いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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488:防弾

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(来るぞ)
(承知!)



王の前に、4人飛び出してくる。
散弾銃ですがな。

弾込め、狙い、撃つ。
その動作が遅い!

妖精の酒の一滴を霧状にして、
妖精の顔面をかすめて、その4人の顔に移動。
どうなる?


妖精が群がるよね。

「うわー!!!」

バン!バン!
2人ほど驚いて引き金を引いしまう。
相変わらず甘いつくりのようだ。

今回は砂漠には飛ばさないで、防御しないといけない。
これは一種のパフォーマンスだ。
今回の衣裳は黒いボディースーツに赤いマントだ。
広げると畳、2畳分。殿のドーガーがセサミンと
新人二人を抱え込む。
その上にわたしとマティスのマントをかぶせた。

パラパラと乾いた音がする。
ただのマントではない。硬貨ゴムと、鉄と銅を編み込んだもの。
防弾マントだ。
なので、無茶苦茶重い。

わたしたちにはそもそも当たらない。



「きゃー!!!」
廻りの王族はお約束も忘れて声を上げ逃げ惑う。


妖精は散弾があたり、からだが半分吹っ飛んでもお構いなし。

ちょっとしたホラー映画だ。
なんか口であろう場所から出てる!クリオネだよ!
ピギャー!!って!
怖い!!

前回のように、どこからか現れた人によって回収される。
それに妖精も付いていく。
声を出した人の息を止めることも忘れて。


マントをたたみ、黙って脇に並んだ。
新人2人が顔が真っ青だ。

「え、謁見者以上でございます。」
「明日の会合で再び、よろしく頼む。」

王さんも強いね。
お気に入りの妖精さんが撃たれても、眉一つ動かさなかった。
それもそうだ。体半分になったところはすぐに元に戻っている。
飛び散った肉片であろう物は、ぐちゃりと床にこびりついていた。
ヘドロのようだ。


王様は退場。
廻りの王族も、ふらふらとなりながら退場だ。

誰もが頭を下げないで見送るだけだった。



ざわつく場内。

『セサミナ様?問題は?』
「息苦しいな。音もさえぎられる。」
『それは仕方がないですね。
酸欠になるまでこの中にいるということはまずないですから。
あったとしたら、どうにも。
音は改良できるでしょうが、それが必要なほど長時間なら全滅ですね。
あくまでも簡易です。
撃たれることが分かっていて、
尚且つ、避けるよりもかぶるほうが速い場合のみ。
限定的です。』
「だろうな。あと、むさくるしい。」

そりゃそうだ。
ドーガーが覆いかぶさっていたんだから。

『ははは!それもなんとも。
軽量化がうまくいけば、服の下に着ることが出来るでしょう。
が、眉間を狙われれば意味ありません。』
「簡易な。商品化はまだ先だな。が、今回は助かったな。」
『妖精が、飛び出しましたから。
あれがなければ、マントをかける暇もなかった。
ドーガー、大活躍だったな。さすがわたしの僕だ。
お前たちも声も出さずに、偉いぞ。』


そう声を掛けても、2人はまだ顔色が悪い。


「セサミナ殿!」

ファンファンがやって来た。
「よかった。ご無事で。
今回は我が領に来ると準備はしていたんですが、
あんなことをされれば、みなやられています!!!」

後ろに控えているのはラルトルガのお傍付きだ。
5人ほど引き連れてきている。
これがみながみな顔色が悪い。


ラルトルガの筆頭はタンタンことタナガだ。
ルグに決闘を申し込み、敗北。
そのまま昏睡状態だったが、比較的早い段階で目を覚ましている。
が、筆頭は外れ、今回は同行していない。
ファンファンの廻りにいる者たちは、
領内で腕に覚えがあるものをきちんと集めたようだ。
が、今はそこそこ止まり。
タンタンも含めて再訓練はしている。
これは師匠情報。
そのアドバイスも含めての行政指導とか。


「コットワッツに対してだけですよ。
しかも今回だけでしょう?防げてよかったですよ。」
「今回だけ?」
「ええ。銃の威力を見せたい。
成功すれば、ここで使うようなものではないと次回からは禁止。
失敗したんだ。同じような手は恥ずかしくて使えない。なので中止。
ね?今回だけですよ。」
「成功するということは!・・・。」
「そういうことですよ。さ、帰りましょう。
明日はいらしてくださいよ。」
「ええ。もちろん。」

「セサミナどの!ファンロどの!」

集団から飛び出して、テール君がやって来た。

「テール殿。凛々しい姿でしたね。
もう一人前の領主殿だ。」
「はい!」

うれしそうに笑っているが、そこは3歳児。
襲撃のことも、銃のこともいまいちわかっていない。
もう眠たくて仕方がなさそうだ。
あー、かわいい。だっこしたい。
御付きの女官っていないの?母親は?立場上来ないか。
領主が母親同伴はまずいな。
じゃ、父親と叔父さんは?
来た。

