いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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449:ガイライの話

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「派遣ですか?小隊規模で?」
「そうだ。ラルトルガからの依頼だそうだ。
200人抜きの話は聞いているだろう?その輩が領国に居座り
領民に悪さをしているそうだ。」
「ああ、コットワッツ筆頭たちと、資産院ワイプの弟子ですね?」
「そうだ。そのワイプの弟子な。王都に呼ぶことはできないか聞いてくれないか?」
「ワイプにですか?なぜ?」
「なんでも、素晴らしい槍使いらしいではないか。ほしいだろ?」
「軍に?」
「・・・いや。中央院専属に。」
「ならば直接ワイプ殿に交渉を。」
「しておる。が、あの男と話をしているといつの間にか食い物の話になっている。
ガイライから言ってくれ。」
「無理ですね。軍に引き抜くこともできませんよ。すでに交渉はしています。」
「・・・そうなるか。」
「クロモ殿?お疲れですね。」
「疲れるな。中央院の院長は自分の好みのことしかしないし、
数ある副院長も同じだ。しわ寄せがすべて事務部に来る。」
「なるほど、いつも通りと。で?この予算は?資産院から?」
「ああ、話は通している。ある程度の腕のものを出してくれ。」
「わかりました。」



クロモは中央院事務部の部長だ。
武の大会で進行役をしていただろ?あれだ。
現場からのたたき上げなので、わたしとは親しくしてくれる反面、
気軽に雑用を押しつけてくる。
予算は出してもらえるんですが。


ワイプに予算をもらい、誰を派遣するかとという段になって、
タフコーが名乗りをあげました。


「まだまだ若輩なので、経験を積ませてください。
わたしは腕に自信があるわけではないのですが、
統率力はあると自負しております。
新人と、上位5名を連れていけば大丈夫でしょう。」
「さすが、タフコーだな。
わたしではダメだ。恥ずかしい話だ。」
「いえ、実力だけではわたしとて、副隊長にはなれません。
ルカリさんは、やはり人当たりの良さがあるからですよ。」
「ここでお互いを褒め合うな。自覚しているんだったら精進しろ。
ではタフコー行ってくれるか?新人を連れていくのなら、
規則も覚えさせろ。筋を通さねばならん。」
「・・・・。」
「ニック、なにかあるか?」
「いや、予算はどれほど?宿も?
メジャートから入るのか?
贅沢だな。酒と女は我慢しろ?雨の日前だ。
盗賊ではなく、女は連れて帰ってくるな?
連れて帰ってくるなら結婚しろ。それだけだ。」
「ニックさんは厳しいですね。でも、それはそうですね。
うまいものを食べるぐらいはいいでしょう?」
「それはな。金はきちんと払えよ。」
「あははは!当然です。では、すぐにでも。」


「ニック?」
「胡散臭い。俺は気配を消してついていく。
ラルトルガに入る頃に合流しよう。」
「そうだな。あいつからはわたしの悪口一つ出ない。
それが不気味だな。ルカリでさえでるのに。」
「俺もだろ?」
「あはははは!そうだな。」


それから、モウたちの覆面族、そう呼んでいました。
覆面族にやられ、目を覚ましてカレーを食べた後すぐに出ましたね。
あれを食べた後なので、うまいものといってもそうそうないでしょう。
タフコーは飯を奢ったり、酒を飲ましたりで、
新人たちの人気取りをしていました。
その時に愚痴に同意をせず、否定せず、正論を解くのですよ。
そうすると、逆にこちらの批判が強まる。
言わされているのだと。
次の日、マティスから討伐の話が出たときは何の疑いもなく、
ワイプから聞いたのだと。未熟でした。
その次の日、半分すぎたころで、あの騒ぎです。
トリヘビが飛び交いましたよ。

コットワッツ、ドーガーと名乗る3人組が、
ボルタオネ、領主、筆頭、使用人2人を殺害したと。
そこから、ドーガーがどこにいるのかと。
一斉に連絡が入りましたね。


え?モウへの連絡ですか?
あはははは。その、一人になって、モウ、モウ、と十回唱えています。
そうすると、マティスかモウから連絡が。
あの石が呼んでくれていたんですね。


