508 / 863
508:鉄板
しおりを挟む「マティス?家に帰ってきたよ?お風呂も一回はいる?
おなかすいてる?お茶づけ食べようか?ラーメンにする?
焼きおにぎり作ろうか?」
「・・・・。」
「じゃ、お風呂はいってきてもいい?
つかっただけでしょ?一緒に入ろう。」
マティスがセサミンとのことを考えていた時のように。
帰る場所はどこなのだろうかと考えていた時のように。
考えていること以外を放棄する。
考えていることはわたしのことだ。
全神経がわたしに向いている。
時間にすれば1時間もたっていない。
その短時間、わたしのことを記憶から外に出されただけで
こうなってしまうのか。
それに気付いたときか?
皆と風呂に入っていた時はなにも感じていなかったはず。
反動をどうするかだな。
じっと見ている。
わたしを。目の前にいるし、触ることもできる。
なのに、少しの間、いなくなっただけで、その時間を埋めようとしている。
次からはマティスは同席させよう。
お風呂に入り、体を洗い、
わたしもさっと自分で洗う。
その間マティスの手を握ったままだ。
仕方がないな。
台所に戻り、ストローで水を飲む。
売れるよねー、これ。
トウミギの茎の単価、手軽さには負けるけど、
高級路線で売ろうかな?
ご飯は何にしようか?
もういらない?そう。じゃ、寝てしまおう。
わたしも味見はしたからそこまでおなかがすいてはいない。
手をつないで寝室に。
すぐにでも月が沈むだろうな。
それでも、1時間ほどは眠れるか。
「愛しい人。」
「ん?なーに?マティス。」
「あなたを忘れていた。」
「んー、そうなの?ヤロー共のお風呂はそんなに楽しかった?」
「違う!忘れていたんだ!あなたの存在がなかった!
ジャグジーも簡単に着れる服も、酒が出る管も、トランポリンも!
みんなあなたが作ったものなのに!
セサミナが作ったものだと思った!
当のセサミナは私が作ったものだという口ぶりだった!
そこでおかしいと考えねばならないのに!何も思わなかった!!
皆も腹がすいているはずなのに、飯のことは何も言わない!
ワイプもだ!
ただ、風呂に入って、過ごしていた!時間が経つのを待っていた!!
どうして!!」
「んー。今は?」
「今?いつもと同じだ。愛しい人がいる。愛しい人がここにいる。
だが、さっきはいなかった!それで平気だったんだ!!」
「んー。さっきね。王様が来てたの。
お酒を分けてほしいって。」
「!!!」
「でね、2人で話したかったみたい。そういう風に王様が望んだんだね。」
「ダメだ!!どうして!」
「妖精の世話役が王様なんだって。で、やっぱりお酒がいるみたい。」
「違う!どうして2人で話した!!」
「わたしだけに用事があったからね。マティスが心配することはないよ。
でも反動がひどいよね。次からは一緒にいてね。
あれは、笑い上戸だ。青いアヒルを見せれば笑い死にするね。」
「笑い!王が笑ったのか?え?」
「笑う、笑う。禿げネタは大うけだったよ?」
「何の話をしたんだ!!」
「鼻毛の話?」
「!!!!!」
「くふふふふふ。あのね、最初はね、ちゃんと言葉も丁寧にしてたんよ?」
「話して、最初から。」
「うん。」
「100万だよ?マティスが理解できないのならいらないやっておもったけど、
大丈夫そうならもらえばよかったね。いや、でもなー、いらないよね。」
「いらない。」
「うん、マティスもそういうと思った。でもさ、ただって言うのもあれだから、
10リングっていったの。そんなもんでしょ?」
「そうか?」
「うん。でも持ってないって!それぐらい持っとけよっておもったけど、
仕方ないよね。ポケットからじゃりじゃり出されても嫌でしょ?」
「いやだな、なんとなく。」
「嫌だよ。きっと糸くずとかついてるんだよ?
いやだよ。で、今持ってるもので交換しようっ思ったのね。
でもさ、持ってるもんって服しかないからさ。」
「服?王の服?そ、それを取ったのか?」
「まさか!趣味悪くない?あれ。言わなかったけど。」
「・・・。それで?」
「うん。でね。なんか、面白話教えてって。
王様あるあるでもいいよって。」
「あるある?すまない、わからない。」
「んー、王様ならでは当たり前的なそんな話?共感話?