「セサミナ様、ファンロ様、ご無沙汰しております。」
マーロが先に挨拶を。当然顔見知りだからだ。

ここで、イスナさんのことや、偽ドーガー、新領主、領主補佐の話が出て、
カーチを紹介した。

「補佐というお立場。
最初にお聞きしたときは、弱冠3歳の領主だ。
当然と思いましたが、なんのことはない。
馬車内でのやりとり。自ら会合に出席すると発言なさるし、
それにコットワッツとの間を取り持ってくださった。
侮って接したわたしが恥ずかしい想いをしましたよ。」

ファンロがテール君を褒めている。
要は自分への批判をかわすために
わざわざテール君の横に座ったということだ。
テール君の相手をしていれば、
自分へ話しかけてはこないと踏んだのだろう。
公式な場所ならなんとでもいえるが、
逆に非公式な馬車のなか。
なにをいわれるか分かったものじゃないからだ。


「そうですね。補佐というのは、身体的なものですね。
からだは子供ですから。テール殿?
眠い時は眠いと。それこそ、補佐役に頼めばよろしい。
そのためだけの補佐なのですから。」

イヤミンだ。

「女官はここには連れていないのですね?
モウ?」
『よろしいですか?テール様。
眠いのですね。ここに。』

しゃがんで両手を広げれば、カーチを見ずにマーロを見る。
叔父さんの方になついているのか。

マーロがうなづくと、少し照れながら、腕の中にやって来た。

子供の寝かしつけは、胸ではない。左鎖骨だと母さんは言っていた。
そこに頭をのせ、トントンとすれば、ほら、一発。
雨の日にぐんと大きくなるのだろう。
まだまだ小さい。
あー、かわいいね。

「寝ましたか?
この頃は、眠りも浅くて。誰が寝かしつけても、ぐずりはしないのですが、
固まるというか。」

なんだ?それはわたしを試したのか?
マティス?うらやましそうに見ないの!

「今日は緊張してつかれたのでしょう。
領主といえど、子供です。大人が守らなくては。
失礼ですが、母君は?」
「イスナ様、兄が亡くなるとすぐに病かかり、
静養するために離れております。」
「・・・それは、気の毒に。」

用済みということだ。
ボルタオネの領主の第一子は2人同時に作る。
早く生まれたほうが次期領主でもう一人は影だ。M
イスナさんの第一子は女、もう一人も女。
片方が男なら、そのまま次期。
影を作ることはしないとか。
次に男の子が生まれるまで、言葉は悪いが、子供を作る。
だがイスナさんは次の子供は望まなかった。
それで、カーチが子供を作る。
それがテール君だ。
いろいろしきたりがあるのだろうけどね。
この場合のテール君にも影はいるのだろうか?

テール君を抱きかかえ、外に。
また、二次会のお誘い、お誘い待ち。
今回はほとんどから声を掛けられる。
が、馬車の中なかで明日の3領国の会合をすると話していたんだ、
準備もあるからと断わるであろう前提。
もちろん、セサミンは断る。
明日の会合後はOKだ。
が、ファンロは賢いね。断るであろうと思って誘ったのに、
伺いますと返事をしている。
これも目的か。
マトグラーサの懇親会にご出席だ。
ボルタオネはカーチとマーロがそれこそ代理で出席。

終始黙って、うすら寒い微笑みを張り付けていたのが印象的だった。

マーロにテール君を渡す。
まずは逗留の館で寝かしつけてからの出席だ。
馬車に乗り込み急いで帰っていった。

この後、ほとんどの領国がマトグラーサの集まりに。
そこに出ないのは、コットワッツとタフト、フレシアだけだ。
フレシアとタフトは2領国で集まるようだが。


おお、胸元が寒い。
子供体温は高いから。

思わず、マティスに抱き付いてしまった。
だって、寒いもの。

「愛しい人?」
「マティスはあったかいね。」
「寒いか?セサミナ様、急いで帰りましょう。」


馬車を呼んで、館まで送ってもらう。

今回のことは、
襲撃を謁見時の見世物として敢行していた各院は猛抗議。
銃が危ないとかではない。
妖精が襲ってきたことについてだ。
流れ弾や跳弾で怪我したものはいないのが残念と言っていいのか、
幸いだったと言っていいのか。

王族か、マトグラーサ当たりのえらいさんが怪我でもすれば
それこそ大騒ぎだっただろう。
至極残念無念。

が、院のえらいさんたちはその話し合いの為に中央院に。
オート君が動けば、護衛としてどちらかが付く。
ニックさんだ。
ガイライは一緒に戻ることに。
師匠の家に泊まらせてもらうという形だ。
そのまま一緒に帰ることになった。

師匠は明日のことでいっぱい。
交代でご飯を食べるとのこと。

ん?屋台のラーメン屋さんをすれば儲かるはず!
頭の中で屋台の骨組みを考える。
収納から出すのだが、ばれないようにね。


さて、館の取りもちの仕掛けはどうなっただろうか?
昭和のコントのようなものを見せてくれるだろうか?
ちょっと楽しみだ。


そんなことを考えながら、馬車に揺られて、
マティスの胸にもたれていた。
酔うからね。
左鎖骨の枕は男の人でもOKだ。



そしてずっと震えている2人。
出しなに、結局鍵を隠すようなしぐさもしなかった。
秘密の通路のどこかに隠したのか?
そこまで、2人の行動を監視していない。
わかったところで、なにもできないからだ、今は。


馬車の中でのドーガーとセサミンの会話を、
2人はどう思って聞いていたのだろうか?

