いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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それから、気を取り直して、
軍部隊長候補の演説となったのだが、
誰も聞いていない。
王の登場と笑顔で話題がみんなそっちに行ってしまっている。

それでも、話を聞いていると、どちらも軍部強化。
銃は素晴らしいと。
マトグラーサとルカリアにすればどっちでもいいことになる。

スダウト家は貴族子息を主体に。
スダウトのエボニカは同じような演説をした。
タレンテ家は石使いをもっと採用する。
どうやら、タレンテ家は石使いが多いらしい。
その筆頭というか、一番がクラサだったわけだ。
演説をしたタレンテ家トウキンは、
銃の導入、その上で石使いを上層部に持ってくれば
より良いと考えているらしい。



「銃は良いでしょう。が、その威力に石使いの力が上乗せられるのですよ?
我々一族は昔から石使いの者が多い。
統率も取れるということです。」
「石使いね。聞いた話だが、此度の晩餐会で出されたサイの肉の下処理に
石使いが使われたとか。
そのような使われ方をしている石使いを上層部に使うというのはどうなのだ?
しかもだ。
その処理ができたのならまだしも、何もできなかったと聞くぞ?」
「ははは!そうでしょうな。そもそもそのようなことに石使いを使うものではないんですよ。
皆は勘違いしている。石使いは選ばれた者なんですよ。」
「ほう!では、トウキン殿は移動ができると?
名は忘れたが、タレンテ家で唯一移動ができたものが病気になったと聞くが?」
「もちろん。石を用意してください。石があればできるんですよ。
石使いだけがね。」
「なるほど。石使いが素晴らしいのは分かった。
が、スダウト家にも素晴らしい石使いがいる。
そのものに軍部でそれなりの地位を与えようと思っている。」
「そうなのですか?その方のお名前を聞いても?」
「異国の石使い、赤い塊と呼ばれている御仁だ。」

おお!!

わたしも声をあげたよ!おおお!って。
じーちゃんいつの間にそんなことになっていたんだろうって顔で。

「赤い塊ね。それは中央院が総がかり引き込みに失敗した方ですね。
それをスダウト家が?それはそれは。
ここで、紹介していただけますか?」
「もちろんだ。おい!お呼びしろ!!」

これはすごい!

(姉さん!)
(いや、すごいね!じーちゃんに会えるなんて!)
(また暢気な!)
(え?なんで?楽しもうよ?)
(なるほど!)

セサミンが表情を出さずに焦っているが、楽しまないでどーするの!

奥から、赤い服を着た2人の男が出てきた。
師匠が両方とも男だと教えてくれる。
わたし役であろうひとが若干太くない?
気のせい?

しかし、おしいな。
爺バージョンの赤い塊の赤い服は、あのドテラが基本だ。
綿を入れなくっちゃ!
綿を入れてるからぽっちゃりなだけであって、
そん薄手でぽっちゃりではない!
キャスティングミスだ!

生産院院長、ラッシングが近づき小声で聞いて来た。

「あの方が?」
「ええ。中央院の誘いを断ったのに、スダウト家の誘いに乗るということは、
余程おいしい条件だったんでしょうね。」
「そうですか。」
「しかし、どこかの組織の下に付くというのが、驚きです。」
「そうなると、あなたも?」
「?わたしはわたしですよ?爺がどこに居ようと、
わたしには関係ないとはっきりと言っておきましょう。」


あっしには関わりのないことでござんす!
ってことにしておきたい。


スダウトのエボニカがにやりと笑っている。
わたし達の後ろで話を聞いていたものが報告したんだろう。

うまく切り離せたからだろう。
わたしがおかしいと騒げば、どう持っていたんだろうな。
いや、面倒だもん。
ま、がんばっていただきたい。


「わたしは、うわさの中でしか、赤い塊のことは知らないんですよ。
ここで、なにかお見せできますか?
皆さまも見たいでしょう?
ああ、決して見世物にしようと思っていませんよ?
なんでしたら、石使いへの認識を改めてもらういい機会だ。
こちらからも、なにかお見せしましょう。」


いつの間にか、石使い決定戦になっている。
もうすぐ、月が沈むのに。
そしてオート君がご立腹だ。
公平に使う石は資産院に出してもらいましょうとなったからだ。

「無駄なことを!」


3万級を10コ。30万リング。

東方諸国で大きな石が大量にでたのならいいけど、
今は貴重なはずだ。
3万級を20個揃えれるなら100万になるのでは?という話を信じて、
あとで、オート君に売りつけよう



大広間の中央では、準備ができたのか、
これから石使い対決が始まる。

石使いの定義は今だあいまいだ。
わたしの中で。
何ができるか、ということが分からない。
資金受領の時に数ある箱を移動してもらったが、
石一個で、1つの箱だ。
ジャリ肉から砂を抜くのも。
1つの石に対して、1つのことおよび、1つの事柄。
火をつけたり、光を出したり、風を出すことは誰でもできる。
物を動かすのは握りこぶし大の石がいる。
これは石使いだからできるという認識。
大きな石は病気も治せる。が、いろいろ制約もあると思っている。

大きな石があれば移動ができる。
これが新しい認識。

「では、我々から始めましょうか?」

一つの石を文字通り抱えて、タレンテ家の男が叫ぶ。
その男は口元を隠していた。
なんだ、そういうの有りなんだ。

『移動石よ、わたしを部屋の端に』

あの大きさの石は移動石と名前をつけられたようだ。
で、どこに移動するか場所を言う。
部屋の端、というより、20mほど移動した。
そして石は砂となり消える。
もったいない。

おおとどよめき。
わたしはもったいなくて、ああ、と声をあげた。

次に出てきた男も口布を付けている。
今度は2人同時に移動させるようだ。自分ともう一人。
移動距離は1回目よりも少ない。
それでも、みな大興奮だ。



3つ目の石はなぜかファンファンが使う。


「その石があれば石使いでなくとも移動ができるのでは?」
といったからだ。
さすがファンファン。空気の読める男だ。
誰もが思っていたはず。


『移動石よ、わたしを部屋の端に移送するのだ!』

うんともすんとも。
挙句、石を抱えて移動。
え?
『移動石よ、わたしを部屋の真ん中に移動するのだ!』


いや、一緒だろう?
プっと誰かが噴き出した。

そこから笑いが起きる。
だって、おかしいもの。
悪いと思うけど、蟹股で、よたよた運ぶし、
それなのに、キリリというセリフもおかしかった。
するのだ!ではなく、しますよ?だ。

むー、ファンファンめ!この笑いを独り占めとは!
うらやましい!!


「いやー、無理でした。
やはり、石使いは特別なんですな。」

それか!
スダウト家もタレンテ家も銃はもとより、石使い推しだ。
これで、やはり石使いは特別なんだと皆が思う。
両家に好印象を持ってもらったんだ!
さすが!

(勉強になるねー)
(ええ、まったくです)


スダウト家の赤い塊はどうするんだろう。
40人以上を移動できるというのは報告に上がっているはずだ。
それを見せろと言われたら?
石が少ないというか?蜘蛛の糸を使うか?
催眠状態で、皆を外に連れ出す?
いや、移動できたと思い込ますか。
これだけの人数を?
外にも人はいる。
ぞろぞろと出てきたらおかしいだろう。

香りは?

(マティス?糸はないよね?匂う?)
(いや)
(じゃ、なんだろ?みんなに暗示をかける方法?)

食べ物か?
全ての食材に?
みな、好き勝手に食べている。食べていないものもあるだろう。
飲み物?
これも違う。だって、わたしは飲んでいない。トイレに行きたくなるから。

ここでしたこと、みんながしたことはなに?

音か!
あの詩は皆が聞いた。
言霊だ。

主のお考えは崇高なもの
だから導いてほしい
そのお心のままに我らは動けるだろうとかなんとか。

(どうしよう?)
(私の主は愛しい人だからな、私は動かないだろうな)
(セサミンたちは?)
(主か。主は王だ。王の命令だと言われれば動くかもしれんな)
(そうか。どうしよう?)
(まずはみなの動きに合わせよう)
(わかった)

残り3つ。

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