いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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511:喪失感

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「愛しい人?」
「マティス。師匠がさっきからわたしを睨んでいる。」
「ワイプ!お前も仕事に行け!」
「マティス君、それは出来ません。話してもらいますから。」
「もちろん。じゃ、屋上に。マティスも行こう。」
「姉さん?」
「モウ?」
「うん。大丈夫だよ。2人ともわたしの臣だからね。
大丈夫だ。だけど、師匠は違うからね。
わたしが大丈夫だと言ってもダメなんだ。」
「それは分かります。
風呂に行っている間の不安感のことですね?
いや、喪失感?今はありませんよ?姉さんがいますから。
そのことですね?」
「うん。なるほど、顔を見れば戻ると。
マティスのほうが重症だね。で、それ以上が師匠か。」
「モウ。あなたが大丈夫だというのならわたし、
わたし達は大丈夫だと思ってしまう。
あなたに不安がないからです。
セサミナ殿の言うように今思えばあの時あったのは喪失感だ。
ワイプに先に説明する必要があるのなら我々は後で。
その話を聞いてからブラスの林に戻ります。
いいですね?」
「それはもちろん。いっぺんに話せればいいけど、
念のため個別にね。
最後になるのは臣だからだ。いいね?」
「「承知。」」




 ─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘











植物園は前回セサミンに館を譲った時に撤去している。
全てウッドデッキだ。支柱は立ててハンモックは残している。
ジャグジーと台所、トイレを回収すればいい。
防水はしているから、
雨の日の時の排水だけきちんとしておけばいいか。
全部ここにたまるからね。
屋根は半分戻そう。
トランポリンはゴムで作り直そうか。
大判のゴムシートは開発済みだ。
きっとテール君は喜ぶだろう。
先に引き渡す準備をして、
屋上最後のコーヒーを飲もう。
耳のいいガイライに聞こえないように念のため膜は張った。

テーブルに3人が座る。
3つ並んだコーヒー。

「師匠?大丈夫なんですよ?」
「わかっていますよ?だが納得は出来ていない。」
「どんなふうに?」
「あなたがいなかった。風呂にいている間。物理ではないですよ?
存在そのものだ。
あれだけ空腹だったのに!腹がすけばモウのことを思い出すのに!
あなたの顔をみて、やっと思い出した。
それから、はきそうでしたよ?牛丼?あれはおいしかったですから、
戻すことはありませんでしたが。
マティス君はあの状態だし、
セサミナ殿とガイライ殿は、やっと顔のこわばりが溶けた。
ツイミやカップたちもだ。
マティス君が言う、記憶の改ざん?
新年の話ではない!今起こったことだ!
だいたい、館に入った時からおかしかった。
わたしは誰かに指示されるのは嫌なんですよ!仕事でもね!!
あー、まだ、胸がむかむかする!!」

え?オート君は?
ああ、指示しているのか。

「マティス君?
危惧していたことが起こったんですよ?
どうして平気なんですか!」
「愛しい人の顔を見れば思い出したからだ。
次にこんなことが起こったとしても、愛しい人を見ればいい。
愛しい人は必ず私の元に来る。それが絶対だからだ。
それに2度と愛しい人と2人で会うことはない。
それも絶対だからだ。」
「だれ?誰が来た?中央院院長?」
「ちがうよ?その人がね、、、」

話がしたいとやって来たこと。
謁見の時に妖精の酒をぶちまけたのを気付いたようで、
譲ってほしいと言ったこと。
笑い上戸。
笑いの沸点が低い。
おそらくわたしと同じようなツボがあるということ。
小話、下町のエビは理解してくれなかったこと。
あまり賢くはないこと。
それはわたしの主観だ。
それと鼻毛の話。おでこが広くなる話。
禿げ散らかす話。

これは下を向いて話したので、
師匠がどんな表情だったかはわからない。


それで、妖精の酒を100万で売ってくれと言ったこと。
10リングも持ち歩いてないこと。
服の趣味が悪いこと。
結構甘党。
面白話の持ちネタがないこと。
これは致命的だ。
出してきた対価があだ名の命名権。
仕方がないのであだ名をつけたこと。
また来るというので塩をまいたこと。


「100万リングはもったいないことをしましたね。
リングはリングです。
出所なんてどうでもいいんですよ。
次にそのような話があるときは、
向こうが提示する額に、0を一つ付けて要求しなさい。」
「おお!そうか!次からそうします。」
「で、名前を付けたと?クーやビャクと同じように?」
「そうなんよ。気に入ったみたい。」
「誰です?それ?」
「ここの王様。」



「・・・・・。」

師匠がコーヒーに口を付ける。


話は終り、膜は外した。
あの二人も一緒でよかったかな?


わたし達もコーヒーを飲む。
おいしいね。でもちょっと冷めてる。


「ふー。」
「師匠、いつでも暖かいコーヒーが飲めるもの開発してるんですよ。
資産院にどうですか?味は落ちますけどね。」
「・・・・。」
「?」



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」



師匠の雄たけびは凶器だ。
まさに、Gの上を行く上位G、ジョージ。
さすが師匠だ。わたしの目指すものの見本を見せてくれる。

屋根の一部が壊れたかもしれない。
マティスはわたしを抱えて、すぐに下に避難している。
ドスンと、屋根の一部が落ちてきた音がしたのだ。
ちょうどいい。元に戻す時に防水と排水をきっちりしておこう。



「ね、姉さん!!」


ドーガーはセサミンとソヤを抱え込んでいる。
ガイライとニックさんは臨戦態勢だ。
阿吽像のようだ。
かっこいい!!

「ワイプだ。ほっとけ。」

上からドダドダと下りてくる足音。
移動もせずに師匠が飛び込んできた。


「モウ!!」


思いっきり抱きしめられる。
んー。
照れまんがな。


めずらしくマティスがため息を漏らしただけだ。
止めに入ったのはセサミンとガイライだ。

「離れてください!ワイプ殿!!」
 「ワイプ!離れろ!!」


2人を背中に、まだ抱きしめている。

「師匠。大丈夫ですよ。」

「どこが!わたしが死にますよ!」
「なに!だったら彼奴も死ね死ね団か。勧誘するべきか?」
「マティス君!あなたなんで平気なんですか!」
「・・・今は平気だ。が、お前の気持ちもわかる。
しかし、それ以上はダメだ。離れろ。」


まだ震えている師匠をぐっと抱きしめ返せば、
大きく息を吐いて離れていった。

すかさず匂い付けのように、マティスが抱き付いて来た。






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