いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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503:道化

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「ドーガー?」
「ドーガーさんだ。なんだ?」
「コットワッツってどんなとこ?」
「そうだな、もともと砂漠石が豊富に取れる場所で、
綿の加工、鉄の加工、鉱物の加工が産業としてあったんだ。
が、変動で砂漠石が全く取れなくなった。知ってるだろ?」
「変動?砂が舞い上がったって言う話?」
「そうだ。よく知ってるな。マトグラーサのどこなんだ?」
「嘘だと思ってたよ。イリアスの国境近くの塩の湖の近く。」
「塩?湖で?へー。しらないや。モウ様が喜びそうだ。」
「モウ様、あのねーちゃんな。」
「ソヤ。俺のことを呼び捨てでも構わない。
セサミナ様もだ。別にお前の主でも何でもないからな、今は。
だが、モウ様は敬意をもって呼んでくれ。」
「呼んでるよ?ねーちゃんって。おばちゃんじゃないだろ?」
「・・・。いずれ、お前もモウ様って呼ぶよ。」
「それで?」 
「ああ、変動でな、石が取れなくなって、違う産業を興している最中だな。
タオルもゴムも宝石も。みんな変動後の産業だ。
モウ様が導いてくれたんだぞ?すごいだろ?」
「導く?全部作ったのか?」
「作ったということではないんだけど、なんて言ったらいいかな?
教えてくれたというか。」
「なんだ。だったら、それを作り上げた奴の方が偉いじゃないか?」
「ああ、そうだ。モウ様もそういうだろうな。
が、モウ様がいなければそれもできなかったってことだ。」
「わからん。」
「そうか?お前だって持ってきたオショウユ。黒水っていうのか?
あれ、モウ様がいなければ捨ててただろ?それがモウ様がこれはねって
言ってくれればそれが金になるんだ。」
「ああ!そういことか!」
「な?だから、モウ様を狙う奴が沢山いてる。守らないと。」
「金の為か?」
「はははは!そんな奴は誰もいないよ。だが、そうだな。
わたしはチョコの為だ。」
「あ!それ!あの甘いの!」
「そうだ。あれの為。だからモウ様をお守りするんだ。」
「それを知ったらねーちゃん悲しまないか?」
「ははは!違うとわかっているから笑ってくださるんだ。」
「?わからん。」
「そうか?いずれわかるよ。」

留守番の間にソヤと話をした。
ソヤはいまいちわかっていないようだ。

それから道化をしにルカリアとマトグラーサの区画に。
購入資金ももらっている。

そこに行くまでにソヤはあれやこれやと遠慮なく買っていく。
持たされた背負子に次々いれていった。
妻たちへの贈り物何かないかとみていたが、イスナ父さんやマティス様、
トックス師匠の方がいいものを作れる。
ほしいとも思わなかった。




「これはこれはドーガー様ですね?」

領主がお出迎えなんかしない。
商人風な男が出てきた。武人でも事務官でもなさそうだ。
ソヤが服の端を引っ張る。気を付けろということだ。


「わたしの名を知っているというのはうれしいですね!
ええ、お傍付き次席を任されているわたしが、ドーガーと申します。」

・・・初対面でこんなふうに名乗りをあげたら俺は以降の付き合いを考える。
俺は今は道化だ。ソヤ?いやそうな顔をするな。わかってる!


「ええ。近いうちに筆頭になってもおかしくないとか。」
「そんな話が!うれしいですね。」

ルグさんはどこに行くんだ?
モウ様ならここで笑い転げていることだろう。

「銃の方を?」
「ええ。うちの方ではいまいち銃には興味がないというか。
それはセサミナ様の兄上、マティス様が使わないからだと思うんですよね。
使わないというか、使えない?
武の大会も、相手が銃遣いということで棄権しましたし。」
「なるほど!言葉が悪いかもしれませんが、お許しくださいよ?
銃を恐れている?」
「んー、なんとも。しかし、使う使わないは別にして知っておかなくては。
謁見でも、これを被ったから助かったと。
わたしはただ弾が当たらなかったからだと思うのですよ?
そうだと思いませんか?」
「!これがあの時の布?マント?見せてもらっても?」
「ええ。あ、重いですよ。一緒に広げないと。」
「え?なっ!重い!なんですこれ?」
「大げさですね!鉄を入れているとだけ。
ま、これは着て走るのはちょっと辛いかな?」
「この重さが平気なのですか?それはすごいな。」

お!今のは心からの絶賛だ。
分かってるって!

「それで、これをまといますので、撃ってもらえません?」
「え?」
「確かめておきたいんですよ!銃の性能を!」

声高に!ほら、みんながこっちを見ている。
お待ちをといって後ろの囲いのなかに入っていった。


「銃。撃たれたら死ぬ奴だろ?」
「それは知ってるんだな?」
「そういう話は知ってるよ。嘘かどうかがわからないだけ。
ドーガー死にたいの?」
「どうして?死なないよ。お嫁さんたちが泣くよ?」
「嫁?達?何人いるんだよ!」
「ぐふふふ。2人。雨の日に結婚するんだよ。
もう一緒に住んでるけどな。」
「死ね!お前は死ね!!」
「ひどいなー。死なないよ。これは本当のこと。
お前も一緒に入るか?この中に?」
「俺は嫌だ!」
「そうか?ま、見ててくれ。」
「そんなことをあのねーちゃんは頼んだのか?
死ねってか?」
「違うよ?死なない。だから頼んだんだ。」
「!わかった!銃ってたいしたことないんだ!」
「声がでかいよ!」


「ドーガー様?こちらに。
今、タフトの方々が試し撃ちをしております。
それを見てからお試しになられては?」
「タフトも銃を導入すると?」
「いえ、銃を導入なさっていないのはコットワッツだけと
お答えしたほうがよろしいですね。」
「なるほど。」

さらに裏手に囲いがあり、
的なのだろうそれが並んでいた。
コットワッツの商品を並べる広さの何倍あるんだ?

タフトの領主だ。
あれだけ反発しあっているのに買うんだな。
いずれ自分のところでも作るつもりなのだろうか?
それともそれ以上のものを作るつもり?
ああ、モウ様がおっしゃっていた通りだ。
これから銃の時代。
相手が持っていればこちらも持っていないと。
50人、100人が一斉に撃てば、皆何もできずに死んでいく。
モウ様の力が皆にあるわけではない。
いま、今ある力で守っていかないと。
なんて言っていた?狙撃手?すないぱあ?
銃を構えている相手を遠くから撃つ?
!!これだ!!


パン!パン!パン!パン!パン!パン!
パン!パン!パン!パン!パン!パン!


狙っているのか?わざとなのか?
的には全く当たらない。
逆に怖い。狙われていない人があたって死にそうだ。
跳弾にはならないのか?砂だから?


タフトの領主は満足げだ。
いや、そんな構えて狙って、撃つ?その間に蹴りが入るし、
逃げることもできる。
・・・冷静に考えればまだ使う価値はない。



「ドーガー様?まずは、的に撃ちますか?」
「そうだな。まず撃ってみよう。一番威力が強いのは?
これ?謁見の時に使われた?ふーん。」


弾のこめ方、撃ち方。旧式と同じ。
コットワッツに派遣される前に一度触っている。
その記憶よりはるかに軽い。

狙って撃つ。モウ様がおっしゃたように指先で指すように狙う。

パン!


次はもう少し近くで、連射銃を。

パン!パン!パン!パン!パン!パン!


「えーと、撃ってもらえますか?」
「え?」
「もっと近くで。ああ、これで死んでも文句はない。
ソヤ?証人だ。」
「え?」
「石を使いましょうか?でも、もったいないでしょ?」

死んでもそっちは痛くもかゆくもないから。

「ドーガー!」
「大丈夫。見ててくれ。合図はお前が出してくれ。」
「わかった!」
「いいんですね?」
「どーぞー。」


一応背中を狙ってもらおう。
ソヤ!いいぞ!!


いいって!
ソヤの声が小さく聞こえる。




え?



「ドーガー!」

ソヤがめくって声をあげる。

「ん?撃ったの?まさか、2人して石ころでも投げてだまそうとしてる?」

男とソヤはブルンブルンと首を振った。


次は連射銃。

「どーぞー。」




ポポポポポポ

んー?



「なんだ!狙ってもこんな感じなんですね。
それとも、その、撃つ方の技量に左右される?」
「失礼な!ちゃんと当たっていましたよ!
その布が銃の威力よりも上なんですよ!!」


でかい声で言ってしまった。
言った後に口を塞いでも遅い。

「んー。ちょっと疑問だな。
もっと銃になれたものが撃てばまた違うかもしれない。
買って帰ろうかな?これを信じ切ってしまうのも、
お傍付きとしてお勧めできないし。
領国に帰って、旧式でも銃の扱いになれたものに撃ってもらいましょう。
これ、この2つと弾とでいくらになります?」
「・・・連射銃が250、その大型銃は500。
弾は1発1リング。大型は5リングです。試し打ちの弾代は34リングです。」
試し打ちの代金も取るんだ。
「さすがに高い!しかし、研究の為だ。
一つずつと弾は各20ください。」
「904!ドーガーそんなに持ってるの?」
「お前計算早いね。」
「・・・その布をお譲りしていただいたら、
お代は結構ですよ?」
「え?そうなんですか?どうしよう。これ、黙って持ってきてるんですよ。
これしかないし。無理ですね。904リング有りますから。」

よかった。1000リング持ってて。
なかったらいらぬ恥をかいたところだ。

「これは!コットワッツの!
やっとコットワッツでも銃のすばらしさが分かったということですね。」
ルカリア領主だ。
でかい声で。
「まさか!!これさえあれば大丈夫ですということをお見せするために買うのですよ。
謁見の時とは違う条件でも大丈夫だと安心していただけると思います。
主の憂いを少しでも取り除くのが我らの役目。
ん?もともと我が主セサミナ様は憂いていませんでしたね。
あははははは!では失礼します。」
「・・・・・!!!!」

撃ってこないか。
撃てばモウ様のあの手で受けましたよ、な手品ができたのに。
いや、皆ができると勘違いされても困るな。

あれ?囲まれた?


「ドーガー!」
「え?マティス様?」
「主、セサミナ様がお呼びだ。戻るぞ。」
「え?はい。」
「ソヤも。では、失礼する。」










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