いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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329:良き臣

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「それで、モウ殿とおっしゃったか?・・・。なんの弟子なのですか?」

師匠の名前は言わないくせに
わたしのは覚えているんだ。

(これ答えていいの?)
(どうぞ)

「まずはお礼述べさせてください。
本日はこのような素敵な晩餐会にご招待していただきありがとうございます。
わたしは、夫、ティス共々武道の師をワイプ様と定め日々鍛錬しております。」
「武道ね。そんな金にもならないことを?しかも女性のあなたが?」
「お金ですか?そうですね。直接お金儲けにはつながりませんね。
ああ、護衛の仕事とか?武術大会で勝つとか?」
「ははは!それはよほどの実力がないと。一握りに人間だけですよ。」
「なので日々鍛錬なのですよ。」
「なるほどね。わたしはその方面にはうといんですが、兄のところの者が
なんでも王都で開催された武の大会でいい成績を残したとか?
ねぇ?兄上?」
「そうだ、本戦に残ったが、コットワッツの卑怯な手で負けたのだ。」

まだいうか。

「あなたの実力というのは?・・・。その本戦に出場できるぐらい?・・・。」
「うふふふ。さて、どうなのでしょうか?
なかなかに自分の実力というものは人様に言えないもの。」
「それでは意味がないのでは?」
「意味ですか?わたしの責任において戦うときはわたしの責任でしょう?
また、わたしを使う人間がわたしの実力を把握すればよいこと。
人は使う人間、使われる人間とがありますから。」
「素晴らしい!その考え方は常々思っていることだ。
実力のあるものが上に立つ。そして効率よく人を使う。」
「ああ、言葉が足りませんでしたね。
使う人間が使うものを選ぶように、
使われる人間も使う人間を選ぶと思うのですよ。
良き主には良き臣が集まるということです。」
「・・・ほう。あなたは・・・。良き臣?」
「それも自分で判断することではありませんね。」
「では、あなたに良き主はいるのですか?」
「ええ、もちろん。あの方を主と呼べるのはわたしの誉れです。」
「誰?」
「それはご容赦ください。主の許可を得ておりませんので。」
「これは・・・。なかなかなものだ。・・・。」
「ふふ。それよりも、この果実は何というものなのですか?」
「ああ、これはキトロスというものです。
南諸国のもので、この時期こちらに入ってくる。
まだ、王都でも食べることはできない。」
「そうなんですね。買うことはできるのですか?」
「出回ってはいませんね。」
「そうなんですか、それは残念です。
ああ、だから私たち3人だけなのですね。
貴重なものをありがとうございます。」

ほかのみんなは食後の定番甘味、ぶどうだった。


「果実がお好きなのですか?」
「ええ、好きですね。」
「ほかには?」
「ああ、王都でモモを初めて頂きました。
しかし、あれは果実とは言わないですが、甘いものですよね。」
「まぁ!王都!」
よこの奥様連中が一斉に騒ぎ出した。
王都は女性のあこがれのようだ。
「あなたは王都の出身なのですか?」
「いえいえ、師ワイプが王都に住まうので訪れたのです。」
「ああ、それで。」
「では、そのドレスも?首飾りも王都で?」

奥さん、食いつきがすごいよ。

「このドレスは王都で縁あっての頂き物です。
作はトックスと聞いております。」

首飾飾りはトカゲの牙だと言ったら卒倒しそうなので言わないでおこう。

「御館様?やはり王都に連れて言って下さいまし!
このような方でも、見目よく見えるのですよ?
わたくしが着ればどれほどのもになるか。言っては失礼ですが、
そのドレスがもったいない・・・・。あの、失礼します。」

奥さんは顔色悪く出ていった。

「なんとはしたない。失礼した。
しかし、王都ね。兄上!次の会合は同席しますよ!」
「はっ!同席するのはかまわん。
ああ、なんだったら、税の交渉もお前がすればいい。」
「本当ですか!それはそれは。素晴らしい!
ああ、モウ殿。そのキトロス、あとで部屋に届けましょう。」

部屋の隅にいた従者に指示を出してくれた。

「本当ですか!うれしいです。あの、実のまま届けてくださいますか?
姿かたちも見たいのです。」
「ええ。兄上がわたしに全権を任された祝いです。」

え?そうなるの?
いや、会合で報告して、税金アップをOKするだけなんだけどな。


それでやっと晩餐会は終わった。
部屋に戻ると、部屋を一通り物色された形跡があると師匠が言う。
大切なものは全て収納袋に入れている。
その袋もマティスの上着のポッケだ。
ここにあるのは師匠の鞄と、わたしたちの背負子だけだ。
中身は来ていた服だけ。

(隠密さんはいないね?)
(明日のうまいもの目当てに調べるだけ調べてここには来ないのだろう)

「隠密さんってどこの配下なんだろうね?」
「ツイミの手のものですね。」
「師匠が元副院長ってしてても師匠の実力は知らないんだね。
そういえば、さっきの晩餐会、すんなり終わってよかったね。」
「そりゃあそうでしょ?マティス君が気を飛ばしてましたからね。」
「へ?どんな?」
「あなたに邪な目でみてる輩に異様な圧ですね。」
「マティス!ありがとう!
だから、あの管理者さん、ところどころ詰まってたんだ!奥さんも!」
「当たり前だ。殺さなかっただけありがたいと思ってほしいものだ。」
「うふふふ。マティスはすぐそういうことを言う。
マティスのおねーちゃんはマティスに気付いていた?」
「どうだろうな?セサミナは幼かったから覚えてないというのは本当だろうが、
私も覚えていない。もう一人の方もだ。血のつながりも感じなかった。
湿地にいた2人の方がまだ身内と言う気がしたぞ?」
「ねーちゃんたちはわからんけど、あの2人は甥っ子になるからね。
甥っ子。言葉わかる?」
「ああ、わかる。甥と姪だろ?」
「そうそう。セサミンのところは娘さんだっけ?会ったことあるの?」
「ない。」
「あははは!そうだろうね。成人前なんだよね?
じゃ、会わないほうがいいな。」
「?なぜ?」
「だって、マティスはかっこいいもの。父さまとちがった大人の魅力があるよ。
そんなのを恋に恋する乙女が見てみ?ほんとの恋をするハードルが高くなる。
ま、セサミンのかわいい娘さんだ、わたしも攻撃はしたくない。」
「・・・モウも相当ですね。」
「当然!」





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