ボルタオネの次期問題は聞こえていました。
いえ、現領主が下りたいという話だけ。
しかし、次期となる息子はまだ幼い。
神童と言われたセサミナ殿ですら、5歳です。
早くともあと2年先の話です。次期領主となっても、
実際に領主になるのは早くても成人してから、
まだまだ先の話と思っておりました。

ええ、あのあと、手続きを済まして、
すぐに宣言した同席者を呼び、審判が始まりました。
天秤院でです。

嘘偽りなく、己が思い込んでいることを話しましたよ。
40名は軍部に、わたしとニックに恨みがあるもの。
実力はあるのに、無理矢理に除隊させられたと。
その心情を組み、タフコーが秘密裏に招集。
今回の討伐で手柄を立ててもらって、軍部復帰を推薦するつもりだったと。
無言で馬車を襲ったということは、先方の勘違いで、
恐怖で聞こえていなかたんではないかと。
その馬車に乗っていた一行はボルタオネ筆頭フック殿の
親族だと証明はされました。フック殿が無くなったあと、ボルタオネを出たことも。
その動転もあったのだろうと。
これは天文院アズレンの解釈です。
中央院からの正式な依頼ということも証明されていますが、
ラルトルガからということはうやむやに。
あの石が、オトイシですか?音石が記録したことは、
モウの言うとおり証拠にはならない。
あの時話したことの方が真実に近い。
おそらく、天秤院で、宣言の石の前での話はこれだという
施しがあったのでしょう。
その時にニックのほうで、なにか連絡を受けたのか、
フレシアに戻りました。
皆の前で、フレシアに戻ると宣言してから消えたものですから
大騒ぎです。
赤い塊の移動の話になりましたよ。
赤い塊がこの人数を移動させたということは最初に話しています。
ええ、急を要するので金の支払いの約束もしたと。
まず、そのくわしい説明です。
皆が気を失ったところに現れた赤い塊が、わたしたちを呼び寄せたと。
話を聞いていたのに襲ってきたのは、笑いますよ?
不思議な力を目の当たりにして気が動転したからだと。
生産院マレインです。
そこから、ワイプの独壇場でしたよ。

最終的にはそのようなことで動転するようなら軍部にいる資格なしと、
タフコーと襲ってきた一人、コードは除名です。
40人も同じですね。二度と軍部に戻ることはできません。
わたしとニックのも分隊処分となりました。
そのような状態を作った、というのが理由です。

大体が決まったころにニックが戻りました。

「へー、俺もか。どうしてくれる?ガイライよ?」
「すまんな。ま、仕方あるまい。」
「ニック殿?え?結局気配を消しただけ?」
「そんなわけないだろ?フレシアに戻ったよ。
ルポイドのテルマ殿が出張ってきた。俺はいらないだろう?
ルポイドが正式に送り届けるとこちらにも連絡が来ているはずだと。
そうなると、軍部がつくことは外交的にも問題だ。
ルポイドの軍事力を疑うことになるからな。
お任せして、先に戻ると言ってある。
総勢、4人だ。出迎えを。
マーロ殿も安心だろう。だから戻ってきた。
報告は以上だ。」
「テルマ殿が?わざわざ?
いや、それよりも戻ってきた?それはニック殿の意思で?」
「違う違う。赤い塊がそう施してくれた。
便利なものだ。」
「あ、赤い塊にどうやって連絡を取るのだ?」
「知らんよ。じゃ、軍部本隊の仕事は終わりだ。
分隊というのは隊長独自で動ける権限があるはずだ。ガイライ?拠点は?」
「タフトから買い上げたブラスの森だ。」
「うわ。それはそれは。予算は?」
「ブラスの販売利益だ。」
「ぶはははっはは!落ちぶれたな!ガイライ分隊殿!」
「そうだな。ああ、ちなみに分隊隊長はお前、いや、ニック殿だ。
よろしくお願いします。ニック分隊長殿。」
「が、ガイライ!!計ったな!!」
「ふふふ。その場にいないほうが悪いな。さ、移動の準備だ。
これで失礼する。」
「いや、お待ちを!ニック殿!
テルマ殿からなにか伝言は?」
「親書を持っている。中央院にだ。」
「わかりました。滞在は?」
「知らんよ。香木を購入したのはニバーセルだ。
それを持ってこさせたのもな。マーロ殿の護衛も。
あとはそれこそ、軍部本隊でやってくれ。」



