いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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436:2つの祭り

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「誰だい?まだ月は沈んでいないよ?」

中庭が見える部屋からドロインが声を掛ける。

「・・・わかるだろ?
青い布を出してもらおう。それと金だ。」
「なんだい?結局買うのかい?1000だと言いたいが、
買い手が見つかったからね。悪いが一足遅かったと伝えてくれるかい?」
「だれも鋏を入れることのできない布だ。
どうするんだ?壁にでも飾るのか?」
「それでも十分価値があるね。しかし、あれは、ふふ。
恥ずかしながらわたしのドレスになるのさ。」
「ぶははは!それはいい!それは伝えておこう。
では金だな。1万せしめたそうだな?」
「人聞きの悪い。わたしを指名したんだ。金がおしけりゃしなければいい。
そもそも、向こうが出したんだよ?」
「そりゃ、そうだ。ここに布ができるまで置いておくだけの話なんだから。」
「なるほど。預かっていただけなのかい?ではその預かり賃に
もう、1万持っておいで?そうすれば返してやろうかね。」
「・・・死にたいのか?」
「石になるには早いよ。あんたたちよりね。」
「・・・あんたの死衣裳になるってことだな。」
「・・・・もういいか?」
「あんた、せっかちだね。しかし、すごくいい匂いがしている。
かまわないよ。ここでわたしに手を出すことがどういうことか、
よく覚えておくんだね。」
「どこまで?」
「報告してもらわないといけないし、また来られても面倒だ。」
「では、自力で何とか戻れるぐらいだな。」
「はは!それで頼むよ。」


少し難しいが、これも鍛錬。
拳術で行こう。
蹴りと拳で。

しまった。皆寝てしまったか。

「やるね。いいさ。そこに重ねておけば。
勝手に帰るだろう。」
「次の手は?」
「来ないね。それこそ恥の上塗りだ。
この話はすぐに広まる。
この1回で片を付けなきゃいけなかったのさ。」
「だから孫たちが来たのか?帰っていったが?」
「あんたがいればいいだろ?」
「なるほど。」

もっと気を調整しないといけないということだ。

「青のドレスの話がここまで聞こえてくる。
それに別荘地の貴族は噂好き。剣のマティスの話も出てるんだよ。」
「どのように?」
「剣のマティスは青のドレスが好みだと。
だから、皆がこぞって青のドレスを着たがるんだ。
今度の夜会で招待される。そこで伴侶が決まるそうだよ。」
「?剣のマティスはその夜会に招待されていないし、
伴侶はもう唯一がいる。なにを言ってるんだ?」
「知らないよ。そう聞いてるだけだ。
ここは大陸中の貴族の別荘地。
雨の日前の夜会は伴侶のお披露目も兼ねている。
ニバーセルだけの話じゃないんだよ?
なにがなんでも夜会には呼ばれるだろうね。」
「・・・呼ばれたとして、伴侶はすでに唯一、ほかにはいらない。」
「それこそ知らないよ。それを奪うだけの
力があるってことだろ?娘の為、いや、己の権力の為。
なんでも、剣のマティスには優秀な石使いがついているとか。
一気に剣と石が手に入る。」
「・・・くだらない。」
「そのくだらないことで世の中は回っているんだ。
あんたも行商だと名乗るならうまく利用することだね。」
「・・・。そうしよう。」

「ドロインさん!ティス!できた!」
「ああ、いい匂いだ。」
「そこで悲しいお知らせですよ?」
「ここでか?」
「そうそう。スープだけです。後は何もない。パン焼いて?」
「なるほど。悲しいな。すぐに焼こう。」
「うん!トックスさん、起こしてくるね。」
「いや、いい。できてから私が呼ぶから。もう少し寝かしておけ。」
「そう?」


・・・起こしに行くという行為は、
私もしてもらっていない。いつもは私が起こすか、
横にいるか。私が台所に行くかだ。
飯の支度をした後に、起こしに来るなんて!
是非ともしてもらわねば!


「あんた、相当だね。」

ドロインがそういうが何がだ?