「ここまで露骨というのは、驚きです。」
「そうか?前回は資産院だ。今回は天文院だったそうだな。
手練れは前回の大会でまだ負傷中だ。
1人はルグにだが、これは天文院を離れたそうだ。
後の一人はマトグラーサの糸に、もう一人はライガーの銃だ。
向上した銃を使うということもあるだろうな。
全員死ぬか、誰か一人でも死ねば上出来だということだたんだろうな。
それが、全員無事だ。
大恥をかいたということだ。
妖精が動かなければ、我らにけが人が出ないとしても、
廻りには多少なり出ただろう。
襲撃の慣習もなくなるだろうな。」
「わたし達は死んでも良かったと?」
「そういうことだ。お前たち?少しは分かったか?
ここは敵陣なんだ。暢気にお茶会を開いている訳ではないんだぞ?」
「「・・・・。」」
「その中でも商品を売っていかないと。領民が生きていけないんだ。
明日はラルトルガとボルタオネがやってくる。
子供といえど、領主。
マーロとカーチもそれこそ領主になってもおかしくない者たちだ。
当然ついてくるだろう。領主が3人だ。
ファンロも返り咲いた領主は強い。
装飾品はいいとして、タオル類の販売路は確保しないとな。
ラルトルガに対してタオルの販売は無税での取り決めをしたが、
領主退陣で破棄だ。もういちど結ばねばな。
鍵が見つかってよかった。」
「・・・。セバスチャンさんとマリーさんは?」
「月が沈めば来るぞ?鍵はそのままセバスが持ち帰った。
その方が安心だからな。
お前たちが来る前に火を放たれもしたからな。
月が沈む前に来るだろう。」
「・・・あの2人の身元は確かなのですか?」
「ああ、心配か?それは大丈夫だ。」
「・・・そうですか。」


そこからみな終始無言だった。
わたしたち二人は、
左鎖骨枕の良さを確かめ合っていた。



降りれば気分すっきり。
送ってくれた馬をひと撫でして、御者にも手をふる。
酔うという声が聞こえたのか、えらく恐縮していたからだ。
いつも走るから、
こんな高級なものには乗りなれていないんだと笑っておいた。
おそらく明日にはこの話は広まる。
護衛赤い塊モウの弱点だ。










「セサミナ様。館の廻りに10人ほど。」
「中には2人。」

と、マティスとガイライが言う。
取りもち作戦は失敗か。
あんまり強力なのにすると、足や、手を切って逃げるとかされたらいやだったから、
根性出せば、取れるぐらいにしたのよね。


「せ、セサミナ様!」
「ん?どうした?」

「わ、わたし達は!」
「ここで話すことか?後で聞こう。」
「でも!」
「後だ。ドーガー、2人に付け。モウはわたしに。
ガイライ殿は申し訳ないが、外の動きと殿を。
マティスは先陣。」
「「「「承知。」」」」


セサミンかっこいい。
もちろん、マティスもかっこいいよ。








マティスが、館のカギを開け、先頭で入っていく。
ここのカギはやはり砂漠石を使っている。
ここら辺はセキュリティーばっちり。
ただし、大きい石で無効化されれば意味はない。
なので、もったいないから、鍵という名の棒を鍵穴に入れて開ける。
どんだけ大きな砂漠石を使っても開かないだろう。

直接大広間に行くと、
どんと、お二方が座っている。
この2人が軍部隊長と、生産院の副院長らしい。

「・・・・。」

「おや?留守中にいらっしゃったんですか?」

「森の中にいるものがこちらに来ますよ?」
「ガイライ殿が知っている顔ですか?」
「あたらしくはいった軍部のものですね。」
「この2人は?」
「侵入者に顔見知りはいませんよ。斬り捨てても良いのでは?」
「下に敷いている絨毯はお気に入りなんですよ。
血で汚したくないですね。」



「余裕だな。元隊長殿も落ちぶれたものだ。
辺境領主の使い走りとは。」

この人が軍部隊長か?
もっとましなのはいなかったのか?
近いうちに戦争があるであろうと考えるさなかに
軍部隊長に名乗りを上げるのは余程自信があるかお間抜けか。


「誤解があるようなことはすぐに訂正しておこうか。
わたしは使い走りではない。
いまここにいるのは、母の息子としてだ。
王都にいるのは資産院オート殿の護衛でだ。
ワイプ殿に雇われている。ニック隊長共々。」
「ガイライ、話がややこしくなる。間抜けと話すな。」
「はい、母さん。」

あれ?余計にややこしくなったか?
ま、いいか。息子なんだから。









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