いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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385:長寿

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マティスに横抱きされながら廊下を進む。
案内してくれる女官さんはさっきの人とは別だ。
扉の外で控えていた。

「あの?エデト様はもう大丈夫なのですね?」
「銃の傷関係は。しかし、齢170とお聞きしました。
今回のことがお体の負担にならなければいいのですが。」
「あのお怪我さえ治ってしまえば大丈夫でございます。
ルポイド元首は皆長寿。
170なぞ、まだまだこれからです。」
「そうなのですか?
ん、マティス、下して?もう大丈夫だから。」

うっかりしてた。恥ずかしい。

「テルマ様はエデト様の父上にあたります。」
「え?」
「ええ。赤い塊様のお身内なのでお話ししましたが、
これは我が国の秘密。
といっても公然の秘密です。
そうですね。この国の者は皆当たり前で、
外部の方はご存じないのかもしれません。
元首を引退すれば軍部隊長です。
エデト様が引退するのはまだまだ先でございます。」
「・・・あの息子2人って、もしかして、ひよっこ?ですか?」
「ひよっこ?ああ、ひよこ?あはははは!、あ、失礼。
ええ、まさしく。殻から抜け出したあたり?ぷぷ。ひよっこ?
ぶぶ。あ、ダメ!あはははははは!」

この女官さんはエデトさんが元気になった姿を見ていない。
悲壮な顔をしていたが、けがは治った、
エデトさんが無事だとわかったのか、堰を切って笑い出した。

「はー、はー。申し訳ありません。エデト様がお怪我をなさってから
笑うことがありませんでしたので。
お傍に行くこともできずにいたのです。
毎日血の付いた布を洗うだけ。よかった、本当に。」

慕われているんだね。

「こちらで。部屋にある程度のものはそろっております。
湯あみもできますので。お着換えのお手伝いが必要でしたら、
呼び鈴を。では、失礼いたします。
ありがとうございました。」

神妙に頭を下げるお姉さん。

「・・・ひよっこ、ぴよぴよ。」
「ぶっ。・・・失礼いたします。」

今度はきりり顔を引き締めて戻っていった。


お部屋は素敵!
今まで一番良い感じだ。
お金をかけて品もある。

お風呂は、うん、桶だ。が、大きい。
砂漠石も置いてある。
あ!


「マティス?この砂漠石無くならないの。
さっきの声真似も砂漠石にしてもらったんだけど、
結局言霊だったのかな?
だれがしてくれたかわかんないんだけど。」
「驚いたぞ?ああするしかないとはわかっていたが、
声が聞こえたからな。これか?
テルマが渡したものだな?砂漠石か?
テルマが使ったものは砂となったがすべて消えなかった。
しかも防音が施されたとは思えんがな。」
「砂漠石にも質ってあるの?」
「質?布のようにか?そんなのは聞いたことはないな。」
「テルマさんが使ったのは粗悪品で、これは上等なもの?」
「いや、そもそもこれは砂漠石?だよな?」
「いや、それはちょっとわかんないけど、
砂漠石って答えてくれないから。」
「月無し石に聞くか?」
「それだ!」

『月無し石よ、いつもありがとうね。
これ、砂漠石?あとこれ、この砂もそう?』

砂はマティスが拾ったものだ。
テルマさんが使ったのこり。


「砂漠石だって。
でも、磁石も海峡石だからね。
半透明の石が砂漠石の括りかな?」

『コットワッツやマトグラーサの砂漠石と違うよね?
どこ産かわかる?コットワッツより月が沈むほう?昇るほう?』

「どうだ?」
「昇る方だって。どこ?」
「18か国ならドルガナの内砂漠だ。
ルポイドはドルガナから砂漠石を買っている。」
「じゃ、そうだね。これはドルガナの砂漠石ってことだね。」


コットワッツの砂漠石を取り出し小さな声で声を覚えてもらう。
マティスには聞こえてるんだが。


『今の言葉、伝えて?』


「ダメだね。じゃ、こっちで。」


もう一度。
マティス、好き好き大好き、愛してる。


『今の言葉、伝えて?』


マティス 好き好き大好き 愛してる


「その石買った!!」

『忘れて。ありがとう』

「どうして!!」
「直接言います!」
「いつでも聞きたい!」
「いつでも言います!
「今!」
「・・・マティス、好き好き大好き、愛してる。」
ほっぺにチュー付きだ。どうだ?