テルマ殿がやってくることになりまして。
他国の重鎮です。
クジラ狩りにも軍部が参加しています。
対等ですが、今回は香木購入というものがある。
護衛を依頼したのもね。ニックを派遣したのだから、
本来ならそのまま同行が筋。
しかし、あの時点で分隊処分だ。
ニックの勘はさすがです。引き上げないと、外交問題だ。
中央院は香木をかなり貴重なものだと認識しています。
わたしは残念ながら、よくわからないですね。
王族、中央院、各領国領主のみが、
重要視してると考えていいと思いますよ。
接待ですよ。つながりがあるのは軍部ですが、わたし達は分隊ですので。
わたしたちを処分を出すのが速かったですね。
その時だけ本隊に?それはできません。
軍の規律が乱れる。一度下した辞令は絶対です。
あの者たちも。
除隊なら復帰もあり得たでしょうか、今回は除名なので。無理ですね。
分隊ですか?自由はありますが、予算がでません。
拠点もブラスの森です。先にコットワッツと契約しておいてよかった。
2人が生活できる分は十分に。
もちろん、今回、赤い塊に払う分は先に申請していますよ。
資産院に回っているはずです。
受け取りに多少手こずるかもしれませんが、間違いなく。
ああ、あの男からは何も。


「ガイライ隊長!ニック殿!どういうことですか!!」
「ルカリ、すまんな。あとはうまくやってくれ。」
「どうして!!」
「逆に自由になったとおもってくれればいい。
コットワッツ変動からからこっち、早急に動いている。
なにがとは言えない、なにかだ。銃のことも、弾丸、ボルタオネの代替わりもだ。
ルカリ副隊長、逆にわたしたちを使ってくれればいい。
あ!ニックが隊長だからな。わたしは一兵卒だ。ガイライと呼んでくれ。」
「ああ、なんてことだ!」
「ルカリよ、おれはニック分隊長だ。くくく、ガイライをこき使ってやろうぜ?」
「ニック殿!!」
「いいんだよ。これから大変なのはルカリ、お前だ。
お前が隊長になれればいいが、それはない。自分でもわかるだろ?
実力でなれるものもいない。あの5人?ああ、一人は除名だ。
あの4人から出るか、王族から来るか?
おそらく王族だ。4人では若すぎる。
誰が来ても問題だらけだ。今の軍部は他国の要請に出向くくらいだ。
ブラス刈りか、クジラ討伐。南方遠征がなければお荷物なんだよ。
しかし、銃もできてその話も上がってきている。
気を付けろ?」
「だったら!」
「本隊にいれば動けない。望んだ通りなんだ。
誘導したのはワイプだがな。あれも、分隊に来ないだろうか。」
「無理だろうな。」
「ああ、、、。」
「鍛錬は続けろよ?」
「それはもちろん。」
「ではな。皆に挨拶はないがな。伝えるときに皆の表情を覚えておけ。
笑う奴はいい。わたしだって笑うだろう。笑わない奴、表情を出さない奴だ。
そいつらには気を付けろ。」
「わかりました。」