あるよねーっていうの。」
「ああ!それがあるある話?」
「そそ。で、マティスと同じように分からんっていうから、
価値のあるお話をしてくださいって。」
「価値?」
「例えばさ、こうすれば痩せるとかさ、
こうすれば色鮮やかに野菜を茹でれるとかさ。」
「・・・。王がそれを知っている方が嫌だな。」
「でも笑えるよ?」
「・・・笑うな。」
「で、結局名をつける権利をもらったのよ。」
「名前!王に名前を?」
「うん。でね。」
「待って!言ってはいけない!」
「へ?」
「それは、真名だ。」
「違うよ?あだ名だよ?しかも名前をつけてっていう意味の言葉、
それを聞くのは3回目なんだ。
クーちゃんとビャクも言ったんだ。たぶん、鉄板ギャグなんだよ。」
「鉄板?確実という意味だったな?ギャグ?」
「うん、コクもそういってた。名前を付けてくださいって意味だって。
ああ、コクがね。あの香木は身に付けてろって。
飾りできた?」
「ああ、できている。
銀の筒の蓋に付けた。中に砂漠石が入る筒だ。
イスナに聞けば、そのままの形で使うそうだから。」
「かっこいいね!ありがとう!」
「ああ。それで?付けたのか?あだ名を。」
「うん。笑い上戸だからね、」
「待って!今はいい。言わなくてもいい。
あなたがつけた名前だ。あなただけが知っていればいい。」
「でも、クーや、ビャクはそう呼んでいるし、コクも改めて付けたし、
みんなで使えばいいんじゃないの?」
「・・・・すまない。クーや、ビャク、コクもか?
それらはいい。だが、王の名前、あだ名でも、怖い。」
「そうか。それはあるかもね。それに呼ぶこともないだろうしね。
また来るなんて言ってたから塩まいてやったよ!」
「また?塩?」
「そ。塩は厄除けなんだよ。」
「塩がか?」
「うん。嫌な客が来たら二度と来るなってことで塩をまくの。
逆にお客さんが来てほしい時は盛り塩とかするんよ。塩は万能なのよ。」
「そうか。二度と来るなとあなたが言ったんだ。来ないだろ。」
「たぶんね。あの無理矢理っていうのはないだろうね。
今度があってもその時はマティスも一緒だから。心配しないで。」
「ああ、一緒だ。
・・・それで、その名前を付けてくださいっていうのは?
なんという言葉だ?」
「もう覚えたよ。
クリーテ・カネリトリア・トメリタロ
っていうの。」
「私にもつけて。名前を。」
「ん?マティスなのに?」
「コクもコクなのにもう一度付けたのだろう?
それと同じだ。あなたにつけてもらいたい。同じ名前であっても。」
「そう?じゃ、言って?」
「クリーテ・カネリトリア・トメリタロ。」
「あなたの名前はマティスだ。
マティスであり、マティであり、ティスだ。
お兄ちゃんでもあるしタローでも、セバスでもある。
全てがわたしの愛しい人。わたしの愛する人の名前。
わたしのマティス。
あなたはわたしとつとめを果たす人。
ああ、マティス。わたしも。
クリーテ・カネリトリア・トメリタロ。」
「あなたは私の愛しい人だ。
名はなくても私の愛する人。
モウでもあり、サブローでもあり、チビでも、マリーでもある。
私が呼ぶ名は愛しい人。それがあなたの名前だ。
私の愛しい人。私だけが呼べる名前。
常にあなたの心に。常にあなたの傍に。」
「うふふふ。照れるね。」
「しかし、安心した。名前を呼んで?」
「うん。マティス。わたしも呼んで?」
「愛しい人が名前になった。愛しい人。愛してる。」
「わたしもだよ。マティス。愛してる。」
11
お気に入りに追加
368
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
異世界隠密冒険記
リュース
ファンタジー
ごく普通の人間だと自認している高校生の少年、御影黒斗。
人と違うところといえばほんの少し影が薄いことと、頭の回転が少し速いことくらい。
ある日、唐突に真っ白な空間に飛ばされる。そこにいた老人の管理者が言うには、この空間は世界の狭間であり、元の世界に戻るための路は、すでに閉じているとのこと。
黒斗は老人から色々説明を受けた後、現在開いている路から続いている世界へ旅立つことを決める。
その世界はステータスというものが存在しており、黒斗は自らのステータスを確認するのだが、そこには、とんでもない隠密系の才能が表示されており・・・。
冷静沈着で中性的な容姿を持つ主人公の、バトルあり、恋愛ありの、気ままな異世界隠密生活が、今、始まる。
現在、1日に2回は投稿します。それ以外の投稿は適当に。
改稿を始めました。
以前より読みやすくなっているはずです。
第一部完結しました。第二部完結しました。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
レベルカンストとユニークスキルで異世界満喫致します
風白春音
ファンタジー
俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》は新卒で入社した会社がブラック過ぎてある日自宅で意識を失い倒れてしまう。誰も見舞いなど来てくれずそのまま孤独死という悲惨な死を遂げる。
そんな悲惨な死に方に女神は同情したのか、頼んでもいないのに俺、猫屋敷出雲《ねこやしきいずも》を勝手に転生させる。転生後の世界はレベルという概念がある世界だった。
しかし女神の手違いか俺のレベルはカンスト状態であった。さらに唯一無二のユニークスキル視認強奪《ストック》というチートスキルを持って転生する。
これはレベルの概念を超越しさらにはユニークスキルを持って転生した少年の物語である。
※俺TUEEEEEEEE要素、ハーレム要素、チート要素、ロリ要素などテンプレ満載です。
※小説家になろうでも投稿しています。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる