いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

文字の大きさ
上 下
529 / 863

529:国外搬出

しおりを挟む
「コットワッツ!セサミナ殿!」


ここで名前を呼ばれたら、
その御仁がセサミンみたいじゃない?
セサミンの嫌そうな顔。

「はい?わたしはすでに2人の妻がいる身。
さらなる娶りはしませんよ?」
「そんな話ではない!あなたは雨の夜会に行かれるのか?」
「ええ、かなり前に招待状をいただきました。
今年ははやいんですね。
今回は妻たちと一緒に参加させていただきます。
そうなると、妻たちのドレスを新調しようということになりますでしょ?
大騒ぎでしたよ?
なんでも、タトートの刺繍布の国外搬出に成功したとか。
ここは夫として奮発しました。
そうしますと、結婚以来初めてではないかというほど、
興奮しまして、いや、その次の出来事の方がそれはもう、
思い出してはこちらも赤面するやらで、なんにしても
あれほど可愛らしくなった妻たちを見るのも初めてでして、
あの時は・・・」
「いや、セサミナ殿、その話はいい。」

セサミンの惚気話。そりゃ、さえぎられるわな。

「そうですか?残念です。
兄がよく惚気るので、自分も話てみたいと思っていたもので。」
「その兄だ。マティス殿も来られるのか?」

視線だけ、マティスに移す。
セサミンもマティスを見ながら答えた。

「ええ。なぜか一緒に招待状が来ましてね。
出る出ないは本人の自由ですので、来たことだけは伝えましたが?」

横にいるのに本人には聞かない。
護衛だからね。
マティスはずっと、だし巻き卵に赤根おろしが好きって言ってる。
うん、わかったから。
じゃ、明石焼きも好きになるね。うん、あの金物屋さんで作ってもらおう。

「雨の夜会に招待されて出席しないものはいないだろう?」
「嫌そうでしたよ?」
「そんなことはない!雨の夜会だぞ?
招待をされていることを知っていればいい。
それと、タトートの刺繍布?王族の前でのそのような嘘も不敬になりますぞ!」
「嘘ではないのですが。」
「あははは!これはおかしい。
あの賢領主と名高いセサミナ殿が騙されたんですな。
私のところには最新の情報が常に入るようになっている。
いまだかつてそんな話は聞いたことがない。」
「そうだったんですか。では、わたしは騙されたんでね。申し訳ない。」
「以後気を付けたほうがよろしいな。」
「ええ、そうします。」


タフトの領主はこのやり取りを聞いて、満足げに頷いてた。

タフトの領主、メラフルは、
あの馬車の中で、目ざとくセサミンのシャツが刺繍布だと気付いたのだ。
こちらから話をふったわけではない。
とある兄弟の行商が持ち込んだという話を伝える。
無造作に鋏を入れると今まで通りになるそうだが、
いいものを作ろうとすればいいらしい、という話を聞いたと。
ちょうど、タトートに廻っている行商に連絡を付け、
買い付けてもらい、シャツに仕立ててもらったのだと。
どうなるかわからないから、大体的に話をしたことはない。
持ち込んだ兄弟も、懇意にしている服飾屋だけに売ったらしい。
なんせ、今は良くても1日で粉々になるのが、
3日になっただけかもしれないし、このシャツがたまたまかもしれない。


「それは話だけではだれも信じないでしょうな。
現物を見ていないと信じられないですよ。」
「そうですか。では言わないほうがいいですね。」
「いや、言ってもいいんじゃないいですか?
が、きっと、嘘をつくなと言われるでしょう。その時はすぐに引きなさい。」
「どうして?メラフル殿はすぐにわかってくださったのに。」
「現物を見せろと言われれば見せればいい。
が、頭ごなしに、うそだ、騙されたんだという者がいたらね。
そんな奴は本物を見てもわかりませんよ。
余計に意地になるだけだ。」
「そうですね。なるほど。では、そういわれれば引きましょう。」
「そうしなさい。しかし、いいものだ。装飾石もそうだが。
もっと見たいですな。」
「ええ、是非にと言いたいんですが、急に滞在館を変更になりましたでしょ?
次のところはご覧になったように、手入れをしないと。
終わりましたら是非に。」
「中央院、天文院ね。手の込んだことをするもんだ。
ああ、もう一つ。中央院も派閥はある。天文院も。」
「ああ、そうでしょうね。」


メラフルのご贔屓は現当主の弟君。
息子たちではないということだ。

馬車を降りてすぐに、タトートに買い付けに行くように手配したはずだ。
わたし達や、トックスさん以外が仕入れてどうなるか。
金儲けはいい。
が、その前にいいものを作って儲けよう、というのが重要だ。
手を抜いてはいけない。


セサミンは忠告通りにすぐに引いた。
が、袖口から見えるシャツの布地に気付いたものもいる。
メラフルに近づいて聞いているものもいるようだ。
ここ王都でもオート君やツイミさん、師匠もカップ君たちも使っている。
オート君の彼女も見せびらかしはしないが、
使っていると思う。
見たものはいるだろうが、まさかと思っているのだろう。

王都ではタフトが仕入れた刺繍布が売れるだろう。
自国の街道でもだ。
いろいろ教えてくれた礼はこれで十分。
うちの息子からブラスの林を取り上げたことを帳消しにはまだできない。
始末終えなくて、軍部にまた押し付けるのだろうな。
そうなったら、また分隊に押し付けてくるのだろうか?
ガイライ達には住むところは勝手にどうぞというお達しだったしね。
行商という副業を獲得したのはさすがだったな。



「やはり、雨の夜会でお披露目がよろしいでしょう。
まずは、軍部隊長が誰が務めるかですからね。」


マティスが行けば、それでいいんだ。
どうやって承諾させるのかな?
今回の石使いの詩も、王さんが来なかったらどうなっていたんだろうか?

(愛しい人?そういうことはワイプが考える。心配するな)
(そうだね。師匠にきっちり報告だけしておこう)
(朝ごはんも食べに来るだろうからな。米を炊かないと)
(そうだそうだ。さらご飯!もう帰ってもいいのかな?)
(詩人がでた夜会の最後はまた詩人です。
それを聞いて夜会は終わりです)
(聞きたくないけど、早く帰りたい)
(そうですね。王、本人からの言葉もありましたし)
(やっぱり、王さんすげーっておもったの?)
(ね、姉さん!そういってしまうと一気に格式がなくなりますが、その通りです)
(はは!じゃ、やっぱり王さんスゲーだね。彼には彼の仕事があって頑張っているんだね。
じゃないと心からは思わないもんだよ)
(王は必要なんですが、誰でもいいとおもっていましたよ。
しかし、彼があの詩にもあったように、彼が我らが王なのだなと、はじめて思いました)
(はは!詩の効果がそこにでたのかもしれないね)
(詩ですか?)
(王の代理ということで動かそうとしたのかなって)
(あの偽物が?)
(分かんないけどね。あとは師匠の仕事ってことだね。)
(ええ、そのほうがいいですね)


「もっとほかにないのか?」

王さんスゲーって話をしている間に、
詩人が出て来たのに文句を言っている人たちがいる。
だれ?と聞くとフレシアの領主らしい。
フレシアとタフトは一緒のように考えていたけど違うのかな?
刺繍布だってフレシアの絹地にすればさらにいいものになるだろう。
それはあの白い布を見たドロインさんが言っていた。
流石、フレシアの布だと。
フレシアに刺繍用の布を発注すればいいのに。
なんだか、内緒にしているような感じだ。
タレンテ家推しでも、ご贔屓はまた違うのかな?
タフトの領主からはフレシアの話は一切出なかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

異世界隠密冒険記

リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。 人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。 ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。 黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。 その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。 冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。 現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。 改稿を始めました。 以前より読みやすくなっているはずです。 第一部完結しました。第二部完結しました。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します

風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。 そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。 しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。 これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。 ※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。 ※小説家になろうでも投稿しています。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

ちょっとエッチな執事の体調管理

mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。 住んでいるのはそこらへんのマンション。 変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。 「はぁ…疲れた」 連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。 (エレベーターのあるマンションに引っ越したい) そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。 「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」 「はい?どちら様で…?」 「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」 (あぁ…!) 今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。 「え、私当たったの?この私が?」 「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」 尿・便表現あり アダルトな表現あり

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

処理中です...