ルカリに事情を説明して、今住んでいる家を引き払いました。
荷物は荷台に置いて、資産院鍛練場に。
それで、モウに、母さんに相談なんですが。


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


「ちょっと!カーチャンショックだわ!!
最後まで聞いてくれっていうから黙ってたけど、なんなんよ?それ?
ちょっと、行ってくるよ。晩御飯までには戻るから!!」
「ああ、モウ、母さん。怒らないで。いいんですよ。
今の立場が一番いい。除隊ではなく、分隊です。
自由が利く軍だと思って下さい。」
「そうだけど!!そうもっていったのは師匠?
んー、なんでだ?これは後で聞こう。
うん、ガイライが納得してるのなら、あいつらが処分されたのなら良しとする?
甘いけどね。甘甘!」
「あはははは。そうだろうな。除名でもいずれ戻ってくるだろうな。
特別にって奴だ。規律は正直な奴だけに効くんだよ。」
「ニックさん。ニックさんは?いいの?」
「いいよ?何も変わっていない。俺が分隊長になっても、
臣の腕を捧げているガイライの傍にいるんだ。何も変わらない。」
「ニックさん。ガイライを守って。」
「もちろん。うまい酒とうまい飯が食えるしな。」
「うふふふ。うん。じゃ、相談て?」
「その、家をどうしようかと。
母さんに甘えたくはないのですが、ワイプの家、あれ移動で?
あそこまで大きいものはわたしでは無理なんですよ。
お願いできませんか?」
「もちろんだよ!移動でも収納でも。
王都で好きな家買っておいで?あ、お金はある?家、買える?
一から作ることはできないんだ。あるものからの改修の方が得意なの。
それに、さすがに家を息子に買い与えるほど甘い母親じゃないよ?」
「あははは!ええ。もちろん、買えますよ。
移設だけお願いしたい。仕事として。」
「ううん。これはカーチャンからお祝いってことで。そこは甘えなさい。
ニックさんは?ガイライと一緒に住むの?」
「そうだな。俺だって金はあるよ?飯を作るのは俺だろうから、
一緒でいいや。で、台所が広いほうがいいな。」
「うん、うん。どこかで見つけて買っておいで。で、師匠の時のように、
覆いをして、気付いたら解体していましたってことで。
お風呂もジャグジーも作ろうね。おトイレも。
竹林か。うん、純和風のお風呂にしようか。楽しみだね。
でさ、軍からの連絡とかは?やっぱ、トリヘビ?」
「ああ、モウちゃん。分隊っていう名前がついただけで実質、首なんだよ。
で、軍に籍があるから有事には駆り出される。最前線だ。
連絡が来るってことは戦争なんだよ。」
「ふーん。そうなんだ。じゃ、カーチャン、ちょっと、
あちらさんとお話してくるから。」
「母さん!止めてください。本当にいいですから。
有事には最前線で貢献できるんです。十分です。」
「・・・いいの?ちょっと納得できないけど?」
「ふふふ。そうですか?あの土地がいわば、わたしたちの土地ですよ?
副業は認められているんですから。」
「む!そう考えると、うん。素晴らしい!!でかした!!
筍ご飯に、筍の天ぷら!メンマってどうやって作るんだっけ?
竹細工もいいよ?でも、竹炭だね。それを作ろう。いい?」
「ええ。教えてください。」

頭の中は筍祭り開催中だ。これをひとり祭りというのだろう。


「そうだ、テルマ殿は孫とその婿にも会いたいそうだ。
個人的なことだから報告はしてないがな。モウちゃんのことだろ?」
「うん。たぶん。おじいさまと呼んでいるのよ。
じゃ、テルマさんと誰が来るの?」
「事務方だろうな。3人だ。一人はテルマによく似ていた。」
「孫の一人かな?誰でもいいか。
テルマさんも甘党なんだよ?スイーツ至上主義団、略して甘々団に入ってくれるかな?」
「略しているのか?」
「うん。マティスは入団できないよ?」
「どうして!!」
「マティスは甘味がなくても生きていけるでしょ?」
「それはおかしい!甘味がなければ愛しい人は生きていけないというのだろ?
だったら、愛しい人が生きていけないのなら、私も生きていけない!!」
「ん?そうなるの?あれ?」
「モウ、論法がおかしいですよ?」
「え?あ!マティス!!
もう!わたしが死ね死ね団に入れないのと一緒で、マティスは甘々団に入れないの!」
「いつでも入団してくれてもいいんだぞ?」
「そこ、2人で惚気るな!
テルマ殿が来るなら、手合わせをしないとな。
モウちゃん?家とは別に鍛錬場も欲しいんだが。」
「うん、そうだね。地下に作っていい?
建物を作るのはさすがに無理だよ。師匠の家にあるようなのだったら大丈夫だよ?」
「十分だ。じゃ、ガイライ、家を探してくる。お前はなんでもいいんだろ?」
「ああ、寝れるところがあればいい。」
「じゃ、俺は王都に戻る。あの呼び出してくれた石な、常に近くにいるんだが、いいのか?」
「いいと思うよ?水浴びと磨きをしてほしければ姿を出すって感じだから。
手が空いていたらしてあげて。」
「了解。」


