いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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334:善人ではない

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「ツイミ殿、お褒めくださりありがとうございます。
わたしの自慢の弟子たちですよ。」
「ワイプ殿がこのお二人の師匠ということなんですね。
ああ、噂はうわさに過ぎないということですね。」
「それは受け止める方次第ということでしょう。それで?どうされました。
もう、出発されますか?」
「いえ、半分になりましたら。
それで、そのまえに少しお話をと。」
「ええ、かまいませんよ?昨日同席されてましたけど、
貴方の意見は聞けませんでしたからね。」

(うわ、ツイミさんがいたんだ。え?自力?石?)
(石で気配消しだな。自力でしたとなるのなら私とワイプの目は節穴だ)

「モウ殿とおっしゃたか?これはお返しいたします。」
「うふふふ。どうでしたか?」
「ええ、おいしかったです。お恥ずかしながら3人とも口の中をやけどしました。」
「うふふ。ありますよね。それ。」
「モウ殿、紹介します。私の配下、ルビスとチュラルです。
テナンス様が夜、部屋に呼ぶであろうことはあなたを見れば
誰でもわかります。なにか、騒ぎを起こしてお助けできればと、
先に石を使ってテナンスの部屋に行っていたんですよ。
そしたら、ワイプ殿がいらっしゃって。」
「そうでしたか。ご心配をおかけしていたのですね。
わたしは夫のある身。あのような手紙でおいそれと出向きませんよ?」
「ええ、そうでしょうね。
月が沈めば、今度はルビス共々こちらにお邪魔したようで。
あのおいしいものを持って戻ってきました。
まさか、気づかれているとは。読み間違えました。おはずかしい。」
「いいえ。お仕事ですもの。
では、師匠?わたしたちは席を外します。スーとホーの様子を見てきますよ。」
「ええ、お願いします。半分になったらここを出ますので、
そのまま、表で待っていてください。」
「はい。」

ルビス君とチュラル君に厩に案内してもらう。
君、なのだ。若い。


「あの、あの話は嘘なのですか?」

ルビスと紹介された方が聞いてきた。

「嘘ではないですよ?わたしの故郷ではよくあることです。」
「・・・持って帰って、チュラルに言ったら騙されたのだと。
ツイミ様に言ったら、夜は自分が付くとおっしゃって。」
「そうですか。あれはどうでしたか?お口に合いましたか?」
「はい!甘かった。あのリンゴはマトグラーサのですよね?」
「ええ、よくわかりましたね。ご出身なんですか?」
「はい。酒造りにつかうリンゴ取りは子供の仕事なんです。
でも、いままであんな大きな実は見たことがない。」
「あれは根ですよ。それを砂糖で煮てます。
リンゴの実はこっちですね。えーと、チュラル君もどうですか?」

お酒無しのリンゴ飴を2人に渡した。
ちゃんと紙で一つ一つ包んでいる。

「やった!」
「なんだよ!チュラル!俺にはそんなもの食べる気が知れないって言ってたくせに!
さっきだってがっついて食べてさ!おまえも食べたいんじゃないか!!」
「うるさい!普通、半分は俺に寄こすもんだ!それを一人で食べやがって!」
「お前が騙されてる、毒が入ってるっていうから一人で食べたんだろ?」

「うふふ。あとで、また、3切れ包んでおきましょうね。
チュラル君もマトグラーサなんですか?」
「はい、そうです。あの、これ、食べてもいいですか?」
「ええ、もちろん。毒は入っていませんよ。」
「・・・すいません。これ、紙?」
「ああ、それは外して、中だけ。」
「!!リンゴだ!おいしい!」
「ほんとだ、リンゴの実だ!村で食べたものより何倍もおいしい!」
「よかった。おいしいですね、リンゴ。リンゴのお酒も好きです。」

3人でリンゴの話で盛り上がる。
一歩引いてマティスが、極力気配を殺して付いてくる。
それに疑問を持たない2人はちょっと隠密として3流だ。
気配消しができるというのを買われているのだろう。