「ふふふ。こっちがいい。」
「でしょ?面白いね。これ、内緒にしておこう。」

アリバイ工作に使える。

「悪い顔をしているぞ?」
「ぐふふふ。そう?
じゃ、準備しようか?お風呂、ここのは湯あみだけど、
ここの砂漠石は回収して、海峡石で入っちゃおう。」
「ああ、先に入っていてくれ。
トックスのところに行ってくる。」
「?なんで?」
「あのドレスはいいのだが、揃いの飾りをな。
今回は作る時間がなかったので、トックスに頼んだ。
大まかなものは指示している。
細かいところは直接な。」
「・・・・さいですか。」
「すぐに戻る。」
「はーい。行ってらっしゃい。」

また、チューだ。
故郷でやらかすのならこの時間、
20分は余裕を見ないといけないな。



─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘



「トックス!どうだ?」
「旦那!どうだい?急ぎの仕事にしては上出来だろ?」
「ああ、さすがだ。」
「そろいの飾りは夫婦の証だからな。」

メイガを丸め、中に赤糸で花弁を表現している。
その先には小さな金剛石。
後は耳飾りにすればいい。

「いいな。ありがとう、トックス。金額を言ってくれ。」
「そうだな、2リングってとこかな?」
「メイガの代金が入っていなし、金剛石もだ。安すぎるぞ?」
「いいんだよ、それは土産にもらったものだからな。」
「きちんとしないと愛しい人に叱られてしまうぞ?
私もトックスも。」
「いや、蜘蛛の糸のことで頼みたいことがあるんだ。
急ぎじゃない。色付きの糸の話しな。そのときに相殺しようぜ?」
「わかった。ああ、あの綿な。仕入れられたぞ。
どこま在庫を抱えているような感じだ。
押し付けられるように買わされるらしい。」
「そうか。それもな。相談に乗ってくれ。」
「ああ。ではな。」




─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘


トックスさんが作った飾り、メイガの羽根を
丸め、赤糸を使っている。そこには小さなダイヤも。

それをマティスはピアスにしてくれる。
マティスは襟元に。
軍服だが、階級章など何もない。そこにメイガの花。
かっこいい!!

ここではマティスはコットワッツ領主の兄だ。
が、呼ばれたのはテルマさんの知り合いのわたし。
たまたま旦那がそうだったということだ。
どちらにしろ隠しようがない。
ん?参加しなければいいか?
いや、ドルガナ公とやらが気になるから出てしまおう。



「あれだよね。例の糸、
テルマさん、元首、あの2人に使われてるよね?」
「そうだろうな。しかし、元首が息子だというのは初めて聞いたが、
それすらも歪めて認識されているんだな。
遠征時も元首は一切出てこなかったしな。
引退した父親が軍の最高指揮官なら出しゃばっては来ないな。」
「それ、この国の人は知ってるんだね。
そんなの常識だからわざわざ言わないんだ。
長寿というのがこの国を納まる力なんだよ。
だからここにで重宝されてる香木が
不老不死の妙薬みたいに言わているんだ。
実際近いものがあるかもしれないけどね。
国民は違うとは思うよ。
しかし、あまり疑問に思わないんだろうね。
ただ香木は不老長寿ってことだけが印象に残ってるんだ。
よそのことには結構無関心だから。」
「では、そのこと含めて糸を使ったと?
あの次期元首に血のつながりがない、テルマの身内を元首におくのがいいと?」
「たぶんね。ドルガナあたり?
マティスはドルガナには?あの時が初めてだよね?」
「そうだ。」
「剣のマティスって知ってるかな?」
「この大陸に名が知れ渡ったと言われるが、噂程度だろうな。」
「みたいだね。ま、そんなことはあとで師匠に報告だ。
髪どうしようか?」
「テムローサにしたみたいにすれば?」
「あれは人の髪だからできるんだよ。マティスできる?」
「やってみよう。」