ドーガーの報告が終わり、あの4人が来るまで待機している。
イスナさんとフックさんも一緒にと言ってくれたが、
ドーガーが任せてほしいと断った。
いま、トックスさんや兄さん一家を交えて、工房の設計図を書いている。
ちらりと見せてもらったが、まずはトレースさせていただきたい。
立体的なのだ。手書きだからこそ線の強弱がついている。
部材ごとの線の太さではなく。
右上から光が当たり、影を作る、だから太い、という手法だ。
手書きを極めるとこうなるのかと。素晴らしい。

破棄案をもらって、マティスとドーガーに解説しながら眺めていたのだ。
そうするとガイライ達がやって来たのだ。トックスさんちに行けばここだと。
わたしたちは夕食を済ませているので、2人にはラーメンだ。
話を聞けば、学校に文句を言いに乗り込む親御さんになるところだった。
ニックさんは家探しに戻ったが、ガイライは手は出さないが見学していくという。
草原にもついてくるそうだ。
うん、まさしく自由だね。
何気にルカリさんの負担が大きいような気がする。引継ぎ無しだもの。
ルカリさんになにか持っていこう。
何がいいだろうか?コンパクトタイプのトランポリン?サウナスーツ?
ああ!サウナだ!サウナ作るのをすっかり忘れていた。
樹石でできるように考えてみよう。
檜で作ってもらうのもいいな。
わたしも久々に手書き図面を書いてみようか。

「愛しい人、ドーガー。来たな。」
「ドーガーさん!」

カップ君が先にやって来た。

「カップ。ご苦労だな。対象と他には?」
「対象と3人です。先にダンスがドーガーさんと話をするって。
それから、残りを家に入れる話しています。
胸糞悪い話でした。」
「カップ君、お疲れ。後はドーガーが一人でするよ。
わたしたちは見学。ご飯食べる?
ハンバーガーとポテトあるよ?」
「やった!いただきます!!」
「ドーガー?いいな?荷重8の半分、4打だ。」
「はい!」



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


「ドーガー?どこだ?」
「お!ダンス。よく来たな。はいれよ。ここが俺の新しい家だ。
ん?荷車を引いてきたのか?」
「空き家だったんだろ?片付いたのか?
捨てるものが有れば、引き受けてやろうと思ってな。
マースと、その嫁さんたちは?」
「助かるよ。3人は、俺の実家に行ってる。すぐ戻るだろ?
足らないものを買うかどうかって。家にあるからもらいに行ったよ。」
「・・・。その嫁さんの家族は?」
「ん?一緒に住むわけじゃないぞ?お隣さんだけど。
いまはトックス師匠のところで飲んでるよ。」
「ふーん。すぐに戻ってくるのか?マースたちは?」
「どうだろうな?つぎつぎ話のタネを見つけてしゃべっていくから。
なにかで盛り上がったら長いな。けど、差し入れ持ってきてくれたんだろ?
すぐに戻って来るよ。なにを作ったんだ?」
「ああ、それが、失敗しちゃって。」
「なんだ、それは残念だな。」
「それで、友達も呼んでるんだ。手伝えることがあるかと思って。」
「お!そっちの方がいいな。力仕事は俺担当だから。
誰?知ってる奴?伝言くれた奴か?」
「いや、違う。」
「ん?そうか。何人?」
「3人だ。」
「じゃ、飲み物入れて来ようか。それとなんかつまむもの。
たぶんなんかあると思う。」
「・・・入って来いよ!今女はいないが、ドーガー一人だ。」
「俺の可愛い嫁さんたちを見に来たのか?」
「・・・・。」
「違うな。ブルーラ?仕事は見つかったのか?
ポリックも。ガルジュ?今日は休みなのか?
だったら明日は早番だろ?」
「ガルシュは辞めたんだよ。で、後釜は俺だ。」
「あ?お前!館にまた務めるのか?」
「そうだよ?ガルシュが辞めたからな。明日月が沈む前に来いってさ。」
「へー。それは良かったな。」
「うまくやりやがって!なんだよ、いや、それよりも金だな。
ドーガー?まずはお前だ。お傍付きだからって偉そうにしやがって!!」
「いや、実際偉いんだよ。遠慮していたところもあるんだぞ?
それがよくなかったのか?」
「うるさい!!」

