」
「え?そうですか?ふふふふ。ちょっとね。」
売り出しすであろう鉱山を買う気だ。
こっちにある備品まで持って帰ってお金にしないと足りないのか、
それともとにかくお金の確保だ。
セサミンは夜逃げだと踏んでるのかな?
「ハニカ、こちらこそいい話だ。ありがとう。」
「え?そうですか?なにかお役に立ったのならよかった。
それにこの食事おいしかったです。服も。
あいつがあんなに元気になったのも何年振りでしょうか。
コットワッツの話は聞いていました。
あなた方を見たときに、ああ、笑いものにするのだなと。
しかし、あははは!笑いものになったのはあの役人でしたね。
思い出しても笑いがこみ上げる。
馬車に触れて、手を押さえながら逃げていったんですよ。
見ていた、御者連中は指をさして笑いましたよ。」
「見せてほしいんなら見たいっていえばいいし、
売ってほしいんならそういえばいいのに。
ハニカさん、良かったらあの馬車もらって?
簡易で作ったから改良しないといけないと思うけど。
ちょっと地方から出てきた人たちをのせて王都を案内するのも
いいと思うよ?おすすめのお店とか、王都ならではの面白い話とかね。
王都を廻るのがダメなら都下でも十分。
気を付けないといけないのは嘘だ。
自分の体験した話が一番いいけど、悪口もだめ。」
「案内?え?あれをいただけるんですか?」
「うん。今度来るときはもっと本格的なものを用意するから。
セサミン、いい?」
「あれで十分ですよ?」
「んー、ちょっとカッコつけないと。装飾品とか売れないよ?」
「そうですか?その、あまり派手にならずに、
みんなと乗れるのがいいですね。」
「そうだね。そん時はハニカさんの馬車に乗ろう。
廻ってない王都も見てみたいしね。」
「また呼んでくれるんですか!うれしです!」
「だって、ほかの馬だと酔うもの。コットワッツの護衛、
モウが酔わない馬車って宣伝していいよ?」
「ええ、聞いています。赤い塊のモウは馬車に弱いって。」
「え?やっぱり知ってるんだ。
噂恐るべしだね。えーと、ちなみに赤い塊、護衛の方ね、
その噂ってどんなの?」
「え?本人を前に言うんですか?」
「ハニカ、本人が聞きたいと言っているんだ、
聞いた噂のまま話してやれ。」
「あの?」
「ハニカ、かまわない、噂は噂だ。」
セサミンもマティスもそういって促す。
そうですか?とハニカさんも話してくれた。
前置きに、石使いと護衛とおそらく一緒になっていると。
曰く、
大食いで、金にがめつく、恐るべき石使い。
尚且つ、武術全般が得意で、常に赤い服を身に付けている。
でないと死ぬそうだ。
面布、口布を付けているときの方が石使いの力が上がる。
最近の石使いはそれ真似て口布を付けているとか。
なんでも息から力が抜けるとか。なにそれ?怖い設定だ。
あとは常に2人組。
お互いを守る契約をしていると。
「伴侶ではないのか?」
「赤き塊と護衛のほうと一緒になっているんですよ。
赤い塊モウ様の伴侶はマティス様って知っているものは知っていますよ?」
「だったらいいい。ん?」
マティスの突っ込みにそう答えたハニカさんだが、
少し言いよどんだのだ。
「その、マティス様の伴侶はたくさんいると。」
「それは間違いだ。私の伴侶は唯一、この愛しい人だけだ。」
「それですよ!」
「なんだ?」
「マティス様の傍らには常に美しい人がいるけど、いつも違うと。
呼び名も愛しい人と呼んでいるから、わたしが聞いた話では4人ほどいらっしゃる。」
「あはははは!たぶんそれ全部わたしだよ?」
「ええ、そうでしょうね。わたしも、その、最初に見た方と、馬車を作っている方と、
馬車に乗った方と、今と、声を聴かなければ別人だと思いますから。
それなのに、常にマティス様は愛しい人と呼ぶ。
男どもは間違わないようにそう言っているんだと話してたんですが。」
これに皆が大笑いした。
噂話はこうだと話しているところから、入ってきたここの店主もだ。
ちょうど、デザートを持ってきてくれたのだ。
「名前を間違えるというのはあるな。
わたしも2人の妻を持つ身だ。一呼吸おいてから呼ぶようにしている。
ドーガー?お前も気を付けろ?」
「肝に命じます。」
「愛しい人は愛しい人という名だからだ。」
「その話はわたしの耳にも入りましたよ?愛しい人というのはわたしのことだと、
王族の娘たちが皆いっているとか。それで、娘同士が喧嘩しているとか。」
これは店主の話。
「勝手にしてくれってことだね。」
「そうなるな。が、雨の夜会ではっきりするだろう。」
「やはりご出席するのですね!」
「愛しい人を皆に紹介するためにな。」
「いま、誰がマティス殿の伴侶なのかと賭けが出てるんですけど、
モウ殿にかけていいですか?」
「わたしの名前が挙がってるの?」
「ええ。護衛赤い塊モウと。」
「そうなんだ。それ、胴元は?ほかの人の名前は?」
「確か、スダウト家だと聞きました。
他の娘さんお名前はそのスダウト家のココエート嬢、ルリチ嬢、
同じく、シルト嬢。この3人はいとこ同士ですね。
あとはタレンテ家のトウキ嬢、ルパラ嬢、
ダクツ家のカミツ嬢、イボン家のデンプ嬢ですか。皆王族ですよ?