マティスの髪を結って、それを説明。
器用なマティスはアレンジもうまい。

「はー、素敵!ありがとう。マティスは?
もう着替えないと。」

まだわたしだけが着替えているのだ。
というか、着せてもらった。

軍服に着替えたマティスのかっこいこと!!
鼻血が出るかと思った。

一房だけ三つ編みにして、後ろに流している。
はー、素敵。それだけ。

ダンスはできないけど、それっぽく、
寄り添ったり、離れたり。
くるりと回る。

「美しい。私の愛しい人。」
「ありがとう。うふふふふ。」

てれまんがな。
もう晩餐会は終了でいいよ。

しかし、そうもいかない。
ノックの音して、案内してくれた女官がやって来た。

「そろそろ半分となります。お支度はお済ですか?
よろしければご案内します。」


結局、テルマさんは顔を出さず。

「エデト様のその後のお加減はいかがですか?」
「ありがとうございます。あのお姿が嘘のようで。
戻りますと、皆で部屋中の掃除をしておりました。
その、匂いがこびりついていたというか。
しかも4人が笑いながら。
くさい、くさいって。」
「ああ、そうですね。その、この館。入った時も少し。
今は全くありませんね。なにか方法があるのですか?」
「香木です。あれを少し。」
「消臭の作用があると?」
「ええ。しかし、それを使うにはあまりにも高価なので、
あらゆるものを取り換えた方が安上がりですね。
しかし、今回は時間もないことなので。」
「そうですか。」

元を捨てれば、漂っている匂いは消せるんだ。
じゃ、香木がなければもっとひどい匂いなんだ。


「あ、あの部屋の小さな部屋から布を一枚とってしまいました。
その、匂いで戻してしまって。部屋で洗ったのですが、
まだ乾いていません。
申し訳ないです。」
「ああ、そのようなこと。こちらも気が付かずにもう仕分けありません。
こちらで処分しますので。どうぞ捨て置いてください。」
「すいません。湯あみの部屋に干していますので。」

あの部屋には背負子とさっきまで着ていた服だけだ。
背負子も一般なものに変えたある。
そこにあの石を小さく削って置いてきた。
盗られたら呼び戻すし、だれかが入って来たら話し声を覚えておいてと。
どうなるかな?




「今日の晩餐会の主賓はドルガナ公主様ですか?」
「ええ。」
「今さらなんですが、場違いなような気がするんですが?」
「なにをおっしゃいますか!
本来なら最終入場になってもおかしくないのに!
一の間のお客様なのに!!エデト様が!!
わたくし、あきれ返って、何も言わずに退出したんですよ!!」
「あははは。それは逆にエデト様の采配に感謝います。
ここでそんなことをされて、ドルガナに入国拒否となったら、
行商を生業とする我ら、商売あがったりですよ?」
「え?お二方は、石使いなのでは?」
「ああ、それはわたしの曾祖父です。
我らは砂漠の民、ティスとモウ。たまたま連絡が来ましてね。
来てもらったんですよ。
おかげで、こうして庶民には到底出席できない晩餐会にも出れる。
役得ですよ。ああ、我ら2人おかしくないですか?」
「おかしいも何も!ため息が出るほど素晴らしいです。
それを我慢するのがどれほど大変か!!」
「ははは、ありがとうございます。」
「では、ご案内します。
テルマ様ご友人、砂漠の民、ティス様、モウ様ですね。」
「ええ。お願いします。」













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