兄弟何だろうか?雰囲気がよく似ている。


「スー!ホー!半分になったらここを出るって!
それまでブラッシングしておこうね?
なんか面白い話聞けた?」

案内が終わると2人は戻っていったので、
ここにはスーとホーとほかの馬、それとマティスだけだ。
蜘蛛ちゃんもこっそりここにいる。
籠に隠匿を掛けているから他の人には見えない。
スーが面倒を見ているのだ。


ざっときれいにして、水も出す。
蜘蛛ちゃんには砂漠石とカンランを。
わたしも慣れたものだ。



「え?黄色いの?キトロス?うん。食べた。
え?そうなの?なんだ。貴重なものだから
わたしたちだけに出したのかとおもった。
余ってるんだね。」
「あの甘味か?」
「うん、もう、ここの館の人は食べ飽きてるんだって。
毎年この時期大量に入ってくるみたい。
それで、最後はここのお馬さんのご飯になるんだって。
今年ははやくからそうらしいよ。
スー達の昨日のご飯もそれだったんだって。」
「それを客に出すのか?いや、うまかったからいいがな。」
「珍しいから喜んでもらえるって思ったんだよ。」
「愛しい人はいつも良いように考えるな。」
「え?実際おいしかったし、あれの皮は干してお風呂に入れてもいいんだよ?」
「風呂にか?」
「そ、いい匂いがする。皮を砂糖漬けにしたものはケーキに入れてもいいしね。」
「ジャムとは別物?」
「うん、ちょっと違うかな?厳密に答えられないけど。」
「くわしいな。」
「お菓子関係はね。作らないけど、作り方は結構調べたよ。
全部ジャムにしたのは失敗だったな。譲ってもらおうか?」
「そうだな。ワイプに言えばいいだろう。」

ブフンとスーがもう全部食べたらしいと教えてくれた。
昨日持ってきたもので最後だと厩係りが言ってたと。
山済みされたところで、慌てて3つもっていったとも教えてくれた。
ああ、それが来たんだ。

「・・・残念。あ!ここにあるってことは領主館にもあるかな?」
「考えられるな。ここは南諸国とつながりがあるようだな。」
「そうなるのか。あとで、ツイミさんに聞いてみよう。」
「愛しい人?あのツイミとかいうのは曲者だぞ?」
「うん。わかるよ。だて、管理者が女を手紙一つで呼ぶってわかっていて、
わたしに行かなくていいっていうのじゃなくて、
その部屋にいたんだよ?まさか、参戦しようとはおもっていなかったと思うけど、
こっちの弱みがほしかたんだろうね。」
「参戦?え?」
「いや、きっとわたしが行ったとしても、すぐには助けてくれなくても
最終的には助けてくれたとはおもうよ?
そのあと、なにをも言い出すかはわからんていうこと。
こういう問題はね、なるまえに防がないといけないんだよ。」
「脅すということか?」
「そうだろうね。」
「始末するか?」
「まさか。うまく使わないと。師匠もわかっているよ?
それに、わたしの作ったものを食べておいしいって言ってくれた人は、
ま、殺すまでの悪人ではないよ。
ザバスさんの飴までにはいかないけどね。
善人ではないよね。ツイミさんは。」
「・・・。」
「うふふふ。」


半分前に館の馬車たまりに回る。
まだ誰も来ていないので、またホーに乗って、乗馬の練習。

一人でも乗れるようになった、と思いたい。

「これさ、ホーだから乗れてるんじゃない?
姐さんはやさしいからさ。」
「ホーが乗れたら大抵は乗れるだろう。」
「そう?」
「それでなくてもあなたは馬に好かれるからな。
逆にホーは厳しいほうだぞ?」
「そっか!やっぱりホー姐だね。ちゃんと厳しく教えてくれたんだ!
姐さん!ありがとうございます!!」

一礼すると、当たり前ですよ?とお蝶夫人のようにいわれた。
鬣のリボンがきらりと光る。
別れる前に外しておいて、さっきまた付けたあげたのだ。

しかし、夫人と言われる不思議さは当時は気付かなかった。





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