しかも有力者たちだ。」
「すごいな!え?雨の夜会って招待制なんじゃないの?
みな招待されてるの?」
「らしいですよ?実際には金で買えるといううわさもありますし。」
「なんだ。そんな格式ある夜会じゃないんだね。ちょっとがっかり。」
「いえいえ!雨の夜会と言えば、皆があこがれる夜会ですよ?特に女性は!
ここ最近は少し傾向が変わって来たとか。
重鎮が出席なさらないのが原因だとも言われていますよ?」
「へー。なんにしても、それ、賭けちゃだめだよ?」
「え?どうしてですか?モウ様にかければ儲かりますよ?」
「ドーガー?考えてみ?自分の娘が嫁になれると
おそらくほかをあおって賭けを開催してるんだよ?胴元は。
それが、王族でもないわたしが唯一の伴侶ってなっても、
誰がお金を払ってくれるの?そんなのうやむやになって丸損よ?」
「危ないとこでした!」
「ダメだよ?だからってこの話を広めるのもダメ。
何をされるか分かったもんじゃない。
そんなことに賭けるのは俺の心情に反するって誘われても断るのがいいよ?」
「そうします。」
「ハニカさんまで!ダメだよ?この件は関わっちゃダメ!胴元になるのもダメ!」
「え?それも?」
「ダメダメ!結果を知ってるのにそんな狡いことしちゃだめ!
知り合いのことを賭けの出しにしちゃダメ!」
「それもそうですね。赤い塊モウと知り合いっていうほうがいいですね。」
「そこに価値を置かれると照れる。」
「愛しい人!かわいい!」
「もう!わかったから!」
とにかくハンバーグはおいしかったと。
チーズはいろいろなものを溶かして、それを入れているとのこと。
配合は内緒だが、こっそり教えてくれた。なるほど!
あとは冷蔵庫と冷凍庫を売り込んだ。お醤油も。
本体は大型なので、馬車にあるといって運び込んでもらう。
ハニカさんは驚いていたが、黙ってくれている。
賢い人なのだ。
大型は100リングとかなりな金額だが、
使い方次第だ。
店主は即、お買い上げ。
アイスクリームとプリンのレシピ付きは同じ。
磁石はシンプルなものだ。
家庭用は次回になる。
さすがに、ほいほい出すわけにもいかないから。
また、鉄板皿のこともあるから近いうちに尋ねると言っておく。
あとは、大門まで送ってもらった。
コットワッツは領国に帰るということだ。
馬車の陰でチャーたちを呼ぶ。
馬車があれば物影ができるから便利です。
ハニカさんはそれにも何も言わずに、またお声をかけてくださいと帰っていった。
運び屋ハニカと言えばわかるそうだ。
馬にも手を振って別れた。
大門を出て、そこから移動。
わたし達もいったんコットワッツに。
この日はサボテンの森の扉君の家でゆっくり寝る。
明日は、一日マティスと食料調達と、レタン、フレシアのエリングさんのところで、
コーヒーフィルターに使う布の相談と発注。
翌日はトックスさんと館の改装。
さらに翌日はクーちゃんとビャク、トックスさんとで、
タトートに。
日帰りだ。
またコットワッツに戻って、草原の話。
すぐにでも、ニックさんとガイライ、ルカリさんもやってきて、ルグたちの鍛錬だ。
離れはじめと会わずの月の真ん中あたりで道具もそろうから、
カンターウォーマーの準備もしないと。
エデトの話も聞きに行く。
それが終われば会わずの月で、そこから裏街道ツアーだ!
師匠もいけるのだろうか?
お揃いの服も用意しなくては!
まずは明日のごそごそだ!
が、マティスが聞いてくるのだ。
「寝る?」
「んー、ちょっとだけイチャイチャしたい。」
ちょっとだけでは済まないが、仕方なし。
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