焼くだけの状態のパンを窯に入れる。
横で愛しい人がコーヒーを。
卵も焼こう。塩漬けの肉もだ。
野菜がないというので、カンランの千切りだ。


「トックス!飯だ!」
「んー?おー。お!飯か!いいな!
と、そうか、ここは風呂がないのか。いや、それが普通だな。
起き抜けは風呂に入っていたんだよ。
贅沢はすぐに慣れてしまうな。」
「ここを出て、砂漠で少し鍛錬をする。
その時に露天風呂を作ろう。」
「そいつは豪勢だ!」


彼女が作ったスープはうまい。
何とも言えない濃厚さがあった。
パンを拭って食べる。
皆の皿が洗ったようにきれいだ。

「どうどう?」
「うまい。昨日のスープが元なのはわかるが。
なんだ?乳、乳酪?それと?」
「海老!!」
「エビか!!うまいな!」
「へへへ。よかった。昨日使った香草の束がいいんだよ。
東のバザールで売ってるんだって。今度行こうね。
たくさんもらったから今はいいよ。」
「そうか。東だな。次はそこだな。」
「そうだね。でも、雨の日以降だね。茸祭りと筍祭りの後だ。
2つの祭り?
ぶ!!怖い!すごい一致だ!故郷でこれいったら戦争だよ!」
「なに!!」
「いや、大丈夫!ぶ!あ、大丈夫じゃない!ぶひゃひゃひゃ!!!」
「・・・・。」

しばらくはこのままだろう。
片付けを済まして、出発の準備をする。
窯焼きがうまかったと言ってくれたので、それも作り置きだ。
冷めてもうまいだろう。

トックスはドロインの服の意匠を考えていた。
もちろん、ドロインを交えてだ。

「わかった。
・・・しかし、小さくなったな。布が余る。
なにか小物も作ろう。」
「それは任せるよ。また来れるのかい?」
「そうだな。」

トックスは私を見るのでいつでもいいと、うなずいた。

「ああ、また邪魔をさせてもらうよ。」
「そうかい!!」

「愛しい人?落ち着いたか?」
「ふー。はい。落ち着きました。
そう言えば、お客さんは帰ったね。ぼくたちは?」
「少し鍛練がしたい。拳術だ。」
「珍しいね。」
「手加減が分からない。」
「なるほど。それは難しい。」


また来ると簡単な挨拶をするトックス。
前回の別れではそれもしなかったそうだ。





さっそくに移動し鍛錬だ。
トックスは砂漠風呂を満喫している。
もちろん囲いはしている。

すぐに送り返せばいいのだが、
戻ればセサミナのところにも顔を出すだろう。
今この感覚をものにしたい。

塩袋に砂を詰め、打つ。

「いや、それじゃ、内臓破裂だよ?
急所はわかるでしょ?
そこをトンって感じ?気は失う程度でいいんじゃないの?」

難しい。
愛しい人相手に練習するわけもいかない。
ワイプかガイライに相手をしてもらうか。
だれか襲ってこないものか。

─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘

鍛練が終わったあと、
先にトックスさんを送る。
工房もすべて元通り。
わたしは、お風呂に入ってから。
セサミンに連絡して、夕飯時に合流することになった。
念のためドーガーが付く。
荷物整理もあるからね。


カレーがいいかな?
明日はいよいよボルタオネに出発だ。

「ワイプとガイライも呼ぶか?
なにか情報が入ってるかもしれんから。」
「そうだね。じゃ、やっぱりカレーにしよう。
ここで作ろうか?匂いがすごいと思うから。」

ボット肉ゴロゴロカレーだ。
香辛料も適当に。香草もだ。
あのカレーの香りのする葉っぱを入れればまさしくカレー!


「おなかすく匂いだね!」
「そうだな。腹が鳴りそうだ。」

スープはブイヨンスープで。
ごはんもたくさん焚いた。
サラダも。サボテンとじゃがいも。
月が昇る頃に、師匠もガイライもトックスさんの家に来るだろう。
あまり大人数になると入れないので、
4兄弟とニックさんは無しだ。お土産は作っておく。
同じカレーだが。


大きな鍋12コでカレーだ。
1つは皆で食べる分。
3つはコットワッツの皆で。
2つは師匠のとこ。
4つはニックさんたちに。
軍部に振る舞いだ。
のこり2つはわたしたちの予備。
いつでも食べることが出来るカレー!

「カレーうどんとかできるよ?」
「米の代わりにうどん?」
「お出汁で伸ばすの。白い服は着れない。飛び散るから!」
「おお!」
「シーフードもいい!海の幸だね!」
「おお!」
「でも一番おいしいのはすじ肉!ちょっと固い筋あるでしょ?お肉で。
それをトロトロになるまで煮るのね。で、いれる。うまい!!
とんかつもいい!なんでも合う!唐揚げも!!」
「おお!!」


2人でもう一度お風呂に入る。なんとなくカレー臭がするのだ。
白い砂を見てお風呂。
贅沢だけど、まわりはカレーの匂い。
匂いには風に乗せて霧散してもらった。
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