1、2、3


「なんだ。弱いなんて嘘だったんだな?
気を調整できるんだ?へー。」
「お前もだろ?ルグさんと同格だったこともあるそうじゃないか?」
「そうだよ?だが、筆頭なんて面倒だろ?
メジオがへまさえしなければ今もいいところに入れたのにな。
だが、ガルシュが辞めて、お前も行方不明。
次席ならなってもいいかな?」
「なんで俺が行方不明なんだ?」
「マトグラーサに行ってもらう。
元気なものでも、死にかけでも紹介料をもらえるんだ。
4人で400リングだ。女も入れれば1000リングだな。」
「女?誰?」
「あははは!お前も妹と嫁さんたちだ。女は200だ。
くくくく。」
「・・・・。何人紹介したんだ?そのマトグラーサに。」
「ん?男は10人かな?女は2人だ。」
「なんの紹介だ?」
「くくくく。お前は死ぬか。死体で30なんだ。
誰かに話したいってことあるよな?
くくくく。聞いてくれ。
男は弾丸作りだ。マトグラーサでな。4か月。で、300リングだ。
こいつらにそう言ったら飛びついた。嘘じゃない。食事も出る。
ただ、くくくく、生きていればな。
紹介した男たちが金を手にした話は聞かない。
で、女は合わさりの月の日、1日だけだ。
それまで丁寧に扱うらしいぞ?
からだを磨きあがるらしい。これは聞いた話だけどな。
わかるだろ?合わさりの日に砂漠だ。
コットワッツでも開催すれば良かったのに。
マトグラーサは賢いよな。
俺も賢く生きるんだ。」
「・・・。」
「ん?逃げ出すんじゃないかって思ってるのか?
石だよ。マトグラーサに不利益を起こさないって。
誓うんだ。自らな。強制はしない。
法は犯していないんだ。
マトグラーサに入領するのと同じなんだよ。
あははははは!!」
「お前はいかないのか?その砂漠に?」
「誰が!間抜けだけだよ、砂漠に行くのは!
その間抜けにお前は入ってるから安心しろ。」
「そうか。間抜けか。そうだな。気付かなかったもんな。
ダンスのこともだ。ブルーラも。ポリック、お前もだ。」
「だから?どうするんだ?」
「どう?どうしたらいんだろうか。」
「お前のダメなところを言ってやろうか?」
「?」
「そうやって、自分で決めないことだよ。
すぐに、ルグやセサミナに判断を仰ぐだろ?それがダメなんだよ。」
「そうか?では、この件はわたしに任されている。
よろしいですか?」

「もちろん。」
「え?」




─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



「ドーガー、コットワッツの行方不明者は?」
「行方知れずはいませんが、他領国に働きにいったという話はあります。
おそらくそれではないかと。」
「ガイライ?」
「違法性はありません。
だれも合わさりの月の日に砂漠に出るものがいないだけで、
禁止しているだけではない。
それに、砂漠は無法地帯だ。
なにをしてもいい場所なんですよ。」
「・・・。」
「マティス、2人は帰れ。
後はドーガーが始末する。そうだな。」
「はい。ガイライ殿。」
「ああ、ドーガー、わたしは軍部本隊から離れた。分隊で
その隊長はニックだ。敬称はいらない。」
「え?」
「また詳しく話そう。」
「モウ様?後は大丈夫ですよ。荷車もありますしね。カップ手伝ってくれ。」
「ドーガー?引き渡すの?」
「ええ。ポリックもです。酒の飲みすぎで
寝てるが、ここに連れていくように頼まれたと言えばいいでしょ。
おかしいと思うほど仲間意識はないですよ。」
「決めたのね。うん。わかったよ。
迎え来る者たちは?」
「捕まえても別のものが来るでしょ。草原の道を完全に封鎖します。」
「うん。ガイライ?後はお願いね。無理しないで?」
「大丈夫ですよ。では、明日、半分過ぎに迎えに来ていいですか?」
「うん。家のことね。うん。いいよ。」
「ここに?」
「うん。この空き家で。みんながあつまる家にしておくよ。
毎回トックスさんのところにお邪魔したら悪いからね。」
「わかりました。ドーガー行こう。」
「愛しい人?後は3人に任せて帰ろう。」
「うん。」



