いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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333:20年分の石

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なんとかお風呂から出て、寝支度をマティスにしてもらう。
子供のように、なにもかも。
お水を飲んだらそのまま寝てしまった。



マティスと師匠の声が遠くから聞こえる。
帰ってきたんだ。安心ですね。
あのときはわたしよりマティスが焦っていたと思う。
緑の目が一つのことにしか興味が無くなるというのは嘘だ。
それにしか接しないからだ。周りがそれしか接しないようにする。
隔離するんだろうな、害が自分たちに及ばないように。
普段と変わらず生活していればいい。なにも変わらない。
ただ、特化するだけだとおもう。

ん?2人はなんの話をしてるんだろうか?

しかし、ここは世界一に安心なマティスの腕の中。
抱きかかえたまま話してるのかな?
2人ともいい声だからますます眠くなる。

朝はオレンジジュースとパイシチューとスペアリブですよ?









彼女が淡々と言葉を紡いでいく。

雨の日はそういう日なんだ。なぜそこまで驚くのだろうか?
違うのだな、故郷と。

なぜ?なぜ?
そんなことおもいもつかない。



ふらふらになった彼女の体を拭き、寝間着を着せ、
水分を取らすとそのまま寝てしまった。

彼女を抱え、長椅子に座る。
ワイプがこちらに戻ってきているからだ。


「おや?モウは寝てしまいましたか?」
「ああ。さっきまでお前が心配で起きていたんだがな。
風呂に入って話をしているうちに、のぼせたようだ。
それで?話はできたのか?」
「ええ、なかなかに充実した話し合いができましたよ。
モウの代わりにわたしが部屋に行ったことに余程驚いていましたがね。
あれで出向く女性が今までいたことに驚きですよ、こちらは。」
「そうだな、私にもわからん。あと一人いたな?」
「ええ、ツイミです。何のために管理者の部屋にいたのやら。
それで?あなたは?なにか話がありそうですが?」
「ああ、彼女が思いもつかないことを話した。
それを聞いてもらいたい。」
「?どうぞ?」

彼女の話をそのままワイプに伝える。
ワイプは指先を組み、時折、組み替えては、彼女、
いま、私の腕の中で眠る彼女を見る。
極力小さな声で、ワイプの質問も小さな声で。

彼女は不快ではないのであろう、微笑みながら寝ている。
口元もたむたむとしているから、
明日の朝ごはんのことを夢見ているのだろう。


「・・・。20年分の石を得るため?産業を促すため?」
「わからんな。彼女の考えも話しているうちにどんどん変化していった。
まだまとまっていない話だろう。
起きて聞いても覚えているかどうかもあやしい。」
「調べてみましょう。砂漠石の産出量と産業の発展。
この関連を調べればいい。」
「わかったところでどうでもいいんだ。
ただ、記憶の改ざんがどの範囲まで行くかだけなんだ。」
「ああ、そうですね。うまくそれで廻ってるのならいい。」
「それよりも、ゴミ捨て場で起こったことの方が問題だろ?
彼女は私が知っていればいいと言ったが、聞かれれば話すぞ?」
「ええ、かまいません。師匠として恥ずかしい限りです。」
「・・・石が砕けたからな。」
「?」
「お前を風呂にやってから、握りしめていた石が砕けた。」
「・・・・。」
「食べ物をあんな使い方をするのは初めてだ。
やはり、先に死んでおけ。そうすれば、なにも憂うことはない。」
「はははは!それはご勘弁を。」
「は!なら気を付けろ。月が沈むまでまだ時間はある。
お前も寝ておけ。私たちも寝る。」
「ええ、では。」



横に寝かせた寝床は冷たいのか、
私にすり寄ってくる彼女がかわいい。
それからしばらくは寝ることもなく、彼女の寝姿を眺めていた。










目覚めれば、庭の方からマティスと師匠の気配がする。
鍛練してるのかな?
あと5分の誘惑をはねのけ、マティスが寝ていたであろう、
くぼみに体をはめ込む。なぜか楽しいのだ。
うん、これはマティスに知られるのは恥ずかしい。

扉君の家に戻りさっと身支度。
オレンジを絞り、パイシチューを焼く。
スペアリブもいい感じに漬かっている。それも焼いてしまう。
あー、いい匂い。オレンジはすごいね。
これはパンもいりますな、と、これも用意。
あー、やっぱりコーヒーも入れますねと、じゃ、サラダもか。
目玉焼きも?ああ、スクランブルエッグでいいですね。
自動でそうなりました。
なんだか、がっつりな朝ごはんになりました。

隠密さんは庭で2人の動きを見ているようだ。
んー、じゃ、パイシチューは3つね。ツイミさんの分も。
籠にいれ、布をかぶせ、その上に食べ方のイラストを描く。

それを入り口横に置いて、庭にでた。
珍しい、師匠が剣を使っている。
お茶をしたテーブルに並べ始めると、隠密が2人こちらにやって来た。

「んー、入り口の横に置いてるからね、冷めないうちにどーそ。
やけどしないようにね。
ツイミさんのもあるよ?器は返してね。洗わなくていいから。
籠に入れて、入り口に置いといて。ほら!冷めるよ!」