裁判とか更生をとか、そんなのはない。
同じことをドーガーたちのもしようとしたんだ。
うん。当たり前のことなんだ。
音石と月無しを持たすか?
いや、わたしは正義の味方ではない。
これが善良な人が騙されたのならまた違うが、
彼らは違う。


「マティス、帰ろう?」
「ああ。久しぶりにゆっくり風呂に入ろう。」
「うん。洗いっこしよう。」
「ああ、そうしよう。」


─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



「誰だ?」
「ん?お前達か?ポリックに頼まれた。
この3人を運んでくれって。」
「?ポリックは?」
「そこにいるだろ?酒飲んでさ、寝ちゃったんだよ。
運んでくれって。」
「ポリックとは知り合いか?」
「知り合いってことないけどな。顔見知り?
早く下せよ。行くところがあんだよ。遅れたら大騒ぎだ。」
「そうか。ああ、そこに降ろしてくれ。」
「なんでだよ。ああ、わかったよ。
じゃ、これで。ん。」
「なんだ?」
「運び賃寄こせよ!ポリックは2リング出すって言ったぞ!」
「は!2リング!わかったよ!ほれ!2リングだ。
それと、3リングやろう。
ポリックの名誉のために酔いつぶれて運んだって言ってやるなよ。
これから、仕事に行くんだから。」
「やりー!!ああ、言わないさ。あんがとよ。じぁな!」


「カップ、さすがだな。」
「ありがとうございます。あの5リングもらいましたけど?」
「見せてみろ。」
「ガイライ、さん?」
「ああ、リングは大陸共通だが、マトグラーサは、
独自に刻印を押している。コットワッツは砂漠石が主だったからな。
マトグラーサなら縁に。マトグラーサの領国管理のリングだ。
だからと言ってなんの証拠にもなら無し、そうだと言われてもどうにもできないがな。」
「縁に?あ、本当だ。へー。知らなかった。
ん?これ?リング?なんか違いませんか?」
「いや、わからないが?あ、ちょっと待て、静かに。」





「あはははは!こいつに払う、300リング儲けたな。
こいつもいれて4人。引き渡したら1200か!
当分遊んで暮らせるな。」
「そうだな。一度この仕事から離れたほうがいいな。
ジットカーフ経由で戻らなくてよくなったんだが、それだけ、
大々的にするってことだろ?
こいつみたいな軽い奴があっちこっちで人を集めてる。
いずれ問題になるからな。やばいことは先駆けてやって、
早々に抜けるんだ。それが一番だ。」
「さすが、兄貴だな。
じゃ、次は?」
「ちょっと真面目に行商でもしようか?そこで儲け話を仕入れよう。
剣のマティスの情報か例の行商夫婦を探すのもいいな。」
「ダカルナも探してる夫婦か?
アガッターとミフィルも探してる?やばくないか?」
「だからよ。3者が探してまだ押さえてないんだ。
そんな奴はいないか、死んだか、うまく逃げてるか。
だったら、どんな情報でも買うだろ?」
「さすが兄貴だ!」
「当たり前だ。このまま、ラルトルガ沿いでボルタオネに入ろう。」
「本当に国境の森が抜けれるのか?」
「そうらしいぞ?しかし、お前が不安に思うなら、森を抜けずに入ろう。
お前の勘は当たるからな。さっきまでの不安はもうないだろ?」
「ああ。警戒して損したな。」
「いや、警戒に損とかはないんだよ。じゃ、飛ばすぞ。
後ろの奴らに眠り草は?」
「焚いてる。」
「良し!」






「聞こえるんですか?」
「聞こうと思えばな。あの2人の顔、覚えているか?
次はマティスとモウたちの行商夫婦の情報を売るそうだ。
2人に教えておけば何かの役に立つだろう。」
「・・・・絵心はないです。」
「俺もないです。」
「わたしもだ。しまったな。」
「あ!でも、銀と金の耳飾りをしてました。丸い輪っかで。」
「ああ、そうだな。それだけでも伝ておこう。
リングの違いはここではわからんな。一度戻ろう。
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「ドーガーは?」
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