「「!」」

「いいから!」

「「・・・。」」

気付かれているとは思っていなかたんだろうか?
籠が消えて、2人の気配も消えた。


「おはよう!マティス!師匠!朝ごはんですよ!」


「愛しい人!おはよう。
ああ、あなたの作ったものをワイプに食べさせたくなかったから、
鍛練にかこつけて始末するつもりが間に合わなかった!」
「ええ、モウが何もかも治してくれましたからね。
今までで一番良い状態ですよ?」
「そうなんですか?後でわたしも手合わせお願いできますか?師匠?」
「いいですよ。しかし、その前に朝ごはんですね。ああ、いい匂いだ。」
「愛しい人、肉も焼いたのか?」
「うん、大丈夫。火加減はお任せだから。さ、食べよ。
オレンジジュースもオレンジジュースの氷入れてるから冷たくておいしいよ。
どうぞ?」
「これ?昨日の果実の汁?」
「果実を絞って飲むことはないですか?」
「ないですね。ああ、これはうまい!
それでこれは窯焼きの器ですね?上はカンランではなくてパン?」
「パイ生地ですね。これをこうやって、崩して、中に入れて、
それごとどうぞ。」
「崩して?食べる?ああ、なるほど!!これはいいですね!!」
「愛しい人?これをあの隠密たちにも振舞ったのか?」
「うん、ここにいたから冷めないうちにどうぞって。
食べ方を絵に描いたから大丈夫だよ?
喧嘩しないようにツイミさんのも渡したから。3つ。」
「・・・大丈夫、ね。」
「うん、器は返してねっていってるから。」
「・・・わたし、暗部の時にそんなことされたら、
二度と暗部の仕事はできません。」
「私もそうだろうな。」
「?」
「あのあっぷるぱいは、そういうものがあるのだなと便乗できるが、
これは本人たちに声を掛けたのだろ?」
「え?向こうだって、気づかれてるってのわかってるよ。」
「それはわかってるだろうな。しかし、お前にまでとはおもっていないだろう。」
「えー、そんなのしらんよ。ちょっと驚いていた気配はあったけどね。」
「はははは。いいでしょう、それでも。それで、この肉は?」
「ええ、これはお醤油とオレンジじゃなくてキトロスか、
そのジャムとを付けて焼いたもの。
ちょっと大蒜が入ってるのがポイントね。手でがっつり食べてください。
お口に合えば、今度の焼肉の時にも出しますよ?」
「ああ、うまいですね!ジャムというとあのリンゴのような?」
「それのキトロス版ですね。皮も入ってるんですよ。パンに付けて食べますか?」
「もちろん。」
「マティスは?コーヒーも入れてるよ。」
「私も頂こう。」
「がっつりな朝ごはんになったね。マティスも手合わせしてくれる?
最近食べ過ぎかもしれない。運動しないと。」
「夜の運動をしていないからな、本格的に。」
「うーわー。」
「ん?ダメなのか?」
「・・・後日お願いいたします。」
「ふふふ。」
「はいはい。では、腹も膨れたことだし、
モウ、わたしと先に手合わせしましょうか?」
「ええ、お願いします。師匠の剣は初めて見ました。
わたしもそれでお願いできますか?」
「それはそれは、望むところです。」


殺気が絡まない手合わせは、
演武か舞になることが多い。
演武は力量の上のものにつられ、
舞は同格で、お互いが気をゆだねれる相手。
マティスと師匠は、舞にはならない。気をゆだねられないのではなく、
ゆだねる必要がないからだ。共闘となってそれが必要なら
なんなくできるのだろう。うらやましい。

わたしの剣と師匠の剣ではどうなるだろう。
剣のマティスとは舞となった。
師匠とは?






舞にも演武にもならない。


「そこまで!!」

マティスが止めてくれた。

「ありがとうございました。」
「殺気をのせればワイプは死んでいたな。」
「あははは!それはないよ。
でも、演武にも舞にもならなかった。なんで?」
「剣での舞はわたしには無理ですね。
演武になるのは師匠たるもの意地でもできませんよ。」
「ワイプが必死で躱していたんだ。」
「そうなの?」
「そうだ。愛しい人、ますます、強くなっている。さ、私ともしておくれ。
息は上がっていないだろう?」
「うん。ワイプ直伝棒術秘奥義の呼吸法があるからね。」
「なんだ?そんな名前があるのか?」
「うん、今付けた。かっこいいでしょう?」
「・・・・。」
「モウ、その名前、頂きますよ。」
「あはははは!みんなが知っていたら秘奥義じゃないですよ?」
「いえ、あの呼吸法ができるのはわたしとあなたぐらいですよ?」
「おお!一番弟子に恥じないよう精進します!」
「ええ。」
「ワイプ!あとで教えろ!」
「ええ、あなたも弟子ですからね。末席の。
だから、教えてほしくば、師匠と呼びなさい?」
「・・・ワイプ師匠、お教えください。」
「素直ですね。ええ、まずは一番弟子と手合わせを。もちろん、棒術ですよ?」


マティスは剣も槍も当然わたしより上だ。
が、棒となると同等。ほんとに同等。
ほんの少し、小指の先ほどにわたしが上だ。

「せいっ!!」
「参った!」


「はー、一番弟子の面目躍如です。」
「呼吸法?呼吸法なのか?」
「うふふふ。ティス?一番弟子として助言しましょう。精進ですよ?」
「はい!!」
「うむ、よろしい。なんてね。あはははは!」


「すばらしい!鍛錬のワイプの噂は聞いていました。
失礼ですが、実力があるというわけではないと。
しかし、鍛錬内容についてこれるものがいれば相当とのこと。
その鍛錬についてこれた弟子がこのお二方。
武にうといわたしでもわかる!素晴らしい!」

ツイミさんが、マティスとの序盤で庭にやってきていた。
2人の従者を連れて。
師匠がなにも言わずだったので、そのまま続けていたのだ。




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